江戸川乱歩 赤い部屋④
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 123 | 6447 | S | 6.6 | 97.1% | 360.6 | 2395 | 70 | 40 | 2024/10/25 |
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問題文
(それはいまからざっとさんねんばかりいぜんのことでした。)
それは今からざっと三年ばかり以前のことでした。
(そのころはいまももうしあげましたように、あらゆるしげきにあきはてて)
その頃は今も申上げました様に、あらゆる刺戟に飽き果てて
(なんのいきがいもなく、ちょうどいっぴきのたいくつというなまえをもったどうぶつででもあるように、)
何の生き甲斐もなく、丁度一匹の退屈という名前を持った動物ででもある様に、
(のらりくらりとひをくらしていたのですが、そのとしのはる、といっても)
ノラリクラリと日を暮らしていたのですが、その年の春、といっても
(まださむいじぶんでしたからたぶんにがつのおわりかさんがつのはじめごろだったのでしょう、)
まだ寒い時分でしたから多分二月の終わりか三月の始め頃だったのでしょう、
(あるよる、わたしはひとつのみょうなできごとにぶつかったのです。)
ある夜、私は一つの妙な出来事にぶつかったのです。
(わたしがひゃくにんものいのちをとるようになったのは、じつにそのばんのできごとが)
私が百人もの命をとる様になったのは、実にその晩の出来事が
(どうきをなしたのでした。)
動機を為したのでした。
(どこかでよふかしをしたわたしは、もういちじごろでしたろうか。)
どこかで夜更かしをした私は、もう一時頃でしたろうか。
(すこしよっぱらっていたとおもいます。さむいよるなのにぶらぶらと)
少し酔っぱらっていたと思います。寒い夜なのにブラブラと
(くるまにものらないでいえじをたどっていました。もうひとつよこちょうをまがると)
俥にも乗らないで家路を辿っていました。もう一つ横町を曲ると
(いっちょうばかりでわたしのいえだという、そのよこちょうをなにげなくひょいとまがりますと、)
一町ばかりで私の家だという、その横町を何気なくヒョイと曲がりますと、
(であいがしらにひとりのおとこが、なにかろうばいしているようすであわててこちらへやってくるのに)
出合頭に一人の男が、何か狼狽している様子で慌ててこちらへやって来るのに
(ばったりぶつかりました。わたしもおどろきましたがおとこはいっそうおどろいたとみえて)
バッタリぶつかりました。私も驚きましたが男は一層驚いたと見えて
(しばらくだまってつったっていましたが、おぼろげながいとうのひかりでわたしのすがたをみとめると)
暫く黙って突っ立っていましたが、おぼろげな街燈の光で私の姿を認めると
(いきなり「このへんにいしゃはないか」とたずねるではありませんか。)
いきなり「この辺に医者はないか」と尋ねるではありませんか。
(よくきいてみますと、そのおとこはじどうしゃのうんてんしゅで、)
よく訊いて見ますと、その男は自動車の運転手で、
(いまそこでひとりのろうじんを(こんなよなかにひとりでうろついていたところをみると)
今そこで一人の老人を(こんな夜中に一人でうろついていた所を見ると
(たぶんふろうのあだだったのでしょう)ひきたおしておおけがをさせたというのです。)
多分浮浪の徒だったのでしょう)轢き倒して大怪我をさせたというのです。
(なるほどみれば、すぐにさんげんむこうにいちだいのじどうしゃがとまっていて、)
なる程見れば、すぐ二三間向こうに一台の自動車が停まっていて、
(そのそばにひとらしいものがたおれてうーうーとかすかにうめいています。)
その側に人らしいものが倒れてウーウーと幽かにうめいています。
(こうばんといってもだいぶえんぽうですし、それにふしょうしゃのくるしみがひどいので、)
交番といっても大分遠方ですし、それに負傷者の苦しみがひどいので、
(うんてんしゅはなにはさておきまずいしゃをさがそうとしたのにそういありません。)
運転手は何はさておき先ず医者を探そうとしたのに相違ありません。
(わたしはそのへんのちりは、じたくのきんじょのことですから、)
私はその辺の地理は、自宅の近所のことですから、
(いいんのしょざいなどもよくわきまえていましたのでさっそくこうおしえてやりました。)
医院の所在などもよく弁えていましたので早速こう教えてやりました。
(「ここをひだりのほうへにちょうばかりいくとひだりがわにあかいけんとうのついたいえがある。)
「ここを左の方へ二町ばかり行くと左側に赤い軒燈の点いた家がある。
(mいいんというのだ。そこへいってたたきおこしたらいいだろう」)
M医院というのだ。そこへ行って叩き起したらいいだろう」
(するとうんてんしゅはすぐさまじょしゅにてつだわせて、ふしょうしゃをそのmいいんのほうへ)
すると運転手はすぐさま助手に手伝わせて、負傷者をそのM医院の方へ
(はこんでいきました。わたしはかれらのうしろすがたがやみのなかにきえるまで、)
運んで行きました。私は彼等の後ろ姿が闇の中に消えるまで、
(それをみおくっていましたが、こんなことにかかりあっていてもつまらない)
それを見送っていましたが、こんなことに係り合っていてもつまらない
(とおもいましたので、やがていえにかえって、--わたしはひとりものなんです。)
と思いましたので、やがて家に帰って、--私は独り者なんです。
(--ばあやのしいてくれたとこへはいって、よっていたからでしょう、)
--婆やの敷いてくれた床へ這入って、酔っていたからでしょう、
(いつになくすぐにねいってしまいました。)
いつになくすぐに寝入ってしまいました。
(じっさいなんでもないことです。)
実際何でもない事です。
(もしわたしがそのままそのじけんをわすれてしまいさえしたら、)
もし私がそのままその事件を忘れてしまいさえしたら、
(それっきりのはなしだったのです。ところが、よくじつめをさましたとき、)
それっきりの話だったのです。ところが、翌日眼を醒ました時、
(わたしはぜんやのちょっとしたできごとをまだおぼえていました。)
私は前夜のちょっとした出来事をまだ覚えていました。
(そしてあのけがにんはたすかったかしらなどと、ようもないことまで)
そしてあの怪我人は助かったかしらなどと、要もないことまで
(かんがえはじめたものです。)
考え始めたものです。
(すると、わたしはふとへんなことにきがつきました。)
すると、私はふと変なことに気がつきました。