海野十三 蠅男㊾

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※➀に同じくです。


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問題文

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(けいさつとうしょ)

◇警察投書◇

(きだいのかいじんはえおとこのよにもおそろしきしょうたいはついにばくろした。)

稀代の怪人「蠅男」の世にも恐ろしき正体は遂に曝露した。

(せいねんたんていほむらそうろくのひっしのどりょくは、けいさつかんをよくたすけて、このぜんだいみもんの)

青年探偵帆村荘六の必死の努力は、警察官をよく援けて、この前代未聞の

(かいじけんのなぞをとくことにせいこうしたのだった。)

怪事件の謎を解くことに成功したのだった。

(ただおしいことには、もういっぽというところで、かいじんはえおとこをにがして)

ただ惜しいことには、もう一歩というところで、怪人「蠅男」を逃がして

(しまったことである。)

しまったことである。

(はえおとこは、しかしながら、ほむらのとくいとするなげなわによって、きかんじゅうじかけに)

蠅男は、しかしながら、帆村の得意とする投げ縄によって、機関銃仕掛けに

(なっているひだりうでをかたのところからもぎおとされ、あまつさえひだりのあしくびさえ)

なっている左腕を肩のところから捥ぎ落とされ、あまつさえ左の足首さえ

(せつだんされてしまった。はえおとこのいきおいは、それだけそがれたのであった。)

切断されてしまった。蠅男の勢いは、それだけ削がれたのであった。

(これはみな、ほむらのちょくせつてをくだしたしゅくんであった。)

これは皆、帆村の直接手を下した殊勲であった。

(だがふつうのにんげんとちがい、すぐれたちのうをもったはえおとこのことだから、)

だが普通の人間と違い、勝れた智能をもった蠅男のことだから、

(いついかなるてをもちいてまたぞろぼうぎゃくのきょにでてくるかわからない。だからけっきょく、)

いついかなる手を用いて又候暴逆の挙に出てくるか分からない。だから結局、

(はえおとこをかんぜんにたいほしてしまわないうちは、おおさかぜんしのしみんたちは、まくらをたかくして)

蠅男を完全に逮捕してしまわないうちは、大阪全市の市民たちは、枕を高くして

(ねむることができないわけだった。)

睡ることができないわけだった。

(ほむらたんていをげきれいするてがみや、けいさつかんのふんきをのぞむとうしょなどが、まいにちのように)

帆村探偵を激励する手紙や、警察官の奮起をのぞむ投書などが、毎日のように

(かくしょのつくえのうえにうずたかくやまのようにつまれていった。)

各署の机の上に堆く山のように積まれていった。

(はえおとこはどこにひそんでいるのであろうか。)

蠅男は何処に潜んでいるのであろうか。

(たぶん、おりゅうとよばれるかれのじょうふとてをくみあって、しないにせんぷくして)

多分、お竜と呼ばれる彼の情婦と手を組み合って、市内に潜伏して

(いるのであろう。)

いるのであろう。

(さあいまひといきだとばかり、かかりかんはじめほむらたんていも、ちゅうやとわかたず、)

さあいま一息だとばかり、係官はじめ帆村探偵も、昼夜と分かたず、

など

(はえおとこのにげさったあとをおい、ようしょようしょをくまなくさがしていったのであるが、)

蠅男の逃げ去った跡を追い、要所要所を隈なく探していったのであるが、

(はえおとこのかくれざまがうまいのか、それともかかりかんたちのさがしざまがつたないためか、)

蠅男の隠れ様がうまいのか、それとも係官たちの探し様が拙いためか、

(たずねるはえおとこのゆくえについて、なんのてがかりもはっけんされなかったのであった。)

尋ねる蠅男の行方について、何の手懸かりも発見されなかったのであった。

(すみよししょのそうさくほんぶには、れんじつのかつどうにきょうりょくしたひとびとがあつまっていた。)

住吉署の捜索本部には、連日の活動に協力した人々が集まっていた。

(どうもよわったなあ。きんらいとうしょが、なかなかしんらつになってきましたよ。)

「どうも弱ったなア。近来投書が、なかなか辛辣になってきましたよ。

(はえおとこなんて、たんていのゆめにすぎなかったのではないかなどというのがある)

蠅男なんて、探偵の夢にすぎなかったのではないかなどというのがある」

(と、ほむらもついこぼせば、)

と、帆村もついこぼせば、

(おおさかふのけいさつでまにあわないようならひょうごけんのけいさつにたのんでみたらどうや、)

「大阪府の警察で間に合わないようなら兵庫県の警察に頼んでみたらどうや、

(などとかいてくるやつがおる。なんで、となりのけいさつのてをかりるひつようがあるんや。)

などと書いて来る奴が居る。なんで、隣りの警察の手を借りる必要があるんや。

(そういわれてはらがたたんものがあるやろか)

