魔術4 芥川龍之介

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プレイ回数1508難易度(5.0) 3238打 長文 長文モード可
人はなかなか欲を捨てられないというはなし。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 saty 4582 C++ 4.8 94.6% 661.6 3214 182 46 2024/10/16
2 じゅん 4572 C++ 4.7 96.3% 674.3 3204 121 46 2024/10/16

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問題文

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(「まずちょいとこんなものさ。」 わたしはとくいのびしょうをうかべながら、)

「まずちょいとこんなものさ。」  私は得意の微笑を浮べながら、

(しずかにまたもとのいすにこしをおろしました。 「こりゃみなほんとうのきんかかい。」)

静にまた元の椅子に腰を下しました。 「こりゃ皆ほんとうの金貨かい。」

(あっけにとられていたゆうじんのひとりが、ようやくこうわたしにたずねたのは、)

呆気にとられていた友人の一人が、ようやくこう私に尋ねたのは、

(それから5ふんばかりたったあとのことです。 「ほんとうのきんかさ。うそだと)

それから五分ばかりたった後のことです。 「ほんとうの金貨さ。嘘だと

(おもったらてにとってみたまえ。」 「まさかやけどをするようなことはあるまいね」)

思ったら手にとって見給え。」 「まさか火傷をするようなことはあるまいね」

(ゆうじんのひとりはおそるおそる、ゆかのうえのきんかをてにとってみましたが、)

友人の一人は恐る恐る、床の上の金貨を手にとって見ましたが、

(「なるほどこりゃほんとうのきんかだ。おい、きゅうじ、ほうきとちりとりとをもってきて、)

「成程こりゃほんとうの金貨だ。おい、給仕、箒と塵取りとを持って来て、

(これをみなはきあつめてくれ。」 きゅうじはすぐにいいつけられたとおり、ゆかのうえの)

これを皆掃き集めてくれ。」  給仕はすぐに言いつけられた通り、床の上の

(きんかをはきあつめて、うずたかくそばのてえぶるへもりあげました。ゆうじんたちは)

金貨を掃き集めて、堆く側のテエブルへ盛り上げました。友人たちは

(みなそのてえぶるのまわりをかこみながら、 「ざっと20まんえんくらいは)

皆そのテエブルのまわりを囲みながら、 「ざっと二十万円くらいは

(ありそうだね。」 「いや、もっとありそうだ。きゃしゃなてえぶるだったひには、)

ありそうだね。」 「いや、もっとありそうだ。華奢なテエブルだった日には、

(つぶれてしまうくらいあるじゃないか。」 「なにしろたいしたまじゅつをならったものだ)

つぶれてしまうくらいあるじゃないか。」 「何しろ大した魔術を習ったものだ

(せきたんのひがすぐにきんかになるのだから。」 「これじゃいっしゅうかんとたたないうちに、)

石炭の火がすぐに金貨になるのだから。」 「これじゃ一週間とたたない内に、

(いわさきやみついにもまけないようなきんまんかになってしまうだろう。」などと、くちぐちに)

岩崎や三井にも負けないような金満家になってしまうだろう。」などと、口々に

(わたしのまじゅつをほめそやしました。が、わたしはやはりいすによりかかったまま、)

私の魔術を褒めそやしました。が、私はやはり椅子によりかかったまま、

(ゆうぜんとはまきのけむりをはいて、 「いや、ぼくのまじゅつというやつは、いったんよくしんを)

悠然と葉巻の煙を吐いて、 「いや、僕の魔術というやつは、一旦欲心を

(おこしたら、にどとつかうことができないのだ。だからこのきんかにしても、きみたちが)

起したら、二度と使うことが出来ないのだ。だからこの金貨にしても、君たちが

(みてしまったうえはすぐにまたもとのだんろのなかへほうりこんでしまおうとおもっている」)

見てしまった上はすぐにまた元の暖炉の中へ抛りこんでしまおうと思っている」

(ゆうじんたちはわたしのことばをきくと、いいあわせたように、はんたいしはじめました。)

友人たちは私の言葉を聞くと、言い合せたように、反対し始めました。

(これだけのたいきんをもとのせきたんにしてしまうのは、もったいないはなしだというのです。)

これだけの大金を元の石炭にしてしまうのは、もったいない話だと言うのです。

など

(が、わたしはみすらくんにやくそくしたてまえもありますから、どうしてもだんろにほりこむと)

が、私はミスラ君に約束した手前もありますから、どうしても暖炉に抛りこむと

(ごうじょうにゆうじんたちとあらそいました。すると、そのゆうじんたちのなかでも、いちばんこうかつだと)

