貯水池-2-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってしまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 tetsumi 5436 B++ 5.5 97.2% 764.3 4277 122 77 2024/11/06
2 じゅん 4213 C 4.4 94.6% 919.5 4105 231 77 2024/11/08
3 daifuku 3577 D+ 3.7 94.7% 1101.0 4171 232 77 2024/09/15

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問題文

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(かーすてれおからかつぜつのわるいこえがながれてくる。)

カーステレオからカツゼツの悪い声が流れてくる。

(ししょうはかんぜんにいながわじゅんじをぎゃぐとしてとらえていて、)

師匠は完全に稲川淳二をギャグとしてとらえていて、

(きぶんがしずみがちなときにはそのかいだんばなしをけらけらわらいながらききながして)

気分が沈みがちな時にはその怪談話をケラケラ笑いながら聞き流して

(どらいぶするというのがつねだった。)

ドライブするというのが常だった。

(ぼくはそのころまだいながわじゅんじをわらえるほどすれてはいなく、)

僕はその頃まだ稲川淳二を笑えるほどスレてはいなく、

(そのどくとくのくちょうによるかいいのびょうしゃにすこしぞくぞくしながら)

その独特の口調による怪異の描写に少しゾクゾクしながら

(じょしゅせきでおとなしくなっていた。)

助手席で大人しくなっていた。

(あめのふりつづくなかをくるまははしり、やがてちょすいちのあるどうろにさしかかった。)

雨の降り続く中を車は走り、やがて貯水池のある道路にさしかかった。

(ししょうはぎあをにそくにおとし、にめーとるあまりのたかさのふぇんすを)

師匠はギアを2速に落とし、2メートルあまりの高さのフェンスを

(ひだりてにみながらそろそろとすすむ。あめがくるまのまどやぼんねっとにはねるおとと、)

左手に見ながらそろそろと進む。雨が車の窓やボンネットに跳ねる音と、

(わいぱーががらすをするきゅっきゅっ、というおとがやけにおおきくひびき、)

ワイパーがガラスを擦るキュッキュッ、という音がやけに大きく響き、

(ぼくはすこしこころぼそくなってきた。「あれかな」)

僕は少し心細くなってきた。「あれかな」

(ししょうのこえにしせんをあげると、くるまのらいとにはんしゃするあまつぶのむこうに)

師匠の声に視線を上げると、車のライトに反射する雨粒の向こうに

(ひとかげらしきものがみえた。だんだんとちかづくにつれ、)

人影らしきものが見えた。だんだんと近づくにつれ、

(それがふぇんすのむこうがわにいることにきづく。)

それがフェンスの向こう側にいることに気づく。

(ちかくにみんかもなく、ひとどおりもない。)

近くに民家もなく、人通りもない。

(そこにあめのなか、ましてよるにひとりでちょすいちにたたずんでいるひとかげが、)

そこに雨の中、まして夜に一人で貯水池に佇んでいる人影が、

(まともなにんげんだとはおもえない。すくなくともぼくのよくしるせかいのおいては。)

まともな人間だとは思えない。少なくとも僕の良く知る世界のおいては。

(さらにすぴーどをおとしてくるまはすすむ。)

さらにスピードを落として車は進む。

(そしてあと10めーとるというきょりにきたとき、いひょうをつかれることがおこった。)

そしてあと10メートルという距離に来た時、意表を突かれることが起こった。

など

(そのふーどをすっぽりとかぶったひとかげが、みぎてをあげたのである。)

そのフードをすっぽりとかぶった人影が、右手を挙げたのである。

(まるで「のせてくれ」といいたいかのように。)

まるで「乗せてくれ」と言いたいかのように。

(ぼくのしるせかいにおいてなじみのあるしぐさにいっしゅんこんらんし、)

僕の知る世界において馴染みのある仕草に一瞬混乱し、

(つぎにおこったおもいは「のせてあげないといけない」という)

次に起こった思いは「乗せてあげないといけない」という

(しごくとうぜんのにんげんしんりだった。あめのなか、こまっているひとがいたら)

至極当然の人間心理だった。雨の中、困っている人がいたら

(たとえたくしーでなくとものせてあげるだろう?)

