『蜘蛛の糸』芥川竜之介1
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | BE | 4217 | C | 4.6 | 92.1% | 591.6 | 2726 | 231 | 51 | 2024/10/30 |
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問題文
(あるひのことでございます。おしゃかさまはごくらくのはすいけのふちを、)
ある日のことでございます。お釈迦様は極楽のハス池のふちを、
(ひとりでぶらぶらおあるきになっていらっしゃいました。)
一人でブラブラお歩きになっていらっしゃいました。
(いけのなかにさいているはすのはなは、みんなたまのようにまっしろで、)
池の中に咲いているハスの花は、みんな玉のように真っ白で、
(そのまんなかにあるきんいろのおしべとめしべからは、)
その真ん中にある金色のおしべとめしべからは、
(なんともいえないよいにおいが、たえまなくあたりへあふれております。)
なんともいえないよい匂いが、絶間なくあたりへあふれております。
(ごくらくは、ちょうどあさなのでございましょう。)
極楽は、ちょうど朝なのでございましょう。
(やがておしゃかさまはそのいけのふちにおたちになって、)
やがてお釈迦様はその池のふちにお立ちになって、
(すいめんをおおっているはすのはのあいだから、ふとしたのようすをごらんになりました。)
水面を覆っているハスの葉のあいだから、ふと下の様子をご覧になりました。
(このごくらくのはすいけのしたは、ちょうどじごくのそこにあたっておりますから、)
この極楽のハス池の下は、ちょうど地獄の底に当っておりますから、
(すいしょうのようなみずをすきとおして、さんずのかわやはりのやまのけしきが、)
水晶のような水を透き通して、三途の川や針の山の景色が、
(ちょうどのぞきめがねをみるように、はっきりとみえるのでございます。)
ちょうど覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。
(するとそのじごくのそこに、かんだたというおとこがひとり、)
するとその地獄の底に、カンダタという男が一人、
(ほかのざいにんといっしょにうごめいているすがたが、めにとまりました。)
ほかの罪人と一緒にうごめいている姿が、目に留まりました。
(このかんだたというおとこは、ひとをころしたりいえにひをつけたり、)
このカンダタという男は、人を殺したり家に火をつけたり、
(いろいろなあくじをはたらいたおおどろぼうでございますが、それでもたったひとつ、)
色々な悪事を働いた大泥棒でございますが、それでもたった一つ、
(よいことをいたしたおぼえがございます。)
善いことを致した覚えがございます。
(ともうしますのは、あるときこのおとこがふかいはやしのなかをとおりますと、)
と申しますのは、ある時この男が深い林の中を通りますと、
(ちいさなくもがいっぴき、みちばたをはっていくのがみえました。)
小さな蜘蛛が一匹、道ばたを這っていくのが見えました。
(そこでかんだたはさっそくあしをあげて、ふみころそうといたしましたが、)
そこでカンダタは早速足を上げて、踏み殺そうと致しましたが、
(「いやいや、これもちいさいながら、いのちのあるものにちがいない。)
「いやいや、これも小さいながら、命のあるものに違いない。
(そのいのちをむやみにとるということは、いくらなんでもかわいそうだ」と、)
その命をむやみにとるということは、いくらなんでも可哀想だ」と、
(こうきゅうにおもいかえして、とうとうそのくもをころさずに)
こう急に思い返して、とうとうその蜘蛛を殺さずに
(たすけてやったからでございます。)
助けてやったからでございます。
(おしゃかさまはじごくのようすをごらんになりながら、)
お釈迦様は地獄の様子をご覧になりながら、
(このかんだたにはくもをたすけたことがあるのを、おもいだしになりました。)
このカンダタには蜘蛛を助けたことがあるのを、思い出しになりました。
(そうしてそれだけのよいことをしたむくいには、)
そうしてそれだけの善いことをした報いには、
(できるならこのおとこをじごくからすくいだしてやろうと、おかんがえになりました。)
出来るならこの男を地獄から救い出してやろうと、お考えになりました。
(さいわい、そばをみますと、ひすいのようないろをしたはすのはのうえに、)
幸い、そばを見ますと、翡翠のような色をしたハスの葉の上に、
(ごくらくのくもがいっぴき、うつくしいぎんいろのいとをかけております。)
極楽の蜘蛛が一匹、美しい銀色の糸をかけております。
(おしゃかさまはそのくものいとをそっとおてにおとりになって、)
お釈迦様はその蜘蛛の糸をそっとお手にお取りになって、
(たまのようなしろいはすのあいだから、はるかしたにあるじごくのそこへ、)
玉のような白いハスのあいだから、遥か下にある地獄の底へ、
(まっすぐにそれをおろしなさいました。)
まっすぐにそれを降ろしなさいました。
(こちらはじごくのそこのちのいけで、)
こちらは地獄の底の血の池で、
(ほかのざいにんといっしょに、ういたりしずんだりしていたかんだたでございます。)
ほかの罪人と一緒に、浮いたり沈んだりしていたカンダタでございます。
(なにしろどちらをみてもまっくらで、)
なにしろどちらを見ても真っ暗で、
(たまにそのくらやみからぼんやりうきあがっているものがあるとおもいますと、)
たまにその暗闇からぼんやり浮き上っているものがあると思いますと、
(それはおそろしいはりのやまのはりがひかるのでございますから、)
それは恐ろしい針の山の針が光るのでございますから、
(そのこころぼそさといったらございません。)
その心細さといったらございません。
(そのうえあたりはおはかのなかのようにしんとしずまりかえって、)
その上あたりはお墓の中のようにシンと静まり返って、
(たまにきこえるものといっては、)
たまに聞こえるものといっては、
(ただざいにんがはくかすかなためいきばかりでございます。)
ただ罪人が吐くかすかな溜め息ばかりでございます。
(これは、ここへおちてくるにんげんがさまざまなじごくのせめくにつかれはてて、)
これは、ここへ落ちてくる人間が様々な地獄の責め苦に疲れ果てて、
(なきごえをだすちからさえなくなっているのでございましょう。)
泣き声を出す力さえなくなっているのでございましょう。
(ですからさすがのおおどろぼうかんだたでも、やはりちのいけのちにむせびながら、)
ですからさすがの大泥棒カンダタでも、やはり血の池の血にむせびながら、
(まるでしにかかったかえるのように、ただもがいてばかりおりました。)
まるで死にかかったカエルのように、ただもがいてばかりおりました。
(ところがあるときのことでございます。)
ところがある時のことでございます。
(なにげなくかんだたがあたまをあげて、ちのいけのそらをながめますと、)
何気なくカンダタが頭を上げて、血の池の空を眺めますと、
(そのひっそりとしたやみのなかを、とおいとおいてんじょうから、ぎんいろのくものいとが、)
そのひっそりとした闇の中を、遠い遠い天上から、銀色の蜘蛛の糸が、
(まるでひとめにかかるのをおそれるように、ひとすじにほそくひかりながら、)
まるで人目にかかるのを恐れるように、一筋に細く光りながら、
(するするとじぶんのうえへたれてまいるではございませんか。)
スルスルと自分の上へ垂れて参るではございませんか。
(かんだたはこれをみると、おもわずてをうってよろこびました。)
カンダタはこれを見ると、思わず手を打って喜びました。