『怪人二十面相』江戸川乱歩17
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(こばやしくんは、いそいでながいすからおきあがり、)
小林君は、急いで長イスから起き上がり、
(まどのしたにいって、あかるいそらをみあげました。)
窓の下に行って、明るい空を見上げました。
(まどにはがらすがはめられているけれど、それをわって)
窓にはガラスがはめられているけれど、それを割って
(おおごえでさけべば、そとをとおるひとにきこえそうです。)
大声で叫べば、外を通る人に聞こえそうです。
(そこでこばやしくんは、いままでねていた)
そこで小林君は、今まで寝ていた
(ながいすをまどのしたまでおして、それをふみだいに)
長イスを窓の下まで押して、それを踏み台に
(してせのびしてみましたが、それでもまだまどへ)
して背伸びしてみましたが、それでもまだ窓へ
(とどきません。こどものちからで、おもいながいすをたてにする)
届きません。子どもの力で、重い長イスを縦にする
(ことはできないし、ほかにふみだいにするどうぐは)
ことは出来ないし、他に踏み台にする道具は
(みあたりません。ではこばやしくんは、せっかくまどを)
見当たりません。 では小林君は、せっかく窓を
(はっけんしながら、そこからそとをのぞくことも)
発見しながら、そこから外をのぞくことも
(できなかったのでしょうか。いやいやどくしゃしょくん、)
出来なかったのでしょうか。いやいや読者諸君、
(ごしんぱいにはおよびません。こういうときのために、)
ご心配には及びません。こういう時のために、
(なわばしごというものがあるのです。しょうねんたんていの)
縄バシゴという物があるのです。少年探偵の
(ななつどうぐは、さっそくつかいみちができたのです。)
七つ道具は、さっそく使い道が出来たのです。
(かれは、かばんからきぬひものなわばしごをとりだし、)
彼は、カバンから絹ヒモの縄バシゴを取り出し、
(それをのばして、かうぼーいのなげなわみたいに)
それを伸ばして、カウボーイの投げ縄みたいに
(はずみをつけ、いっぽうのはしについているかぎを、)
弾みをつけ、一方の端に付いているカギを、
(まどのてつごうしめがけてなげあげました。さん、よんど、)
窓の鉄格子めがけて投げ上げました。三、四度、
(しっぱいしたあとで、がちっとてごたえがありました。)
失敗したあとで、ガチッと手ごたえがありました。
(かぎが、うまくいっぽんのてつぼうにかかったのです。)
カギが、上手く一本の鉄棒にかかったのです。
(なわばしごといっても、これはごくかんたんなもので、)
縄バシゴといっても、これはごく簡単な物で、
(ごめーとるほどもある、ながくてじょうぶないっぽんの)
五メートルほどもある、長くて丈夫な一本の
(きぬひもに、にじゅっせんちごとにおおきなむすびだまが)
絹ヒモに、二十センチごとに大きな結び玉が
(あって、そのむすびだまにあしのゆびをかけて、)
あって、その結び玉に足の指をかけて、
(よじのぼるしかけなのです。こばやしくんは、わんりょくでは)
よじ登る仕掛けなのです。小林君は、腕力では
(おとなにおよびませんが、そういうきかいたいそう)
大人に及びませんが、そういう器械体操
(めいたことになると、だれにもひけを)
めいたことになると、だれにも引けを
(とりませんでした。かれは、なんなくなわばしごを)
とりませんでした。彼は、難なく縄バシゴを
(のぼって、まどのてつごうしにつかまることができました。)
登って、窓の鉄格子につかまることが出来ました。
(ところが、そうしてしらべてみると、)
ところが、そうして調べてみると、
(しつぼうしたことに、てつごうしはふかくこんくりーとに)
失望したことに、鉄格子は深くコンクリートに
(ぬりこめてあって、ばんのうないふぐらいでは、)
