緋のエチュード 23
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問題文
(おどろいた。わたしはそんなはなしはなにもきいていなかった。)
驚いた。私はそんな話は何も聞いていなかった。
(へやにはちいさなりょこうかばんがあった。)
部屋には小さな旅行鞄があった。
(かれはそれをひっぱりだしてひもをしめはじめた。)
彼はそれを引っ張り出して紐を締め始めた。
(ぎょしゃがへやにはいってきたとき、かれはいそがしくそれにむかっていた。)
御者が部屋に入ってきた時、彼は忙しくそれに向かっていた。
(「このとめがねをかけるのをてつだってくれないか、ぎょしゃくん」)
「この留め金を掛けるのを手伝ってくれないか、御者君」
(かれはひざまずいてさぎょうしながら、まったくふりむきもせず、こういった。)
彼はひざまずいて作業しながら、全く振り向きもせず、こう言った。
(そのおとこはちょっとむっとしたはんこうてきなふんいきでまえにでてきた。)
その男はちょっとむっとした反抗的な雰囲気で前に出てきた。
(そしててつだうためにりょうてをおろした。そのしゅんかん、)
そして手伝うために両手を下ろした。その瞬間、
(するどいかちっというおとと、きんぞくがふれあうおとがした。)
鋭いカチッと言う音と、金属が触れ合う音がした。
(しゃーろっくほーむずはふたたびぱっとたちあがった。)
シャーロックホームズは再びパッと立ち上がった。
(「しんししょくん」かれはめをかがやかせてさけんだ。)
「紳士諸君」彼は目を輝かせて叫んだ。
(「いーのっくどればーとじょせふすたんがーそんさつがいはんの)
「イーノック・ドレバーとジョセフ・スタンガーソン殺害犯の
(じぇふぁーそんほーぷしをしょうかいします」)
ジェファーソン・ホープ氏を紹介します」
(すべてがいっしゅんのできごとだった、あまりにもすばやく、)
すべてが一瞬の出来事だった、 あまりにも素早く、
(わたしはなにがおきたのかりかいすることができなかった。)
私は何が起きたのか理解する事ができなかった。
(わたしにはそのしゅんかんのせんめいなきおくがある。)
私にはその瞬間の鮮明な記憶がある。
(ほーむずのかちほこったひょうじょうとこえのひびき、)
ホームズの勝ち誇った表情と声の響き、
(ぎょしゃのおとこがあたかもてじなのようにてくびにしゅつげんしたきらきらかがやくてじょうを)
御者の男があたかも手品のように手首に出現したキラキラ輝く手錠を
(めにしたときのとうわくしたあらあらしいかお、いち、にびょう、)
目にした時の当惑した荒々しい顔、一、二秒、
(われわれはぐんぞうちょうぞうのようだったかもしれない。そのあと、)
我々は群像彫像のようだったかもしれない。その後、
(ふめいりょうないかりのわめきごえをあげると、)
不明瞭な怒りのわめき声を上げると、
(はんにんはほーむずがつかんだてをふりほどき、まどにむかってとっしんした。)
犯人はホームズがつかんだ手を振り解き、窓に向かって突進した。
(きわくとがらすがくだけた。しかしまどをかんぜんにつきぬけるまえに、)
木枠とガラスが砕けた。しかし窓を完全に突き抜ける前に、
(ぐれっぐそん、れすとれーど、)
グレッグソン、レストレード、
(ほーむずがりょうけんのむれのようにおとこにとびついた。)
ホームズが猟犬の群れのように男に飛びついた。
(おとこはへやにひきもどされた。それからおそろしいかくとうがはじまった。)
男は部屋に引き戻された。それから恐ろしい格闘が始まった。
(おとこはひじょうにちからづよくあらあらしかったので、)
男は非常に力強く荒々しかったので、
(われわれよにんはなんどもなんどもふりほどかれた。)
我々四人は何度も何度も振りほどかれた。
(おとこはてんかんのほっさにみまわれたときにでるようなはげしいちからを)
男はてんかんの発作に見舞われた時に出るような激しい力を
(もっているようにみえた。おとこがたいあたりしてがらすをつきやぶったさい、)
持っているように見えた。男が体当たりしてガラスを突き破った際、
(かおとてがおそろしくきれていた。しかしどんなにしゅっけつしても、)
顔と手が恐ろしく切れていた。しかしどんなに出血しても、
(おとこのていこうはおとろえなかった。)
男の抵抗は衰えなかった。
(れすとれーどがうまくおとこのくびまきのうちがわにてをいれて、)
レストレードが上手く男の首巻の内側に手を入れて、
