緋のエチュード 21

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タグ小説 文学
シャーロックホームズシリーズ第一弾

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問題文

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(そのはしごは、ふだんからそのへんにおかれていたものです。)

そのはしごは、普段からその辺に置かれていたものです。

(まどはおおきくあいていました。とおりすぎたあと、しょうねんはふりかえり、)

窓は大きく開いていました。通り過ぎた後、少年は振り返り、

(はしごをおりくるおとこをみました。おとこがゆっくりどうどうとおりてきたので、)

はしごを降りくる男を見ました。男がゆっくり堂々と下りて来たので、

(しょうねんはほてるでしごとをしただいくかはいかんこうだとそうぞうしたようです。)

少年はホテルで仕事をした大工か配管工だと想像したようです。

(しょうねんはしごとにしてははやいとこころのなかでおもったようですが、)

少年は仕事にしては早いと心の中で思ったようですが、

(それいじょうこのおとこをふしんにはおもいませんでした。しょうねんのいんしょうでは、)

それ以上この男を不審には思いませんでした。少年の印象では、

(そのおとこはせがたかく、あからがおで、ながいちゃいろのこーとをきていました。)

その男は背が高く、赤ら顔で、長い茶色のコートを着ていました。

(はんにんはさつじんのあとしばらくへやにいたにちがいありません。)

犯人は殺人の後しばらく部屋にいたに違いありません。

(ちによごれたせんめんきがみつかったからです。はんにんはそれでてをあらい、)

血に汚れた洗面器が見つかったからです。犯人はそれで手を洗い、

(ないふをにゅうねんにしーつでぬぐっていました」)

ナイフを入念にシーツで拭っていました」

(わたしはほーむずのせつめいとぴったりいっちする)

私はホームズの説明とぴったり一致する

(このさつじんはんのにんそうをききながら、かれをちらっとみた。しかし、)

この殺人犯の人相を聞きながら、彼をちらっとみた。しかし、

(かれのかおにはまったくよろこびやまんぞくのいろはなかった。)

彼の顔には全く喜びや満足の色はなかった。

(「はんにんのてがかりにむすびつくようなものは)

「犯人の手がかりに結びつくようなものは

(へやにはなにもなかったのか?」かれはたずねた。)

部屋には何もなかったのか?」彼は尋ねた。

(「なにもありませんでした。)

「何もありませんでした。

(すたんがーそんはどればーのさいふをぽけっとにいれていました。)

スタンガーソンはドレバーの財布をポケットに入れていました。

(しかしすべてのしはらいはかれがしていましたので、)

しかし全ての支払は彼がしていましたので、

(それがふつうだったようです。80ぽんどすこしはいっていましたが、)

それが普通だったようです。80ポンド少し入っていましたが、

(とられたものはありません。このおどろくべきはんざいのどうきが、)

盗られたものはありません。この驚くべき犯罪の動機が、

など

(なんであろうとも、かねがめあてでないことはまちがいありません。)

何であろうとも、金が目当てでないことは間違いありません。

(ころされたおとこのぽけっとにはしょるいもめももありませんでした。)

殺された男のポケットには書類もメモもありませんでした。

(ただいっかげつほどまえにくりーぶらんどからきたでんぽうがいっつうだけあり、)

ただ一ヶ月ほど前にクリーブランドから来た電報が一通だけあり、

(ぶんめんは「j.h.はよーろっぱにいる」でした。)

文面は『J.H.はヨーロッパにいる』でした。

(このでんぽうにはなまえはありませんでした」)

この電報には名前はありませんでした」

(「ほかにはなにもなかったのか?」ほーむずはたずねた。)

「他には何もなかったのか?」ホームズは尋ねた。

(「じゅうようなものはなにもありません。)

「重要な物は何もありません。

(ねるまえによんだしょうせつがべっどにありました。また、)

寝る前に読んだ小説がベッドにありました。また、

(ぱいぷがかれのそばのいすのうえにありました。)

パイプが彼の側の椅子の上にありました。

(てーぶるのうえにはみずのはいったこっぷがあり、まどのさんのうえには、)

テーブルの上には水の入ったコップがあり、窓の桟の上には、

(きょうぎでできたちいさいなんこうのはこがおいてあり、)

経木で出来た小さい軟膏の箱が置いてあり、

(なかにがんやくがにこはいっていました」)

中に丸薬が二個入っていました」

(しゃーろっくほーむずはよろこびのこえをあげていすからとびだした。)

シャーロックホームズは喜びの声を上げて椅子から飛び出した。

(「さいごのわだ」かれはおおよろこびでさけんだ。「このじけんはかいけつした」)

