魔術2 芥川龍之介

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人はなかなか欲を捨てられないというはなし。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 布ちゃん 5638 A 5.9 95.4% 542.7 3212 152 45 2024/10/23
2 saty 4590 C++ 4.9 93.2% 649.1 3212 232 45 2024/10/14
3 じゅん 4301 C+ 4.5 94.8% 702.7 3198 175 45 2024/10/14

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問題文

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(わたしはびっくりして、おもわずいすをずりよせながら、よくよくそのはなを)

私はびっくりして、思わず椅子をずりよせながら、よくよくその花を

(ながめましたが、たしかにそれはいまのいままで、てえぶるがけのなかにあったはなもようの)

眺めましたが、確かにそれは今の今まで、テエブル掛の中にあった花模様の

(ひとつにちがいありません。が、みすらくんがそのはなをわたしのはなのさきへもってくると、)

一つに違いありません。が、ミスラ君がその花を私の鼻の先へ持って来ると、

(ちょうどじゃこうかなにかのようにおもくるしいにおいさえするのです。わたしはあまりの)

ちょうど麝香か何かのように重苦しい匂いさえするのです。私はあまりの

(ふしぎさに、なんどもかんたんのこえをもらしますと、みすらくんはやはりびしょうしたまま、)

不思議さに、何度も感嘆の声を洩しますと、ミスラ君はやはり微笑したまま、

(またむぞうさにそのはなをてえぶるがけのうえへおとしました。もちろんおとすともとのとおりはなは)

また無造作にその花をテエブル掛の上へ落しました。勿論落すともとの通り花は

(おりだしたもようになって、つまみあげることどころか、はなびらひとつじゆうには)

織り出した模様になって、つまみ上げること所か、花びら一つ自由には

(うごかせなくなってしまうのです。「どうです。わけはないでしょう。)

動かせなくなってしまうのです。「どうです。訳はないでしょう。

(こんどは、このらんぷをごらんなさい。」 みすらくんはこういいながら、)

今度は、このランプを御覧なさい。」  ミスラ君はこう言いながら、

(ちょいとてえぶるのうえのらんぷをおきなおしましたが、そのひょうしにどういうわけか、)

ちょいとテエブルの上のランプを置き直しましたが、その拍子にどういう訳か、

(らんぷはまるでこまのように、ぐるぐるまわりはじめました。それもちゃんとひとところに)

ランプはまるで独楽のように、ぐるぐる廻り始めました。それもちゃんと一所に

(とまったまま、ほやをしんぼうのようにして、いきおいよくまわりはじめたのです。はじめのうちは)

止ったまま、ホヤを心棒のようにして、勢いよく廻り始めたのです。初の内は

(わたしもきもをつぶして、まんいちかじにでもなってはたいへんだとなんどもひやひやしましたが)

私も胆をつぶして、万一火事にでもなっては大変だと何度もひやひやしましたが

(みすらくんはしずかにこうちゃをのみながら、いっこうさわぐようすもありません。そこでわたしも)

ミスラ君は静に紅茶を飲みながら、一向騒ぐ容子もありません。そこで私も

(しまいには、すっかりどきょうがすわってしまって、だんだんはやくなるらんぷのうんどうを)

しまいには、すっかり度胸が据ってしまって、だんだん早くなるランプの運動を

(めもはなさずながめていました。 またじっさいらんぷのふたがかぜをおこしてまわるなかに、)

眼も離さず眺めていました。  また実際ランプの蓋が風を起して廻る中に、

(きいろいほのおがたったひとつ、またたきもせずにともっているのは、なんともいえずうつくしい)

黄いろい焔がたった一つ、瞬きもせずにともっているのは、何とも言えず美しい

(ふしぎなみせものだったのです。が、そのうちにらんぷのまわるのが、いよいよすみやかに)

不思議な見物だったのです。が、その内にランプの廻るのが、いよいよ速に

(なっていって、とうとうまわっているとはみえないほど、すみわたったとおもいますと)

なって行って、とうとう廻っているとは見えないほど、澄み渡ったと思いますと

(いつのまにか、まえのようにほやひとつゆがんだけしきもなく、てえぶるのうえに)

いつの間にか、前のようにホヤ一つ歪んだ気色もなく、テエブルの上に

など

(すわっていました。 「おどろきましたか。こんなことはほんのこどもだましですよ。)

据っていました。 「驚きましたか。こんなことはほんの子供瞞しですよ。

(それともあなたがおのぞみなら、もうひとつなにかごらんにいれましょう。」)

