『怪人二十面相』江戸川乱歩8
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(たけぎれはさんじゅっせんちほどのながさでした。)
竹切れは三十センチほどの長さでした。
(たぶんそうじくんがにわであそんでいて、そのへんにすてて)
たぶん壮二君が庭で遊んでいて、その辺に捨てて
(おいたものでしょう。ひっぱると、たけはなんなく)
おいた物でしょう。引っ張ると、竹は難なく
(ずるずるとのびてきました。しかし、たけだけでは)
ズルズルと伸びてきました。しかし、竹だけでは
(なかったのです。たけのさきには、いけのどろでまっくろに)
なかったのです。竹の先には、池の泥で真っ黒に
(なったにんげんのてが、しがみついていたでは)
なった人間の手が、しがみついていたでは
(ありませんか。いや、てだけではありません。)
ありませんか。いや、手だけではありません。
(てのつぎには、びしょぬれになった、)
手の次には、びしょ濡れになった、
(うみぼうずのようなひとのすがたが、にゅーっと)
海坊主のような人の姿が、ニューッと
(あらわれたではありませんか。)
現れたではありませんか。
(「じゅじょうのかいじん」)
「樹上の怪人」
(それからいけのきしで、どんなことがおこったかは、)
それから池の岸で、どんなことが起こったかは、
(しばらくどくしゃしょくんのごそうぞうにまかせます。)
しばらく読者諸君のご想像に任せます。
(ご、ろっぷんごには、ふだんのまつのうんてんしゅが、)
五、六分後には、普段の松野運転手が、
(なにごともなかったように、おなじいけのきしにたって)
何事もなかったように、同じ池の岸に立って
(おりました。すこしいきづかいがはげしいようです。)
おりました。少し息遣いが激しいようです。
(そのほかには、かわったところもみえません。かれは、)
その他には、変わった所も見えません。彼は、
(いそいでおもやのほうへあるきはじめました。)
急いで母屋のほうへ歩き始めました。
(どうしたのでしょうか。すこしかたあしをひきずって)
どうしたのでしょうか。少し片足を引きずって
(います。でもぐんぐんにわをよこぎって、)
います。でもグングン庭を横切って、
(おもてもんまでやってきました。おもてもんには)
表門までやってきました。表門には
(ふたりのひしょが、ぼくとうのようなものをもって、)
二人の秘書が、木刀のような物を持って、
(みはりばんをつとめています。まつのはそのまえまで)
見張り番を務めています。松野はその前まで
(いくと、なにかくるしそうにひたいにてをあてて、)
行くと、何か苦しそうにひたいに手をあてて、
(「ぼくはさむけがしてしょうがない。)
「ぼくは寒気がしてしょうがない。
(ねつがあるようだ。すこしやすませてもらうよ」と、)
熱があるようだ。少し休ませてもらうよ」と、
(ちからのないこえでいうのです。「ああ、まつのくんか、)
力のない声で言うのです。「ああ、松野君か、
(いいとも、やすみたまえ。ここはぼくたちが)
いいとも、休みたまえ。ここはぼくたちが
(ひきうけるから」ひしょのひとりがげんきよく)
引き受けるから」 秘書の一人が元気よく
(こたえました。まつのうんてんしゅはあいさつをして、)
答えました。 松野運転手はあいさつをして、
(げんかんわきのがれーじのなかへすがたをけしました。)
玄関脇のガレージの中へ姿を消しました。
(そのがれーじのうらがわに、かれのへやがあるのです。)
そのガレージの裏側に、彼の部屋があるのです。
(それからあさまでは、いじょうもなくすぎさりました。)
それから朝までは、異常もなく過ぎ去りました。
(おもてもんもうらもんも、だれもつうかしたものはおりません。)
表門も裏門も、だれも通過した者はおりません。
(へいのそとのみはりをしていたおまわりさんたちも、)
塀の外の見張りをしていたお巡りさんたちも、
(ぞくらしいひとかげにはであいませんでした。しちじには、)
賊らしい人影には出会いませんでした。七時には、
(けいしちょうからおおぜいのかかりかんがきて、ていないのとりしらべを)
警視庁から大勢の係官が来て、邸内の取り調べを
(はじめました。そしてとりしらべがすむまで、)
始めました。そして取り調べが済むまで、
(いえのものはいっさいのがいしゅつをきんじられたのですが、)
家の者は一切の外出を禁じられたのですが、
(がくせいだけはしかたがありません。かどわきちゅうがっこうさんねんせいの)
学生だけは仕方がありません。門脇中学校三年生の
(さなえさんと、たかちほしょうがっこうごねんせいのそうじくんは、)
早苗さんと、高千穂小学校五年生の壮二君は、
(じかんがくると、いつものようにじどうしゃでやしきを)
時間が来ると、いつものように自動車で屋敷を
(でました。うんてんしゅは、まだげんきのないようすで)
出ました。 運転手は、まだ元気のない様子で
(あまりくちもきかず、うなだれてばかりいましたが、)
余り口もきかず、うなだれてばかりいましたが、
(がっこうにおくれてはいけないとおもい、うんてんせきに)
学校に遅れてはいけないと思い、運転席に
(つきました。けいしちょうのなかむらそうさかかりちょうは、)
つきました。 警視庁の中村捜査係長は、
(まずしゅじんのそうたろうしと、はんざいげんばのしょさいでめんかいして、)
まず主人の壮太郎氏と、犯罪現場の書斎で面会して、
(じけんのいちぶしじゅうをくわしくききとったうえ、)
事件の一部始終を詳しく聞き取った上、
(ひととおりていないのひとびとをとりしらべてから、ていえんの)
