緋のエチュード 9
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問題文
(「ええ」)
「ええ」
(「れすとれーども?」)
「レストレードも?」
(「そうです」)
「そうです」
(「それではなかにはいってへやをみよう」)
「それでは中に入って部屋を見よう」
(かれはこんないっかんせいのないはなしをすると、すたすたといえにはいっていった。)
彼はこんな一貫性のない話をすると、スタスタと家に入って行った。
(ぐれっぐそんがあとをおったが、おどろきをかくせないひょうじょうだった。)
グレッグソンが後を追ったが、驚きを隠せない表情だった。
(ほこりっぽい、むきだしのいたのみじかいろうかがだいどころとかじしつまでつづいていた。)
埃っぽい、剥き出しの板の短い廊下が台所と家事室まで続いていた。
(ろうかのさゆうにひとつずつ、ふたつのとびらがあった。)
廊下の左右に一つずつ、二つの扉があった。
(そのひとつはあきらかになんしゅうかんもしまったままだった。)
その一つは明らかに何週間も閉まったままだった。
(もうひとつはいまにつづいており、そこがなぞめいたじけんがおきたへやだった。)
もう一つは居間に続いており、そこが謎めいた事件が起きた部屋だった。
(ほーむずはそこにあしをふみいれ、わたしはかれにつづいた。)
ホームズはそこに足を踏み入れ、私は彼に続いた。
(したいがなかにあるとおもうと、おもくるしいきぶんだった。)
死体が中にあると思うと、重苦しい気分だった。
(そこはひろいしかくいへやだった。かぐがなにもないのでよけいにひろくみえた。)
そこは広い四角い部屋だった。家具が何も無いので余計に広く見えた。
(しゅみのわるいけばけばしいかべがみがはられていたが、)
趣味の悪いけばけばしい壁紙が貼られていたが、
(ところどころしろいかびがはえていた。あちこちにおおきなほそながいしへんが、)
所々白いカビが生えていた。あちこちに大きな細長い紙片が、
(かべからはがれてたれさがり、うらがわのきいろっぽいしっくいがのぞいていた。)
壁から剥がれて垂れ下がり、裏側の黄色っぽい漆喰がのぞいていた。
(とびらのはんたいがわにはでなだんろがあり、)
扉の反対側に派手な暖炉があり、
(そのうえにじんぞうしろだいりせきのまんとるぴーすがあった。そのいっぽうのはしに、)
その上に人造白大理石のマントルピースがあった。その一方の端に、
(あかいろうそくのもえさしがおかれていた。)
赤いロウソクの燃えさしが置かれていた。
(ひとつだけしかないまどはひじょうによごれていて、)
一つだけしかない窓は非常に汚れていて、
(にじんだようにもののみわけがつきにくく、)
にじんだように物の見分けがつきにくく、
(にぶいはいいろをおびたひかりはへやぜんたいをおおうぶあついほこりのそうで)
鈍い灰色を帯びた光は部屋全体を覆う分厚い埃の層で
(よけいにはいいろがかってみえた。)
よけいに灰色がかって見えた。
(こういうこまかいてんは、なにもかもあとになってきづいたものだった。)
こういう細かい点は、何もかも後になって気付いたものだった。
(へやにはいったとき、わたしのちゅういはゆかのうえにたおれている、)
部屋に入った時、私の注意は床の上に倒れている、
(ぶきみなうごきのないからだにひきよせられていた。うつろな、)
不気味な動きの無い体に引き寄せられていた。虚ろな、
(しょうてんのさだまらないめがへんしょくしたてんじょうをじっとみていた。)
焦点の定まらない目が変色した天井をじっと見ていた。
(そのおとこはねんれい43から44さいくらいで、ちゅうぜいでひろいかたはば、)
その男は年齢43から44歳くらいで、中背で広い肩幅、
(こまかくかーるしたくろかみにみじかいあごひげをはやしていた。)
細かくカールした黒髪に短い顎鬚を生やしていた。
(おとこはぶあついぶろーどのうわぎとべすととあかるいいろのずぼんをきていた。)
男は分厚いブロードの上着とベストと明るい色のズボンを着ていた。
(そしてえりとそでぐちにはしみひとつなかった。)
そして襟と袖口には染み一つなかった。
(よくぶらしがかけられてととのえられたぼうしが、ちかくのゆかにおちていた。)
よくブラシがかけられて整えられた帽子が、近くの床に落ちていた。
(てはにぎりしめられうではひろげられていた。いっぽう、)
手は握り締められ腕は広げられていた。一方、