(はんぶんいきができないようにして、やっと、)
半分息が出来ないようにして、やっと、
(おとこはていこうしてもむだだとさとったようだった。ここまでしても、)
男は抵抗しても無駄だと悟ったようだった。ここまでしても、
(てあしをしばりあげるまであんしんはできなかった。それがすんで、)
手足を縛り上げるまで安心はできなかった。それが済んで、
(ようやくわれわれはいきをきらしてあえぎながらたちあがった。)
ようやく我々は息を切らしてあえぎながら立ち上がった。
(「かれのつじばしゃがある」ほーむずはいった。)
「彼の辻馬車がある」ホームズは言った。
(「それでろんどんけいしちょうにつれていこう。そしていまここで、しんししょくん」)
「それでロンドン警視庁に連れて行こう。そして今ここで、紳士諸君」
(かれはうれしそうにわらってつづけた。「われわれのおもしろいなぞはおわった。)
彼は嬉しそうに笑って続けた。「我々の面白い謎は終わった。
(これからは、しつもんがあればなんでもだいかんげいだ。)
これからは、質問があればなんでも大歓迎だ。
(ぼくがかいとうをこばむおそれはまったくない」)
僕が回答を拒む恐れはまったくない」
(だいにぶせいとのくに)
第二部 聖徒の国
(こうだいなあるかりのだいちで)
広大なアルカリの台地で
(こうだいなきたあめりかたいりくのちゅうしんぶに、)
広大な北アメリカ大陸の中心部に、
(からからにかんそうしひとをよせつけないさばくがある。そこはひじょうにながいあいだ、)
カラカラに乾燥し人を寄せ付けない砂漠がある。そこは非常に長い間、
(ぶんめいのしんてんをはばむしょうへきとなっていた。)
文明の進展を阻む障壁となっていた。
(しえらねばだからねぶらすかまで、)
シエラネバダからネブラスカまで、
(きたはいえろーすとーんりばーからみなみはころらどまでは、)
北はイエローストーンリバーから南はコロラドまでは、
(こうはいとちんもくのちである。)
荒廃と沈黙の地である。
(このおそろしいちいきぜんたいをとおしてしぜんがどこもいちようなわけではなかった。)
この恐ろしい地域全体を通して自然がどこも一様なわけではなかった。
(それはゆきをいただいてそびえたつやまやまや、)
それは雪を頂いてそびえたつ山々や、
(くらくぶきみなたにからこうせいされていた。)
暗く不気味な谷から構成されていた。
(ぎざぎざのたにをこえていきおいよくながれるかわがあった。きょだいなへいげんがあり、)
ギザギザの谷を越えて勢いよく流れる河があった。巨大な平原があり、
(そのばしょはふゆはゆきでしろく、なつはしおっぽいあるかりのつちではいいろとなった。)
その場所は冬は雪で白く、夏は塩っぽいアルカリの土で灰色となった。
(しかしこれらはすべて、ふもうと、きびしさと、)
しかしこれらはすべて、不毛と、厳しさと、
(くつうというきょうつうのとくちょうをゆうしていた。)
苦痛という共通の特徴を有していた。
(このぜつぼうのちにすむものはなかった。)
この絶望の地に住む者はなかった。
(ぽーにーぞくやぶらっくふっとぞくのいちぐんがべつのりょうばにいくために)
ポーニー族やブラックフット族の一群が別の猟場に行くために
(ときどきそこをおうだんしたかもしれない。)
時々そこを横断したかもしれない。
(しかしこれらのもっともたふなゆうしでさえも、)
しかしこれらの最もタフな勇士でさえも、
(このおそろしいだいちがみえなくなり、もういちどそうげんにもどると、)
この恐ろしい大地が見えなくなり、もう一度草原に戻ると、
(よろこびをきんじえなかった。こよーてがやぶのあいだをこそこそうごき、)
喜びを禁じえなかった。コヨーテが藪の間をコソコソ動き、
(ひめこんどるはゆったりとはばたいてそらをわたる。)
ヒメコンドルはゆったりと羽ばたいて空を渡る。
(おおきなはいいろぐまがくらいけいこくをのしあるき、いわのあいだからしょくもつをひろいあげる。)
大きな灰色熊が暗い渓谷をのし歩き、岩の間から食物を拾い上げる。
(こうやのじゅうみんたちは、これですべてである。)
荒野の住民達は、これですべてである。
(ちきゅうじょうで、しえらぶらんかのきたしゃめんからみるいじょうにわびしいこうけいはない。)
地球上で、シエラブランカの北斜面から見る以上に侘しい光景はない。
(みわたすかぎりきょだいなへいげんがひろがっており、すべてはほこりまみれで、)
見渡す限り巨大な平原が広がっており、全ては埃まみれで、
