紫式部 源氏物語 帚木 5 與謝野晶子訳

背景
投稿者投稿者文吾いいね2お気に入り登録
プレイ回数190難易度(4.5) 6254打 長文 長文モードのみ
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 berry 7482 7.6 97.9% 809.0 6184 131 89 2024/11/08
2 kkk 6706 S+ 7.0 95.4% 887.9 6250 295 89 2024/11/14
3 だだんどん 6518 S+ 7.0 92.7% 876.0 6198 488 89 2024/11/02
4 りつ 4162 C 4.3 95.2% 1462.9 6409 319 89 2024/09/27

問題文

ふりがな非表示 ふりがな表示

(「てをおりてあいみしことをかぞうればこれひとつやはきみがうきふし )

『手を折りて相見しことを数ふればこれ一つやは君がうきふし

(いうぶんはないでしょう」というと、さすがになきだして、 )

言うぶんはないでしょう』と言うと、さすがに泣き出して、

(「うきふしをこころひとつにかぞえきてこやきみがてをわかるべきおり」 )

『うき節を心一つに数へきてこや君が手を別るべきをり』

(はんこうてきにいったりもしましたが、ほんしんではわれわれのかんけいがかいしょうされるもので)

反抗的に言ったりもしましたが、本心ではわれわれの関係が解消されるもので

(ないことをよくしょうちしながら、いくにちもいくにちもてがみひとつやらずにわたくしはかってなせいかつを)

ないことをよく承知しながら、幾日も幾日も手紙一つやらずに私は勝手な生活を

(していたのです。かものりんじまつりのちょうがくがごしょであって、ふけて、それはみぞれが)

していたのです。加茂の臨時祭りの調楽が御所であって、更けて、それは霙が

(ふるよるなのです。みながたいさんするときに、じぶんのかえっていくかていというものを)

降る夜なのです。皆が退散する時に、自分の帰って行く家庭というものを

(かんがえるとそのおんなのところよりないのです。ごしょのしゅくちょくしつでねるのもみじめだし、)

考えるとその女の所よりないのです。御所の宿直室で寝るのもみじめだし、

(またこいをふうりゅうゆうぎにしているつぼねのにょうぼうをたずねていくこともさむいことだろうと)

また恋を風流遊戯にしている局の女房を訪ねて行くことも寒いことだろうと

(おもわれるものですから、どうおもっているのだろうとようすをみがてらにゆきのなかを、)

思われるものですから、どう思っているのだろうと様子を見がてらに雪の中を、

(すこしきまりがわるいのですが、こんなばんにいってやるこころざしでおんなのうらみはきえてしまう)

少しきまりが悪いのですが、こんな晩に行ってやる志で女の恨みは消えてしまう

(わけだとおもって、はいっていくと、くらいひをかべのほうにむけてすえ、あたたかそうな)

わけだと思って、はいって行くと、暗い灯を壁のほうに向けて据え、暖かそうな

(やわらかい、わたのたくさんはいったきものをおおきなあぶりかごにかけて、わたくしがしんしつへ)

柔らかい、綿のたくさんはいった着物を大きな炙り籠に掛けて、私が寝室へ

(はいるときにあげるきちょうのきれもあげて、こんなよるにはきっとくるだろうと)

はいる時に上げる几帳のきれも上げて、こんな夜にはきっと来るだろうと

(まっていたふうがみえます。そうおもっていたのだとわたくしはとくいになりましたが、)

待っていたふうが見えます。そう思っていたのだと私は得意になりましたが、

(つまじしんはいません。なんにんかのにょうぼうだけがるすをしていまして、ちちおやのいえへ)

妻自身はいません。何人かの女房だけが留守をしていまして、父親の家へ

(ちょうどこのばんうつっていったというのです。えんなうたもよんでおかず、)

ちょうどこの晩移って行ったというのです。艶な歌も詠んで置かず、

(きのきいたことばものこさずに、じみにすっといってしまったのですから、)

気のきいた言葉も残さずに、じみにすっと行ってしまったのですから、

(つまらないきがして、やかましくしっとをしたのもわたくしにきらわせるためだった)

つまらない気がして、やかましく嫉妬をしたのも私にきらわせるためだった

(のかもしれないなどと、むしゃくしゃするものですからありうべくも)

