『風ばか』豊島与志雄2【完】

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プレイ回数253難易度(4.5) 3082打 長文
風に八つ当たりする少年の話
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

↓のURLからの続きですので、未プレイの方はプレイしてから
こちらのタイピングをしてください
https://typing.twi1.me/game/302336

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問題文

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(たいようがにしにかたむいて、もりのかげがうすぐらくなりはじめました。かぜがでてきました。)

太陽が西にかたむいて、森の影が薄暗くなり始めました。風がでてきました。

(「きょうは、これだけにしておこう。ぼくがもういちどあるいてみせるから、)

「今日は、これだけにしておこう。僕がもう一度歩いてみせるから、

(よくみておけよ」まさちゃんはめかくしをして、)

よく見ておけよ」マサちゃんは目かくしをして、

(さいごにもういちどみせてやるというようすで、あるきだしました。)

最後にもう一度見せてやるという様子で、歩きだしました。

(それが、どうしたのか、すこしいってまがりだしました。)

それが、どうしたのか、少し行って曲がりだしました。

(ひとかたまりになってみていたものたちは、すぐにこえをたてました。)

ひとかたまりになって見ていた者たちは、すぐに声をたてました。

(「まがった、まがった」まさちゃんはめかくしをとりました。)

「曲がった、曲がった」マサちゃんは目かくしを取りました。

(「ほんとうにまがったのかい」「まがったとも。いばってたくせに、なーんだい」)

「本当に曲がったのかい」「曲がったとも。いばってたくせに、なーんだい」

(まさちゃんはくやしがりました。)

マサちゃんは悔しがりました。

(そしてまたやりなおしましたが、やはりうまくいきません。)

そしてまたやりなおしましたが、やはりうまくいきません。

(「ああ、わかった。かぜがふいているからいけないんだ。)

「ああ、分かった。風が吹いているからいけないんだ。

(よし、こんどはうまくやってみせる」よこからふきつけてくるかぜがだんだんつよくなり、)

よし、今度はうまくやってみせる」横から吹きつけてくる風が段々強くなり、

(まさちゃんはふへいそうにながめて、それからけっしんして、)

マサちゃんは不平そうにながめて、それから決心して、

(めかくしをしてあるきだしました。)

目かくしをして歩きだしました。

(じぶんのあしのくせと、よこからふいてくるかぜのちからとを、まさちゃんはあたまにおいて、)

自分の足のくせと、横から吹いてくる風の力とを、マサちゃんは頭において、

(けんめいにまっすぐあるこうとしました。)

けんめいにまっすぐ歩こうとしました。

(かぜは、ときどきさーっとふきつけてきました。)

風は、時々サーッと吹きつけてきました。

(かぜにまけてなるものか。まさちゃんははをくいしばって、すすんでいきました。)

風に負けてなるものか。マサちゃんは歯をくいしばって、進んでいきました。

(「ばかー」おや、なにかきこえたとおもったが、きのせいのようでした。)

「ばかー」おや、なにか聞こえたと思ったが、気のせいのようでした。

(けれど、またさーっとふいてくるかぜがかおをなでて、)

けれど、またサーッと吹いてくる風が顔をなでて、

など

(めかくしのはんかちのしたのみみもとで、「ばかー、ばかー」といっています。)

目かくしのハンカチの下の耳もとで、「ばかー、ばかー」と言っています。

(まさちゃんはがまんしました。)

マサちゃんは我慢しました。

(それでもかぜは、またふきつけてきて、みみもとでこえをたてました。)

それでも風は、また吹きつけてきて、耳もとで声をたてました。

(もうしんぼうができませんでした。いきなりどなりかえしてやりました。)

もうしんぼうができませんでした。いきなり怒鳴りかえしてやりました。

(「ばか、ばかー」かぜも「ばかー、ばかー」と、どなりました。)

「ばか、ばかー」風も「ばかー、ばかー」と、怒鳴りました。

(まさちゃんもこえをはりあげてどなりました。「ばか、ばかー」)

マサちゃんも声をはりあげて怒鳴りました。「ばか、ばかー」

(みていたこどもたちは、びっくりしました。)

見ていた子供たちは、びっくりしました。

(かけていって、まさちゃんをひきとめました。)

駆けていって、マサちゃんを引き留めました。

(が、まさちゃんは、めかくしをとられても、かぜがふいてくると、)

が、マサちゃんは、目かくしを取られても、風が吹いてくると、

(そのほうへむいてどなりました。「ばかー、ばかー」)

