緋のエチュード 2

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タグ小説 文学
シャーロックホームズシリーズ第一弾

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問題文

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(よかったら、ちゅうしょくのあとでいってみようか」)

よかったら、昼食の後で行ってみようか」

(「ぜひ」わたしはこたえた。そしてかいわはべつのほうこうにながれていった。)

「ぜひ」私は答えた。そして会話は別の方向に流れて行った。

(ほるぼーんをあとにしてびょういんにいくみちすがら、)

ホルボーンを後にして病院に行く道すがら、

(すたんふぉーどはわたしがどうきょしようとおもっているおとこについて、)

スタンフォードは私が同居しようと思っている男について、

(さらにはなしをつけくわえた。)

さらに話を付け加えた。

(「どうきょがうまくいかなくても、せめないでくれよ」かれはいった。)

「同居がうまくいかなくても、責めないでくれよ」彼は言った。

(「ときどきけんきゅうしつであっているだけだから、)

「ときどき研究室で会っているだけだから、

(あまりくわしくしっているわけじゃない。)

あまり詳しく知っているわけじゃない。

(あいたいといったのはきみのほうだから、)

会いたいと言ったのは君のほうだから、

(あとでせきにんをとってくれといわれてもこまるよ」)

あとで責任をとってくれと言われても困るよ」

(「うまくいかなかったら、そのときかんがえればいいだけだ」わたしはこたえた。)

「うまくいかなかったら、そのとき考えればいいだけだ」私は答えた。

(「どうやら、すたんふぉーど」わたしはかれをじっとみつめていった。)

「どうやら、スタンフォード」私は彼をじっと見つめて言った。

(「どうもきのりがしないらしいな。そのおとこのきしょうがあらいとか、)

「どうも気乗りがしないらしいな。その男の気性が荒いとか、

(ほかにりゆうがあるのか?はっきりいってほしいな」)

ほかに理由があるのか?はっきり言ってほしいな」

(「はっきりいいたくても、それがひとことではいえないんだ」)

「はっきり言いたくても、それが一言ではいえないんだ」

(かれはわらってこたえた。)

彼は笑って答えた。

(「ほーむずはぼくのめからみるとちょっとかがくてきすぎる、)

「ホームズは僕の目から見るとちょっと科学的すぎる、

(・・・れいけつにちかいくらいだ。)

・・・・冷血に近いくらいだ。

(かれは、さいしんのしょくぶつせいあるかろいどをゆうじんに)

彼は、最新の植物性アルカロイドを友人に

(しょうりょうあたえることだってしかねないとおもう。もちろん、あくいではなく、)

少量与えることだってしかねないと思う。もちろん、悪意ではなく、

など

(たんにやっこうをせいかくにしりたいたんきゅうしんからだ。こうせいをきすなら、)

たんに薬効を正確に知りたい探究心からだ。公正を期すなら、

(かれはじぶんでもよろこんでのむだろうがね。)

彼は自分でも喜んで飲むだろうがね。

(かれは、ゆるぎのないせいかくなちしきにじょうねつをもやしているようだ」)

彼は、ゆるぎのない正確な知識に情熱を燃やしているようだ」

(「けっこうなことじゃないか」)

「けっこうなことじゃないか」

(「そうだ。しかしちょっといきすぎかもしれない。)

「そうだ。しかしちょっと行き過ぎかもしれない。

(かいぼうしつでしたいをつえでうつとなると、)

解剖室で死体を杖で打つとなると、

(これはかなりおそろしいところまでいっているんじゃないかな」)

これはかなり恐ろしいところまで行っているんじゃないかな」

(「したいをうつ!」)

「死体を打つ!」

(「そうだ。しご、どのていどあざができるかをたしかめるためだが、)

「そうだ。死後、どの程度アザが出来るかを確かめるためだが、

(ぼくはこのめでそのばめんをみた」)

僕はこの眼でその場面を見た」

(「それなのに、いがくせいじゃないというのか?」)

「それなのに、医学生じゃないと言うのか?」

(「そのとおりだ。かれがなんのためにけんきゅうしているのかだれもしらない。)

「その通りだ。彼がなんのために研究しているのか誰も知らない。

(しかしついたよ。じぶんでたしかめるのがいちばんだ」)

しかし着いたよ。自分で確かめるのが一番だ」

(かれがそうはなしているあいだに、わたしたちはほそいみちをくだり、)

彼がそう話している間に、私たちは細い道を下り、

(おおきなびょういんのひとむねにつうじるちいさなよことびらをくぐった。)

