魔術5(完) 芥川龍之介

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人はなかなか欲を捨てられないというはなし。
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1 saty 4493 C+ 4.8 93.6% 525.6 2533 171 36 2024/10/17

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問題文

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(ゆうじんたちは、もとよりわたしから、あのきんかをのこらずまきあげるつもりで、わざわざ)

友人たちは、元より私から、あの金貨を残らず捲き上げるつもりで、わざわざ

(かるたをはじめたのですから、こうなるとみなあせりにあせって、ほとんどけっそうさえ)

骨牌を始めたのですから、こうなると皆あせりにあせって、ほとんど血相さえ

(かわるかとおもうほど、むちゅうになってしょうぶをあらそいだしました。が、いくらゆうじんたちが)

変るかと思うほど、夢中になって勝負を争い出しました。が、いくら友人たちが

(やっきとなっても、わたしはいちどもまけないばかりか、とうとうしまいには、)

躍起となっても、私は一度も負けないばかりか、とうとうしまいには、

(あのきんかとほぼおなじほどのきんだかだけ、わたしのほうがかってしまったじゃありませんか)

あの金貨とほぼ同じほどの金高だけ、私の方が勝ってしまったじゃありませんか

(するとさっきのひとのわるいゆうじんが、まるで、きちがいのようないきおいで、わたしのまえに、)

するとさっきの人の悪い友人が、まるで、気違いのような勢いで、私の前に、

(ふだをつきつけながら、 「さあ、ひきたまえ。ぼくはぼくのざいさんをすっかりかける。)

札をつきつけながら、 「さあ、引き給え。僕は僕の財産をすっかり賭ける。

(じめんも、かさくも、うまも、じどうしゃも、ひとつのこらずかけてしまう。そのかわりきみは)

地面も、家作も、馬も、自働車も、一つ残らず賭けてしまう。その代り君は

(あのきんかのほかに、いままできみがかったかねをことごとくかけるのだ。)

あの金貨のほかに、今まで君が勝った金をことごとく賭けるのだ。

(さあ、ひきたまえ。」 わたしはこのせつなによくがでました。てえぶるのうえに)

さあ、引き給え。」  私はこの刹那に欲が出ました。テエブルの上に

(つんである、やまのようなきんかばかりか、せっかくわたしがかったかねさえ、こんどうんわるく)

積んである、山のような金貨ばかりか、折角私が勝った金さえ、今度運悪く

(まけたがさいご、みなあいてのゆうじんにとられてしまわなければなりません。)

負けたが最後、皆相手の友人に取られてしまわなければなりません。

(のみならずこのしょうぶにかちさえすれば、わたしはむこうのぜんざいさんをいちどにてへ)

のみならずこの勝負に勝ちさえすれば、私は向うの全財産を一度に手へ

(いれることができるのです。こんなときにつかわなければどこにまじゅつなどをおそわった)

入れることが出来るのです。こんな時に使わなければどこに魔術などを教わった

(くしんのかいがあるのでしょう。そうおもうとわたしはやもたてもたまらなくなって、)

苦心の甲斐があるのでしょう。そう思うと私は矢も楯もたまらなくなって、

(そっとまじゅつをつかいながら、けっとうでもするようないきおいで、 「よろしい。まず)

そっと魔術を使いながら、決闘でもするような勢いで、 「よろしい。まず

(きみからひきたまえ。」 「9。」)

君から引き給え。」 「九。」

(「きんぐ。」 わたしはかちほこったこえをあげながら、まっさおになったあいてのめのまえへ)

「王様。」  私は勝ち誇った声を挙げながら、まっ蒼になった相手の眼の前へ

(ひきあてたふだをだしてみせました。するとふしぎにもそのかるたのおうさまが、まるで)

引き当てた札を出して見せました。すると不思議にもその骨牌の王様が、まるで

(たましいがはいったように、かんむりをかぶったあたまをもたげて、ひょいとふだのそとへからだをだすと、)

魂がはいったように、冠をかぶった頭を擡げて、ひょいと札の外へ体を出すと、

など

(ぎょうぎよくけんをもったまま、にやりときみのわるいびしょうをうかべて、 「おばあさん。)

行儀よく剣を持ったまま、にやりと気味の悪い微笑を浮べて、 「御婆サン。

(おばあさん。おきゃくさまはおかえりになるそうだから、ねどこのしたくはしなくてもいいよ」)

御婆サン。御客様ハ御帰リニナルソウダカラ、寝床ノ仕度ハシナクテモ好イヨ」

(と、ききおぼえのあるこえでいうのです。とおもうと、どういうわけか、まどのそとにふる)

と、聞き覚えのある声で言うのです。と思うと、どういう訳か、窓の外に降る

(あまあしまでが、きゅうにまたあのおおもりのたけやぶにしぶくような、さびしいざんざぶりの)

雨脚までが、急にまたあの大森の竹藪にしぶくような、寂しいざんざ降りの

(おとをたてはじめました。 ふときがついてあたりをみまわすと、)

音を立て始めました。  ふと気がついてあたりを見廻すと、

(わたしはまだうすぐらいせきゆらんぷのひかりをあびながら、まるであのかるたのきんぐのような)

私はまだうす暗い石油ランプの光を浴びながら、まるであの骨牌の王様のような

(びしょうをうかべているみすらくんと、むかいあってすわっていたのです。 わたしがゆびのあいだに)

微笑を浮べているミスラ君と、向い合って坐っていたのです。  私が指の間に

(はさんだはまきのはいさえ、やはりおちずにたまっているところをみても、わたしがひとつきばかり)

挟んだ葉巻の灰さえ、やはり落ちずにたまっている所を見ても、私が一月ばかり

(たったとおもったのは、ほんの23ふんのあいだにみた、ゆめだったのにちがいありません。)

たったと思ったのは、ほんの二三分の間に見た、夢だったのに違いありません。

(けれどもその23ふんのみじかいあいだに、わたしがはっさん・かんのまじゅつのひほうをならう)

けれどもその二三分の短い間に、私がハッサン・カンの魔術の秘法を習う

(しかくのないにんげんだということは、わたしじしんにもみすらくんにも、あきらかに)

資格のない人間だということは、私自身にもミスラ君にも、明かに

(なってしまったのです。わたしははずかしそうにあたまをさげたまま、しばらくは)

なってしまったのです。私は恥しそうに頭を下げたまま、しばらくは

(くちもきけませんでした。 「わたしのまじゅつをつかおうとおもったら、まずよくを)

口もきけませんでした。 「私の魔術を使おうと思ったら、まず欲を

(すてなければなりません。あなたはそれだけのしゅぎょうができていないのです。」)

捨てなければなりません。あなたはそれだけの修業が出来ていないのです。」

(みすらくんはきのどくそうなめつきをしながら、ふちへあかくはなもようをおりだした)

ミスラ君は気の毒そうな眼つきをしながら、縁へ赤く花模様を織り出した

(てえぶるがけのうえにひじをついて、しずかにこうわたしをたしなめました。)

テエブル掛の上に肘をついて、静にこう私をたしなめました。

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芥川龍之介

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