剛情に友人たちと争いました。すると、その友人たちの中でも、一番狡猾だと

(いうひょうばんのあるのが、はなのさきで、せせらわらいながら、 「きみはこのきんかをもとの)

いう評判のあるのが、鼻の先で、せせら笑いながら、 「君はこの金貨を元の

(せきたんにしようという。ぼくたちはまたしたくないという。それじゃいつまで)

石炭にしようと言う。僕たちはまたしたくないと言う。それじゃいつまで

(たったところで、ぎろんがひないのはあたりまえだろう。そこでぼくがおもうには、このきんかを)

たった所で、議論が干ないのは当り前だろう。そこで僕が思うには、この金貨を

(もとでにして、きみがぼくたちとかるたをするのだ。そうしてもしきみがかったなら、)

元手にして、君が僕たちと骨牌をするのだ。そうしてもし君が勝ったなら、

(せきたんにするともなににするとも、じゆうにきみがしまつするがよい。が、もしぼくたちが)

石炭にするとも何にするとも、自由に君が始末するが好い。が、もし僕たちが

(かったなら、きんかのままぼくたちへわたしたまえ。そうすればおたがいのもうしぶんもたって、)

勝ったなら、金貨のまま僕たちへ渡し給え。そうすれば御互の申し分も立って、

(しごくまんぞくだろうじゃないか。」 それでもわたしはまだくびをふって、よういに)

至極満足だろうじゃないか。」  それでも私はまだ首を振って、容易に

(そのもうしだしにさんせいしようとはしませんでした。ところがそのゆうじんは、いよいよ)

その申し出しに賛成しようとはしませんでした。所がその友人は、いよいよ

(あざけるようなわらいをうかべながら、わたしとてえぶるのうえのきんかとを)

嘲るような笑を浮べながら、私とテエブルの上の金貨とを

(ずるそうにじろじろみくらべて、 「きみがぼくたちとかるたをしないのは、つまり)

狡るそうにじろじろ見比べて、 「君が僕たちと骨牌をしないのは、つまり

(そのきんかをぼくたちにとられたくないとおもうからだろう。それならまじゅつを)

その金貨を僕たちに取られたくないと思うからだろう。それなら魔術を

(つかうために、よくしんをすてたとかなんとかいう、せっかくのきみのけっしんもあやしくなって)

使うために、欲心を捨てたとか何とかいう、折角の君の決心も怪しくなって

(くるわけじゃないか。」 「いや、なにもぼくは、このきんかがおしいから)

くる訳じゃないか。」 「いや、何も僕は、この金貨が惜しいから

(せきたんにするのじゃない。」 「それならかるたをやりたまえな。」)

石炭にするのじゃない。」 「それなら骨牌をやり給えな。」

(なんどもこういうおしもんどうをくりかえしたあとで、とうとうわたしはそのゆうじんのことばどおり、)

何度もこういう押問答を繰返した後で、とうとう私はその友人の言葉通り、

(てえぶるのうえのきんかをもとでに、どうしてもかるたをたたかわせなければならないはめに)

テエブルの上の金貨を元手に、どうしても骨牌を闘わせなければならない羽目に

(たちいたりました。もちろんゆうじんたちはみなおおよろこびで、すぐにとらんぷをひとくみ)

立ち至りました。勿論友人たちは皆大喜びで、すぐにトランプを一組

(とりよせると、へやのかたすみにあるかるたづくえをかこみながら、まだためらいがちなわたしを)

取り寄せると、部屋の片隅にある骨牌机を囲みながら、まだためらい勝ちな私を

(はやくはやくとせきたてるのです。 ですからわたしもしかたがなく、しばらくのあいだは)

早く早くと急き立てるのです。  ですから私も仕方がなく、しばらくの間は

(ゆうじんたちをあいてに、いやいやかるたをしていました。が、どういうものか、)

友人たちを相手に、嫌々骨牌をしていました。が、どういうものか、

(そのよるにかぎって、ふだんはかくべつかるたじょうずでもないわたしが、うそのようにどんどん)

その夜に限って、ふだんは格別骨牌上手でもない私が、嘘のようにどんどん

(かつのです。するとまたみょうなもので、はじめはきのりもしなかったのが、)

勝つのです。するとまた妙なもので、始は気のりもしなかったのが、

(だんだんおもしろくなりはじめて、ものの10ふんとたたないうちに、いつかわたしはいっさいを)

だんだん面白くなり始めて、ものの十分とたたない内に、いつか私は一切を

(わすれて、ねっしんにかるたをひきはじめました。)

忘れて、熱心に骨牌を引き始めました。

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芥川龍之介

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