「最後の輪だ」彼は大喜びで叫んだ。「この事件は解決した」

(ふたりのけいぶはおどろいてかれをみつめた。)

二人の警部は驚いて彼を見つめた。

(「ぼくはいまこのてにした」ほーむずはかくしんをこめていった。)

「僕は今この手にした」ホームズは確信を込めて言った。

(「こんなにももつれあったすべてのいとを。もちろん、)

「こんなにももつれ合った全ての糸を。もちろん、

(これからうめなければならないこまかいぶぶんがある。しかしぼくは、)

これから埋めなければならない細かい部分がある。しかし僕は、

(どればーがすたんがーそんとえきでわかれたじこくから、)

ドレバーがスタンガーソンと駅で別れた時刻から、

(すたんがーそんのしたいがみつかるまでのあいだのじゅうようなじじつについては、)

スタンガーソンの死体が見つかるまでの間の重要な事実については、

(じぶんのこのめでみたかのようにかくしんをもっていえる。)

自分のこの目で見たかのように確信を持って言える。

(ぼくのかんがえがただしいかをしょうめいしよう。そのがんやくをにゅうしゅできるか?」)

僕の考えが正しいかを証明しよう。その丸薬を入手できるか?」

(「もってきています」)

「持ってきています」

(れすとれーどはちいさなしろいはこをさしだしていった。)

レストレードは小さな白い箱を差し出して言った。

(「わたしはそれとさいふとでんぽうをけいさつしょのあんぜんなばしょでほかんしようとおもって)

「私はそれと財布と電報を警察署の安全な場所で保管しようと思って

(もってきました。そのがんやくは、たまたまもってきただけです。)

持ってきました。その丸薬は、たまたま持って来ただけです。

(これがそれほどじゅうようだとおもわなかったことはみとめざるをえません」)

これがそれほど重要だと思わなかったことは認めざるをえません」

(「ぼくにわたしてくれ」ほーむずはいった。「さあ、せんせい」)

「僕に渡してくれ」ホームズは言った。「さあ、先生」

(かれはこっちをふりむいた。「これはふつうのがんやくかな?」)

彼はこっちを振り向いた。「これは普通の丸薬かな?」

(それはまちがいなくふつうのものではなかった。)

それは間違いなく普通のものではなかった。

(こうたくがあるはいいろのちいさながんやくで、ひかりにすかしてみると、)

光沢がある灰色の小さな丸薬で、光に透かしてみると、

(ほとんどとうめいだった。「かるさととうめいかんからみて、すいようせいだとおもう」)

ほとんど透明だった。「軽さと透明感から見て、水溶性だと思う」

(わたしはいった。)

私は言った。

(「そのとおりだ」ほーむずはこたえた。「したにいって、)

「その通りだ」ホームズは答えた。「下に行って、

(かわいそうなながわずらいのてりあをつれてきてもらえないだろうか。きのう、)

可哀想な長患いのテリアを連れて来てもらえないだろうか。昨日、

(くるしみからかいほうしてやりたいとおんなしゅじんがいっていたいぬだ」)

苦しみから解放してやりたいと女主人が言っていた犬だ」

(わたしはかいかにいってそのいぬをてにもどってきた。)

私は階下に行ってその犬を手に戻ってきた。

(ぜいぜいしたいきとにごっためはしきがそうとおくないことをしめしていた。)

ぜいぜいした息と濁った目は死期がそう遠くないことを示していた。

(じっさい、そのまっしろなはなさきはすでにいぬのへいきんじゅみょうをすぎていることを)

実際、その真っ白な鼻先はすでに犬の平均寿命を過ぎている事を

(はっきりとものがたっていた。わたしはじゅうたんのうえのくっしょんにいぬをおいた。)

はっきりと物語っていた。私は絨毯の上のクッションに犬を置いた。

(「このがんやくのひとつをはんぶんにわろう」ほーむずはいった。)

「この丸薬の一つを半分に割ろう」ホームズは言った。

(そのことばをじっこうにうつすべく、かれはぺんないふをとりあげた。)

その言葉を実行に移すべく、彼はペンナイフを取り上げた。

(「しょうらいひつようとなるときのためにのこりのはんぶんははこにもどす。)

「将来必要となる時のために残りの半分は箱に戻す。

(のこりのはんぶんをこのすぷーんいっぱいのみずがはいったわいんぐらすにいれる。)

残りの半分をこのスプーン一杯の水が入ったワイングラスに入れる。

(ほら、わがゆうじんのせんせいがいったとおりだ。こんなにすぐとける」)

ほら、我が友人の先生が言った通りだ。こんなにすぐ溶ける」

(「どれほどきょうみぶかいことかしりませんがね」)

「どれほど興味深い事か知りませんがね」

(れすとれーどはこれからわらいものにされそうだとよかんしているように、)

レストレードはこれから笑い者にされそうだと予感しているように、

(ふきげんそうなくちょうでいった。)

不機嫌そうな口調で言った。

(「しかしそれがじょせふすたんがーそんしのしと)

「しかしそれがジョセフ・スタンガーソン氏の死と

(なんのかんけいがあるのかわかりませんね」)

何の関係があるのか分かりませんね」

(「がまんだよ、れすとれーど、がまん!)