それともあなたが御望みなら、もう一つ何か御覧に入れましょう。」

(みすらくんはうしろをふりかえって、かべがわのしょだなをながめましたが、やがてそのほうへてを)

ミスラ君は後を振返って、壁側の書棚を眺めましたが、やがてその方へ手を

(さしのばして、まねくようにゆびをうごかすと、こんどはしょだなにならんでいたしょもつが)

さし伸ばして、招くように指を動かすと、今度は書棚に並んでいた書物が

(いっさつずつうごきだしてしぜんにてえぶるのうえまでとんできました。そのまたとびかたが)

一冊ずつ動き出して自然にテエブルの上まで飛んで来ました。そのまた飛び方が

(りょうほうへひょうしをひらいて、なつのゆうがたにとびかうこうもりのように、ひらひらとちゅうへ)

両方へ表紙を開いて、夏の夕方に飛び交う蝙蝠のように、ひらひらと宙へ

(まいあがるのです。わたしははまきをくちへくわえたまま、あっけにとられてみていましたが、)

舞上るのです。私は葉巻を口へ啣えたまま、呆気にとられて見ていましたが、

(しょもつはうすぐらいらんぷのひかりのなかになんさつもじゆうにとびまわって、いちいちぎょうぎよく)

書物はうす暗いランプの光の中に何冊も自由に飛び廻って、一々行儀よく

(てえぶるのうえへぴらみっどがたにつみあがりました。しかものこらずこちらへ)

テエブルの上へピラミッド形に積み上りました。しかも残らずこちらへ

(うつってしまったとおもうと、すぐにさいしょきたのからうごきだして、もとのしょだなへ)

移ってしまったと思うと、すぐに最初来たのから動き出して、もとの書棚へ

(じゅんじゅんにとびかえっていくじゃありませんか。 が、なかでもいちばんおもしろかったのは、)

順々に飛び還って行くじゃありませんか。  が、中でも一番面白かったのは、

(うすいかりとじのしょもつがいっさつ、やはりつばさのようにひょうしをひらいて、ふわりとそらへ)

うすい仮綴じの書物が一冊、やはり翼のように表紙を開いて、ふわりと空へ

(あがりましたが、しばらくてえぶるのうえでわをえがいてからきゅうにぺーじをざわつかせると)

上りましたが、しばらくテエブルの上で輪を描いてから急に頁をざわつかせると

(さかおとしにわたしのひざへさっとおりてきたことです。どうしたのかとおもって)

逆落しに私の膝へさっと下りて来たことです。どうしたのかと思って

(てにとってみると、これはわたしがいっしゅうかんばかりまえにみすらくんへかしたおぼえがある、)

手にとって見ると、これは私が一週間ばかり前にミスラ君へ貸した覚えがある、

(ふらんすのあたらしいしょうせつでした。 「ながながごほんをありがとう。」)

仏蘭西の新しい小説でした。 「永々御本を難有う。」

(みすらくんはまだびしょうをふくんだこえで、こうわたしにれいをいいました。もちろんそのときは)

ミスラ君はまだ微笑を含んだ声で、こう私に礼を言いました。勿論その時は

(もうおおくのしょもつが、みんなてえぶるのうえからしょだなのなかへまいもどって)

もう多くの書物が、みんなテエブルの上から書棚の中へ舞い戻って

(しまっていたのです。わたしはゆめからさめたようなこころもちで、ざんじはあいさつさえ)

しまっていたのです。私は夢からさめたような心もちで、暫時は挨拶さえ

(できませんでしたが、そのうちにさっきみすらくんのいった、「わたしのまじゅつなど)

出来ませんでしたが、その内にさっきミスラ君の言った、「私の魔術など

(というものは、あなたでもつかおうとおもえばつかえるのです。」ということばを)

というものは、あなたでも使おうと思えば使えるのです。」という言葉を

(おもいだしましたから、 「いや、かねがねひょうばんはうかがっていましたが、)

思い出しましたから、 「いや、兼ね兼ね評判はうかがっていましたが、

(あなたのおつかいなさるまじゅつが、これほどふしぎなものだろうとは、じっさい、)

あなたのお使いなさる魔術が、これほど不思議なものだろうとは、実際、

(おもいもよりませんでした。ところでわたしのようなにんげんにも、つかってつかえないことの)

思いもよりませんでした。ところで私のような人間にも、使って使えないことの

(ないというのは、ごじょうだんではないのですか。」)

ないと言うのは、御冗談ではないのですか。」

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芥川龍之介

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