江戸川乱歩 D坂②

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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 甘木風寧(週末演 5212 B+ 5.5 95.0% 468.1 2575 135 40 2024/03/11

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問題文

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(ふるほんやのさいくんといえば、あるとき、このかふぇのうえいとれすたちが、)

古本屋の細君といえば、ある時、このカフェのウエイトレス達が、

(みょうなうわさをしているのをきいたことがある。)

妙な噂をしているのを聞いたことがある。

(なんでも、せんとうでであうおかみさんやむすめたちのたなおろしのつづきらしかったが、)

何でも、銭湯で出逢うおかみさんや娘達の棚卸しの続きらしかったが、

(「ふるほんやのおかみさんは、あんなきれいなひとだけれど、はだかになると、)

「古本屋のおかみさんは、あんな綺麗な人だけれど、裸になると、

(からだじゅうきずだらけだ、たたかれたりつねられたりしたあとにちがいないわ。)

身体中傷だらけだ、叩かれたり抓られたりした痕に違いないわ。

(べつにふうふなかがわるくもないようだのに、おかしいわねえ」)

別に夫婦仲が悪くもない様だのに、おかしいわねえ」

(するとべつのおんながそれをうけてしゃべるのだ。)

すると別の女がそれを受けて喋るのだ。

(「あのならびのそばやのあさひやのおかみさんだって、よくきずをしているわ。)

「あの並びの蕎麦屋の旭屋のおかみさんだって、よく傷をしているわ。

(あれもどうもたたかれたきずにちがいないわ」)

あれもどうも叩かれた傷に違いないわ」

(・・・で、この、うわさばなしがなにをいみするか、わたしはふかくもきにとめないで、)

・・・で、この、噂話が何を意味するか、私は深くも気に止めないで、

(ただていしゅがじゃけんなのだろうくらいにかんがえたことだが、どくしゃしょくん、それが)

ただ亭主が邪険なのだろう位に考えたことだが、読者諸君、それが

(なかなかそうではなかったのだ。ちょっとしたことがらだが、このものがたりぜんたいに)

なかなかそうではなかったのだ。ちょっとした事柄だが、この物語全体に

(おおきなかんけいをもっていることが、あとになってわかった。)

大きな関係を持っていることが、後になって分った。

(それはともかく、そうして、わたしはさんじゅっぷんほどもおなじところをみつめていた。)

それは兎も角、そうして、私は三十分程も同じ所を見詰めていた。

(むしがしらすとでもいうのか、なんだかこう、わきみをしているすきに)

虫が知らすとでも云うのか、何だかこう、脇見をしているすきに

(なにごとかおこりそうで、どうもほかへめをむけられなかったのだ。そのとき、)

何事か起こりそうで、どうも他へ目を向けられなかったのだ。その時、

(さきほどちょっとなまえのでたあけちこごろうが、いつものあらいぼうじまのゆかたをきて、)

先程ちょっと名前の出た明智小五郎が、いつもの荒い棒縞の浴衣を着て、

(へんにかたをふるあるきかたで、まどのそとをとおりかかった。かれはわたしにきづくと)

変に肩を振る歩き方で、窓の外を通りかかった。彼は私に気づくと

(えしゃくしてなかへはいってきたが、ひやしこーひーをめいじておいて、)

会釈して中へ入って来たが、冷しコーヒーを命じて置いて、

(わたしとおなじようにまどのほうをむいて、わたしのとなりにこしをかけた。そして、)

私と同じ様に窓の方を向いて、私の隣に腰をかけた。そして、

など

(わたしがひとつのところをみつめているのにきづくと、かれはそのわたしのしせんをたどって、)

私が一つの所を見詰めているのに気づくと、彼はその私の視線をたどって、

(おなじくむこうのふるほんやをながめた。しかも、ふしぎなことには、)

同じく向こうの古本屋を眺めた。しかも、不思議なことには、

(かれもまたいかにもきょうみありげに、すこしもめをそらさないで、)

彼もまた如何にも興味ありげに、少しも目をそらさないで、

(そのほうをぎょうししだしたのである。)

その方を凝視し出したのである。

(わたしたちは、そうして、もうしあわせたようにおなじばしょをながめながら、)

私達は、そうして、申し合わせた様に同じ場所を眺めながら、

(いろいろのむだばなしをとりかわした。そのときわたしたちのあいだにどんなわだいがはなされたか、)

色々の無駄話を取交わした。その時私達の間にどんな話題が話されたか、

(いまではもうわすれてもいるし、それに、このものがたりにはあまりかんけいのないことだから、)

今ではもう忘れてもいるし、それに、この物語には余り関係のないことだから、

(りゃくするけれど、それが、はんざいやたんていにかんしたものであったことはたしかだ。)

略するけれど、それが、犯罪や探偵に関したものであったことは確かだ。

(こころみにみほんをひとつとりだしてみると、)

試みに見本を一つ取出して見ると、

(「ぜったいにはっけんされないはんざいというのはふかのうでしょうか。ぼくはずいぶん)

「絶対に発見されない犯罪というのは不可能でしょうか。僕は随分

(かのうせいがあるとおもうのですがね。たとえば、たにざきじゅんいちろうの「とじょう」ですね。)

可能性があると思うのですがね。例えば、谷崎潤一郎の『途上』ですね。

(ああしたはんざいはまずはっけんされることはありませんよ。もっとも、あのしょうせつでは、)

ああした犯罪は先ず発見されることはありませんよ。尤も、あの小説では、

(たんていがはっけんしたことになってますけれど、あれはさくしゃのすばらしいそうぞうりょくが)

探偵が発見したことになってますけれど、あれは作者のすばらしい想像力が

(つくりだしたことですからね」とあけち。)

作り出したことですからね」と明智。

(「いや、ぼくはそうはおもいませんよ。じっさいもんだいとしてならともかく、)

「イヤ、僕はそうは思いませんよ。実際問題としてなら兎も角、

(りろんてきにいって、たんていのできないはんざいなんてありませんよ。ただ、)

理論的に云って、探偵の出来ない犯罪なんてありませんよ。ただ、

(げんざいのけいさつに「とじょう」にでてくるようなえらいたんていがいないだけですよ」とわたし。)

現在の警察に『途上』に出て来る様な偉い探偵がいないだけですよ」と私。

(ざっとこういったふうなのだ。だが、あるしゅんかん、ふたりはいいあわせたように、)

ざっとこう云った風なのだ。だが、ある瞬間、二人は云い合わせた様に、

(だまりこんでしまった。さっきからはなしながらもめをそらさないでいた)

黙り込んでしまった。さっきから話しながらも目をそらさないでいた

(むこうのふるほんやに、あるおもしろいじけんがはっせいしていたのだ。)

向こうの古本屋に、ある面白い事件が発生していたのだ。

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