白石文吾 笑うところ

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タグ小説 自作
自作です。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 饅頭餅美 4338 C+ 4.6 93.5% 555.5 2587 177 73 2024/11/05

問題文

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(ぽん。)

ぽん。

(みぎかたをかるくたたかれた。ああそうか。)

右肩を軽く叩かれた。ああそうか。

(「あはははははははは」)

「あはははははははは」

(そうざいぱっくのあさづけにのばしかけていたはしをとめ、てれびのがめんにむかって)

惣菜パックの浅漬けにのばしかけていた箸を止め、TVの画面に向かって

(ぼくはわらう。)

僕は笑う。

(いま、くろめがねのこめでぃあんがくちにしたじょーくはしゅういつだ。)

今、黒眼鏡のコメディアンが口にしたジョークは秀逸だ。

(すたじおのかんきゃくもいっせいにわらっている。)

スタジオの観客も一斉に笑っている。

(ぼくはしょくじをつづける。 )

僕は食事を続ける。

(ぽん。)

ぽん。

(みぎかたをかるくたたかれた。ああそうか。)

右肩を軽く叩かれた。ああそうか。

(「かってなこというなよ」ぼくはこえにいかりをあらわにする。「れんらくしてこなくなった)

「勝手なこと言うなよ」僕は声に怒りをあらわにする。「連絡してこなくなった

(のはそっちのほうだろ。おれはなんどもなんどもでんわしたんだぞ」)

のはそっちの方だろ。俺は何度も何度も電話したんだぞ」

(けいたいのむこうがわであいてがどんなひょうじょうをしているのか、ぼくにはおもいうかばない。)

携帯の向こう側で相手がどんな表情をしているのか、僕には思い浮かばない。

(はんとしのあいだちくせきしてきたふんまんをぼくははきだしつづけ、)

半年のあいだ蓄積してきた憤懣を僕は吐き出し続け、

(やがてでんわはむこうからそっときれた。)

やがて電話は向こうからそっと切れた。

(ぼくはかいしゃからもちかえったしごとをかたづけはじめた。 )

僕は会社から持ち帰った仕事を片づけ始めた。

(ぽん。)

ぽん。

(みぎかたをかるくたたかれた。)

右肩を軽く叩かれた。

(いれたてのゆのみにくちをつけてそのあつさに「わちゃっ」ときせいをはっした)

淹れ立ての湯呑みに口をつけてその熱さに「わちゃっ」と奇声を発した

(かちょうのすがたのおかしさに、かないがくすくすわらいにみちていった。)

課長の姿の可笑しさに、課内がくすくす笑いに満ちていった。

など

(とうぜんぼくもそのいちいんになった。)

当然僕もその一員になった。

(おちゃをいれたどうりょうのおんなのこがぼくだけにむけてこっそりしたをだしてみせた。)

お茶を淹れた同僚の女の子が僕だけに向けてこっそり舌を出して見せた。

(またみぎかたをかるくたたかれ、ぼくはかのじょにういんくをした。 )

また右肩を軽く叩かれ、僕は彼女にウインクをした。

(ぽん。)

ぽん。

(「いいよね?」)

「いいよね?」

(ぼくはかのじょにきいた。ほてるがい。かのぼうねんかいのにじかいをふたりしてぬけだしてきた)

僕は彼女に訊いた。ホテル街。課の忘年会の二次会を二人して抜け出してきた

(ぼくたちは、さむさをしのげるおちついたばしょをさがしていた。)

僕たちは、寒さをしのげる落ち着いた場所を探していた。

(かのじょもみぎかたをたたかれ、すこしじょうきしたかおでうなずいた。)

彼女も右肩を叩かれ、少し上気した顔でうなずいた。

(そのかたにぼくはてをまわし、かのじょといっしょにこぎれいなほてるのいりぐちをくぐった。)

その肩に僕は手を回し、彼女と一緒に小奇麗なホテルの入り口をくぐった。

(ひとばんじゅう、ぼくたちはかたをたたかれつづけた。)

一晩中、僕たちは肩を叩かれ続けた。

(すばらしいよるだった。 )

素晴らしい夜だった。

(ぽん。)