たとえタクシーでなくとも乗せてあげるだろう?

(その、いっけんするとただしいようにみえるちゃくそうは、くちにしたとたん)

その、一見すると正しいように見える着想は、口にしたとたん

(つぎのしゅんかんししょうのひとことにかきけされた。)

次の瞬間師匠の一言に掻き消された。

(「あれはやばい」きんぱくしたこえだった。)

「あれはヤバイ」緊迫した声だった。

(くらっちをふんで、ばっくするべきか、せつなのまよいのあとで)

クラッチを踏んで、バックするべきか、刹那の迷いのあとで

(ししょうのあしはぜんかいであくせるをふみこんでいた。)

師匠の足は全開でアクセルを踏み込んでいた。

(せもたれにおしつけられるようなかそくにいきをつまらせ、)

背もたれに押し付けられるような加速に息を詰まらせ、

(しんぞうがしゃっくりあげる。「どうしたんですか」ようやくそれだけをいうと、)

心臓がしゃっくりあげる。「どうしたんですか」ようやくそれだけを言うと、

(じょしゅせきのまどからみぎてをあげたままのくろいひとかげがふぇんすのむこうに)

助手席の窓から右手を挙げたままの黒い人影がフェンスの向こうに

(たっているすがたがいっしゅんみえて、そしてすぐにこうほうへとびさっていった。)

立っている姿が一瞬見えて、そしてすぐに後方へ飛び去って行った。

(かおもみえないあいてと、なぜかめがあったようなきがした。)

顔も見えない相手と、なぜか目が合ったような気がした。

(「あめにぬれてとほうにくれてるひとが、なんでふぇんすのむこうがわにいるんだ」)

「雨に濡れて途方にくれてるヒトが、なんでフェンスの向こう側にいるんだ」

(にんげんじゃないんだよ!そんなことばがししょうのくちからたばしった。)

人間じゃないんだよ!そんな言葉が師匠の口から迸った。

(ふぇんすはたかい。じょうぶにはてつじょうもうもついている。)

フェンスは高い。上部には鉄条網もついている。

(そしてちょすいちにかってにはいりこめないように、ゆいいつのでいりぐちは)

そして貯水池に勝手に入り込めないように、唯一の出入り口は

(じょうまえにかたくとざされている。)

錠前に固く閉ざされている。

(そのむこうがわに、くるまにのせてほしいひとがいるはずは、たしかにないのだった。)

その向こう側に、車に乗せて欲しい人がいるはずは、確かにないのだった。

(そんなとうぜんのしこうをにぶらされ、ぼくひとりならそのままかくじつに)

そんな当然の思考を鈍らされ、僕一人ならそのまま確実に

(こころのすきにつけこまれていた。)

心の隙につけこまれていた。

(ぞっとするおもいで、ぼうぜんとぜんぽうをみるほかはなかった。)

ゾッとする思いで、呆然と前方を見るほかはなかった。

(しかしすぐにきをふるいたたせ、うしろをふりかえる。)

しかしすぐに気を奮い立たせ、後ろを振り返る。

(りあういんどのむこうはくらいやみにとざされ、もうなにもみえない。)

リアウインドの向こうは暗い闇に閉ざされ、もう何も見えない。

(そうおもったしゅんかんに、なんともいえないおかんがせすじをはしり、)

そう思った瞬間に、なんとも言えない悪寒が背筋を走り、

(しせんがこうぶざせきのしーとにゆっくりとおちた。)

視線が後部座席のシートにゆっくりと落ちた。

(ひょうめんがみずでぬれて、かすかにひかってみえる。)

表面が水で濡れて、かすかに光って見える。

(おんながこつねんとしゃちゅうからきえる、ぬれおんなというかいだんがあたまをよぎり、)

