「心理試験」16 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「心理試験」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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問題文

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(あなたにこんなことをおはなしするのはしゃかにせっぽうかもしれませんね。でも、)

あなたにこんな事を御話するのは釈迦に説法かも知れませんね。でも、

(これはたしかにたいせつなてんだとおもいますが、どうでしょう」「それはわるいばあいを)

これは確かに大切な点だと思いますが、どうでしょう」「それは悪い場合を

(かんがえれば、そうでしょうがね。むろんぼくもそれはしってますよ」)

考えれば、そうでしょうがね。無論僕もそれは知ってますよ」

(はんじはすこしいやなかおをしてこたえた。「しかし、そのわるいばあいが、ぞんがいてぢかに)

判事は少しいやな顔をして答えた。「併し、その悪い場合が、存外手近に

(ないともかぎりませんからね。こういうことはいえないでしょうか。たとえば、)

ないとも限りませんからね。こういうことは云えないでしょうか。例えば、

(ひじょうにしんけいかびんな、むこのおとこが、あるはんざいのけんぎをうけたとかていしますね。)

非常に神経過敏な、無辜の男が、ある犯罪の嫌疑を受けたと仮定しますね。

(そのおとこははんざいのげんばをとらえられ、はんざいじじつもよくしっているのです。このばあい、)

その男は犯罪の現場を捕えられ、犯罪事実もよく知っているのです。この場合、

(かれははたしてしんりしけんにたいしてへいきでいることができるでしょうか。)

彼は果して心理試験に対して平気でいることが出来るでしょうか。

(「あ、これはおれをためすのだな、どうこたえたらうたがわれないだろう」などというふうに)

「ア、これは俺を試すのだな、どう答えたら疑われないだろう」などという風に

(こうふんするのがとうぜんではないでしょうか。ですから、そういうじじょうのもとに)

亢奮するのが当然ではないでしょうか。ですから、そういう事情の下に

(おこなわれたしんりしけんはできろすのいわゆる「むこのものをつみにおとしいれる」ことに)

行われた心理試験はデ・キロスの所謂「無辜のものを罪に陥れる」ことに

(なりはしないでしょうか」「きみはさいとういさむのことをいっているのですね。いや、)

なりはしないでしょうか」「君は斉藤勇のことを云っているのですね。イヤ、

(それは、ぼくもなんとなくそうかんじたものだから、いまもいったように、まだまよっている)

それは、僕も何となくそう感じたものだから、今も云った様に、まだ迷っている

(のじゃありませんか」はんじはますますにがいかおをした。「では、そういうふうに、)

のじゃありませんか」判事は益々苦い顔をした。「では、そういう風に、

(さいとうがむざいだとすれば(もっともかねをぬすんだつみはまぬかれませんけれど))

斉藤が無罪だとすれば(尤も金を盗んだ罪は免れませんけれど)

(いったいだれがろうばをころしたのでしょう・・・・・」はんじはこのあけちのことばをちゅうとから)

一体誰が老婆を殺したのでしょう・・・・・」判事はこの明智の言葉を中途から

(ひきとって、あらあらしくたずねた。「そんなら、きみは、ほかにはんにんのめあてでも)

引き取って、荒々しく訪ねた。「そんなら、君は、外に犯人の目当でも

(あるのですか」「あります」あけちがにこにこしながらこたえた。「ぼくはこの)

あるのですか」「あります」明智がニコニコしながら答えた。「僕はこの

(れんそうしけんのけっかからみてふきやがはんにんだとおもうのですよ。しかしまだかくじつに)

聯想試験の結果から見て蕗谷が犯人だと思うのですよ。併しまだ確実に

(そうだとはいえませんけれど。あのおとこはもうきたくしたのでしょうね。)

そうだとは云えませんけれど。あの男はもう帰宅したのでしょうね。

など

(どうでしょう。それとなくかれをここへよぶわけにはいきませんかしら、)

どうでしょう。それとなく彼をここへ呼ぶ訳には行きませんかしら、

(そうすればぼくはきっとしんそうをつきとめておめにかけますがね」)

そうすれば僕はきっと真相をつき止めて御目にかけますがね」

(「なんですって。それにはなにかたしかなしょうこでもあるのですか」はんじが)

「なんですって。それには何か確かな証拠でもあるのですか」判事が

(すくなからずおどろいてたずねた。あけちはべつにとくいらしいいろもなく、くわしくかれの)

少なからず驚いて尋ねた。明智は別に得意らしい色もなく、詳しく彼の

(かんがえをのべた。そして、それがはんじをすっかりかんしんさせてしまった。あけちの)

考を述べた。そして、それが判事をすっかり感心させて了った。明智の

(きぼうがいれられて、ふきやのげしゅくへつかいがはしった。「ごゆうじんのさいとうしは)

希望が容れられて、蕗谷の下宿へ使が走った。「ご友人の斉藤氏は

(いよいよゆうざいをけっした。それについておはなししたいこともあるから、わたしのしたくまで)

愈々有罪を決した。それについて御話したいこともあるから、私の私宅まで

(ごそくろうをわずらわしたい」これがよびだしのこうじょうだった。ふきやはちょうどがっこうから)

御足労を煩し度い」これが呼出しの口上だった。蕗谷は丁度学校から

(かえったところで、それをきくとさっそくやってきた。さすがのかれもこのきっぽうには)

帰った所で、それを聞くと早速やって来た。流石の彼もこの吉報には

(すくなからずこうふんしていた。うれしさのあまり、そこにおそろしいわなのあることを、)

少なからず興奮していた。嬉しさの余り、そこに恐ろしい罠のあることを、

(まるできづかなかった。)

まるで気附かなかった。

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