海野十三 蠅男㊽
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | りく | 6343 | S | 6.4 | 98.3% | 720.0 | 4644 | 77 | 68 | 2024/10/17 |
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問題文
(かもしたどくとるは、ひとつのおおきながくせつをもっていた。)
鴨下ドクトルは、一つの大きな学説を持っていた。
(それをこのしゅくしょうにんげんによってたしかめようとかんがえたのだ。)
それをこの縮小人間によって確かめようと考えたのだ。
(そのがくせつによると、もしにんげんがいきるのにちょくせつひつようでないにくたいぶぶんーーつまり)
その学説によると、もし人間が生きるのに直接必要でない肉体部分ーーつまり
(しんぞうやはいぞうはぜひひつようだが、てあしやふたついじょうあるないぞうはこれをせつじょするかまたは)
心臓や肺臓は是非必要だが、手足や二つ以上ある内臓はこれを切除するか又は
(ひとつにへらしてしまう。そうするとにんげんののうりょくは、てあしなどのことに)
一つに減らしてしまう。そうすると人間の脳力は、手足などのことに
(わずらわされることがなくなり、けっきょくいままでむだにつかっていたのうりょくが)
煩わされることがなくなり、結局今まで無駄に使っていた脳力が
(あまってくるから、したがってそのにんげんはふつうのにんげんよりもなんばいもりこうになる。)
余ってくるから、従ってその人間は普通の人間よりも何倍も悧巧になる。
(ーーだろうというのが、しゅくしょうにんげんにたいするかもしたどくとるのがくせつだった。)
ーーだろうというのが、縮小人間に対する鴨下ドクトルの学説だった。
(このだいたんなるがくせつが、はたしてただしいかどうか、かもしたどくとるはそれを)
この大胆なる学説が、果たして正しいかどうか、鴨下ドクトルはそれを
(じんるいぶんかにだいなるこうけんをするけんきゅうだとおもい、ついにそのじっけんだいとなるにんげんを)
人類文化に大なる貢献をする研究だと思い、遂にその実験台となる人間を
(したしいしおたけんじせいにむしんしたのである。そこでしけいしゅうのりもとがえらばれ、)
親しい塩田検事正に無心したのである。そこで死刑囚糊本が選ばれ、
(だいしゅじゅつのけっか、ここにつうしょうはえおとこのたんじょうとなったものである。)
大手術の結果、ここに通称「蠅男」の誕生となったものである。
(かもしたどくとるのにっきによれば、このしゅくしょうにんげんはたいりょくのかいふくとともに、)
鴨下ドクトルの日記によれば、この縮小人間は体力の回復とともに、
(よきしたとおりふつうのにんげんとはくらべものにならぬほどのりこうさをしめした。)
予期したとおり普通の人間とは比べものにならぬほどの悧巧さを示した。
(かもしたどくとるのよろこびは、なにものにもたとえがたかったが、かれはこのはっぴょうを)
鴨下ドクトルの悦びは、何物にもたとえ難かったが、彼はこの発表を
(さしひかえて、さらにしゅくしょうにんげんのかんせいにけんきゅうをすすめたのであった。)
さし控えて、さらに縮小人間の完成に研究を進めたのであった。
(はえおとこはいまやどくとるのかけがえのないすぐれたじょしゅだった。ふたりのきょうどうけんきゅうで、)
蠅男は今やドクトルのかけがえのない優れた助手だった。二人の共同研究で、
(でんりょくやじしゃくではたらくというこうみょうなしんぎしゅやぎそくをさくせいした。このくみたてしきの)
