『いいなずけ』アンデルセン2【完】
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問題文
(「あのまりちゃんが、どこへいったか。ぼくは、よくしっている」と、)
「あのマリちゃんが、どこへ行ったか。ぼくは、よく知っている」と、
(こまは、ためいきをついて、いいました。)
コマは、溜め息をついて、言いました。
(「つばめくんのすのなかにいるのさ。つばめくんとけっこんしてね」)
「ツバメくんの巣の中にいるのさ。ツバメくんと結婚してね」
(こまは、そうおもえばおもうほど、ますますまりにこころをひかれていくのでした。)
コマは、そう思えば思うほど、益々マリに心を惹かれていくのでした。
(まりをおよめさんにもらうことができなかっただけに、)
マリをお嫁さんにもらうことが出来なかっただけに、
(いっそうこいしさがましてきました。まりがほかのひととけっこんしたって、)
一層恋しさが増してきました。マリがほかの人と結婚したって、
(そんなことは、なんのかかわりもありません。)
そんなことは、なんの関わりもありません。
(こまはあいかわらず、ぶんぶんうなりながら、おどりまわりました。)
コマは相変わらず、ブンブンうなりながら、踊り回りました。
(そのあいだも、こころのなかでおもっているのは、いつもまりのことばかりでした。)
そのあいだも、心の中で想っているのは、いつもマリのことばかりでした。
(こまのあたまのなかにうかんでくる、まりのすがたはますますうつくしいものになっていきました。)
コマの頭の中に浮んでくる、マリの姿は益々美しいものになっていきました。
(こうして、なんねんもたちました。)
こうして、何年もたちました。
(ですから、いまではもうふるいこいのものがたりに、なってしまったわけです。)
ですから、今ではもう古い恋の物語に、なってしまったわけです。
(そしてこまも、もうわかくはありません。)
そしてコマも、もう若くはありません。
(あるひのこと、こまはからだじゅうに、きんいろをぬってもらいました。)
ある日のこと、コマは体中に、金色を塗ってもらいました。
(こんなにきれいになったことは、いままでにもありません。)
こんなにきれいになったことは、今までにもありません。
(いまではきんいろのこまです。こまは、びゅーんびゅーんうなっては、)
今では金色のコマです。コマは、ビューンビューンうなっては、
(はねあがりました。そのありさまは、まったくすばらしいものでした。)
跳ね上がりました。その有り様は、まったく素晴らしいものでした。
(ところが、とつぜんあまりにもたかくはねあがったものですから、)
ところが、突然あまりにも高く跳ね上がったものですから、
(それきりどこかへいってしまいました。)
それきりどこかへ行ってしまいました。
(みんなはさがしに、さがしました。ちかしつまでおりていってさがしましたが、)
みんなは探しに、探しました。地下室まで降りて行って探しましたが、
(どうしてもみつかりません。どこへいってしまったのでしょうか。)
どうしても見つかりません。どこへ行ってしまったのでしょうか。
(こまはごみばこのなかに、とびこんだのです。)
コマはゴミ箱の中に、跳び込んだのです。
(そこにはいろんなものがありました。きゃべつのしんだの、ごみだの、)
そこには色んなものがありました。キャベツの芯だの、ゴミだの、
(やねにふったあまみずをはいすいするはいかんからおちてきたじゃりだのが。)
屋根に降った雨水を排水する配管から落ちてきた砂利だのが。
(「こいつはまた、すごいところだ。ここじゃ、ぼくのからだにぬってあるきんいろも、)
「こいつはまた、すごい所だ。ここじゃ、ぼくの体に塗ってある金色も、
(すぐはげちまうな。だけどまあ、なんてきたならしいやつらのところへきたもんだ」)
すぐはげちまうな。だけどまあ、なんて汚らしい奴らの所へ来たもんだ」
(こまは、こういいながら、はをむきとられたほそながいきゃべつのしんと、)