(かしはしにぎわのくもんがたえがたいものであったかのように)
下肢は死に際の苦悶が耐え難いものであったかのように
(もつれあっていた。こわばったかおには、きょうふのひょうじょうがあり、そしてわたしには、)
もつれ合っていた。こわばった顔には、恐怖の表情があり、そして私には、
(これまでみたこともないようなにくしみのひょうじょうが)
これまで見たこともないような憎しみの表情が
(あらわれているようにかんじられた。このふゆかいなおそろしいかおのゆがみと、)
現れているように感じられた。この不愉快な恐ろしい顔のゆがみと、
(せまいひたいおもいはなつきでたあごとがあいまって、)
狭い額・重い鼻・突き出た顎とがあいまって、
(まるできみょうなさるかるいじんえんのようなぎょうそうになっていた。そのいんしょうは、)
まるで奇妙な猿か類人猿のような形相になっていた。その印象は、
(のたうつようなふしぜんなしせいによって、さらにつよめられていた。わたしは、)
のたうつような不自然な姿勢によって、さらに強められていた。私は、
(いろいろなしたいをめにしてきたが、)
色々な死体を目にしてきたが、
(このろんどんこうがいのしゅようかんせんどうろのひとつにめんした)
このロンドン郊外の主要幹線道路の一つに面した
(くらいよごれたへやのなかいじょうに、)
暗い汚れた部屋の中以上に、
(おそろしいようそうのしたいにであったことはなかった。)
恐ろしい様相の死体に出会った事はなかった。
(あいかわらずやせたねずみのようなれすとれーどが、とぐちのそばにたっており、)
あいかわらず痩せたネズミのようなレストレードが、戸口の側に立っており、
(ほーむずとわたしにあいさつした。)
ホームズと私に挨拶した。
(「このじけんはさわぎになりますね」かれはいった。)
「この事件は騒ぎになりますね」彼は言った。
(「これまでみたなかでいちばんです。べてらんのわたしがみたなかでね」)
「これまで見た中で一番です。ベテランの私が見た中でね」
(「てがかりはないのか?」ぐれっぐそんがいった。)
「手がかりはないのか?」グレッグソンが言った。
(「まったく」れすとれーどがあいづちをうった。)
「全く」レストレードが相槌を打った。
(しゃーろっくほーむずはしたいにちかよってひざまずき、ねっしんにしらべた。)
シャーロックホームズは死体に近寄ってひざまずき、熱心に調べた。
(「どこにもけががないというのはたしかか?」)
「どこにも怪我がないというのは確かか?」
(かれはそこらじゅうおちているけっこんやちしぶきをゆびさしてたずねた。)
彼はそこら中落ちている血痕や血しぶきを指差して尋ねた。
(「まちがいありません!」ふたりのけいぶはさけんだ。)
「間違いありません!」二人の警部は叫んだ。
(「ではもちろん、そのちはだいにのじんぶつのものだ、)
「ではもちろん、その血は第二の人物のものだ、
(もしこれがさつじんならおそらくさつじんはんのものにちがいない。)
もしこれが殺人ならおそらく殺人犯のものに違いない。
(これはゆとれひとで1834ねんにおきたヴぁんじゃんせんにまつわるじょうきょうを)
これはユトレヒトで1834年に起きたヴァン・ジャンセンにまつわる状況を
(おもいおこさせるな。このじけんをおぼえているか、ぐれっぐそん?」)
思い起こさせるな。この事件を覚えているか、グレッグソン?」
(「いいえ」)
「いいえ」
(「よんでおくことだ、ほんとうにそうするべきだ。)
「読んでおくことだ、 本当にそうするべきだ。
(たいようのしたにあたらしいものはなにもない。これまでもいつもそうだった」)
太陽の下に新しいものは何も無い。これまでもいつもそうだった」
(はなしながら、かれはすばやいゆびをあちらこちらへと、すみずみまではしらせた。)
話しながら、彼は素早い指をあちらこちらへと、隅々まで走らせた。
(わたしがすでにのべたのとおなじ、とおくをながめるようなしせんのまま、)
私が既に述べたのと同じ、遠くを眺めるような視線のまま、
(かれはてざわりをたしかめ、おし、ぼたんをはずし、しらべた。)
彼は手触りを確かめ、押し、ボタンを外し、調べた。
(このちょうさはあまりにもてばやく、かれがどれほどしょうさいなちょうさをしているか、)
この調査はあまりにも手早く、彼がどれほど詳細な調査をしているか、
(みていてもほとんどわからないほどだった。)
見ていてもほとんど分からないほどだった。
(かれはさいごにしたいのくちのにおいをかぎ、えなめるぐつのくつぞこをちょっとみた。)