電力や磁石で働くという巧妙な新義手や義足を作製した。この組立て式の
(てあしのため、はえおとこのたちいはひじょうにべんりになった。じつにおどろくべきせいこうだった。)
手足のため、蠅男の立居は非常に便利になった。実に愕くべき成功だった。
(しかしかもしたどくとるは、どうやらだいじなことをわすれていたようであった。)
しかし鴨下ドクトルは、どうやら大事なことを忘れていたようであった。
(どくとるはそのことをにっきのおわりのほうにみずからしるしているが、それは)
ドクトルはそのことを日記の終わりの方に自ら記しているが、それは
(このはえおとこのしゅうりされたのうりょくはあまりにもちょうじんてきであって、ふせいしゅつのだいてんさいと)
この蠅男の修理された脳力は余りにも超人的であって、不世出の大天才と
(おりがみをつけられたかもしたどくとるののうりょくさえ、はえおとこののうりょくのまえには)
折紙をつけられた鴨下ドクトルの脳力さえ、蠅男の脳力の前には
(たいようのそばのつきのようにみおとりがするというじじつだった。)
太陽の傍の月のように見劣りがするという事実だった。
(それはおどろくというよりも、むしろおそろしいことであった。)
それは愕くというよりも、むしろ恐ろしいことであった。
(どくとるのにっきはつぎのようなもんくをもってむすばれていた。)
ドクトルの日記は次のような文句をもって結ばれていた。
(ーーよはあまりにも、かみをわすれてまのがくもんのなかにあしをふみいれすぎたかたちだ。)
「ーー予はあまりにも、神を忘れて魔の学問の中に足を踏み入れすぎた形だ。
(よはしゅくしょうにんげんをこしらえたことをいまやこうかいしている。できるなら、)
予は『縮小人間』を拵えたことを今や後悔している。出来るなら、
(こよいのうちにも、このしゅくしょうにんげんをころしてしまいたいとおもう。)
今宵のうちにも、この『縮小人間』を殺してしまいたいと思う。
(そうすることが、じぶんのけんきゅうをえいきゅうにほうむりさり、そしてまんいちしゅくしょうにんげんが)
そうすることが、自分の研究を永久に葬り去り、そして万一『縮小人間』が
(よのなかにとびだして、ぜんだいみもんのちょうじんてきぼうこうをはたらくのをあらかじめそしすることにも)
世の中に飛び出して、前代未聞の超人的暴行を働くのを予め阻止することにも
(なるのだ。いっこくもはやくかれをころさねばならぬ。)
なるのだ。一刻も早く彼を殺さねばならぬ。
(しかしよはおそれる。)
しかし予は懼れる。
(あのりはつなしゅくしょうにんげんがよのこのきぐとさついにきづかぬはずはないのだ。)
あの悧発な『縮小人間』が予のこの危惧と殺意に気づかぬ筈はないのだ。
(いまやときすでにておくれなのではあるまいか。)
今や時既に手遅れなのではあるまいか。
(よはこんにちになって、おさなきときにひとでにあずけてしまったただひとりのこども)
予は今日になって、幼き時に人手に預けてしまった只一人の子供
(かおるのことをおもう。おおわがあいするかおるよ。なんじのちちはいとしきおんみを)
カオルのことを想う。おお吾が愛するカオルよ。汝の父は愛しき御身を
(こんにちまでわすれていた。なんじのちちは、そのつみのために、いまやあくまのきばに)
今日まで忘れていた。汝の父は、その罪の為に、今や悪魔の牙に
(かみくだかれようとしているのだ。つみのちちはただひとめ、)
噛み砕かれようとしているのだ。罪の父はただひと目、
(おんみのかんばせをみたいとせつぼうするが、そのねがいもいまはもう)
御身の顔(かんばせ)を見たいと切望するが、その願いも今はもう
(むなしきゆめとあきらめなければならないのかもしれない、ああ!)