そのほうへ向いて怒鳴りました。「ばかー、ばかー」

(みんなしんぱいしました。まさちゃんがきちがいになったのだとおもいました。)

みんな心配しました。マサちゃんがキチガイになったのだと思いました。

(そして、むりにいえへつれかえりました。)

そして、無理に家へ連れ帰りました。

(とちゅうでも、まさちゃんはかぜにむかって、「ばか、ばかー」とどなっていました。)

途中でも、マサちゃんは風に向って、「ばか、ばかー」と怒鳴っていました。

(いえにかえって、しずかなへやのなかでおちつくと、まさちゃんはもうどなりもせず、)

家に帰って、静かな部屋の中で落ち着くと、マサちゃんはもう怒鳴りもせず、

(ゆめからさめたように、きょとんとしていました。)

夢から覚めたように、キョトンとしていました。

(おとうさんとおかあさんがしんぱいそうに、まさちゃんのようすをながめました。)

お父さんとお母さんが心配そうに、マサちゃんの様子をながめました。

(「どうしたんですか」と、おかあさんがたずねました。)

「どうしたんですか」と、お母さんが尋ねました。

(まさちゃんは、めかくしをしてまっすぐあるくあそびをしたことをはなしました。)

マサちゃんは、目かくしをしてまっすぐ歩く遊びをしたことを話しました。

(それからかぜのこともはなしました。「かぜが、ばかー、ばかーとわるぐちをいうから、)

それから風のことも話しました。「風が、ばかー、ばかーと悪ぐちを言うから、

(ぼくも、ばかーといいかえしてやったんです」)

僕も、ばかーと言い返してやったんです」

(おとうさんはわらいました。「それは、おまえのほうが、ばかだよ。)

お父さんは笑いました。「それは、お前のほうが、ばかだよ。

(かぜにさからってもつまらない。かぜというものは、つよくなったりよわくなったり、)

風に逆らってもつまらない。風というものは、強くなったり弱くなったり、

(いきをついてふくから、そのなかをまっすぐにあるくのはむずかしいよ。)

息をついて吹くから、その中をまっすぐに歩くのは難しいよ。

(きのはっぱだって、まっすぐにおちたり、)

木の葉っぱだって、まっすぐに落ちたり、

(ななめにふきとばされたりしているじゃないか」)

ななめに吹き飛ばされたりしているじゃないか」

(がらすどのそとには、まだかぜがふいていました。)

ガラス戸の外には、まだ風が吹いていました。

(にわのすみにあるしいのふるいはっぱが、ひとつふたつちっていました。)

庭のすみにあるシイの古い葉っぱが、一つ二つ散っていました。

(かぜにふかれてよこにとんでいるかとおもうと、)

風に吹かれて横に飛んでいるかと思うと、

(かぜがちょっといきをするあいだ、まっすぐにおちます。)

風がちょっと息をするあいだ、まっすぐに落ちます。

(かとおもうと、またさーっとかぜがきて、はっぱはひらひらとふきとばされます。)

かと思うと、またサーッと風がきて、葉っぱはヒラヒラと吹き飛ばされます。

(「かぜって、いきをするんですか」と、まさちゃんはいいました。)

「風って、息をするんですか」と、マサちゃんは言いました。

(「うむ、いきをするよ。いきをするというより、かぜはいきなんだよ」)

「うむ、息をするよ。息をするというより、風は息なんだよ」

(「なんのいきですか」「なんのいきって。どういったらいいかなあ。)

「なんの息ですか」「なんの息って。どう言ったらいいかなあ。

(くうきのいき、かみさまのいき、いろんなもののいき。そう、ただのいきだよ」)

空気の息、神様の息、色んなものの息。そう、ただの息だよ」

(「ただのいきですか」「そうだよ」「ばかなやつだな」)

「ただの息ですか」「そうだよ」「ばかな奴だな」

(おとうさんはこえたかくわらいました。まさちゃんもおかあさんもいっしょにわらいました。)

お父さんは声たかく笑いました。マサちゃんもお母さんも一緒に笑いました。

(がらすどのそとには、しいのはっぱがときどきちっています。)

ガラス戸の外には、シイの葉っぱが時々散っています。

(ことりがないています。ゆうがたのあかいひがそらにさしています。)

小鳥が鳴いています。夕方の赤い陽が空にさしています。

(そしてかぜは、いきをついてはさーっさーっとふいています。)

そして風は、息をついてはサーッサーッと吹いています。

(「ばかなかぜだな」まさちゃんははればれとわらいました。)

「ばかな風だな」マサちゃんは晴れ晴れと笑いました。

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