ぽん。

(ぼくはてれわらいをうかべる。)

僕は照れ笑いを浮かべる。

(「あやしいとおもってたんだよ、おまえら」せんぱいがすこしうらやましげにいう。「そうかあ、)

「怪しいと思ってたんだよ、お前ら」先輩が少し羨まし気に言う。「そうかあ、

(あのよるからかあ」)

あの夜からかあ」

(「ほんとはさいごまでみんなにつきあうつもりだったんですけど、なんかそういう)

「ほんとは最後までみんなに付き合うつもりだったんですけど、なんかそういう

(ふんいきになっちゃって」)

雰囲気になっちゃって」

(「でもおまえ、」みぎかたをたたかれたせんぱいはすこししんぱいそうなかおをする。「まえのかのじょ、)

「でもお前、」右肩を叩かれた先輩は少し心配そうな顔をする。「前の彼女、

(まだかんぜんにおわったわけじゃないんだろ?」)

まだ完全に終わったわけじゃないんだろ?」

(ぽん。)

ぽん。

(ぼくはこんわくをうかべる。)

僕は困惑を浮かべる。

(「よくわかんないんですよ、あいつ。にもつ、ぼくのへやにおきっぱなしだし」)

「よくわかんないんですよ、あいつ。荷物、僕の部屋に置きっぱなしだし」

(「へたにすてらんないもんなあ、そういうの」)

「下手に捨てらんないもんなあ、そういうの」

(「ええ」 )

「ええ」

(ぽん。)

ぽん。

(みぎかたをかるくたたかれた。ああそうか。)

右肩を軽く叩かれた。ああそうか。

(はしりさっていくかのじょのくるまのてーるらいとをみおくってからふりかえってかいだんのすぐ)

走り去っていく彼女の車のテールライトを見送ってから振り返って階段のすぐ

(わきにたつはんとしぶりのすがたをめにし、ぼくはぎくりとする。)

脇に立つ半年ぶりの姿を目にし、僕はぎくりとする。

(ぽん。)

ぽん。

(ろうばいをかおにださないようにしながらできるだけおちついたこえで、)

狼狽を顔に出さないようにしながら出来るだけ落ち着いた声で、

(「ひさしぶり」)

「久しぶり」

(ぼくはいった。)

僕は言った。

(へんじはなかった。)

返事はなかった。

(ぽん。)

ぽん。

(ただ、かたをたたかれるおとだけがした。)

ただ、肩を叩かれる音だけがした。

(ぼくのかたではなかった。)

僕の肩ではなかった。

(かいだんよこからじぶんにかけよってくるすがたをぼくはだまってみつめていた。)

階段横から自分に駆け寄ってくる姿を僕は黙って見つめていた。

(そのこしのあたりで、なにかがつきあかりをはんしゃしてにぶくかがやいていた。 )

その腰のあたりで、何かが月明かりを反射して鈍く輝いていた。

(ぽん。)

ぽん。

(ああそうか。)

ああそうか。

(ぼくはくめいをあげた。)

僕は苦鳴をあげた。

(いたい。)

痛い。

(げきつうだ。)

激痛だ。

(じぶんのふくぶにつきたったないふのえをみおろし、それをつかむべきか)

自分の腹部に突き立ったナイフの柄を見下ろし、それを掴むべきか

(そうでないのかぼくはまよった。)

そうでないのか僕は迷った。

(ぽん。)

ぽん。

(みぎかたをかるくたたかれた。ああそうか。)

右肩を軽く叩かれた。ああそうか。

(「ばかやろう・・・・・・」)

「馬鹿野郎……」

(つぶやきながら、ぼくはそのままろじょうにくずおれていった。)

呟きながら、僕はそのまま路上にくずおれていった。

(せかいがどんどんくらさをましていく。)

世界がどんどん暗さを増していく。

(ぼくのまえにじっとたちつくしているすがたも、みえなくなっていく。)

僕の前にじっと立ち尽くしている姿も、見えなくなっていく。

(やがて、かんぜんなやみがおとずれた。 )

やがて、完全な闇が訪れた。

(ぽん。)

ぽん。

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