山本周五郎 赤ひげ診療譚 むじな長屋 3

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投稿者投稿者uzuraいいね2お気に入り登録
プレイ回数730難易度(4.4) 2658打 長文
映画でも有名な、山本周五郎の傑作連作短編です。
赤ひげ診療譚の第三話です。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ちっちき 5424 B++ 5.6 96.0% 467.3 2643 108 55 2024/04/15
2 にこーる 4828 B 5.0 95.2% 547.8 2783 138 55 2024/04/29
3 じゅんこ 4780 B 5.0 94.6% 525.5 2662 150 55 2024/05/01

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問題文

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(さはちはのぼるからめをそむけながら、ひとりごとのようにつぶやいた。)

佐八は登から眼をそむけながら、独り言のように呟いた。

(ーーあのうわぎはひとだすけですがね。)

ーーあの上衣は人助けですがね。

(かれはそういった。)

彼はそう云った。

(ーーあれをみればようじょうしょのせんせいだということがすぐにわかります、)

ーーあれを見れば養生所の先生だということがすぐにわかります、

(わたしどものようなびんぼうにんは、ようじょうしょへはいきたがらないものですが、)

私どものような貧乏人は、養生所へはいきたがらないものですが、

(とおりかかったせんせいをみれば、ちりょうによっていただきたいにんげんがたくさんいます、)

通りかかった先生を見れば、治療に寄っていただきたい人間がたくさんいます、

(わたしなんぞはなによりありがたいうわぎだとおもいますがな。)

私なんぞはなにより有難い上衣だと思いますがな。

(そのうわぎはべつのいみをもっていた。どうさにべんりなのと、せいけつさをたもつこと、)

その上衣はべつの意味をもっていた。動作に便利なのと、清潔さを保つこと、

(かんじゃのおぶつでよごれたりすれば、すぐにとりかえられることなどで、)

患者の汚物でよごれたりすれば、すぐに取換えられることなどで、

(かりによごれなくとも、なつはまいにち、ふゆはかくじつにきがえるきまりになっている。)

仮によごれなくとも、夏は毎日、冬は隔日に着替えるきまりになっている。

(きょじょうはそういうてんでもちいはじめたのであろうが、さはちのことばをきいて、)

去定はそういう点でもちい始めたのであろうが、佐八の言葉を聞いて、

(そこにもいみのあることを、のぼるはひそかにしょうにんしたのだ。)

そこにも意味のあることを、登はひそかに承認したのだ。

(「いいきなもんだ」)

「いい気なもんだ」

(おゆきとわかれてじぶんのへやへかえりながら、)

お雪と別れて自分の部屋へ帰りながら、

(かれはじぶんをあざけるようにくびをふった。)

彼は自分を嘲(あざけ)るように首を振った。

(「にんげんほんらいのもっともつよいせいとうなよくぼうか」といってかれはくちびるをゆがめた、)

「人間本来のもっとも強い正当な欲望か」と云って彼は唇を歪めた、

(「ーーおまけにこの、りっぱなうわぎをきていながらさ」)

「ーーおまけにこの、立派な上衣を着ていながらさ」

(きょじょうのへやのまえまできたとき、)

去定の部屋の前まで来たとき、

(しょうじのむこうでうめくようなきょじょうのこえがきこえた。)

障子の向うで呻(うめ)くような去定の声が聞えた。

(うめくというよりほえるというほうにちかく、みじかいひとこえだったが、)

呻くというより咆(ほ)えるというほうに近く、短い一と声だったが、

など

(のぼるはふいにみずでもあびせられたようにかんじ、いそいでそこをとおりすぎた。)

登はふいに水でも浴びせられたように感じ、いそいでそこを通りすぎた。

(そしてろうかをまがると、もりはんだゆうがじぶんのへやのしょうじをあけ、)

そして廊下を曲ると、森半太夫が自分の部屋の障子をあけ、

(はいれというてまねをした。)

はいれという手まねをした。

(「なにかようか」)

「なにか用か」

(「はなしがあるんだ」とはんだゆうはいった。)

