「心理試験」22(終) 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「心理試験」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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問題文

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(ふきやは、ここでしょめいをこばんだところで、なんのかいもないことをじゅうぶんしっていた。)

蕗谷は、ここで署名を拒んだところで、何の甲斐もないことを十分知っていた。

(かれはあけちのおどろくべきすいりをも、あわせてしょうにんするいみで、しょめいなついんした。)

彼は明智の驚くべき推理をも、併せて承認する意味で、署名捺印した。

(そして、いまはもうすっかりあきらめはてたひとのようにうなだれていた。)

そして、今はもうすっかりあきらめ果てた人の様にうなだれていた。

(「さきにももうしあげたとおり」あけちはさいごにせつめいした。「みゅんすたーべるひは、)

「先にも申上げた通り」明智は最後に説明した。「ミュンスターベルヒは、

(しんりしけんのしんのこうのうは、けんぎしゃが、あるばしょ、ひとまたはものについてしっているか)

心理試験の真の効能は、嫌疑者が、ある場所、人又は物について知っているか

(どうかをためすばあいにかぎってかくていてきだといっています。こんどのじけんでいえば、)

どうかを試す場合に限って確定的だといっています。今度の事件で云えば、

(ふきやくんがびょうぶをみたかどうかというてんが、それなんです。このてんをほかにしては、)

蕗谷君が屏風を見たかどうかという点が、それなんです。この点を外にしては、

(ひゃくのしんりしけんもおそらくむだでしょう。なにしろ、あいてがふきやくんのような、なにもかも)

百の心理試験も恐らく無駄でしょう。何しろ、相手が蕗谷君の様な、何もかも

(よそうして、めんみつなじゅんびをしているおとこなのですからね。それからもうひとつ)

予想して、綿密な準備をしている男なのですからね。それからもう一つ

(もうしあげたいのは、しんりしけんというものは、かならずしも、しょもつにかいてあるとおり)

申上げ度いのは、心理試験というものは、必ずしも、書物に書いてある通り

(いっていのしげきごをつかい、いっていのきかいをよういしなければできないものではなくて、)

一定の刺戟語を使い、一定の機械を用意しなければ出来ないものではなくて、

(いまぼくがじっけんしておめにかけたとおり、ごくにちじょうてきなかいわによってでも、)

今僕が実験してお目にかけた通り、極く日常的な会話によってでも、

(じゅうぶんやれるということです。むかしからのめいはんがんは、たとえばおおおかえちぜんのかみというような)

十分やれるということです。昔からの名判官は、例えば大岡越前守という様な

(ひとは、みなじぶんでもきづかないので、さいきんのしんりがくがはつめいしたほうほうを、)

人は、皆自分でも気づかないので、最近の心理学が発明した方法を、

(ちゃんとおうようしているのですよ」)

ちゃんと応用しているのですよ」

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