「こころ」1-51 夏目漱石
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | どんぐり | 5555 | A | 6.1 | 91.5% | 278.1 | 1702 | 157 | 30 | 2024/11/04 |
2 | mame | 5324 | B++ | 5.6 | 95.2% | 303.7 | 1702 | 85 | 30 | 2024/11/10 |
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問題文
(「あなたはほんとうにまじめなんですか」)
「あなたは本当に真面目なんですか」
(とせんせいがねんをおした。)
と先生が念を押した。
(「わたしはかこのいんがで、ひとをうたぐりつけている。だからじつはあなたもうたぐっている。)
「私は過去の因果で、人を疑りつけている。だから実はあなたも疑っている。
(しかしどうもあなただけはうたぐりたくない。あなたはうたぐるにはあまりにたんじゅんすぎる)
しかしどうもあなただけは疑りたくない。あなたは疑るにはあまりに単純すぎる
(ようだ。わたしはしぬまえにたったひとりでいいから、ひとをしんようしてしにたいと)
ようだ。私は死ぬ前にたった一人で好いから、他を信用して死にたいと
(おもっている。あなたはそのたったひとりになれますか。なってくれますか。)
思っている。あなたはそのたった一人になれますか。なってくれますか。
(あなたははらのそこからまじめですか」)
あなたははらの底から真面目ですか」
(「もしわたくしのいのちがまじめなものなら、わたくしのいまいったこともまじめです」)
「もし私の命が真面目なものなら、私の今いった事も真面目です」
(わたくしのこえはふるえた。)
私の声は震えた。
(「よろしい」とせんせいがいった。)
「よろしい」と先生がいった。
(「はなしましょう。わたしのかこをのこらず、あなたにはなしてあげましょう。)
「話しましょう。私の過去を残らず、あなたに話して上げましょう。
(そのかわり・・・。いやそれはかまわない。しかしわたしのかこはあなたにとって)
その代り…。いやそれは構わない。しかし私の過去はあなたに取って
(それほどゆうえきでないかもしれませんよ。きかないほうがましかもしれませんよ。)
それほど有益でないかも知れませんよ。聞かない方が増かも知れませんよ。
(それから、ーーいまははなせないんだから、そのつもりでいてください。)
それから、ーー今は話せないんだから、そのつもりでいて下さい。
(てきとうのじきがこなくっちゃはなさないんだから」)
適当の時機が来なくっちゃ話さないんだから」
(わたくしはげしゅくへかえってからもいっしゅのあっぱくをかんじた。)
私は下宿へ帰ってからも一種の圧迫を感じた。
(わたくしのろんぶんはじぶんがひょうかしていたほどに、きょうじゅのめにはよくみえなかったらしい。)
私の論文は自分が評価していたほどに、教授の眼にはよく見えなかったらしい。
(それでもわたくしはよていどおりきゅうだいした。)
それでも私は予定通り及第した。
(そつぎょうしきのひ、わたくしはかびくさくなったふるいふゆふくをこうりのなかからだしてきた。)
卒業式の日、私は黴臭くなった古い冬服を行李の中から出して着た。
(しきじょうにならぶと、どれもこれもみなあつそうなかおばかりであった。)
式場にならぶと、どれもこれもみな暑そうな顔ばかりであった。
(わたくしはかぜのとおらないあつらしゃのしたにみっぷうされたじぶんのからだをもてあました。)
私は風邪の通らない厚羅紗の下に密封された自分の身体を持て余した。
(しばらくたっているうちにてにもったはんけちがぐしょぐしょになった。)
しばらく立っているうちに手に持ったハンケチがぐしょぐしょになった。
(わたくしはしきがすむとすぐかえってはだかになった。)
私は式が済むとすぐ帰って裸体になった。
(げしゅくのにかいのまどをあけて、とおめがねのようにぐるぐるまいたそつぎょうしょうしょのあなから、)
下宿の二階の窓をあけて、遠眼鏡のようにぐるぐる巻いた卒業証書の穴から、
(みえるだけのよのなかをみわたした。)
見えるだけの世の中を見渡した。
(それからそのそつぎょうしょうしょをつくえのうえにほうりだした。)
それからその卒業証書を机の上に放り出した。
(そうしてだいのじなりになって、へやのまんなかにねそべった。)
そうして大の字なりになって、室の真中に寝そべった。
(わたくしはねながらじぶんのかこをかえりみた。またじぶんのみらいをそうぞうした。)
私は寝ながら自分の過去を顧みた。また自分の未来を想像した。
(するとそのあいだにたってひとくぎりをつけているこのそつぎょうしょうしょなるものが、)
するとその間に立って一区切りを付けているこの卒業証書なるものが、
(いみのあるような、またいみのないようなへんなかみにおもわれた。)
意味のあるような、また意味のないような変な紙に思われた。