大きな病院の一棟に通じる小さな横扉をくぐった。

(わたしにはなじみのあるばしょだったので、さっぷうけいないしかいだんをあがり、)

私にはなじみのある場所だったので、殺風景な石階段を上がり、

(しっくいのかべとこげちゃいろのとびらがならぶながいろうかにむかうとき、)

漆喰の壁とこげ茶色の扉が並ぶ長い廊下に向かうとき、

(あんないはいらなかった。いきどまりちかくに、)

案内はいらなかった。行き止まり近くに、

(ひくいあーちがたのろうかがえだわかれしていてかがくじっけんしつにつうじていた。)

低いアーチ型の廊下が枝分かれしていて化学実験室に通じていた。

(そこはてんじょうのたかいへやで、かぞえきれないほどのびんがところせましとならんで、)

そこは天井の高い部屋で、数え切れないほどの瓶が所狭しと並んで、

(ちらかっていた。おおきなひくいてーぶるがあちこちにあり、)

散らかっていた。大きな低いテーブルがあちこちにあり、

(そのうえにれとるとやしけんかんやあおくゆらめくほのおをあげるぶんぜんとうが)

その上にレトルトや試験管や青く揺らめく炎を上げるブンゼン灯が

(りんりつしていた。へやにいたけんきゅうしゃはひとりだけだった。)

林立していた。部屋にいた研究者はひとりだけだった。

(そのおとこはとおくのてーぶるにおおいかぶさってしごとにぼっとうしていた。)

その男は遠くのテーブルに覆いかぶさって仕事に没頭していた。

(わたしたちのあしおとで、かれはあたりをみまわし、うれしそうにさけんで、)

私たちの足音で、彼はあたりを見回し、嬉しそうに叫んで、

(さっとたちあがった。「みつけたぞ!みつけたぞ!」)

さっと立ち上がった。「見つけたぞ!見つけたぞ!」

(かれはしけんかんをてにかけよってきて、すたんふぉーどにさけんだ。)

彼は試験管を手に駆けよってきて、スタンフォードに叫んだ。

(「へもぐろびんのみにとくいてきにはんのうしてちんでんするしやくをみつけたぞ」)

「ヘモグロビンのみに特異的に反応して沈殿する試薬を見つけたぞ」

(もしかれがきんこうをみつけていたとしても、)

もし彼が金鉱を見つけていたとしても、

(これいじょうにうれしそうなかおはできなかったかもしれない。)

これ以上に嬉しそうな顔はできなかったかもしれない。

(「わとそんはかせだ。しゃーろっくほーむずしだ」)

「ワトソン博士だ。シャーロックホームズ氏だ」

(すたんふぉーどはわたしたちをしょうかいしながらいった。)

スタンフォードは私たちを紹介しながら言った。

(「はじめまして」かれは、じょうしきをこえたあくりょくでわたしのてをにぎりしめながら、)

「はじめまして」彼は、常識を越えた握力で私の手を握りしめながら、

(こころをこめてこういった。「みたところ、)

心を込めてこう言った。「見たところ、

(あふがにすたんにいったことがありますね」)

アフガニスタンに行ったことがありますね」

(「いったいどうやって、わかったんですか?」わたしはおどろいてたずねた。)

「いったいどうやって、わかったんですか?」私は驚いてたずねた。

(「おきになさらずに」かれはひとりふくみわらいをしていった。)

「お気になさらずに」彼は一人含み笑いをして言った。

(「いまじゅうようなのは、へもぐろびんにかんすることです。)

「今重要なのは、ヘモグロビンに関することです。

(ぼくのはっけんのじゅうようせいは、もちろんおわかりいただけますよね?」)

僕の発見の重要性は、もちろんおわかりいただけますよね?」

(「かがくてきには、もちろんおもしろいですね」わたしはこたえた。)

「化学的には、もちろん面白いですね」私は答えた。

(「しかし、じつようてきには・・・」)

「しかし、実用的には・・・・」

(「どうしてですか。ほういがくてきにみて、)

「どうしてですか。法医学的にみて、

(ここすうねんでもっともじつようてきなはっけんです。)

ここ数年で最も実用的な発見です。

(これがかくじつなけっこんのはんていほうになることがわかりませんか?)

これが確実な血痕の判定法になることがわかりませんか?

