文鳥 (夏目漱石)

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夏目漱石
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 sai 8327 8.5 96.9% 205.7 1769 56 40 2024/11/10
2 ゆうりん 6268 S 6.4 97.8% 283.0 1814 40 40 2024/10/17
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問題文

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(じゅうがつわせだにうつる。)

十月早稲田に移る。

(がらんのようなしょさいにただひとり、かたづけたかおをほおづえでささえていると、)

伽藍のような書斎にただ一人、片づけた顔を頬杖で支えていると、

(みえきちがきて、とりをおかいなさいという。)

三重吉が来て、鳥を御飼いなさいと云う。

(かってもいいとこたえた。)

飼ってもいいと答えた。

(しかしねんのためだから、なにをかうのかねときいたら、)

しかし念のためだから、何を飼うのかねと聞いたら、

(ぶんちょうですというへんじであった。)

文鳥ですと云う返事であった。

(ぶんちょうはみえきちのしょうせつにでてくるくらいだからきれいなとりにちがいなかろうとおもって、)

文鳥は三重吉の小説に出て来るくらいだから奇麗な鳥に違なかろうと思って、

(じゃかってくれたまえとたのんだ。)

じゃ買ってくれたまえと頼んだ。

(ところがみえきちはぜひおかいなさいと、おなじようなことをくりかえしている。)

ところが三重吉は是非御飼いなさいと、同じような事を繰り返している。

(うむかうよかうよとやはりほおづえをついたままで、むにゃむにゃいってるうちに)

うむ買うよ買うよとやはり頬杖を突いたままで、むにゃむにゃ云ってるうちに

(みえきちはだまってしまった。)

三重吉は黙ってしまった。

(おおかたほおづえにあいそをつかしたんだろうと、このときはじめてきがついた。)

おおかた頬杖に愛想を尽かしたんだろうと、この時始めて気がついた。

(するとさんぷんばかりして、こんどはかごをおかいなさいといいだした。)

すると三分ばかりして、今度は籠を御買いなさいと云いだした。

(これもよろしいとこたえると、)

これも宜しいと答えると、

(ぜひおかいなさいとねんをおすかわりに、とりかごのこうしゃくをはじめた。)

是非御買いなさいと念を押す代りに、鳥籠の講釈を始めた。

(そのこうしゃくはだいぶこみいったものであったが、)

その講釈はだいぶ込み入ったものであったが、

(きのどくなことに、みんなわすれてしまった。)

気の毒な事に、みんな忘れてしまった。

(ただいいのはにじゅうえんぐらいするというだんになって、)

ただ好いのは二十円ぐらいすると云う段になって、

(きゅうにそんなたかいのでなくってもよかろうといっておいた。)

急にそんな高価のでなくっても善かろうと云っておいた。

(みえきちはにやにやしている。)

三重吉はにやにやしている。

など

(それからぜんたいどこでかうのかときいてみると、)

それから全体どこで買うのかと聞いて見ると、

(なにどこのとりやにでもありますと、じつにへいぼんなこたえをした。)

なにどこの鳥屋にでもありますと、実に平凡な答をした。

(かごはとききかえすと、)

籠はと聞き返すと、

(かごですか、かごはそのなにですよ、なにどこにかあるでしょう、)

籠ですか、籠はその何ですよ、なにどこにかあるでしょう、

(とまるでくもをつかむようなかんだいなことをいう。)

とまるで雲を攫むような寛大な事を云う。

(でもきみあてがなくっちゃいけなかろうと、)

でも君あてがなくっちゃいけなかろうと、

(あたかもいけないようなかおをしてみせたら、)

あたかもいけないような顔をして見せたら、

(みえきちはほっぺたへてをあてて、)

三重吉は頬ぺたへ手をあてて、

(なんでもこまごめにかごのめいじんがあるそうですが、)

何でも駒込に籠の名人があるそうですが、

(としよりだそうですから、もうしんだかもしれませんと、)

年寄だそうですから、もう死んだかも知れませんと、

(ひじょうにこころぼそくなってしまった。)

非常に心細くなってしまった。

(なにしろいいだしたものにせきにんをおわせるのはとうぜんのことだから、)

何しろ言いだしたものに責任を負わせるのは当然の事だから、

(さっそくばんじをみえきちにいらいすることにした。)

さっそく万事を三重吉に依頼する事にした。

(すると、すぐかねをだせという。)

すると、すぐ金を出せと云う。

(かねはたしかにだした。)

金はたしかに出した。

(みえきちはどこでかったか、ななこのみつおれのかみいれをかいちゅうしていて、)

三重吉はどこで買ったか、七子の三つ折の紙入を懐中していて、

(ひとのかねでもじぶんのかねでもしっかいこのかみいれのなかにいれるくせがある。)

人の金でも自分の金でも悉皆この紙入の中に入れる癖がある。

(じぶんはみえきちがごえんさつをたしかにこのかみいれのそこへおしこんだのをもくげきした。)

自分は三重吉が五円札をたしかにこの紙入の底へ押し込んだのを目撃した。

(かようにしてかねはたしかにみえきちのてにおちた。)

かようにして金はたしかに三重吉の手に落ちた。

(しかしとりとかごとはよういにやってこない。)

しかし鳥と籠とは容易にやって来ない。

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夏目漱石

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