緋のエチュード 26

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タグ小説 文学
シャーロックホームズシリーズ第一弾

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問題文

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(おとこのながいしわだらけのあしとはおかしなほどたいしょうてきだった。)

男の長い皺だらけの足とはおかしなほど対称的だった。

(このきみょうなふたりづれのずじょうのいわだなには、)

この奇妙な二人連れの頭上の岩棚には、

(げんしゅくなおももちのひめこんどるがとまっていたが、)

厳粛な面持ちのヒメコンドルがとまっていたが、

(ひとがやってくるのをみて、そうぞうしいしつぼうのさけびをはっして、)

人がやって来るのを見て、騒々しい失望の叫びを発して、

(ふきげんそうにはばたいていった。)

不機嫌そうに羽ばたいて行った。

(きたないとりのさけびで、ねむっていたふたりはめをさました。)

汚い鳥の叫びで、眠っていた二人は目を覚ました。

(ふたりはかれらをとうわくしてみつめた。おとこはよろよろとたちあがり、)

二人は彼らを当惑して見つめた。男はよろよろと立ち上がり、

(へいげんをみおろした。)

平原を見下ろした。

(そこはかれがすいまにおそわれたときにはこうりょうとしていたが、)

そこは彼が睡魔に襲われた時には荒涼としていたが、

(いまやものすごいかずのひとやどうぶつのむれがおうだんしていた。)

今や物凄い数の人や動物の群れが横断していた。

(それをみてかれのかおにしんじられないというひょうじょうがうかんだ。)

それを見て彼の顔に信じられないという表情が浮かんだ。

(そしてかれはほねばったてでめをこすった。「たぶん、)

そして彼は骨ばった手で目を擦った。「多分、

(これがげんかくというやつか」かれはつぶやいた。こどもはかれのそばにたち、)

これが幻覚というやつか」彼はつぶやいた。子供は彼の側にたち、

(こーとのすそにしがみついた。なにもいわなかったが、)

コートの裾にしがみついた。何も言わなかったが、

(こどもっぽいふしぎそうな、といただすようなしせんであたりをみまわした。)

子供っぽい不思議そうな、問いただすような視線であたりを見回した。

(きゅうじょたいは、ふたりのほうろうしゃに、)

救助隊は、二人の放浪者に、

(すぐにこのしゅつげんはげんかくではないとわからせることができた。)

すぐにこの出現は幻覚ではないと分からせることが出来た。

(かれらのひとりが、しょうじょをつかまえてかたのうえにのせた。)

彼らの一人が、少女を捕まえて肩の上に乗せた。

(ほかのふたりがやせおとろえたどうこうしゃをささえ、)

他の二人が痩せ衰えた同行者を支え、

(ほろばしゃのほうにいくのをてだすけした。)

幌馬車の方に行くのを手助けした。

など

(「わたしのなはじょんふぇりあーだ」ほうろうしゃはせつめいした。)

「私の名はジョン・フェリアーだ」放浪者は説明した。

(「わたしとあのこどもが21にんのいきのこりだ。ほかはぜんいん、もっとみなみのほうで、)

「私とあの子供が21人の生き残りだ。他は全員、もっと南の方で、

(うえとかわきでしんだ」)

飢えと乾きで死んだ」

(「あれはおまえのこどもか?」だれかがたずねた。)

「あれはお前の子供か?」誰かが尋ねた。

(「もう、そうよんでいい」おとこがちょうせんてきにさけんだ。)

「もう、そう呼んでいい」男が挑戦的に叫んだ。

(「あのこはわたしがたすけた、わたしのこだ。だれもわたしからひきはなすことはできない。)

「あの子は私が助けた、私の子だ。誰も私から引き離す事は出来ない。

(あのこはきょうからるーしーふぇりあーだ。しかし、)

あの子は今日からルーシー・フェリアーだ。しかし、

(あなたがたはだれです?」)

あなた方は誰です?」

(かれはひにやけたくっきょうなおとこたちをきょうみぶかげにみまわしてつづけた。)

彼は日に焼けた屈強な男達を興味深げに見回して続けた。

(「ものすごいかずのようですが」)

「物凄い数のようですが」

(「ほぼいちまんにんはいる」せいねんのひとりがいった。)

「ほぼ一万人はいる」青年の一人が言った。

(「われわれはてんしもろーにがえらびたもうたはくがいされたかみのこだ」)

「我々は天使モローニが選びたもうた迫害された神の子だ」

(「そのなまえはきいたことがありませんが」ほうろうしゃがいった。)

「その名前は聞いたことがありませんが」放浪者が言った。

(「しかしえらくたくさんえらんだみたいですな」)

「しかしえらく沢山選んだみたいですな」

(「しんせいなものをちゃかしてはいけません」べつのひとりがげんしゅくにいった。)

