オオカミ王ロボ 22 / 終
偕成社文庫
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問題文
(こうまがきょうこくのみちをくだって、いわのむこうにすべてがきえるまで、)
子馬が峡谷の道を下って、岩の向こうにすべてが消えるまで、
(かれはそうしてじっとみつめていた。)
彼はそうしてじっと見つめていた。
(ゆっくりとあるいてぶじぼくじょうにつくと、)
ゆっくりと歩いて無事牧場につくと、
(くびわをはめ、くさちのくいにじょうぶなくさりでつないでから、つなをほどいてやった。)
首輪をはめ、草地の杭に丈夫な鎖でつないでから、綱をほどいてやった。
(そしてはじめてわたしは、このろぼをつくづくとながめたのである。)
そして初めて私は、このロボをつくづくと眺めたのである。
(ながめてみてようやくわかったのだが、いまのよのえいゆうとかぼうくんのはなしになると、)
眺めてみてようやくわかったのだが、今の世の英雄とか暴君の話になると、
(せけんのうわさはじつにしんようできないものであった。)
世間の噂は実に信用出来ないものであった。
(くびのまわりにきんいろのわがあるなどというのは、うそだった。)
首の周りに金色の輪があるなどというのは、嘘だった。
(かたには、あくまとどうめいしたしるしのさかさじゅうじがあるというのも、でたらめだった。)
肩には、悪魔と同盟した印の逆さ十字があるというのも、でたらめだった。
(ただ、いっぽうのしりにおおきなきずあとがあった。)
ただ、一方の尻に大きな傷跡があった。
(うわさによると、これは、たなりーのおおかみりょうけんのりーだーだった、)
噂によると、これは、タナリーのオオカミ猟犬のリーダーだった、
(じゅのーがかんだきばのあと・・・)
ジュノーが噛んだ牙の痕・・・
(このいぬがたにまのすなのうえに、たたきころされるちょくぜんにのこしたきばのあとだという。)
この犬が谷間の砂の上に、叩き殺される直前に残した牙の痕だという。
(わたしはにくとみずをそばにおいてやったが、ろぼはみむきもしなかった。)
私は肉と水をそばに置いてやったが、ロボは見向きもしなかった。
(きいろいりょうがんをすえて、わたしのうしろのたにのいりぐちをはるかにこえ、)
黄色い両眼をすえて、私の後ろの谷の入口を遥かに越え、
(とおくひろがるへいげん・・・かれのへいげんのほうをみていた。)
遠く広がる平原・・・彼の平原の方を見ていた。
(さわっても、みうごきひとつしなかった。)
触っても、身動き一つしなかった。
(たいようがおちても、まだうごかずみすえていた。)
太陽が落ちても、まだ動かず見据えていた。
(よるがきたらぶかをよびあつめるのだろうとおもい、)
夜が来たら部下を呼び集めるのだろうと思い、
(じつはわたしはそのじゅんびをしておいたのだが、ろぼはひとこえもあげなかった。)
実は私はその準備をしておいたのだが、ロボは一声もあげなかった。
(だが、かんがえてみればそれもとうぜんである。)
だが、考えてみればそれも当然である。
(あのおいつめられてこまったときに、いちどよんでうらぎられたのだから、)
あの追い詰められて困った時に、一度呼んで裏切られたのだから、
(いまさらたのむわけもなかったのだ。)
今更頼むわけもなかったのだ。
(ちからをうしなったらいおん、じゆうをうばわれたわし、つまをなくしたはとは、)
力を失ったライオン、自由を奪われたワシ、妻をなくしたハトは、
(すべてむねのいたみにたえかねてしぬという。)
すべて胸の痛みに耐えかねて死ぬという。
(いま、ろぼのうえにはこのみっつのくるしみがいちどにやってきたのだ。)
今、ロボの上にはこの三つの苦しみが一度にやってきたのだ。
(いくらおそれをしらぬぞくのかしらだといっても、)
いくら恐れを知らぬ賊の頭だといっても、
(これにへいぜんとしてたえていられるものだろうか。)
これに平然として耐えていられるものだろうか。
(わたしがしっていることはただひとつ・・・)
私が知っていることは唯一つ・・・
(よるがあけたときろぼは、さくやとおなじやすらかなしせいで、)
夜が明けたときロボは、昨夜と同じ安らかな姿勢で、
(よこたわっていたということである。)
横たわっていたということである。
(からだにはきずひとつなかったけれども、たましいはもうそこにはなかった・・・)
体には傷一つなかったけれども、魂はもうそこにはなかった・・・
(ろうおおかみおうはいのちたえていたのである。)
老オオカミ王は命絶えていたのである。
(わたしはろぼのくびからくさりをはずし、かうぼーいにてつだってもらってこやへはこんだ。)
私はロボの首から鎖を外し、カウボーイに手伝ってもらって小屋へ運んだ。
(そこにはぶらんかのなきがらがある。)
そこにはブランカの亡骸がある。
(そのとなりに、このおおかみをならべてやったとき、かうぼーいはいった。)
その隣に、このオオカミを並べてやったとき、カウボーイは言った。
(「どうだな。さぞこいしかったろうが、おまえら、これでいっしょになれたぞ。」)
「どうだな。さぞ恋しかったろうが、お前ら、これで一緒になれたぞ。」