「こころ」1-10 夏目漱石
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | スヌスムムリク | 4932 | B | 5.0 | 98.6% | 326.6 | 1633 | 22 | 29 | 2024/11/20 |
2 | ヌル | 4541 | C++ | 5.1 | 89.0% | 301.9 | 1563 | 192 | 29 | 2024/09/26 |
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問題文
(せんせいとはなしていたわたくしは、ふとせんせいがわざわざちゅういしてくれた)
先生と話していた私は、ふと先生がわざわざ注意してくれた
(いちょうのたいじゅをめのまえにおもいうかべた。かんじょうしてみると、)
銀杏の大樹を眼の前に想い浮かべた。勘定してみると、
(せんせいがまいげつれいとしてはかまいりにいくひが、それからちょうどみっかめにあたっていた。)
先生が毎月例として墓参に行く日が、それからちょうど三日目に当っていた。
(そのみっかめはわたくしのかぎょうがひるでおえるらくなひであった。)
その三日目は私の課業が午で終える楽な日であった。
(わたくしはせんせいにむかってこういった。)
私は先生に向かってこういった。
(「せんせいぞうしがやのいちょうはもうちってしまったでしょうか」)
「先生雑司ヶ谷の銀杏はもう散ってしまったでしょうか」
(「まだからぼうずにはならないでしょう」)
「まだ空坊主にはならないでしょう」
(せんせいはそうこたえながらわたくしのかおをみまもった。)
先生はそう答えながら私の顔を見守った。
(そうしてそこからしばしめをはなさなかった。わたくしはすぐいった。)
そうしてそこからしばし眼を離さなかった。私はすぐいった。
(「こんどおはかまいりにいらっしゃるときにおともをしてもよござんすか。)
「今度お墓参りにいらっしゃる時にお伴をしても宜ござんすか。
(わたくしはせんせいといっしょにあすこいらがさんぽしてみたい」)
私は先生といっしょにあすこいらが散歩してみたい」
(「わたしははかまいりにいくんで、さんぽにいくんじゃないですよ」)
「私は墓参りに行くんで、散歩に行くんじゃないですよ」
(「しかしついでにさんぽをなすったらちょうどいいじゃありませんか」)
「しかしついでに散歩をなすったらちょうど好いじゃありませんか」
(せんせいはなんともこたえなかった。しばらくしてから、)
先生は何とも答えなかった。しばらくしてから、
(「わたしのはほんとうのはかまいりだけなんだから」といって、)
「私のは本当の墓参りだけなんだから」といって、
(どこまでもはかまいりとさんぽをきりはなそうとするふうにみえた。)
どこまでも墓参と散歩を切り離そうとする風に見えた。
(わたくしといきたくないこうじつだかなんだか、わたくしにはそのときのせんせいが、)
私と行きたくない口実だか何だか、私にはその時の先生が、
(いかにもこどもらしくてへんにおもわれた。わたくしはなおとさきへでるきになった。)
いかにも子供らしくて変に思われた。私はなおと先へ出る気になった。
(「じゃおはかまいりでもいいからいっしょにつれていってください。)
「じゃお墓参りでも好いからいっしょに伴れて行って下さい。
(わたくしもおはかまいりをしますから」)
私もお墓参りをしますから」
(じっさいわたくしにははかまいりとさんぽとのくべつがほとんどむいみのようにおもわれたのである。)
実際私には墓参と散歩との区別がほとんど無意味のように思われたのである。
(するとせんせいのまゆがちょっとくもった。めのうちにもいようのひかりがでた。)
すると先生の眉がちょっと曇った。眼のうちにも異様の光が出た。
(それはめいわくともけんおともいふともかたづけられないかすかなふあんらしい)
それは迷惑とも嫌悪とも畏怖とも片付けられない微かな不安らしい
(ものであった。わたくしはたちまちぞうしがやで「せんせい」とよびかけたときのきおくを)
ものであった。私は忽ち雑司ヶ谷で「先生」と呼び掛けた時の記憶を
(つよくおもいおこした。ふたつのひょうじょうはまったくおなじだったのである。)
強く思い起した。二つの表情は全く同じだったのである。
(「わたしは」とせんせいがいった。)
「私は」と先生がいった。
(「わたしはあなたにはなすことのできないあるりゆうがあって、ひとといっしょに)
「私はあなたに話す事のできないある理由があって、他といっしょに
(あすこへはかまいりにはいきたくないのです。じぶんのさいさえ)
あすこへ墓参りには行きたくないのです。自分の妻さえ
(まだつれていったことがないのです」)
まだ伴れて行った事がないのです」