(あるかりのだいちがわいしょうかしたかんぼくのしげみで)
アルカリの大地が矮小化した潅木の茂みで
(つぎはぎにくぎられたばしょだ。すいへいせんのかなたに、)
つぎはぎに区切られた場所だ。水平線の彼方に、
(やまのいただきがながくつらなり、ごつごつしたさんちょうはゆきにおおわれている。)
山の頂きが長く連なり、ゴツゴツした山頂は雪に覆われている。
(このこうだいなだいちには、せいめいやせいめいにふぞくするもののこんせきはない。)
この広大な大地には、生命や生命に付属するものの痕跡はない。
(はがねいろのそらにはいっぴきのとりもなく、)
鋼色の空には一匹の鳥も無く、
(にぶいはいいろのだいちのうえにうごくものはなかった。まずさいしょに、)
鈍い灰色の大地の上に動くものはなかった。まず最初に、
(かんぜんなちんもくがあった。みみをこらしても、ものおとひとつしなかった、)
完全な沈黙があった。耳を凝らしても、物音一つしなかった、
(このきょうりょくなこうやには、ちんもくいがいになにもなかった、)
この強力な荒野には、沈黙以外に何もなかった、
(かんぜんむけつのあっとうてきなちんもくだった。)
完全無欠の圧倒的な沈黙だった。
(いま、このこうだいなだいちにせいめいにかんするものはなにもないとのべた。)
今、この広大な台地に生命に関するものは何もないと述べた。
(それはかんぜんなしんじつではない。しえらぶらんかさんからみおろすと、)
それは完全な真実ではない。シエラブランカ山から見下ろすと、
(さばくをよこぎるいっぽんのみちをみるだろう。それはかぜにふかれて、)
砂漠を横切る一本の道を見るだろう。それは風に吹かれて、
(はてしないかなたへとすがたをけしている。)
果てしない彼方へと姿を消している。
(それはおおくのぼうけんかのしゃりんとあしにふみしめられたみちだ。)
それは多くの冒険家の車輪と足に踏み締められた道だ。
(ところどころに、ひのひかりにかがやくしろいぶったいがちらばり、)
ところどころに、陽の光に輝く白い物体が散らばり、
(にぶいあるかりのたいせきぶつからつきだしている。ちかづいてたしかめてみよ!)
鈍いアルカリの堆積物から突き出している。近づいて確かめてみよ!
(それらはほねだ。おおきくてざらざらしたものもあり、)
それらは骨だ。大きくてざらざらしたものもあり、
(ちいさくてもっともろいものもある。ぜんしゃはうしのもので、)
小さくてもっと脆いものもある。前者は牛のもので、
(こうしゃはにんげんのものだ。せんごひゃくまいるにわたって、)
後者は人間のものだ。千五百マイルに渡って、
(みちばたにたおれたものたちのちらばったざんがいで、)
道端に倒れた者たちの散らばった残骸で、
(このおそろしいきゃらばんろーどをたどることができるだろう。)
この恐ろしいキャラバンロードをたどる事ができるだろう。
(1847ねん5がつ4か、このばしょをみおろすとこどくなりょこうしゃがあった。)
1847年5月4日、この場所を見下すと孤独な旅行者があった。
(かれのふうぼうは、このちのれいこんかあくまかもしれないようなものだった。)
彼の風貌は、この地の霊魂か悪魔かもしれないようなものだった。
(みるものはかれが40にちかいのか60にちかいのか、はんだんしがたいとおもっただろう。)
見る者は彼が40に近いのか60に近いのか、判断し難いと思っただろう。
(ほおはこけ、ひょうじょうはつかれきっていた。)
頬はこけ、表情は疲れきっていた。
(そしてちゃいろいようひしのようなひふは、)
そして茶色い羊皮紙のような皮膚は、
(つきでたほねにぴんとはりついていた。ながいちゃいろのかみとあごひげは、)
突き出た骨にピンと張り付いていた。長い茶色の髪と顎鬚は、
(あちこちにしろいものがまじっていた。めはおちくぼみ、)
あちこちに白いものが混じっていた。目は落ち窪み、
(いじょうなひかりがもえさかっていた。らいふるをにぎるては、)
異常な光が燃えさかっていた。ライフルを握る手は、
(まるでがいこつのようににくがついていなかった。)
まるで骸骨のように肉がついていなかった。
(おとこはそのじゅうにすがってたっていたが、たかいしんちょうとがっしりしたこっかくは、)
男はその銃にすがって立っていたが、高い身長とがっしりした骨格は、
(くっきょうでおうせいなたいしつをかんじさせた。しかし、おとろえたかおとふくによって)
屈強で旺盛な体質を感じさせた。しかし、衰えた顔と服によって