のかもしれないなどと、むしゃくしゃするものですからありうべくも

など

(ないことまでそんたくしましたものです。しかしかんがえてみるとよういしてあったきもの)

ないことまで忖度しましたものです。しかし考えてみると用意してあった着物

(などもへいぜいいじょうによくできていますし、そういうてんではじつにありがたいしんせつが)

なども平生以上によくできていますし、そういう点では実にありがたい親切が

(みえるのです。じぶんとわかれたあとのことまでもせわしていったのですからね、)

見えるのです。自分と別れた後のことまでも世話していったのですからね、

(かのじょがどうしてわかれうるものかとわたくしはまんしんして、それからのちてがみでこうしょうを)

彼女がどうして別れうるものかと私は慢心して、それからのち手紙で交渉を

(はじめましたが、わたくしへかえるきがないでもないようだし、まったくしれないところへ)

始めましたが、私へ帰る気がないでもないようだし、まったく知れない所へ

(かくれてしまおうともしませんし、あくまではんこうてきたいどをとろうともせず、)

隠れてしまおうともしませんし、あくまで反抗的態度を取ろうともせず、

(「まえのようなふうではがまんができない、すっかりせいかつのたいどをかえて、)

『前のようなふうでは我慢ができない、すっかり生活の態度を変えて、

(いっぷいっぷのみちをとろうとおいいになるのなら」といっているのです。)

一夫一婦の道を取ろうとお言いになるのなら』と言っているのです。

(そんなことをいってもまけてくるだろうというじしんをもって、しばらくこらして)

そんなことを言ってもまけて来るだろうという自信を持って、しばらく懲らして

(やるきで、いっぷしゅぎになるともいわず、はなしをながびかせていますうちに、)

やる気で、一婦主義になるとも言わず、話を長引かせていますうちに、

(ひじょうにせいしんてきにくるしんでしんでしまいましたから、わたくしはじぶんがせめられて)

非常に精神的に苦しんで死んでしまいましたから、私は自分が責められて

(なりません。いえのつまというものは、あれほどのものでなければならないといまでも)

なりません。家の妻というものは、あれほどの者でなければならないと今でも

(そのおんながおもいだされます。ふうりゅうごとにも、まじめなもんだいにもはなしあいてにする)

その女が思い出されます。風流ごとにも、まじめな問題にも話し相手にする

(ことができましたし、またかていのしごとはどんなことにもつうじておりました。)

ことができましたし、また家庭の仕事はどんなことにも通じておりました。

(そめもののたつたひめにもなれたし、たなばたのおりひめにもなれたわけです」)

染め物の立田姫にもなれたし、七夕の織姫にもなれたわけです」

(とかたったさまのかみは、いまにもなきつまがこいしそうであった。)

と語った左馬頭は、いまにも亡き妻が恋しそうであった。

(「ぎじゅつじょうのおりひめでなく、えいきゅうのふうふのみちをいっているたなばたひめだったら)

「技術上の織姫でなく、永久の夫婦の道を行っている七夕姫だったら

(よかったですね。たつたひめもわれわれにはひつようなかみさまだからね。おとこにまずいふくそうを)

よかったですね。立田姫もわれわれには必要な神様だからね。男にまずい服装を

(させておくさいくんはだめですよ。そんなひとがはやくしぬんだから、いよいよりょうさいは)

させておく細君はだめですよ。そんな人が早く死ぬんだから、いよいよ良妻は

(えがたいということになる」 ちゅうじょうはゆびをかんだおんなをほめちぎった。)

得がたいということになる」 中将は指をかんだ女をほめちぎった。

(「そのじぶんにまたもうひとりのじょうじんがありましてね、みぶんもそれはすこしいいし、)

「その時分にまたもう一人の情人がありましてね、身分もそれは少しいいし、

(さいじょらしくうたをよんだり、たっしゃにてがみをかいたりしますし、おんがくのほうも)

才女らしく歌を詠んだり、達者に手紙を書いたりしますし、音楽のほうも

(そうとうなものだったようです。かんじのわるいきりょうでもありませんでしたから、)

相当なものだったようです。感じの悪い容貌でもありませんでしたから、

(やきもちやきのほうをせわにょうぼうにしておいて、そこへはおりおりかよっていった)