コマは、こう言いながら、葉をむきとられた細長いキャベツの芯と、
(ふるいりんごみたいな、まるいへんてこなもののほうを、よこめでみました。)
古いリンゴみたいな、まるいヘンテコな物のほうを、横目で見ました。
(ところが、それはりんごではありません。)
ところが、それはリンゴではありません。
(それこそ、としをとって、かわりはてたまりのすがただったのです。)
それこそ、年をとって、変わり果てたマリの姿だったのです。
(まりはなんねんものあいだ、やねにふったあまみずをはいすいするはいかんのなかに)
マリは何年ものあいだ、屋根に降った雨水を排水する配管の中に
(はいっていたものですから、からだじゅうにみずがはいりこんで、)
入っていたものですから、体中に水が入り込んで、
(ふくれあがっていたのでした。)
膨れ上がっていたのでした。
(「あら、うれしいこと。おはなしあいてになるような、なかまがきてくれたわ」と、)
「あら、嬉しいこと。お話し相手になるような、仲間が来てくれたわ」と、
(まりはいって、きんいろをぬったこまをながめました。)
マリは言って、金色を塗ったコマをながめました。
(「あたし、ほんとうはわかいおんなのひとのてで、ぬっていただいてね、)
「あたし、本当は若い女の人の手で、塗っていただいてね、
(もろっこがわのきものをきているのよ。からだのなかには、こるくもはいっているの。)
モロッコ革の着物を着ているのよ。体の中には、コルクも入っているの。
(でも、そんなふうにはみえないでしょう。)
でも、そんな風には見えないでしょう。
(あたし、もうすこしで、つばめさんとけっこんするところだったんですけど、)
あたし、もう少しで、ツバメさんと結婚するところだったんですけど、
(あいにくはいかんのなかにおっこちて、そこにごねんもいましたの。)
あいにく配管の中に落っこちて、そこに五年もいましたの。
(それで、こんなふうに、みずでふくれてしまったんですわ。)
それで、こんな風に、水で膨れてしまったんですわ。
(そりゃあねえ、わかいむすめにとっては、ずいぶんながいねんげつでしたわ」)
そりゃあねえ、若い娘にとっては、ずいぶん長い年月でしたわ」
(けれどもこまは、なんにもいいませんでした。)
けれどもコマは、なんにも言いませんでした。
(こころのなかでは、むかしのこいびとのことをおもっているのでした。)
心の中では、昔の恋人のことを想っているのでした。
(でもはなしをきいているうちに、これがとうじのまりとおなじものだというのが、)
でも話を聞いているうちに、これが当時のマリと同じものだというのが、
(だんだんはっきりしてきました。)
段々はっきりしてきました。
(そのとき、じょちゅうがやってきて、ごみばこをひっくりかえしました。)
そのとき、女中がやってきて、ゴミ箱をひっくり返しました。
(そして、「あら、こんなところに、きんいろのこまがあるわ」と、いいました。)
そして、「あら、こんな所に、金色のコマがあるわ」と、言いました。
(こうしてこまは、またへやのなかにもどって、めいよをとりもどしました。)
こうしてコマは、また部屋の中に戻って、名誉を取り戻しました。
(けれどもまりのほうは、それからどうなったかわかりません。)
けれどもマリのほうは、それからどうなったか分かりません。
(こまもむかしのこいのことについては、それきりなにもいいませんでした。)
コマも昔の恋のことについては、それきりなにも言いませんでした。
(どんなにすきなひとでも、ごねんものあいだはいかんにおり、)
どんなに好きな人でも、五年ものあいだ配管におり、
(みずでふくれあがってしまっては、こいもなにもおしまいです。)
水で膨れ上がってしまっては、恋もなにもおしまいです。
(おまけに、ごみばこのなかであったのでは、)
おまけに、ゴミ箱の中で会ったのでは、
(いくらむかしのこいびとでも、とてもすきでいられるものではありません。)
いくら昔の恋人でも、とても好きでいられるものではありません。