そういわれて腹が立たん者があるやろか」

(まさきしょちょうもとうしょのはがきをにぎってかんかんにおこっていた。)

正木署長も投書のハガキを握ってカンカンに怒っていた。

(ひどいものになると、こづつみゆうびんでぼうずまくらをおくってきた。そのつけもんくに、)

ひどい者になると、小包郵便で坊主枕を送ってきた。その附け文句に、

(こっちはまくらをたこうしてねむられへんさかい、このまくらはそっちへさしあげます。)

「こっちは枕を高うして睡られへんさかい、この枕はそっちへさし上げます。

(けいかんさんはおひるねにおよるねばかりにおいそがしいんだっしゃろからまくらもさぞ)

警官さんはお昼寝にお夜寝ばかりにお忙しいんだっしゃろから枕もさぞ

(いたみますやろ。そのときはごえんりょなく、このまくらをおつかいあそばせ)

痛みますやろ。そのときは御遠慮なく、この枕をお使い遊ばせ」

(むらまつけんじがこれをみてくまのいをなめたようなかおをした。)

村松検事がこれを見て熊の胆(い)をなめたような顔をした。

(これはとうしょにしても、さいあくしょうのものだ。けいさつかんぶじょくも、じつにきわまれりと)

「これは投書にしても、最悪性のものだ。警察官侮辱も、実に極まれりと

(いうべきだどうやらけんじも、ほんとうにおこっているらしい。)

いうべきだ」どうやら検事も、本当に怒っているらしい。

(ほむらも、このまくらのこづつみにはあきれるよりほかなかった。かれはさしだしにんのあくいのこもる)

帆村も、この枕の小包には呆れるより外なかった。彼は差出人の悪意の籠もる

(そのうつくしいぼうずまくらをとりあげて、つくづくとながめいった。)

その美しい坊主枕を取り上げて、つくづくと眺め入った。

(おや、ーーと、かれはそのときさけんで、まくらにみみをそっとあてた。)

「オヤ、ーー」と、彼はそのとき叫んで、枕に耳をソッと当てた。

(これはいかん。みなさんはやくにげてください)

「これはいかん。皆さん早く逃げて下さい」

(そうさけぶと、ほむらはだっとのようにまどぎわにかけだした。そしてかわにめんした)

そう叫ぶと、帆村は脱兎のように窓ぎわに駈けだした。そして川に面した

(がらすまどをがらりとあけるがはやいか、てにしていたうつくしいぼうずまくらをえいっと)

硝子窓をガラリと明けるが早いか、手にしていた美しい坊主枕をエイッと

(かわのなかへなげこんだ。)

川の中へ投げ込んだ。

(どうしたどうしたんや)

「どうした」「どうしたんや」

(と、みんなはかえってほむらのほうにかけよってきた。そのときだった。)

と、みんなはかえって帆村の方に駈け寄ってきた。そのときだった。

(どどーん。)

どどーン。

(かわなかに、ときならぬはげしいばくおんがおこり、まくらをなげこんだところに、)

川中に、時ならぬ烈しい爆音が起こり、枕を投げ込んだところに、

(すいえんがいちじょうもどーんとうちあげられた。)

水煙が一丈もドーンと打ち上げられた。

(あっ、ーーば、ばくだんやあれへんか)

「あッ、ーー」「ば、爆弾やあれへんか」

(しょいんはことごとくまどにかけよって、なおもおおきくいきをするかわもをぎょうしした。)

署員は悉く窓に駆け寄って、なおも大きく息をする川面を凝視した。

(ばくだんじかけのまくらなんですよとほむらがあせをぬぐいながらせつめいした。)

「爆弾仕掛けの枕なんですよ」と帆村が汗をぬぐいながら説明した。

(まくらをもってみると、こちこちとへんなおとがするのできがついたのです。なあに、)

「枕を持ってみると、コチコチと変な音がするので気がついたのです。なアに、

(よくあるやつですが、とけいじかけのばくだんですよ。ぼくたちをみなごろしにしようと)

よくあるやつですが、時計仕掛けの爆弾ですよ。僕たちを皆殺しにしようと

(おもってたにちがいありません)

思ってたに違いありません」

(なんちゅうあくたれのしみんやろ。だんぜんとりしまらんとあかん)

「なんちゅう悪たれの市民やろ。断然取り締まらんとあかん」

(いや、これはしみんといっても、ふつうのしみんじゃありません)

「いや、これは市民といっても、普通の市民じゃありません」

(ふつうのしみんでないちゅうと、ーー)

「普通の市民でないちゅうと、ーー」

(つまり、これははえおとこがさしだしたこづつみなんですよ)

「つまり、これは蠅男が差し出した小包なんですよ」

(うむ、な、なるほど)

「うむ、な、なるほど」

(いちどうはいまさらながらに、きょうぼうなはえおとこのやりかたにふんがいのいろをしめした。)

一同は今さらながらに、狂暴な蠅男のやり方に憤慨の色を示した。

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