女が忽然と車中から消える、濡れ女という怪談が頭をよぎり、

(ついさいきんよんだのはあれはえんどうしゅうさくのはなしだったかとしこうが)

つい最近読んだのはあれは遠藤周作の話だったかと思考が

(めぐりそうになったが、せきずいはんしゃてきにでたじぶんのさけびごえにわれにかえる。)

巡りそうになったが、脊髄反射的に出た自分の叫び声に我に返る。

(「のせてなんかいないのに!」)

「乗せてなんかいないのに!」

(ぼくのことばに、ししょうもくびをひねってこうぶざせきをいちべつする。)

僕の言葉に、師匠も首を捻って後部座席を一瞥する。

(そして、だっしゅぼーどからぞうきんをとりだしたかとおもうとこちらにほうり、)

そして、ダッシュボードから雑巾を取り出したかと思うとこちらに放り、

(「ふいといて」といった。)

「拭いといて」と言った。

(あぜんとしかけたがすぐにりせいがはんのうし、ざせきをたおして)

唖然としかけたがすぐに理性が反応し、座席を倒して

(はれものにさわるようなてつきでこうぶざせきのしーとのみずをふきとると、)

腫れ物に触るような手つきで後部座席のシートの水を拭き取ると、

(ししょうのかおをみてうなずくのをかくにんしてからしゅどうでくるくるとういんどがらすをさげ、)

師匠の顔を見て頷くのを確認してから手動でくるくるとウインドガラスを下げ、

(ひらくじかんもおしんでわずかなすきまからそとへとそのぞうきんをなげすてた。)

開く時間も惜しんでわずかな隙間から外へとその雑巾を投げ捨てた。

(まだしんぞうがどきどきしている。)

まだ心臓がドキドキしている。

(てについたしょうりょうのすいぶんを、おぞましいものであるかのように)

手についた少量の水分を、おぞましい物であるかのように

(じーんずのももになすりつける。くるまは、すでにたいこうしゃのあるひろいみちにでている。)

ジーンズの腿に擦り付ける。車は、すでに対向車のある広い道に出ている。

(それでもいやなかんかくはきえない。)

それでも嫌な感覚は消えない。

(どうきがはやくなったせいか、くるまのふろんとがらすがくもりはじめた。)

動悸が早くなったせいか、車のフロントガラスが曇りはじめた。

(「これはちょっとすごいな」ししょうのくちょうは、すでにれいせいなものにもどっている。)

「これはちょっと凄いな」師匠の口調は、すでに冷静なものに戻っている。

(しかし、そのことばのむかうさきをみて、ぼくのしんぞうはふたたびひめいをあげる。)

しかし、その言葉の向かう先を見て、僕の心臓は再び悲鳴をあげる。

(ふろんとがらすいちめんに、てのひらのあとがうかびあがってきたのである。)

フロントガラス一面に、手の平の跡が浮かび上がって来たのである。

(そとがわではない。わいぱーがうごいている。うちがわなのだ。ふろんとがらすのうちがわをなでると)

外側ではない。ワイパーが動いている。内側なのだ。フロントガラスの内側を

(ひしがつくのか、そのままではなにもみえないが、)

撫でると皮脂がつくのか、そのままでは何も見えないが、

(くもりはじめたとたんにそのかたちがうかびあがってくることがある。)

曇り始めたとたんにその形が浮かび上がって来ることがある。

(まさにそれがいまおこっている。)

まさにそれが今起こっている。

(けれど、やはりぼくらはのせてなんかいないのだった。)

けれど、やはり僕らは乗せてなんかいないのだった。

(ちょすいちのゆうれいなんかを。)

貯水池の幽霊なんかを。

(ししょうはじぶんのふくのそででしょうめんのがらすを、いちめんのてのひらのあとをふきながら、)

師匠は自分の服の袖で正面のガラスを、一面の手の平の跡を拭きながら、

(「やっぱりすてなきゃよかったかな、ぞうきん」といった。)

「やっぱり捨てなきゃ良かったかな、雑巾」と言った。

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