空しき夢と諦めなければならないのかもしれない、ああ!」
(ほむらのよみあげるてんさいどくとるのせつせつのじょうをこめたにっきのもんくに、)
帆村の読み上げる天才ドクトルの切々の情をこめた日記の文句に、
(いじかおるはこらえにこらえていたかなしみのなみだをおさえかね、わっとこえをあげて)
遺児カオルは怺えに怺えていた悲しみの泪をおさえかね、ワッと声をあげて
(あいじんやまじのひざになきくずれた。)
愛人山治の膝に泣き崩れた。
(さてたんていほむらそうろくのどりょくがついにむくいられてぜんだいみもんのはえおとこのぜんぼうが)
さて探偵帆村荘六の努力が遂に酬いられて前代未聞の「蠅男」の全貌が
(はじめてあきらかになった。なかでもよろこんだのは、ふかをまもるそうさじんであった。)
初めて明らかになった。中でも悦んだのは、府下を守る捜査陣であった。
(むらまつけんじもじゆうのみとなった。はえおとこがけんじにしおたせんせいごろしのつみを)
村松検事も自由の身となった。蠅男が検事に塩田先生殺しの罪を
(ぬりつけようとしたしだいがあきらかになったので。)
ぬりつけようとした次第が明らかになったので。
(はえおとこはかもしたどくとるにばけてせんめんじょにはいるとみせ、すぐさまそのまどから)
蠅男は鴨下ドクトルに化けて洗面所に入ると見せ、すぐさまその窓から
(ほうそうびるのがいへきを、あのこうみょうなてつのつめでもってはいのぼり、まどのそとから)
法曹ビルの外壁を、あの巧妙な鉄の爪でもって這いのぼり、窓の外から
(しおたせんせいのずがいこつによういのぶんちんをはっしゃしたことがはんめいしたのだった。)
塩田先生の頭蓋骨に用意の文鎮を発射したことが判明したのだった。
(むらまつけんじは、ほむらのかおをみるやはしりよってかたいかたいあくしゅをした。それは)
村松検事は、帆村の顔を見るや走り寄って固い固い握手をした。それは
(れいせいをもってきこえるむらまつけんじにしては、せんれいのないこうふんじょうたいであった。)
冷静を以て聞こえる村松検事にしては、先例のない昂奮状態であった。
(ほむらもつよくそのてをにぎりかえし、)
帆村も強くその手を握り返し、
(さあ、むらまつさん。ぐずぐずしてはいられませんよ。はえおとこはそうぞういじょうに)
「さあ、村松さん。ぐずぐずしてはいられませんよ。蠅男は想像以上に
(おそろしいやつです。なきかもしたどくとるも、まんいちはえおとこがしちゅうにとびだしたときには、)
恐ろしい奴です。亡き鴨下ドクトルも、万一蠅男が市中にとび出したときには、
(そのたくえつしたずのうりょくをもって、どんなきょうあくきわまるぼうこうをするかしれないと)
その卓越した頭脳力をもって、どんな狂悪極まる暴行をするかしれないと
(いっています。あのみぎてひだりてのきかんじゅうやなんかのからくりも、はえおとこが)
云っています。あの右手左手の機関銃やなんかのカラクリも、蠅男が
(どくとるにかくれてつくりあげたものにそういありません。さあ、われわれはいっこくもはやく、)
ドクトルに隠れて作り上げたものに相違ありません。さあ、我々は一刻も早く、
(しみんのあんぜんのために、おそるべきはえおとこをとらえなければなりません)
市民の安全のために、恐るべき蠅男を捕えなければなりません」
(そうだとむらまつけんじもけいかんたいのほうをふりむき、はえおとこのおそるべきしょうたいは)
「そうだ」と村松検事も警官隊の方を振り向き、「蠅男の恐るべき正体は
(ようやくわかったが、はえおとこはどくがをみがいて、ぼうこうのきをねらっているのだ。)
ようやく分かったが、蠅男は毒牙を磨いて、暴行の機を狙っているのだ。
(きゃつをとらえてしまわないうちは、われわれはまくらをたかくしてねむれないのだ。)
彼奴を捕えてしまわないうちは、我々は枕を高くして眠れないのだ。
(さあ、こうなったらけっしのかくごで、ただちにはえおとこがりをはじめるんだ!)
さあ、こうなったら決死の覚悟で、直ちに蠅男狩りを始めるんだ!」
(けいかんたいも、このけんじのげきれいのじにふるいたった。)
警官隊も、この検事の激励の辞に奮い立った。
(そしてここに、おおさかぜんしをあげてのけいびじんがそしきされ、げんじゅうをきわめた)
そしてここに、大阪全市をあげての警備陣が組織され、厳重を極めた
(だいそうさくせんのまくがきっておとされた。)
大捜索戦の幕が切って落とされた。
(かいじんはえおとこは、そもいずこにひそんでいるのであろうか。)
怪人蠅男は、そもいずこに潜んでいるのであろうか。