やきもち焼きのほうを世話女房にして置いて、そこへはおりおり通って行った

(ころにはおもしろいあいてでしたよ。あのおんながなくなりましたあとでは、)

ころにはおもしろい相手でしたよ。あの女が亡くなりましたあとでは、

(いくらいまさらあいせきしてもしんだものはしかたがなくて、たびたびもうひとりのおんなの)

いくら今さら愛惜しても死んだものはしかたがなくて、たびたびもう一人の女の

(ところへいくようになりますと、なんだかていさいやで、ふうりゅうおんなをひょうぼうしているてんが)

所へ行くようになりますと、なんだか体裁屋で、風流女を標榜している点が

(きにいらなくて、いっしょうのつまにしてもよいというきはなくなりました。)

気に入らなくて、一生の妻にしてもよいという気はなくなりました。

(あまりかよわなくなったころに、もうほかにれんあいのあいてができたらしいのですね、)

あまり通わなくなったころに、もうほかに恋愛の相手ができたらしいのですね、

(じゅういちがつごろのよいつきのばんに、わたくしがごしょからかえろうとすると、)

十一月ごろのよい月の晩に、私が御所から帰ろうとすると、

(あるてんじょうやくにんがきてわたくしのくるまへいっしょにのりました。わたくしはそのばんはちちのだいなごんの)

ある殿上役人が来て私の車へいっしょに乗りました。私はその晩は父の大納言の

(いえへいってとまろうとおもっていたのです。とちゅうでそのひとが、「こんやわたくしを)

家へ行って泊まろうと思っていたのです。途中でその人が、『今夜私を

(まっているおんなのいえがあって、そこへちょっとよっていってやらないではきが)

待っている女の家があって、そこへちょっと寄って行ってやらないでは気が

(すみませんから」というのです。わたくしのおんなのいえはみちすじにあたっているのですが、)

済みませんから』と言うのです。私の女の家は道筋に当たっているのですが、

(こわれたどべいからいけがみえて、にわにつきのさしているのをみると、わたくしもよって)

こわれた土塀から池が見えて、庭に月のさしているのを見ると、私も寄って

(いってやっていいというきになって、そのおとこのおりたところでわたくしもおりたものです。)

行ってやっていいという気になって、その男の降りた所で私も降りたものです。

(そのおとこのはいっていくのはすなわちわたくしのいこうとしているいえなのです。)

その男のはいって行くのはすなわち私の行こうとしている家なのです。

(はじめからきょうのやくそくがあったのでしょう。おとこはむちゅうのようで、のぼせあがった)

初めから今日の約束があったのでしょう。男は夢中のようで、のぼせ上がった

(ふうで、もんからちかいろうのへやのえんがわにこしをかけて、きどったふうにつきをみあげて)

ふうで、門から近い廊の室の縁側に腰を掛けて、気どったふうに月を見上げて

(いるんですね。それはじっさいしらぎくがむらさきをぼかしたにわへ、かぜでもみじがたくさんふって)

いるんですね。それは実際白菊が紫をぼかした庭へ、風で紅葉がたくさん降って

(くるのですから、みにしむようにおもうのもむりはないのです。おとこはかいちゅうからふえを)

くるのですから、身にしむように思うのも無理はないのです。男は懐中から笛を

(だしてふきながらあいまに「あすかいにやどりはすべしかげもよし」などとうたうと、)

出して吹きながら合い間に『飛鳥井に宿りはすべし蔭もよし』などと歌うと、

(なかではいいおとのするやまとごとをきれいにひいてあわせるのです。そうとうなもの)

中ではいい音のする倭琴をきれいに弾いて合わせるのです。相当なもの

(なんですね。りつのちょうしはおんなのやわらかにひくのがみすのなかからきこえるのも)

なんですね。律の調子は女の柔らかに弾くのが御簾の中から聞こえるのも

(はなやかなきのするものですから、あかるいつきよにはしっくりあっています。)

はなやかな気のするものですから、明るい月夜にはしっくり合っています。

(おとこはたいへんおもしろがって、ことをひいているところのまえへいって、「もみじの)

男はたいへんおもしろがって、琴を弾いている所の前へ行って、『紅葉の

(つもりかたをみるとだれもおいでになったようすはありませんね。あなたのこいびとは)