一通り邸内の人々を取り調べてから、庭園の
(そうさくにとりかかりました。「ゆうべ、わたしたちが)
捜索にとりかかりました。「ゆうべ、私たちが
(かけつけてからただいままで、やしきをでたものは)
駆けつけてからただ今まで、屋敷を出た者は
(ひとりもおりません。へいをのりこえたものも)
一人もおりません。塀を乗り越えた者も
(おりません。このてんは、じゅうぶんしんようして)
おりません。この点は、充分信用して
(いただいていいとおもいます」しょかつけいさつしょの)
いただいていいと思います」 所轄警察署の
(しゅにんけいじが、なかむらかかりちょうにだんげんしました。)
主任刑事が、中村係長に断言しました。
(「すると、ぞくはまだていないにせんぷくしている)
「すると、賊はまだ邸内に潜伏している
(というのですね」「そうです。そうとしかかんがえ)
というのですね」「そうです。そうとしか考え
(られません。しかし、けさからまたそうさくを)
られません。しかし、今朝からまた捜索を
(はじめさせているのですが、いままでのところ)
始めさせているのですが、今までのところ
(なんのはっけんもありません。ただ、いぬのしがいがある)
何の発見もありません。ただ、犬の死骸がある
(ほかには、なにもないです」「え、いぬのしがいだって」)
他には、なにも無いです」「え、犬の死骸だって」
(「ここのいえでは、ぞくにそなえるために、)
「ここの家では、賊に備えるために、
(じょんといういぬをかっていたのですが、)
ジョンという犬を飼っていたのですが、
(それがゆうべのうちにどくししていました。)
それがゆうべのうちに毒死していました。
(しらべてみると、ここのむすこさんにばけた)
調べてみると、ここの息子さんに化けた
(にじゅうめんそうのやつがきのうのゆうがた、にわにでて)
二十面相の奴が昨日の夕方、庭に出て
(そのいぬになにかたべさせていたということが)
その犬に何か食べさせていたということが
(わかりました。じつによういしゅうとうなやりかたです。)
分かりました。実に用意周到なやり方です。
(もし、ここのぼっちゃんが、わなをしかけて)
もし、ここの坊ちゃんが、罠を仕掛けて
(おかなかったら、やつはやすやすとにげさって)
おかなかったら、奴はやすやすと逃げ去って
(いたにちがいありません」「では、もういちどにわを)
いたに違いありません」「では、もう一度庭を
(さがしてみましょう。ずいぶんひろいにわだから、)
探してみましょう。ずいぶん広い庭だから、
(どこにどんなかくればしょがあってもおかしくない」)
どこにどんな隠れ場所があってもおかしくない」
(ふたりがそんなたちばなしをしているところへ、にわのやまのむこう)
二人がそんな立ち話をしている所へ、庭の山の向こう
(から、まのぬけたさけびごえがきこえてきました。)
から、間の抜けた叫び声が聞こえてきました。
(「ちょっときてください。はっけんしました。)
「ちょっと来てください。発見しました。
(ぞくをはっけんしました」そのさけびごえとともに、にわの)
賊を発見しました」 その叫び声と共に、庭の
(あちこちから、あわただしいくつおとがおこりました。)
あちこちから、慌ただしい靴音がおこりました。
(けいかんたちがげんばへかけつけるのです。なかむらかかりちょうと)
警官たちが現場へ駆けつけるのです。中村係長と
(しゅにんけいじも、こえをめあてにはしりだしました。)
主任刑事も、声を目あてに走りだしました。
(いってみると、こえのぬしははしばしのひしょの)
行ってみると、声のヌシは羽柴氏の秘書の
(ひとりでした。かれはもりのようなこだちのなかの、)
一人でした。彼は森のような木立ちの中の、
(いっぽんのおおきなしいのきのしたにたって、しきりと)
一本の大きなシイの木の下に立って、しきりと
(うえのほうをゆびさしているのです。「あれです。)
上のほうを指さしているのです。「あれです。
(あそこにいるのは、たしかにぞくです。)
あそこにいるのは、確かに賊です。
(ようふくにみおぼえがあります」しいのきは、)
洋服に見覚えがあります」 シイの木は、
(ねもとからさんめーとるほどのところで、ふたまたに)
根元から三メートルほどの所で、二またに
(わかれているのですが、そのまたになったところに、)
わかれているのですが、そのまたになった所に、
(しげったえだにかくれて、ひとりのにんげんが)
しげった枝に隠れて、一人の人間が
(みょうなかっこうをして、よこたわっていました。)
みょうなかっこうをして、横たわっていました。
(こんなにさわいでも、にげだそうともしない)
こんなに騒いでも、逃げ出そうともしない
(ところをみると、ぞくはいきたえているのでしょうか。)
ところをみると、賊は息絶えているのでしょうか。
(それとも、きをうしなっているのでしょうか。)
それとも、気を失っているのでしょうか。
(まさか、きのうえでいねむりをしているなんてことは)
まさか、木の上で居眠りをしているなんてことは
(ないでしょう。「だれか、あいつをひきおろして)
ないでしょう。「だれか、あいつを引き下ろして
(くれたまえ」かかりちょうのめいれいに、さっそくはしごが)
くれたまえ」 係長の命令に、早速ハシゴが
(はこばれて、それにのぼるもの、したからうけとめるもの、)
運ばれて、それに登る者、下から受けとめる者、
(さん、よにんのちからで、ぞくはちじょうにおろされました。)
三、四人の力で、賊は地上に下ろされました。
(「おや、しばられているじゃないか」)
「おや、しばられているじゃないか」