塗り込めてあって、万能ナイフぐらいでは、
(とてもとりはずせないことがわかりました。)
とても取り外せないことが分かりました。
(では、まどからおおごえですくいをもとめてみたら)
では、窓から大声で救いを求めてみたら
(どうでしょう。いや、それもほとんどみこみがない)
どうでしょう。いや、それもほとんど見込みがない
(のです。まどのそとは、あれはてたにわになっており、)
のです。窓の外は、荒れ果てた庭になっており、
(くさやきがしげり、そのずっとむこうにいけがきが)
草や木がしげり、そのずっと向こうに生け垣が
(あって、いけがきのそとはどうろもないひろっぱです。)
あって、生け垣の外は道路も無い広っぱです。
(そのひろっぱへ、こどもでもあそびにくるのをまって、)
その広っぱへ、子どもでも遊びに来るのを待って、
(すくいをもとめれば、もとめられるのですが、)
救いを求めれば、求められるのですが、
(そこまでこえがとどくかどうかも、うたがわしいほどです。)
そこまで声が届くかどうかも、疑わしいほどです。
(それに、そんなおおきなさけびごえをたてれば、)
それに、そんな大きな叫び声をたてれば、
(ひろっぱのひとにきこえるよりもさきに、にじゅうめんそうに)
広っぱの人に聞こえるよりも先に、二十面相に
(きかれてしまいます。いけないいけない、そんな)
聞かれてしまいます。いけないいけない、そんな
(きけんなことができるものですか。こばやししょうねんは、)
危険なことが出来るものですか。 小林少年は、
(すっかりしつぼうしてしまいました。でもしつぼうのなか)
すっかり失望してしまいました。でも失望の中
(にも、ひとつだけおおきなしゅうかくがありました。)
にも、一つだけ大きな収穫がありました。
(というのも、いまのいままで、このたてものはいったい)
というのも、今の今まで、この建物は一体
(どこにあるのか、すこしもけんとうがつかなかったのですが、)
どこにあるのか、少しも見当がつかなかったのですが、
(まどをのぞいたおかげで、そのいちがはっきりと)
窓をのぞいたおかげで、その位置がハッキリと
(わかったのです。どくしゃしょくんは、ただまどをのぞいた)
分かったのです。 読者諸君は、ただ窓をのぞいた
(だけでいちがわかるなんて、へんだとおっしゃるかも)
だけで位置が分かるなんて、変だとおっしゃるかも
(しれません。でも、それがわかったのです。)
しれません。でも、それが分かったのです。
(こばやしくんは、とてもこううんだったのです。まどのそと、)
小林君は、とても幸運だったのです。窓の外、
(ひろっぱのはるかむこうに、とうきょうにたったいっかしょ)
広っぱの遥か向こうに、東京にたった一ヶ所
(しかない、きわだってとくちょうのあるたてものがみえたのです。)
しかない、際立って特徴のある建物が見えたのです。
(とうきょうのどくしゃしょくんは、とやまがはらにある、)
東京の読者諸君は、戸山ヶ原にある、
(きょじんようのかまぼこをいくつもならべたような、)
巨人用のかまぼこをいくつも並べたような、
(こんくりーとのおおきなたてものをごぞんじでしょう。)
コンクリートの大きな建物をご存知でしょう。
(じつにおあつらえむきのめじるしではありませんか。)
実におあつらえむきの目印ではありませんか。
(しょうねんたんていは、そのたてものとぞくのいえとのかんけいをよく)
少年探偵は、その建物と賊の家との関係をよく
(あたまにいれて、なわばしごからおりました。そして、)
頭に入れて、縄バシゴから下りました。そして、
(いそいでれいのかばんをひらくと、てちょうとえんぴつとじしゃくを)
急いで例のカバンをひらくと、手帳と鉛筆と磁石を
(とりだし、ほうがくをたしかめながら、ちずをかいて)
取り出し、方角を確かめながら、地図を書いて
(みました。すると、このたてものがとやまがはらのきたがわ、)