「話があるんだ」と半太夫は云った。

(「まだあさめしまえなんだ」)

「まだ朝飯まえなんだ」

(「ごどうようだ、はいってくれ」)

「御同様だ、はいってくれ」

(のぼるはしぶしぶもりのへやへはいった。)

登はしぶしぶ森の部屋へはいった。

(「どこへいっていたんだ」)

「どこへいっていたんだ」

(「どこにも」とのぼるはかたをすくめた、)

「どこにも」と登は肩をすくめた、

(「めしまえにちょっとあるいてきただけさ、それがどうかしたのか」)

「飯まえにちょっと歩いて来ただけさ、それがどうかしたのか」

(「おれは、ーー」とはんだゆうはどなりかけたが、じっとこらえて、しずかにいった、)

「おれは、ーー」と半太夫はどなりかけたが、じっとこらえて、静かに云った、

(「にいでさんがひどくきをたかぶらせているから、)

「新出さんがひどく気を昂(たか)ぶらせているから、

(そのつもりでいてくれといいたかったんだ」)

そのつもりでいてくれといいたかったんだ」

(のぼるはだまった。)

登は黙った。

(「さっきよりきからよびだしがあって、にいでさんはつめしょへいった、)

「さっき与力から呼び出しがあって、新出さんは詰所へいった、

(いっしょにこいといわれておれもいったんだ」)

いっしょに来いと云われておれもいったんだ」

(とはんだゆうはややひそめたこえでいった、)

と半太夫はややひそめた声で云った、

(「よんだのはまつもとさんざえもんどの、きもいりのおがわし(しょちょう)もどうせきで、)

「呼んだのは松本三左衛門どの、肝煎(きもいり)の小川氏(所長)も同席で、

(かよいりょうじのていしと、けいひさんぶんのいちをさくげんするといわれた」)

かよい療治の停止と、経費三分の一を削減すると云われた」

(かよいりょうじはずっといぜんにていしされていたのだ、とはんだゆうはせつめいした。)

かよい療治はずっと以前に停止されていたのだ、と半太夫は説明した。

(ようじょうしょのぞうちくをし、にゅうしょかんじゃのかずをふやすとどうじに、)

養生所の増築をし、入所患者の数をふやすと同時に、

(せいしきにはかよいりょうじはゆるされなくなった。)

正式にはかよい療治は許されなくなった。

(しかしじっさいにはふかのうなことであった。)

しかし実際には不可能なことであった。

(にゅうしょするかんじゃをななじゅうよじんからひゃくごじゅうにんにましても、)

入所する患者を七十余人から百五十人に増しても、

(かよいりょうじにくるものはねんかんにすくなくてさんびゃくごじゅうにん、)

かよい療治に来る者は年間に少なくて三百五十人、

(おおいときにはななひゃくにんをこすこともある。)

多いときには七百人を越すこともある。

(そのだいぶぶんがひんこんのためまちいにはかかれないのだから、)

その大部分が貧困のため町医にはかかれないのだから、

(なきつかれればちりょうしてやらないわけにはいかない。)

泣きつかれれば治療してやらないわけにはいかない。

(しぜんひとりふえふたりふえして、いつかもとどおりになってしまった。)

しぜん一人ふえ二人ふえして、いつか元どおりになってしまった。

(「そうして、にいでさんがいちょうになってからまもなく、もっきょというかたちで、)

「そうして、新出さんが医長になってからまもなく、黙許というかたちで、

(なかばこうぜんとちりょうできるようになった」とはんだゆうはいった、)

半ば公然と治療できるようになった」と半太夫は云った、

(「ところが、いまになっていきなりまたていしされたうえに、)

「ところが、いまになっていきなりまた停止されたうえに、

(ようじょうしょぜんたいのけいひをさんぶんのいちもけずるというのだ」)

養生所ぜんたいの経費を三分の一も削るというのだ」

(「それは、ーー」とのぼるがはんもんした、「それにはなにかわけがあるのか」)

「それは、ーー」と登が反問した、「それにはなにかわけがあるのか」

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