山本周五郎 赤ひげ診療譚 三度目の正直 16

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映画でも有名な、山本周五郎の傑作連作短編です。
赤ひげ診療譚の第四話です。

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問題文

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(ーーのぼるのしんだんがただしかったかどうか、あきにはいってまもなく、)

ーー登の診断が正しかったかどうか、秋にはいってまもなく、

(のぼるはにわでめずらしいことをみつけた。)

登は庭で珍らしいことをみつけた。

(いのはゆうがたにいちど、そとへあるきにでていたが、のぼるがぐうぜんみつけたとき、)

猪之は夕方にいちど、外へ歩きに出ていたが、登が偶然みつけたとき、

(かれはてかごをさげて、ひとりのおんなといっしょにあるいていた。)

彼は手籠を提げて、一人の女といっしょに歩いていた。

(「ほう」とのぼるはおもわずめをみはった。)

「ほう」と登は思わず眼をみはった。

(おんなはおすぎであった。)

女はお杉であった。

(あるじおゆみのゆうしょくをとりにきて、もどるところだろう、)

あるじおゆみの夕食を取りに来て、戻るところだろう、

(いののさげているてかごはしょくじをはこぶもので、まえからのぼるはみなれていた。)

猪之の提げている手籠は食事を運ぶもので、まえから登は見馴れていた。

(いのはおすぎとなにかはなしながら、おゆみのじゅうきょのほうへとさってゆき、)

猪之はお杉となにか話しながら、おゆみの住居のほうへと去ってゆき、

(のぼるはそのままじぶんのへやへはいった。)

登はそのまま自分の部屋へはいった。

(のぼるはもりはんだゆうに、いののすることをみはってくれるようにたのんだ。)

登は森半太夫に、猪之のすることを見張ってくれるように頼んだ。

(じぶんはきょじょうのともで、がいしんにまわるときのほうがおおいからである。)

自分は去定の供で、外診に廻るときのほうが多いからである。

(はんだゆうもひまはすくないが、それでもよくちゅういしているらしく、)

半太夫もひまは少ないが、それでもよく注意しているらしく、

(そのひそのひのことをくわしくしらせてくれた。)

その日その日のことを詳しく知らせてくれた。

(ーーいのはあきらかにかわりはじめた。)

ーー猪之は明らかに変り始めた。

(へやにこもっていることがすくなくなり、そとへでてなにかかにかする、)

部屋にこもっていることが少なくなり、外へ出てなにかかにかする、

(やくえんへでかけていって、のこぎりやかんなをかりだし、)

薬園へでかけていって、鋸(のこぎり)や鉋(かんな)を借りだし、

(さくのこわれをなおしたりまかないじょのはめいたをうちつけたりする。)

柵の毀(こわ)れを直したり賄所の羽目板を打付けたりする。

(あさゆうはきまって、おすぎのてかごをもってやるし、)

朝夕はきまって、お杉の手籠を持ってやるし、

(たびたびまかないじょへいってはものをといだり、まないたをけずったり、)

たびたび賄所へいって刃物を研(と)いだり、俎板(まないた)を削ったり、

など

(ときにはなをあらうてつだいまでする、ということであった。)

ときには菜を洗う手伝いまでする、ということであった。

(ーーそれならもうあんしんだ。)

ーーそれならもう安心だ。

(まもなくもとのようになるだろう、)

まもなく元のようになるだろう、

(そうおもったのでのぼるはしぜんといののことをきにかけなくなった。)

そう思ったので登はしぜんと猪之のことを気にかけなくなった。

(そうしてくがつちゅうじゅんになったあるよる、がいしんからかえったのぼるがきがえをして、)

そうして九月中旬になった或る夜、外診から帰った登が着替えをして、

(おくれたじきどうへはいろうとすると、いのがおってきてよびとめた。)

おくれた食堂(じきどう)へはいろうとすると、猪之が追って来て呼びとめた。

(「さけがあるんですがね」とかれはささやきごえでいった、)

「酒があるんですがね」と彼は囁き声で云った、

(「いっぱいつきあってくれませんか」 「さけだって、ーーどうしたんだ」)

「一杯つきあってくれませんか」 「酒だって、ーーどうしたんだ」

(「きっつぁんにたのんだんです」といのはくちびるでわらった、)

「吉つぁんに頼んだんです」と猪之は唇で笑った、

(「あなたもまえには、よくさけをかわせたそうじゃありませんか」)

「貴方もまえには、よく酒を買わせたそうじゃありませんか」

(のぼるはめをそむけた、「おれははらがへってるんだ」)

登は眼をそむけた、「おれは腹がへってるんだ」

(「すしもありますぜ」といのがいった、)

「鮨もありますぜ」と猪之が云った、

(「まあきてください、じつはちょっとはなしたいこともあるんだから」)

「まあ来て下さい、じつはちょっと話したいこともあるんだから」

(のぼるはかれのへやへいった。)

登は彼の部屋へいった。

(ひさしくこなかったが、へやのなかはきちんとかたづき、そうじもゆきとどいて、)

久しく来なかったが、部屋の中はきちんと片づき、掃除もゆき届いて、

(きもちのいいほどきれいになっていた。)

気持のいいほどきれいになっていた。

(ぜんのうえにはきまったしょくじのほかに、おりづめのすしがあり、)

膳の上には定(き)まった食事のほかに、折詰の鮨があり、

(わきにはごごうどっくりがおいてあった。)

脇には五合徳利が置いてあった。

(もちろんかんはできない、ひやのままのみはじめていたらしく、)

もちろん燗はできない、冷やのまま飲み始めていたらしく、

(いのはすわるとすぐに、ゆのみにのこったさけをのんで、それをのぼるにさした。)

猪之は坐るとすぐに、湯呑に残った酒を飲んで、それを登に差した。

(おれはだめだ、とのぼるはてをふり、はなしというのをきこう、といった。)

おれはだめだ、と登は手を振り、話というのを聞こう、と云った。

(「じゃあ、もうちっとのましてください」といのはいった、)

「じゃあ、もうちっと飲まして下さい」と猪之は云った、

(「もうすこしよわねえと、ちょっといいにくいはなしなんだから」)

「もう少し酔わねえと、ちょっと云いにくい話なんだから」

(のぼるはしずかにいった、「おすぎのことか」)

登は静かに云った、「お杉のことか」

(「うっ」といっていのはのぼるをみた、「しってらっしゃるんですか」)

「うっ」と云って猪之は登を見た、「知ってらっしゃるんですか」

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