「心理試験」13 江戸川乱歩

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タグ小説 長文
江戸川乱歩の小説「心理試験」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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問題文

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(かようないつわりにたいしてふたつのほうほうがある。ひとつは、いちじゅんしけんしたたんごを、)

斯様な偽りに対して二つの方法がある。一つは、一巡試験した単語を、

(すこしじかんをおいて、もういちどくりかえすのだ。すると、しぜんにでたこたえはおおくのばあい)

少し時間を置いて、もう一度繰返すのだ。すると、自然に出た答は多くの場合

(ぜんごそういがないのに、こいにつくったこたえは、じっちゅうはっくはさいしょのときとちがってくる。)

前後相違がないのに、故意に作った答は、十中八九は最初の時と違って来る。

(たとえば「うえきばち」にたいしてはさいしょは「せともの」とこたえ、にどめは「つち」と)

例えば「植木鉢」に対しては最初は「瀬戸物」と答え、二度目は「土」と

(こたえるようなものだ。もうひとつのほうほうは、といをはっしてからこたえをえるまでのじかんを、)

答える様なものだ。もう一つの方法は、問を発してから答を得るまでの時間を、

(あるそうちによってせいかくにきろくし、そのちそくによって、たとえば「しょうじ」にたいして)

ある装置によって精確に記録し、その遅速によって、例えば「障子」に対して

(「と」とこたえたじかんがいちびょうかんであったにもかかわらず、「うえきばち」にたいして)

「戸」と答えた時間が一秒間であったにも拘らず、「植木鉢」に対して

(「せともの」とこたえたじかんがさんびょうかんもかかったとすれば(じっさいはこんな)

「瀬戸物」と答えた時間が三秒間もかかったとすれば(実際はこんな

(たんじゅんなものではないけれど)それは「うえきばち」についてさいしょにあらわれたれんそうを)

単純な物ではないけれど)それは「植木鉢」について最初に現れた聯想を

(おしころすためにじかんをとったので、そのひけんしゃはあやしいということになるのだ。)

押し殺す為に時間を取ったので、その被験者は怪しいということになるのだ。

(このじかんのちえんは、とうめんのたんごにあらわれないで、そのつぎのいみのないたんごに)

この時間の遅延は、当面の単語に現れないで、その次の意味のない単語に

(あらわれることもある。また、はんざいとうじのじょうきょうをくわしくはなしてきかせて、それを)

現れることもある。また、犯罪当時の状況を詳しく話して聞かせて、それを

(ふくしょうさせるほうほうもある。しんじつのはんにんであったら、ふくしょうするばあいに、びさいなてんで、)

復誦させる方法もある。真実の犯人であったら、復誦する場合に、微細な点で、

(おもわずはなしてきかされたこととちがったしんじつをくちばしってしまうものなのだ。)

思わず話して聞かされたことと違った真実を口走って了うものなのだ。

((しんりしけんについてしっているどくしゃに、あまりにもはんさなじょじゅつをおわびせねば)

(心理試験について知っている読者に、余りにも煩瑣な叙述をお詫びせねば

(ならぬ。が、もしこれをりゃくするときは、そとのどくしゃには、ものがたりぜんたいがあいまいになって)

ならぬ。が、若しこれを略する時は、外の読者には、物語全体が曖昧になって

(しまうのだから、じつにやむをえなかったのである)このしゅのしけんにたいしては、)

了うのだから、実に止むを得なかったのである)この種の試験に対しては、

(まえのばあいをおなじく「れんしゅう」がひつようなのはいうまでもないが、それよりももっと)

前の場合を同じく「練習」が必要なのは云うまでもないが、それよりももっと

(たいせつなのは、ふきやにいわせると、むじゃきなことだ。つまらないぎこうを)

大切なのは、蕗谷に云わせると、無邪気なことだ。つまらない技巧を

(ろうしないことだ。「うえきばち」にたいしては、むしろあからさまに「かね」または)

弄しないことだ。「植木鉢」に対しては、寧ろあからさまに「金」または

など

(「まつ」とこたえるのが、いちばんあんぜんなほうほうなのだ。というのはふきやはたといかれが)

「松」と答えるのが、一番安全な方法なのだ。というのは蕗谷は仮令彼が

(はんにんでなかったとしても、はんじのとりしらべそのほかによって、はんざいじじつを)

犯人でなかったとしても、判事の取調べその他によって、犯罪事実を

(あるていどまでちしつしているのがとうぜんだから、そして、うえきばちのそこにかねが)

ある程度まで知悉しているのが当然だから、そして、植木鉢の底に金が

(あったというじじつは、さいきんのかつもっともしんこくないんしょうにそういないのだから、)

あったという事実は、最近の且つ最も深刻な印象に相違ないのだから、

(れんそうさようがそんなふうにはたらくのはしごくあたりまえではないか。(また、このしゅだんに)

聯想作用がそんな風に働くのは至極あたり前ではないか。(又、この手段に

(よれば、げんばのありさまをふくしょうさせられたばあいにもあんぜんなのだ)ただ、もんだいは)

よれば、現場の有様を復誦させられた場合にも安全なのだ)唯、問題は

(じかんのてんだ。これにはやはり「れんしゅう」がひつようである。「うえきばち」ときたら、)

時間の点だ。これには矢張り「練習」が必要である。「植木鉢」と来たら、

(すこしもまごつかないで、「かね」または「まつ」とこたええるようにれんしゅうしておくひつようが)

少しもまごつかないで、「金」又は「松」と答え得る様に練習して置く必要が

(ある。かれはさらにこの「れんしゅう」のためにすうじつをついやした。かようにして、)

ある。彼は更にこの「練習」の為に数日を費やした。斯様にして、

(じゅんびはまったくととのった。かれはまた、いっぽうにおいて、あるひとつのゆうりなじじょうをかんじょうに)

準備は全く整った。彼は又、一方に於て、ある一つの有利な事情を勘定に

(いれていた。それをかんがえると、たとい、よきしないじんもんにせっしても、さらに)

入れていた。それを考えると、仮令、予期しない訊問に接しても、更らに

(いっぽをすすめて、よきしたじんもんにたいしてふりなはんのうをしめしてもごうもおそれることは)

一歩を進めて、予期した訊問に対して不利な反応を示しても毫も恐れることは

(ないのだった。というのは、しけんされるのは、ふきやひとりではないからだ。)

ないのだった。というのは、試験されるのは、蕗谷一人ではないからだ。

(あのしんけいかびんなさいとういさむがいくらみにおぼえがないといって、さまざまのじんもんに)

あの神経過敏な斉藤勇がいくら身に覚えがないといって、様々の訊問に

(たいして、はたしてきょしんへいきでいることができるだろうか。おそらく、かれとても、)

対して、果して虚心平気でいることが出来るだろうか。恐らく、彼とても、

(すくなくともふきやとどうようくらいのはんのうをしめすのがしぜんではあるまいか。)

少くとも蕗谷と同様位の反応を示すのが自然ではあるまいか。

(ふきやはかんがえるにしたがって、だんだんあんしんしてきた。)

蕗谷は考えるに随って、段々安心して来た。

(なんだかはなうたでもうたいだしたいようなきもちになってきた。)

何だか鼻唄でも歌い出したい様な気持になって来た。

(かれはいまはかえって、かさもりはんじのよびだしをまちかまえるようにさえなった。)

彼は今は却って、笠森判事の呼出しを待構える様にさえなった。

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