「神聖なものを茶化してはいけません」別の一人が厳粛に言った。

(「われわれは、きんぱくのいたにえじぷともじでかかれ、)

「我々は、金箔の板にエジプト文字で書かれ、

(ぱるみらのせいなるじょせふすみすにてわたされたせいてんを)

パルミラの聖なるジョセフ・スミスに手渡された聖典を

(しんじるものです。われわれはいりのいしゅうの、のーぶーからきました、)

信じるものです。我々はイリノイ州の、ノーブーから来ました、

(われわれはそこにきょうかいをきずいていました。)

我々はそこに教会を築いていました。

(われわれはぼうりょくてきなおとこやふしんじんなものから、にげばをもとめてきました。)

我々は暴力的な男や不信心な者から、逃げ場を求めてきました。

(それがさばくのちゅうしんであろうともかまいません」)

それが砂漠の中心であろうともかまいません」

(のーぶーのなまえで、)

ノーブーの名前で、

(じょんふぇりあーのきおくがよびさまされたようだった。)

ジョン・フェリアーの記憶が呼び覚まされたようだった。

(「わかりました」かれはいった。「あなたがたはもるもんきょうとですね」)

「分かりました」彼は言った。「あなた方はモルモン教徒ですね」

(「われわれはもるもんきょうとだ」かれのどうこうしゃはいっせいにこたえた。)

「我々はモルモン教徒だ」彼の同行者はいっせいに答えた。

(「それでどちらにいこうとしているのですか?」)

「それでどちらに行こうとしているのですか?」

(「それはしらない。かみのてが、よげんしゃのもとでわれわれをみちびいている。)

「それは知らない。神の手が、預言者の元で我々を導いている。

(あなたはよげんしゃのまえにいかなければならない。あなたをどうするか、)

あなたは預言者の前に行かなければならない。あなたをどうするか、

(よげんしゃがはんだんなさるでしょう」)

預言者が判断なさるでしょう」

(かれらはこのときまでにおかのふもとにとうちゃくし、)

彼らはこの時までに丘の麓に到着し、

(いじゅうしゃのむれにとりかこまれた、・・・かおいろのわるい、おとなしいふうぼうのおんな、)

移住者の群れに取り囲まれた、・・・・顔色の悪い、おとなしい風貌の女、

(がんじょうな、たのしそうなこども、ふあんそうな、ねっしんなめのおとこ。)

頑丈な、楽しそうな子供、不安そうな、熱心な目の男。

(かれらはほうろうしゃのひとりのわかさと、もうひとりのおとろえをみて、おおくがおどろき、)

彼らは放浪者の一人の若さと、もう一人の衰えを見て、多くが驚き、

(どうじょうのさけびをあげた。しかし、どうこうしゃはたちどまらず、)

同情の叫びを上げた。しかし、同行者は立ち止まらず、

(それをおしのけ、うしろからおおぜいのもるもんきょうとをひきつれて、)

それを押しのけ、後ろから大勢のモルモン教徒を引き連れて、

(ひとつのにばしゃにやってきた。それはおおきさ、はでなみばえ、)

一つの荷馬車にやってきた。それは大きさ、派手な見栄え、

(こぎれいさでひときわめだっていた。ろくとうのうまがそのばしゃをひいていた。)

小奇麗さでひときわ目立っていた。六頭の馬がその馬車を引いていた。

(ほかのばしゃは、いちだいあたりにとうか、せいぜいよんとうだった。ぎょしゃのとなりに、)

他の馬車は、一台あたり二頭か、せいぜい四頭だった。御者の隣に、

(さんじゅっさいにはなっていないであろうおとこがすわっていた。)

三十歳にはなっていないであろう男が座っていた。

(しかしかれのりょうかんあるとうぶといしのかたそうなひょうじょうは)

しかし彼の量感ある頭部と意志の固そうな表情は

(かれがりーだーであることをしめしていた。)

彼がリーダーである事を示していた。

(かれはちゃいろいせびょうしのほんをよんでいた。しかしぐんしゅうがちかづくと、)

彼は茶色い背表紙の本を読んでいた。しかし群集が近づくと、

(かれはそれをわきにおき、ちゅういぶかくじょうきょうせつめいにみみをかたむけた。)

彼はそれを脇に置き、注意深く状況説明に耳を傾けた。

(それからかれはふたりのほうろうしゃのほうにむきなおった。)

それから彼は二人の放浪者の方に向き直った。

(「われわれがおまえたちをいっしょにつれていくのは」かれはげんしゅくなことばでかたった。)

「我々がお前たちを一緒に連れて行くのは」彼は厳粛な言葉で語った。

(「われわれのきょうぎをしんじるばあいのみだ。われわれのなかにおおかみはいれない。)

「我々の教義を信じる場合のみだ。我々の中に狼は入れない。

(おまえがちいさなふはいになるとわかるなら、)

