「桃太郎」2 芥川龍之介

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芥川龍之介の小説「桃太郎」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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問題文

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(に)

(ももからうまれたももたろうはおにがしまのせいばつをおもいたった。おもいたったわけは)

桃から生れた桃太郎は鬼が島の征伐を思い立った。思い立った訣は

(なぜかというと、かれはおじいさんやおばあさんのように、やまだのかわだのはたけだのへ)

なぜかというと、彼はお爺さんやお婆さんのように、山だの川だの畑だのへ

(しごとにでるのがいやだったせいである。そのはなしをきいたろうじんふうふは)

仕事に出るのがいやだったせいである。その話を聞いた老人夫婦は

(ないしんこのわんぱくものにあいそをつかしていたときだったから、)

内心この腕白ものに愛想をつかしていた時だったから、

(いっこくもはやくおいだしたさにはたとかたちとかじんばおりとか、しゅつじんのしたくに)

一刻も早く追い出したさに旗とか太刀とか陣羽織とか、出陣の支度に

(にゅうようのものはいうなりしだいにもたせることにした。のみならずとちゅうのひょうろうには、)

入用のものは云うなり次第に持たせることにした。のみならず途中の兵糧には、

(これもももたろうのちゅうもんどおり、きびだんごさえこしらえてやったのである。)

これも桃太郎の註文通り、黍団子さえこしらえてやったのである。

(ももたろうはいきようようとおにがしませいばつのとにのぼった。するとおおきいのらいぬがいっぴき、)

桃太郎は意気揚々と鬼が島征伐の途に上った。すると大きい野良犬が一匹、

(うえためをひからせながら、こうももたろうへこえをかけた。)

饑えた眼を光らせながら、こう桃太郎へ声をかけた。

(「ももたろうさん、ももたろうさん、おこしにさげたのはなんでございます?」)

「桃太郎さん、桃太郎さん、お腰に下げたのは何でございます?」

(「これはにほんいちのきびだんごだ。」)

「これは日本一の黍団子だ。」

(ももたろうはとくいそうにへんじをした。もちろんじっさいはにほんいちかどうか、)

桃太郎は得意そうに返事をした。勿論実際は日本一かどうか、

(そんなことはかれにもあやしかったのである。けれどもいぬはきびだんごときくと、)

そんなことは彼にも怪しかったのである。けれども犬は黍団子と聞くと、

(たちまちかれのそばへあゆみよった。「ひとつください。おともしましょう。」)

たちまち彼の側へ歩み寄った。「一つ下さい。お伴しましょう。」

(ももたろうはとっさにそろばんをとった。「ひとつはやられぬ。はんぶんやろう。」)

桃太郎は咄嗟に算盤をとった。「一つはやられぬ。半分やろう。」

(いぬはしばらくごうじょうに、「ひとつください」をくりかえした。)

犬はしばらく強情に、「一つ下さい」を繰り返した。

(しかしももたろうはなんといっても「はんぶんやろう」をてっかいしない。)

しかし桃太郎は何といっても「半分やろう」を撤回しない。

(こうなればあらゆるしょうばいのように、しょせんもたぬものはもったものの)

こうなればあらゆる商売のように、所詮持たぬものは持ったものの

(いしにふくじゅうするばかりである。いぬもとうとうたんそくしながら、)

意志に服従するばかりである。犬もとうとう嘆息しながら、

など

(きびだんごをはんぶんもらうかわりに、ももたろうのともをすることになった。)

黍団子を半分貰う代りに、桃太郎の伴をすることになった。

(ももたろうはそののちいぬのほかにも、やはりきびだんごのはんぶんをえじきに、さるやきじを)

桃太郎はその後犬のほかにも、やはり黍団子の半分を餌食に、猿や雉を

(けらいにした。しかしかれらはざんねんながら、あまりなかのよいあいだがらではない。)

家来にした。しかし彼等は残念ながら、あまり仲の好い間がらではない。

(じょうぶなきばをもったいぬはいくじのないさるをばかにする。きびだんごのかんじょうに)

丈夫な牙を持った犬は意気地のない猿を莫迦にする。黍団子の勘定に

(すばやいさるはもっともらしいきじをばかにする。じしんがくなどにもつうじたきじは)

素早い猿はもっともらしい雉を莫迦にする。地震学などにも通じた雉は

(あたまのにぶいいぬをばかにする。ーーこういういがみあいをつづけていたから、)

頭の鈍い犬を莫迦にする。ーーこういういがみ合いを続けていたから、

(ももたろうはかれらをけらいにしたあとも、ひととおりほねのおれることではなかった。)

桃太郎は彼等を家来にした後も、一通り骨の折れることではなかった。

(そのうえさるははらがはると、たちまちふふくをとなえだした。どうもきびだんごの)

その上猿は腹が張ると、たちまち不服を唱え出した。どうも黍団子の

(はんぶんくらいでは、おにがしませいばつのともをするのもかんがえものだといいだしたのである。)

半分くらいでは、鬼が島征伐の件をするのも考え物だと言い出したのである。

(するといぬはほえたけりながら、いきなりさるをかみころそうとした。)

すると犬は吠えたけりながら、いきなり猿を噛み殺そうとした。

(もしきじがとめてなかったとすれば、さるはかにのあだうちをまたず、)

もし雉がとめてなかったとすれば、猿は蟹の仇討ちを待たず、

(このときしんでいたかもしれない。しかしきじはいぬをなだめながらさるにしゅじゅうの)

この時死んでいたかも知れない。しかし雉は犬をなだめながら猿に主従の

(どうとくをおしえ、ももたろうのめいにしたがえといった。それでもさるはみちばたのきのうえに)

道徳を教え、桃太郎の命に従えと云った。それでも猿は路ばたの木の上に

(いぬのしゅうげきをさけたあとだったから、よういにきじのことばをききいれなかった。)

犬の襲撃を避けた後だったから、容易に雉の言葉を聞き入れなかった。

(そのさるをとうとうとくしんさせたのはたしかにももたろうのしゅわんである。)

その猿をとうとう得心させたのは確かに桃太郎の手腕である。

(ももたろうはさるをみあげたまま、ひのまるのおうぎをつかいわざとひややかにいいはなした。)

桃太郎は猿を見上げたまま、日の丸の扇を使いわざと冷かにいい放した。

(「よしよし、ではともをするな。そのかわりおにがしまをとうばつしてもたからものはひとつも)

「よしよし、では件をするな。その代り鬼が島を討伐しても宝物は一つも

(わけてやらないぞ。」よくのふかいさるはまるいめをした。)

分けてやらないぞ。」欲の深い猿は円い眼をした。

(「たからもの?へえ、おにがしまにはたからものがあるのですか?」「あるどころではない。)

「宝物?へえ、鬼が島には宝物があるのですか?」「あるどころではない。

(なんでもすきなもののふりだせるうちでのこづちというたからものさえある。」)

何でも好きなものの振り出せる打出の小槌という宝物さえある。」

(「では、そのうちでのこづちから、いくつもまたうちでのこづちをふりだせば、)

「では、その打出の小槌から、幾つもまた打出の小槌を振り出せば、

(いちどになんでもてにはいるわけですね。それはみみよりなはなしです。)

一度に何でも手にはいる訣ですね。それは耳よりな話です。

(どうかわたしもつれていってください。」)

どうかわたしもつれて行って下さい。」

(ももたろうはもういちどかれらをともに、おにがしませいばつのみちをいそいだ。)

桃太郎はもう一度彼等を伴に、鬼が島征伐の途を急いだ。

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