「心理試験」15 江戸川乱歩

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タグ小説 長文
江戸川乱歩の小説「心理試験」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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問題文

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(「ね、ひじょうにめいりょうでしょう」はんじはあけちがきろくにめをとおすのをまってつづけた)

「ね、非常に明瞭でしょう」判事は明智が記録に目を通すのを待って続けた

(「これでみると、さいとうはいろいろこいのさいくをやっている。いちばんよくわかるのは)

「これで見ると、斉藤は色々故意の細工をやっている。一番よくわかるのは

(はんのうじかんのおそいことですが、それがもんだいのたんごばかりでなくそのすぐあとのや、)

反応時間の遅いことですが、それが問題の単語ばかりでなくその直ぐあとのや、

(ふたつめのにまでえいきょうしているのです。それからまた、「かね」にたいして「てつ」と)

二つ目のにまで影響しているのです。それから又、「金」に対して「鉄」と

(いったり「ぬすむ」にたいして「うま」といったり、かなりむりなれんそうをやってますよ、)

云ったり「盗む」に対して「馬」といったり、可也無理な聯想をやってますよ、

(「うえきばち」にいちばんながくかかったのは、おそらく「かね」と「まつ」というふたつのれんそうを)

「植木鉢」に一番長くかかったのは、恐らく「金」と「松」という二つの聯想を

(おさえつけるためにてまどったのでしょう。それにかえして、ふきやのほうは)

押さえつける為に手間取ったのでしょう。それに反して、蕗谷の方は

(ごくしぜんです。「うえきばち」に「まつ」だとか、「あぶらがみ」に「かくす」だとか、)

ごく自然です。「植木鉢」に「松」だとか、「油紙」に「隠す」だとか、

(「はんざい」に「ひとごろし」だとか、もしはんにんだったらぜひかくさなければならないような)

「犯罪」に「人殺し」だとか、若し犯人だったら是非隠さなければならない様な

(れんそうをへいきで、しかもみじかいじかんにこたえています。かれがひとごろしのほんにんでいて、)

聯想を平気で、而も短い時間に答えています。彼が人殺しの本人でいて、

(こんなはんのうをしめしたとすれば、よほどのていのうじにちがいありません。ところが、)

こんな反応を示したとすれば、余程の低脳児に違いありません。ところが、

(じっさいはかれはーーだいがくのがくせいで、それになかなかしゅうさいなのですからね」)

実際は彼はーー大学の学生で、それに却々秀才なのですからね」

(「そんなふうにもとれますね」あけちはなにかかんがえかんがえいった。しかしはんじはかれの)

「そんな風にも取れますね」明智は何か考え考え云った。併し判事は彼の

(いみありきなひょうじょうには、すこしもきつかないで、はなしをすすめた。)

意味あり気な表情には、少しも気附かないで、話を進めた。

(「ところがですね。これで、もうふきやのほうはうたがうところはないのだが、さいとうが)

「ところがですね。これで、もう蕗谷の方は疑う所はないのだが、斉藤が

(はたしてはんにんかどうかというてんになると、しけんのけっかはこんなにはっきりしている)

果して犯人かどうかという点になると、試験の結果はこんなにハッキリしている

(のに、どうもぼくはかくしんができないのですよ。なにもよしんでゆうざいにしたとて、)

のに、どうも僕は確信が出来ないのですよ。何も予審で有罪にしたとて、

(それがさいごのけっていになるわけではなし、まあこのくらいでいいのですが、)

それが最後の決定になる訳ではなし、まあこの位でいいのですが、

(ごしょうちのようにぼくはれいのまけぬきでね。こうはんでぼくのかんがえをひっくりかえされるのが)

御承知の様に僕は例のまけぬ気でね。公判で僕の考をひっくり返されるのが

(しゃくなんですよ。そんなわけでじつはまだまよっているしまつです」「これをみると、)

癪なんですよ。そんな訳で実はまだ迷っている始末です」「これを見ると、

など

(じつにおもしろいですね」あけちがきろくをてにしてはじめた。「ふきやもさいとうもなかなか)

実に面白いですね」明智が記録を手にして始めた。「蕗谷も斉藤も中々

(べんきょうかだっていいますが、「ほん」というたんごにたいして、りょうにんとも「まるぜん」と)

勉強家だって云いますが、「本」という単語に対して、両人とも「丸善」と

(こたえたところなどは、よくせいしつがあらわれていますね。もっとおもしろいのは、ふきやのこたえは、)

答えた所などは、よく性質が現れていますね。もっと面白いのは、蕗谷の答は、

(みなどことなくぶっしつてきで、りちてきなのにはんして、さいとうのはいかにもやさしいところが)

皆どことなく物質的で、理智的なのに反して、斉藤のは如何にもやさしい所が

(あるじゃありませんか。じょじょうてきですね。たとえば「おんな」だとか「きもの」だとか)

あるじゃありませんか。叙情的ですね。例えば「女」だとか「着物」だとか

(「はな」だとか「にんぎょう」だとか「けしき」だとか「いもうと」だとかいうこたえは、どちらかと)

「花」だとか「人形」だとか「景色」だとか「妹」だとかいう答は、どちらかと

(いえば、せんちめんたるなよわよわしいおとこをおもわせますね。それから、さいとうは)

云えば、センチメンタルな弱々しい男を思わせますね。それから、斉藤は

(きっとびょうしんですよ。「きらい」に「びょうき」とこたえ「びょうき」に「はいびょう」とこたえてる)

きっと病身ですよ。「嫌い」に「病気」と答え「病気」に「肺病」と答えてる

(じゃありませんか。へいぜいからはいびょうになりはしないかとおそれてるしょうこですよ」)

じゃありませんか。平生から肺病になりはしないかと恐れてる証拠ですよ」

(「そういうみかたもありますね。れんそうしんだんてやつは、かんがえればかんがえるだけ、)

「そういう見方もありますね。聯想診断て奴は、考えれば考える丈け、

(いろいろおもしろいはんだんがでてくるものですよ」「ところで」あけちはすこしくちょうを)

色々面白い判断が出て来るものですよ」「ところで」明智は少し口調を

(かえていった。「あなたは、しんりしけんというもののじゃくてんについてかんがえられた)

換えて云った。「あなたは、心理試験というものの弱点について考えられた

(ことがありますかしら。できろすはしんりしけんのていしょうしゃみゅんすたーべるひの)

ことがありますかしら。デ・キロスは心理試験の提唱者ミュンスターベルヒの

(かんがえをひひょうして、このほうほうはごうもんにかわるべくこうあんされたものだけれど、)

考を批評して、この方法は拷問に代るべく考案されたものだけれど、

(そのけっかは、やはりごうもんとおなじように、むこのものをつみにおとしいれ、ゆうざいしゃを)

その結果は、やはり拷問と同じ様に、無辜のものを罪に陥れ、有罪者を

(いっすることがあるといっていますね。みゅんすたーべるひじしんも、しんりしけんの)

逸することがあるといっていますね。ミュンスターベルヒ自身も、心理試験の

(しんのこうのうは、けんぎしゃが、あるばしょとか、ひととか、ものについてしっているか)

真の効能は、嫌疑者が、ある場所とか、人とか、物について知っているか

(どうかをみいだすばあいにかぎってかくていてきだけれど、そのほかのばあいにはいくぶん)

どうかを見出す場合に限って確定的だけれど、その他の場合には幾分

(きけんだというようなことを、どっかでかいていました。)

危険だという様なことを、どっかで書いていました。

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