積もり方を見るとだれもおいでになった様子はありませんね。あなたの恋人は

(なかなかれいたんなようですね」などといやがらせをいっています。きくをおって)

なかなか冷淡なようですね』などといやがらせを言っています。菊を折って

(いって、「ことのねもきくもえならぬやどながらつれなきひとをひきやとめける。)

行って、『琴の音も菊もえならぬ宿ながらつれなき人を引きやとめける。

(だめですね」などといってまた「いいききてのおいでになったときにはもっと)

だめですね』などと言ってまた『いい聞き手のおいでになった時にはもっと

(うんとひいておきかせなさい」こんないやみなことをいうと、おんなはつくりごえをして)

うんと弾いてお聞かせなさい』こんな嫌味なことを言うと、女は作り声をして

(「こがらしにふきあわすめるふえのねをひきとどむべきことのはぞなき」などと)

『こがらしに吹きあはすめる笛の音を引きとどむべき言の葉ぞなき』などと

(いってふざけあっているのです。わたくしがのぞいていてにくらしがっているのも)

言ってふざけ合っているのです。私がのぞいていて憎らしがっているのも

(しらないで、こんどはじゅうさんげんをはでにひきだしました。さいじょでないことは)

知らないで、今度は十三絃を派手に弾き出しました。才女でないことは

(ありませんがきざなきがしました。ゆうぎてきのれんあいをしているときは、きゅうちゅうの)

ありませんがきざな気がしました。遊戯的の恋愛をしている時は、宮中の

(にょうぼうたちとおもしろおかしくこうさいしていて、それだけでいいのですが、)

女房たちとおもしろおかしく交際していて、それだけでいいのですが、

(ときどきにもせよあいじんとしてかよっていくおんながそんなふうではおもしろくないと)

時々にもせよ愛人として通って行く女がそんなふうではおもしろくないと

(おもいまして、そのばんのことをこうじつにしてわかれましたがね。このふたりのおんなを)

思いまして、その晩のことを口実にして別れましたがね。この二人の女を

(くらべてかんがえますと、わかいときでさえもあとのふうりゅうおんなのほうはしんらいできないものだと)

比べて考えますと、若い時でさえもあとの風流女のほうは信頼できないものだと

(しっていました。もうそうとうなねんぱいになっているわたくしは、これからはまた)

知っていました。もう相当な年配になっている私は、これからはまた

(そのころいじょうにそうしたふかなものがきらいになるでしょう。いたいたしい)

そのころ以上にそうした浮華なものがきらいになるでしょう。いたいたしい

(はぎのつゆや、おちそうなささのうえのあられなどにたとえていいようなえんなこいびとをもつのが)

萩の露や、落ちそうな笹の上の霰などにたとえていいような艶な恋人を持つのが

(いいようにいまあなたがたはおおもいになるでしょうが、わたくしのねんれいまで、)

いいように今あなたがたはお思いになるでしょうが、私の年齢まで、

(まあしちねんもすればよくおわかりになりますよ、わたくしがもうしあげておきますが、)

まあ七年もすればよくおわかりになりますよ、私が申し上げておきますが、

(ふうりゅうごのみなたじょうなおんなにはおきをつけなさい。さんかくかんけいをはっけんしたときにおっとの)

風流好みな多情な女にはお気をつけなさい。三角関係を発見した時に良人の

(しっとでもんだいをおこしたりするものです」)

嫉妬で問題を起こしたりするものです」

(さまのかみはふたりのきこうしにちゅうげんをていした。れいのようにちゅうじょうはうなずく。)

左馬頭は二人の貴公子に忠言を呈した。例のように中将はうなずく。

(すこしほほえんだげんじもさまのかみのことばにしんりがありそうだとおもうらしい。)

少しほほえんだ源氏も左馬頭の言葉に真理がありそうだと思うらしい。

(あるいはふたつともばかばかしいはなしであるとわらっていたのかもしれない。)

あるいは二つともばかばかしい話であると笑っていたのかもしれない。

問題文を全て表示 一部のみ表示 誤字・脱字等の報告

文吾のタイピング

オススメの新着タイピング

タイピング練習講座 ローマ字入力表 アプリケーションの使い方 よくある質問

人気ランキング

注目キーワード