(ちょっとこちらにきてください」)

ちょっとこちらに来てください」

(かれはわたしのこーとのそでをぐっとつかむと、)

彼は私のコートの袖をぐっとつかむと、

(さぎょうしていたてーぶるまでひっぱってきた。)

作業していたテーブルまで引っ張ってきた。

(「ちょっとあたらしいちをとりましょう」)

「ちょっと新しい血を採りましょう」

(かれはゆびにせんまいどおしをつきさしながらいった。)

彼は指に千枚通しを突き刺しながら言った。

(そしてかがくじっけんようのぴぺっとででてきたちをすいとった。)

そして化学実験用のピペットで出てきた血を吸い取った。

(「さあ、このしょうりょうのちをいちりっとるのみずにいれます。)

「さあ、この少量の血を一リットルの水に入れます。

(このこんごうえきはじゅんすいなみずにしかみえないでしょう。)

この混合液は純粋な水にしか見えないでしょう。

(ちのひりつはひゃくまんぶんのいちいじょうということはない。それでもまちがいなく、)

血の比率は百万分の一以上ということはない。それでも間違いなく、

(とくせいはんのうがみられるはずです」こういいながら、)

特性反応が見られるはずです」こう言いながら、

(かれはしろいけっしょうをいくつかようきになげいれ、とうめいなえきたいをすうてきおとした。)

彼は白い結晶を幾つか容器に投げ入れ、透明な液体を数滴落とした。

(そのしゅんかん、ようえきはにぶいまほがにーのいろをおび、)

その瞬間、溶液は鈍いマホガニーの色を帯び、

(がらすようきのそこにかっしょくのちんでんぶつがたまった。)

ガラス容器の底に褐色の沈殿物が溜まった。

(「は!は!」かれはあたらしいおもちゃをてにしたこどものようによろこんで、)

「ハ!ハ!」彼は新しい玩具を手にした子供のように喜んで、

(てをうちあわせながらさけんだ。「どうおかんがえですか?」)

手を打ち合わせながら叫んだ。「どうお考えですか?」

(「せんさいなじっけんのようですね」わたしはいった。)

「繊細な実験のようですね」私は言った。

(「すばらしい!すばらしい!)

「すばらしい!すばらしい!

(きゅうしきのゆそうぼくしけんはめんどうでふかくじつだった。)

旧式のユソウボク試験は面倒で不確実だった。

(けっきゅうをけんびきょうでけんさするのもおなじです。)

血球を顕微鏡で検査するのも同じです。

(こうしゃはけっこんがすうじかんたつとつかえない。)

後者は血痕が数時間たつと使えない。

(ところが、これはちがふるくてもあたらしくてもはんのうはかわらないようだ。)

ところが、これは血が古くても新しくても反応は変わらないようだ。

(もしこのけんしゅつほうがうみだされていれば、いま、)

もしこの検出法が生み出されていれば、今、

(おおでをふってあるいているなんびゃくにんというおとこたちは、)

大手を振って歩いている何百人という男たちは、

(ずっといぜんにはんざいしゃとしてしょばつされていたはずだ」)

ずっと以前に犯罪者として処罰されていたはずだ」

(「なるほど!」わたしはつぶやいた。)

「なるほど!」私はつぶやいた。

(「すべてがこのいってんにかかっているはんざいがなくなることはない。)

「すべてがこの一点に掛かっている犯罪がなくなることはない。

(はんこうご、へたをするとなんかげつもたってから、ひとりのおとこにようぎがかかる。)

犯行後、へたをすると何ヶ月もたってから、一人の男に容疑がかかる。

(したぎやふくがしらべられ、そこにちゃいろのしみがみつかる。これはけっこんか、)

下着や服が調べられ、そこに茶色の染みが見つかる。これは血痕か、

(それともどろよごれか、さびよごれか、くだもののしみか、それともまたべつものか?)

それとも泥汚れか、錆び汚れか、果物の染みか、それともまた別物か?

(これはおおくのせんもんかをなやませてきたもんだいだ。なぜか?)

これは多くの専門家を悩ませてきた問題だ。なぜか?

(しんらいせいのたかいけんさほうほうがなかったからだ。)

信頼性の高い検査方法が無かったからだ。

(いま、ここにしゃーろっくほーむずほうがある。)

今、ここにシャーロックホームズ法がある。

(そしてこんごはなんのもんだいもない」)

そして今後は何の問題もない」

(かれははなしながらめをきらきらとかがやかせた。そしててをむねにあて、)

彼は話しながら目をキラキラと輝かせた。そして手を胸に当て、

(そうぞうじょうではくしゅかっさいをあびたかのようにいちれいした。)

想像上で拍手喝さいを浴びたかのように一礼した。

(「それはおめでとうございます」)

「それはおめでとうございます」

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