彼は最後に死体の口の臭いを嗅ぎ、エナメル靴の靴底をちょっと見た。
(「したいはまったくうごかしていないな?」かれはたずねた。)
「死体はまったく動かしていないな?」彼は尋ねた。
(「ちょうさにひつようなはんいいじょうには」)
「調査に必要な範囲以上には」
(「もうあんちじょにはこんでいいよ」かれはいった。)
「もう安置所に運んでいいよ」彼は言った。
(「これいじょうなにもみつけられるものはない」)
「これ以上何も見つけられるものは無い」
(ぐれっぐそんはたんかをよういしており、よにんのぶかがちかくにいた。)
グレッグソンは担架を用意しており、四人の部下が近くにいた。
(かれがこえをかけると、このぶかがへやにはいってきて、おとこをもちあげ、)
彼が声をかけると、この部下が部屋に入ってきて、男を持ち上げ、
(はこびだした。したいをもちあげたとき、ゆびわがおちてゆかをころがっていった。)
運び出した。死体を持ち上げた時、指輪が落ちて床を転がって行った。
(れすとれーどはそれをつまみあげ、とうわくしたようなひょうじょうでみつめた。)
レストレードはそれをつまみあげ、当惑したような表情で見つめた。
(「ここにおんながいたな」かれはいった。「これはおんなのけっこんゆびわだ」)
「ここに女がいたな」彼は言った。「これは女の結婚指輪だ」
(かれはそういいながら、ゆびわをてのひらにのせてさしだした。)
彼はそう言いながら、指輪を手の平に乗せて差し出した。
(われわれはぜんいんかれのまわりにあつまってそれをじっとみた。)
我々は全員彼の周りに集まってそれをじっと見た。
(かんそなきんのゆびわだったが、)
簡素な金の指輪だったが、
(じょせいのけっこんゆびわであることはまちがいなかった。)
女性の結婚指輪であることは間違いなかった。
(「これでじたいがふくざつになりましたね」ぐれっぐそんはいった。)
「これで事態が複雑になりましたね」グレッグソンは言った。
(「まちがいなく、いぜんよりさらにふくざつになった」)
「間違いなく、以前よりさらに複雑になった」
(「かんたんになっていないというかくしんがあるのか?」ほーむずはいった。)
「簡単になっていないという確信があるのか?」ホームズは言った。
(「ゆびわをながめていてもなんにもならない。)
「指輪を眺めていても何にもならない。
(ぽけっとからなにがみつかっているんだ?」)
ポケットから何が見つかっているんだ?」
(「ぜんぶここにあります」ぐれっぐそんは、)
「全部ここにあります」グレッグソンは、
(かいだんのいちばんしたのだんにざつぜんとならべられたぶっぴんをゆびさしていった。)
階段の一番下の段に雑然と並べられた物品を指差して言った。
(「きんのとけい、ばんごうは97163、ろんどんのばらーどのものです。)
「金の時計、番号は97163、ロンドンのバラードのものです。
(とけいようのかなぐさり、ひじょうにおもくて、めっきではありません。きんのゆびわ、)
時計用の金鎖、非常に重くて、メッキではありません。金の指輪、
(ふりーめーそんのずがら。きんのぴん、ぶるどっぐのあたまがついていて、)
フリーメーソンの図柄。金のピン、 ブルドッグの頭がついていて、
(めはるびーです。ろしあのかわせいとらんぷいれで、なかはくりーぶらんど、)
目はルビーです。ロシアの皮製トランプ入れで、中はクリーブランド、
(どれっばーのいーのっくj.のとらんぷがはいっています。)
ドレッバーのイーノックJ. のトランプが入っています。
(したぎのe.j.d.にたいおうしますね。さいふはなく、)
下着の E. J. D. に対応しますね。財布はなく、
(はだかで7ぽんど13しりんぐ。みかえしに、)
裸で7ポンド13シリング。見返しに、
(じょせふすたんがーそんのなまえがあるぼっかちおの「でかめろん」のぶんこばん。)
ジョセフ・スタンガーソンの名前があるボッカチオの『デカメロン』の文庫版。
(てがみがにつう、ひとつは、e.j.どればーで、)
手紙が二通、 一つは、E. J. ドレバーで、
(もうひとつはじょせふすたんがーそん」)
もう一つはジョセフ・スタンガーソン」
(「じゅうしょは?」)
「住所は?」
(「すとらんどのあめりかしょうけんとりひきじょ、きづけです。)
「ストランドのアメリカ証券取引所、 気付です。
(りょうほうともがいそんきせんがいしゃからのもので、)
両方ともガイソン汽船会社からのもので、