「白昼夢」1 江戸川乱歩

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タグ小説 長文
江戸川乱歩の小説「白昼夢」です。
今はあまり使われていない、漢字や読み方、表現などがありますが、原文のままです。
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1 pechi 5470 B++ 6.3 88.0% 285.9 1809 245 29 2024/10/29

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(あれは、はくちゅうのあくむであったか、それともげんじつのできごとであったか。)

あれは、白昼の悪夢であったか、それとも現実の出来事であったか。

(ばんしゅんのなまあたたかいゆめが、おどろおどろと、ほてったほおにかんぜられる、)

晩春の生暖かい夢が、オドロオドロと、火照った頬に感ぜられる、

(むしあついひのごごであった。)

蒸し暑い日の午後であった。

(ようじがあってとおったのか、さんぽのみちすがらであったのか、)

用事があって通ったのか、散歩のみちすがらであったのか、

(それさえぼんやりとしておもいだせぬけれど、わたしは、あるばすえの、みるかぎり)

それさえぼんやりとして思い出せぬけれど、私は、ある場末の、見る限り

(どこまでもどこまでも、まっすぐにつづいている、ひろいほこりっぽいおおどおりをあるいていた。)

何処までも何処までも、真直に続いている、広い埃っぽい大通りを歩いていた。

(あらいざらしたひとえもののようにしらちゃけたしょうかが、だまってのきをならべていた。)

洗いざらした単衣物の様に白茶けた商家が、黙って軒を並べていた。

(さんしゃくのしょーういんどうに、ほこりでだんだらそめにしたしょうがくせいの)

三尺のショーウインドウに、埃でだんだら染めにした小学生の

(うんどうしゃつがさがっていたり、きばんのようにしきったうすっぺらなきばこのなかに、)

運動シャツが下っていたり、基盤の様に仕切った薄っぺらな木箱の中に、

(あかやきやしろやちゃいろなどの、すなのようなたねものをいれたのが、みせいっぱいに)

赤や黄や白や茶色などの、砂の様な種物を入れたのが、店いっぱいに

(ならんでいたり、せまいうすぐらいうちじゅうが、てんじょうからどこから、じてんしゃのふれーむや)

並んでいたり、狭い薄暗い家中が、天井からどこから、自転車のフレームや

(たいやでじゅうまんしていたり、そして、それらのさっぷうけいないえいえのあいだにはさまって、)

タイヤで充満していたり、そして、それらの殺風景な家々の間に挟まって、

(ほそいこうしどのおくにすすけたごしんとうのさがったにかいやが、)

細い格子度の奥にすすけた御神燈の下った二階家が、

(そんなにりょうほうからおしつけちゃいやだわというかっこうをして、)

そんなに両方から押しつけちゃ厭だわという恰好をして、

(ぼろんぼろんとわいまるなしゃみせんのおとをもらしていたりした。)

ボロンボロンと猥○な三味線の音を洩らしていたりした。

(「あっぷく、ちきりき、あっぱっぱあ・・・・・あっぱっぱあ・・・・・」)

「アップク、チキリキ、アッパッパア・・・・・アッパッパア・・・・・」

(おさげをほこりでおけしょうしたおんなのこたちが、みちのまんなかにわをつくってうたっていた。)

お下げを埃でお化粧した女の子達が、道の真中に輪を作って歌っていた。

(あっぱっぱああああ・・・・・というなみだぐましいせんりつが、かすんだはるのそらへ)

アッパッパアアアア・・・・・という涙ぐましい旋律が、霞んだ春の空へ

(のんびりとじょうはつしていった。)

のんびりと蒸発して行った。

(おとこのこらはなわとびをしてあそんでいた。ながいなわのつるが、ねばりづよくちを)

男の子等は繩跳びをして遊んでいた。長い繩の弦が、ねばり強く地を

など

(たたいては、そらにあがった。いなかじまのまえをはだけたひとりのこが、ぴょいぴょいと)

叩いては、空に上った。田舎縞の前をはだけた一人の子が、ピョイピョイと

(とんでいた。そのありさまは、こうそくどさつえいきをつかったかつどうしゃしんのように、)

飛んでいた。その光景は、高速度撮影機を使った活動写真の様に、

(いかにもゆうちょうにみえた。ときどき、おもいにばしゃがごろごろとどうろや、)

如何にも悠長に見えた。時々、思い荷馬車がゴロゴロと道路や、

(いえいえをしんどうさせてわたしをおいこした。)

家々を振動させて私を追い越した。

(ふとわたしは、ゆくてにあたってなにかがおこっているのをしった。)

ふと私は、行手に当って何かが起っているのを知った。

(じゅうしごにんのおとなやこどもが、みちばたにふきそくなはんえんをえがいてたちとどまっていた。)

十四五人の大人や子供が、道ばたに不規則な半円を描いて立止まっていた。

(それらのひとびとのかおには、みないっしゅのわらいがうかんでいた。きげきをみているひとの)

それ等の人々の顔には、皆一種の笑いが浮かんでいた。喜劇を見ている人の

(わらいがうかんでいた。あるものはおおぐちをあいてげらげらわらっていた。)

笑いが浮かんでいた。ある者は大口を開いてゲラゲラ笑っていた。

(こうきしんが、わたしをそこへちかづかせた。)

好奇心が、私をそこへ近付かせた。

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