みました。すると、この建物が戸山ヶ原の北側、
(にしよりのひとすみにあるということが、はっきりと)
西よりの一隅にあるということが、ハッキリと
(わかったのでした。ここでまた、ななつどうぐのなかの)
分かったのでした。ここでまた、七つ道具の中の
(じしゃくがやくにたちました。ついでにとけいをみると、)
磁石が役に立ちました。ついでに時計を見ると、
(あさのろくじをすこしすぎたばかりです。うえのへやは)
朝の六時を少し過ぎたばかりです。上の部屋は
(いまだにひっそりしているので、にじゅうめんそうは)
未だにヒッソリしているので、二十面相は
(まだじゅくすいしているのかもしれません。)
まだ熟睡しているのかもしれません。
(「ああ、ざんねんだなあ。せっかくにじゅうめんそうのかくれがを)
「ああ、残念だなあ。せっかく二十面相の隠れ家を
(つきとめたのに、そのばしょがちゃんとわかっている)
突き止めたのに、その場所がちゃんと分かっている
(のに、ぞくをつかまえることができないなんて」)
のに、賊を捕まえることが出来ないなんて」
(こばやしくんは、ちいさいこぶしをにぎりしめて、)
小林君は、小さいこぶしを握りしめて、
(くやしがりました。「ぼくのからだが、どうわのせんにょ)
悔しがりました。「ぼくの体が、童話の仙女
(みたいにちいさくなって、はねがはえて、あのまどから)
みたいに小さくなって、羽が生えて、あの窓から
(とびだせたらなあ。そうすれば、すぐにけいしちょうへ)
飛び出せたらなあ。そうすれば、すぐに警視庁へ
(しらせて、おまわりさんをあんないして、にじゅうめんそうを)
知らせて、お巡りさんを案内して、二十面相を
(つかまえてしまうんだがなあ」かれは、そんなゆめの)
捕まえてしまうんだがなあ」 彼は、そんな夢の
(ようなことをかんがえて、ためいきをついていましたが、)
ようなことを考えて、溜め息をついていましたが、
(ところが、そのみょうなくうそうがきっかけになって、)
ところが、そのみょうな空想がきっかけになって、
(ふと、すばらしいめいあんがうかんできたのです。)
ふと、素晴らしい名案が浮かんできたのです。
(「なあんだ、ぼくはばかだなあ。そんなこと)
「なあんだ、ぼくはバカだなあ。そんなこと
(わけなくできるじゃないか。ぼくには、)
訳なく出来るじゃないか。ぼくには、
(ぴっぽちゃんという、ひこうきがあるじゃないか」)
ピッポちゃんという、飛行機があるじゃないか」
(それをかんがえると、うれしさでかおがあかくなって、)
それを考えると、嬉しさで顔が赤くなって、
(むねがどきどきおどりだすのです。こばやしくんは)
胸がドキドキ踊りだすのです。小林君は
(こうふんにふるえるてで、てちょうにぞくのそうくつのいちと、)
興奮に震える手で、手帳に賊の巣窟の位置と、
(じぶんがちかしつにかんきんされていることをしるし、)
自分が地下室に監禁されていることをしるし、
(そのかみをちぎって、こまかくたたみました。)
その紙を千切って、細かく畳みました。
(それから、かばんのなかにいるでんしょばとの)
それから、カバンの中に居る伝書バトの
(ぴっぽちゃんをだして、そのあしにむすびつけてある)
ピッポちゃんを出して、その足に結びつけてある
(つうしんとうのなかへ、いまのてちょうのかみをつめこみ、)
通信筒の中へ、今の手帳の紙を詰めこみ、
(しっかりとふたをしめました。「さあ、ぴっぽちゃん、)
しっかりとフタを閉めました。「さあ、ピッポちゃん、
(とうとうきみがてがらをたてるときがきたよ。)
とうとうきみが手柄をたてる時がきたよ。
(しっかりするんだぜ。みちくさなんかくうんじゃないよ。)
しっかりするんだぜ。道草なんか食うんじゃないよ。
(いいかいそら、あのまどからとびだして、)
いいかい。そら、あの窓から飛び出して、
(はやくおくさんのところへいくんだ」)
早く奥さんの所へ行くんだ」