「我慢だよ、レストレード、我慢!

(すぐにこれがぜんめんてきにかんけいがあるとわかる。)

すぐにこれが全面的に関係があると分かる。

(のみやすくするためにちょっとみるくをくわえよう。)

飲みやすくするためにちょっとミルクを加えよう。

(そしてこれをいぬのまえにおくと、よろこんでなめるだろう」)

そしてこれを犬の前に置くと、喜んで舐めるだろう」

(かれはこういいながらわいんぐらすのなかみをさらにうつし、)

彼はこう言いながらワイングラスの中身を皿に移し、

(てりあのまえにおいた。いぬはいそいそとなめてからにした。)

テリアの前に置いた。犬はいそいそと舐めて空にした。

(しゃーろっくほーむずのねっしんなたいどはかくしんにみちていたので、)

シャーロックホームズの熱心な態度は確信に満ちていたので、

(われわれはぜんいんそのどうぶつをじっとみつめ、)

我々は全員その動物をじっと見つめ、

(なにかおどろくようなこうかをきたいしてなにもいわずすわっていた。)

何か驚くような効果を期待して何も言わず座っていた。

(しかしなにもそれらしいことはおきなかった。)

しかし何もそれらしい事は起きなかった。

(いぬはくっしょんにねそべったままくるしそうにいきをしていた。)

犬はクッションに寝そべったまま苦しそうに息をしていた。

(しかしそのこきゅうはよくもわるくもならないようだった。)

しかしその呼吸は良くも悪くもならないようだった。

(ほーむずはとけいをとりあげた。そしてなんふんもけっかがでなかったとき、)

ホームズは時計を取り上げた。そして何分も結果がでなかった時、

(かおにひじょうなくやしさとしつぼうのいろがあらわれた。かれはゆびさきでてーぶるをたたいた。)

顔に非常な悔しさと失望の色が現れた。彼は指先でテーブルを叩いた。

(それいがいにもぜんしんにひどくいらいらしたようすがあらわれて、)

それ以外にも全身にひどくイライラした様子が現れて、

(くちびるをかみしめた。あまりにもそのどうようがはげしかったので、)

唇を噛みしめた。あまりにもその動揺が激しかったので、

(ふたりのけいぶがかれのちょくめんしたいきづまりにこまるどころか、)

二人の警部が彼の直面した行き詰まりに困るどころか、

(あざけるようにわらっていたとき、わたしはしんそこかれがきのどくになった。)

あざけるように笑っていた時、私は心底彼が気の毒になった。

(「ぐうぜんということはありえない」)

「偶然という事はあり得ない」

(とうとうかれはいすからはねおきて)

とうとう彼は椅子から跳ね起きて

(へやをあらあらしくいったりきたりしながらさけんだ。)

部屋を荒々しく行ったり来たりしながら叫んだ。

(「これがただのぐうぜんだということはありえない。)

「これがただの偶然だという事はありえない。

(どればーのじけんでぼくがよそうしていたそのがんやくが、)

ドレバーの事件で僕が予想していたその丸薬が、

(まさにすたんがーそんのしごにみつかった。しかしそれはむがいだった。)

まさにスタンガーソンの死後に見つかった。しかしそれは無害だった。

(どういういみだ?ぼくのすいりのれんさにぜったいにまちがいはありえない。)

どういう意味だ?僕の推理の連鎖に絶対に間違いはありえない。

(そんなはずはない。しかしこのあわれないぬはわるくならない。)

そんなはずはない。しかしこの哀れな犬は悪くならない。

(あ、わかった!わかった!」)

あ、分かった!分かった!」

(はげしいよろこびのかなきりごえをあげてかれははこにとんでいき、)

激しい喜びの金切り声をあげて彼は箱に飛んで行き、

(もうひとつのがんやくをふたつにわり、とかし、みるくをくわえ、)

もう一つの丸薬を二つに割り、溶かし、ミルクを加え、

(てりあのまえにおいた。ふこうなどうぶつのしたがそれにふれたしゅんかん、)

テリアの前に置いた。不幸な動物の舌がそれに触れた瞬間、

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