いちょうの実 2/2 宮沢賢治

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僕は、一番はじめに杏の王様のお城をたずねるよ。

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問題文

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(「ぼくはいちばんはじめにあんずのおうさまのおしろをたずねるよ。)

「僕は一番はじめに杏の王様のお城をたずねるよ。

(そしておひめさまをさらっていったばけものをたいじするんだ。)

そしてお姫様をさらって行ったばけ物を退治するんだ。

(そんなばけものがきっとどこかにあるね。」)

そんなばけ物がきっとどこかにあるね。」

(「うん。あるだろう。けれどもあぶないじゃないか。)

「うん。あるだろう。けれどもあぶないじゃないか。

(ばけものはおおきいんだよ。ぼくたちなんかはなでふきとばされちまうよ。」)

ばけ物は大きいんだよ。僕たちなんか鼻で吹き飛ばされちまうよ。」

(「ぼくね、いいものもっているんだよ。だからだいじょうぶさ。)

「ぼくね、いいもの持っているんだよ。だから大丈夫さ。

(みせようか。そら、ね。」)

見せようか。そら、ね。」

(「これ、おっかさんのかみでこさえたあみじゃないの。」)

「これ、おっかさんの髪でこさえた網じゃないの。」

(「そうだよ。おっかさんがくだすったんだよ。)

「そうだよ。おっかさんが下すったんだよ。

(なにかおそろしいことのあったときは、このなかにかくれるんだって。)

何か恐ろしいことのあったときは、此の中にかくれるんだって。

(ぼくね、このあみをふところにいれて、ばけものにいってね。)

ぼくね、この網をふところに入れて、ばけ物に行ってね。

(もしもし。こんにちは、ぼくをのめますか、のめないでしょう。)

もしもし。今日(こんにち)は、僕を呑めますか、呑めないでしょう。

(と、こういうんだよ。ばけものはおこってすぐのむだろう。)

と、こう言うんだよ。ばけ物は怒ってすぐ呑むだろう。

(ぼくはそのとき、ばけもののいぶくろのなかでこのあみをだしてね、すっかりかぶっちまうんだ。)

僕はその時、ばけ物の胃袋の中でこの網を出してね、すっかり被っちまうんだ。

(それから、おなかじゅうをめっちゃめちゃにこわしちまうんだよ。)

それから、おなか中をめっちゃめちゃにこわしちまうんだよ。

(そら、ばけものはちぶすになってしぬだろう。)

そら、ばけ物はチブスになって死ぬだろう。

(そこでぼくはでてきて、あんずのおひめさまをつれておしろにかえるんだ。)

そこで僕は出て来て、杏のお姫様を連れてお城に帰るんだ。

(そしておひめさまをもらうんだよ。」)

そしてお姫様を貰うんだよ。」

(「ほんとうにいいね。そんならそのとき、ぼくはおきゃくさまになっていってもいいだろう。」)

「本当にいいね。そんならその時、僕はお客様になって行ってもいいだろう。」

(「いいともさ。ぼく、くにをはんぶんわけてあげるよ。)

「いいともさ。僕、国を半分わけてあげるよ。

など

(それからおっかさんへは、まいにちおかしやなんかたくさんあげるんだ。」)

それからおっかさんへは、毎日お菓子やなんか沢山あげるんだ。」

(ほしがすっかりきえました。ひがしのそらはしろくもえているようです。)

星がすっかり消えました。東の空は白く燃えているようです。

(きがにわかにざわざわしました。もうしゅっぱつにまもないのです。)

木が俄にざわざわしました。もう出発に間もないのです。

(「ぼく、くつがちいさいや。めんどうくさい。はだしでいこう。」)

「僕、靴が小さいや。面倒くさい。はだしで行こう。」

(「そんならぼくのとかえよう。ぼくのはすこしおおきいんだよ。」)

「そんなら僕のと替えよう。僕のは少し大きいんだよ。」

(「かえよう。あ、ちょうどいいぜ。ありがとう。」)

「替えよう。あ、丁度いいぜ。ありがとう。」

(「わたしこまってしまうわ、)

「わたし困ってしまうわ、

(おっかさんにもらったあたらしいがいとうがみえないんですもの。」)

おっかさんに貰った新しい外套が見えないんですもの。」

(「はやくおさがしなさいよ。どのえだにおいたの。」)

「早くおさがしなさいよ。どの枝に置いたの。」

(「わすれてしまったわ。」)

「忘れてしまったわ。」

(「こまったわね。これからひじょうにさむいんでしょう。)

「困ったわね。これから非常に寒いんでしょう。

(どうしてもみつけないといけなくってよ。」)

どうしても見付けないといけなくってよ。」

(「そら、ね。いいぱんだろう。ほしぶどうがちょっとかおをだしてるだろう。)

「そら、ね。いいぱんだろう。ほし葡萄が一寸顔を出してるだろう。

(はやくかばんへいれたまえ。もうおひさまがおでましになるよ。」)

早くかばんへ入れ給え。もうお日さまがお出ましになるよ。」

(「ありがとう。じゃもらうよ。ありがとう。いっしょにいこうね。」)

「ありがとう。じゃ貰うよ。ありがとう。一緒に行こうね。」

(「こまったわ、わたし、どうしてもないわ。ほんとうにわたしどうしましょう。」)

「困ったわ、わたし、どうしてもないわ。ほんとうにわたしどうしましょう。」

(「わたしとふたりでいきましょうよ。わたしのをときどきかしてあげるわ。)

「わたしと二人で行きましょうよ。わたしのを時々貸してあげるわ。

(こごえたらいっしょにしにましょうよ。」)

凍えたら一緒に死にましょうよ。」

(ひがしのそらがしろくもえ、ゆらりゆらりとゆれはじめました。)

東の空が白く燃え、ユラリユラリと揺れはじめました。

(おっかさんのきはまるでしんだようになってじっとたっています。)

おっかさんの木はまるで死んだようになってじっと立っています。

(とつぜん、ひかりのたばがきんのやのようにいちどにとんできました。)

突然、光の束が黄金(きん)の矢のように一度に飛んできました。

(こどもらは、まるでとびあがるくらいかがやきました。)

子供らは、まるで飛びあがるくらい輝きました。

(きたからこおりのようにつめたいすきとおったかぜがごーっとふいてきました。)

北から氷のように冷たい透きとおった風がゴーッと吹いて来ました。

(「さよなら、おっかさん。」「さよなら、おっかさん。」)

「さよなら、おっかさん。」「さよなら、おっかさん。」

(こどもらはみんないちどに、あめのようにえだからとびおりました。)

子供らはみんな一度に、雨のように枝から飛び下りました。

(きたかぜがわらって、)

北風が笑って、

(「ことしもこれでまず、さよならさよならっていうわけだ。」といいながら、)

「今年もこれでまず、さよならさよならって言うわけだ。」と言いながら、

(つめたいがらすのまんとをひらめかしてむこうへいってしまいました。)

つめたいガラスのマントをひらめかして向こうへ行ってしまいました。

(おひさまはもえるほうせきのようにひがしのそらにかかり、あらんかぎりのかがやきを、)

お日様は燃える宝石のように東の空にかかり、あらんかぎりのかがやきを、

(かなしむははおやのきとたびにでたこどもらとになげておやりなさいました。)

悲しむ母親の木と旅に出た子供らとに投げておやりなさいました。

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