お前が小さな腐敗になると分かるなら、

(おまえたちのほねをこのこうやにさらしたほうがずっとましだ。)

お前達の骨をこの荒野に晒したほうがずっとましだ。

(ちいさなふはいはやがてくだものぜんたいをふはいさせる。)

小さな腐敗はやがて果物全体を腐敗させる。

(このじょうけんでいっしょにくるか?」)

この条件で一緒に来るか?」

(「どんなじょうけんでもいっしょにいきます」ふぇりあーはいった。)

「どんな条件でも一緒に行きます」フェリアーは言った。

(おおげさないいかたに、きびしいちょうろうたちもえがおをみせた。りーだーだけは、)

大げさな言い方に、厳しい長老たちも笑顔を見せた。リーダーだけは、

(きびしいいんしょうてきなひょうじょうをくずさなかった。)

厳しい印象的な表情を崩さなかった。

(「つれていけ、すたんがーそんきょうだい」かれはいった。)

「連れて行け、スタンガーソン兄弟」彼は言った。

(「たべものとのみみずをあたえてやれ。こどももおなじように。)

「食べ物と飲み水を与えてやれ。子供も同じように。

(かれにわれらのしんせいなきょうぎをおしえるのも、おまえのしごととせよ。)

彼に我らの神聖な教義を教えるのも、お前の仕事とせよ。

(すでにだいぶおくれた。ぜんしんだ。しおんにむかって!」)

すでに大分遅れた。前進だ。シオンに向かって!」

(「しおんにむかって!」もるもんきょうのぐんしゅうはさけんだ。)

「シオンに向かって!」モルモン教の群集は叫んだ。

(そのことばはながいたいれつをさざなみのようにすすみ、くちからくちにつたえられ、)

その言葉は長い隊列をさざなみのように進み、口から口に伝えられ、

(とおいかなたでにぶいつぶやきとなり、きえていった。)

遠い彼方で鈍いつぶやきとなり、消えて行った。

(むちをうつおととしゃりんのきしみで、おおきなほろばしゃがうごきだし、)

鞭を打つ音と車輪のきしみで、大きな幌馬車が動き出し、

(すぐにたいれつぜんたいがもういちどくねくねとすすみだした。)

すぐに隊列全体がもう一度くねくねと進み出した。

(ふたりのせわをまかされたろうじんは、かれらをじぶんのほろばしゃにつれていった。)

二人の世話を任された老人は、彼らを自分の幌馬車に連れて行った。

(そこではすでにしょくじがよういされていた。)

そこでは既に食事が用意されていた。

(「ここにいなさい」かれはいった。「すうじつもたてば、)

「ここにいなさい」彼は言った。「数日もたてば、

(つかれからかいふくするでしょう。そのあいだに、)

疲れから回復するでしょう。その間に、

(これからずっとあなたはわれわれとおなじしんこうをもつということを)

これからずっとあなたは我々と同じ信仰を持つと言うことを

(わすれないように。ぶりがむやんぐがそうかたり、)

忘れないように。ブリガム・ヤングがそう語り、

(かれはじょせふすみすのこえでかたった。それはかみのこえだ」)

彼はジョセフ・スミスの声で語った。それは神の声だ」

(だいにしょうゆたのはな)

第二章 ユタの花

(このいっせつは、もるもんきょうのいじゅうしゃたちがさいごのあんじゅうのちに)

この一節は、モルモン教の移住者たちが最後の安住の地に

(たどりつくまでにたえしのんだしれんときゅうぼうをたたえるばしょではない。)

たどり着くまでに耐え忍んだ試練と窮乏を称える場所ではない。

(しかし、みししっぴーのかわべからろっきーさんみゃくのにしがわまで、)

しかし、ミシシッピーの川辺からロッキー山脈の西側まで、

(かれらはほとんどれきしにならぶもののないふくつさでまいしんした。きょうぼうなにんげん、)

彼らはほとんど歴史に並ぶもののない不屈さで邁進した。凶暴な人間、

(きょうぼうなけもの、うえ、かわき、ひろう、しっぺい、)

凶暴な獣、飢え、乾き、疲労、疾病、

(しぜんがしんろにおきうるあらゆるしょうがいが、)

自然が進路に置きうるあらゆる障害が 、

(あんぐろさくそんのねばりによってすべてこくふくされた。)

アングロ・サクソンの粘りによって全て克服された。

(もちろんながいみちのりと、なんどもくりかえされたきょうふのたいけんには、)

もちろん長い道程と、何度も繰り返えされた恐怖の体験には、

(しんじゃのなかのもっともくっきょうなおとこでさえどうようした。)

信者の中の最も屈強な男でさえ動揺した。

(かれらがたいようをあびるゆたのひろいたにあいをがんかにながめ、)

彼らが太陽を浴びるユタの広い谷合いを眼下に眺め、

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