紫式部 源氏物語 夕顔 13 與謝野晶子訳

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1 berry 7753 7.9 97.5% 321.0 2553 64 38 2024/11/16
2 omochi 7677 8.1 94.9% 320.4 2599 139 38 2024/10/07
3 subaru 7487 7.8 96.1% 329.5 2571 104 38 2024/10/15
4 ヤス 7324 7.7 94.3% 331.5 2582 154 38 2024/10/04
5 だだんどん 6462 S 6.9 93.3% 367.2 2556 183 38 2024/11/11

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問題文

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(げんじはむがむちゅうでにじょうのいんへついた。にょうぼうたちが、 「どちらからの)

源氏は無我夢中で二条の院へ着いた。女房たちが、 「どちらからの

(おかえりなんでしょう。ごきぶんがおわるいようですよ」 などといっているのを)

お帰りなんでしょう。御気分がお悪いようですよ」 などと言っているのを

(しっていたが、そのまましんしつへはいって、そしてむねをおさえてかんがえてみると)

知っていたが、そのまま寝室へはいって、そして胸をおさえて考えてみると

(じしんがいまけいけんしていることはひじょうなかなしいことであるということがわかった。)

自身が今経験していることは非常な悲しいことであるということがわかった。

(なぜじぶんはあのくるまにのっていかなかったのだろう、もしそせいすることがあったら)

なぜ自分はあの車に乗って行かなかったのだろう、もし蘇生することがあったら

(あのひとはどうおもうだろう、みすてていってしまったとうらめしく)

あの人はどう思うだろう、見捨てて行ってしまったと恨めしく

(おもわないだろうか、こんなことをおもうとむねがせきあがってくるようで、あたまもいたく、)

思わないだろうか、こんなことを思うと胸がせき上ってくるようで、頭も痛く、

(からだにははつねつもかんぜられてくるしい。こうしてじぶんもしんでしまうのであろうと)

からだには発熱も感ぜられて苦しい。こうして自分も死んでしまうのであろうと

(おもわれるのである。はちじごろになってもげんじがおきぬので、にょうぼうたちは)

思われるのである。八時ごろになっても源氏が起きぬので、女房たちは

(しんぱいをしだして、あさのしょくじをしんしつのあるじへすすめてみたがむだだった。げんじは)

心配をしだして、朝の食事を寝室の主人へ勧めてみたが無駄だった。源氏は

(くるしくて、そしていのちのきけんがせまってくるようなこころぼそさをおぼえていると、きゅうちゅうの)

苦しくて、そして生命の危険が迫ってくるような心細さを覚えていると、宮中の

(おつかいがきた。みかどはきのうもおめしになったげんじをごらんになれなかったことで)

お使いが来た。帝は昨日もお召しになった源氏を御覧になれなかったことで

(ごしんぱいをあそばされるのであった。さだいじんけのしそくたちもほうもんしてきたが)

御心配をあそばされるのであった。左大臣家の子息たちも訪問して来たが

(そのうちのとうのちゅうじょうにだけ、 「おたちになったままでちょっとこちらへ」)

そのうちの頭中将にだけ、 「お立ちになったままでちょっとこちらへ」

(といわせて、げんじはまねいたともとみすをへだててたいした。 「わたくしのめのとの、)

と言わせて、源氏は招いた友と御簾を隔てて対した。 「私の乳母の、

(このごがつごろからたいびょうをしていましたものが、あまになったりなど)

この五月ごろから大病をしていました者が、尼になったりなど

(したものですから、そのききめでかいちじよくなっていましたが、またこのごろわるく)

したものですから、その効験でか一時快くなっていましたが、またこのごろ悪く

(なりまして、せいぜんにもういちどだけほうもんをしてくれなどといってきているので、)

なりまして、生前にもう一度だけ訪問をしてくれなどと言ってきているので、

(ちいさいときからせわになったものに、さいごにうらめしくおもわせるのはざんこくだとおもって、)

小さい時から世話になった者に、最後に恨めしく思わせるのは残酷だと思って、

(ほうもんしましたところがそのいえのめしつかいのおとこがまえからびょうきをしていて、)

訪問しましたところがその家の召使の男が前から病気をしていて、

など

(わたくしのいるうちになくなったのです。きょうしゅくしてわたくしにかくしてよるになってからそっと)

私のいるうちに亡くなったのです。恐縮して私に隠して夜になってからそっと

(いがいをそとへはこびだしたということをわたくしはきがついたのです。ごしょではしんじに)

遺骸を外へ運び出したということを私は気がついたのです。御所では神事に

(かんしたごようのおおいじきですから、そうしたけがれにふれたものはごえんりょすべきである)

関した御用の多い時期ですから、そうした穢れに触れた者は御遠慮すべきである

(とおもってきんしんをしているのです。それにけさがたからなんだかかぜに)

と思って謹慎をしているのです。それに今朝方からなんだか風邪に

(かかったのですか、ずつうがしてくるしいものですからこんなふうでしつれいします」)

かかったのですか、頭痛がして苦しいものですからこんなふうで失礼します」

(などとげんじはいうのであった。ちゅうじょうは、 「ではそのようにそうじょうして)

などと源氏は言うのであった。中将は、 「ではそのように奏上して

(おきましょう。さくやもおんがくのありましたときに、ごじしんでおさしずをなさいまして)

おきましょう。昨夜も音楽のありました時に、御自身でお指図をなさいまして

(あちこちとあなたをおさがさせになったのですが、おいでにならなかったので、)

あちこちとあなたをお捜させになったのですが、おいでにならなかったので、

(ごきげんがよろしくありませんでした」 といって、かえろうとしたが)

御機嫌がよろしくありませんでした」 と言って、帰ろうとしたが

(またかえってきて、 「ねえ、どんなけがれにおあいになったのですか。さっきから)

また帰って来て、 「ねえ、どんな穢れにおあいになったのですか。さっきから

(うかがったのはどうもほんとうとはおもわれない」 と、とうのちゅうじょうからいわれたげんじは)

伺ったのはどうもほんとうとは思われない」 と、頭中将から言われた源氏は

(はっとした。 「いまおはなししたようにこまかにではなく、ただおもいがけぬけがれに)

はっとした。 「今お話ししたようにこまかにではなく、ただ思いがけぬ穢れに

(あいましたともうしあげてください。こんなのできょうはしつれいします」)

あいましたと申し上げてください。こんなので今日は失礼します」

(そしらずがおにはいっていても、こころにはまたあいじんのしがうかんできて、)

素知らず顔には言っていても、心にはまた愛人の死が浮かんできて、

(げんじはきぶんもひじょうにわるくなった。だれのかおもみるのがものうかった。おつかいの)

源氏は気分も非常に悪くなった。だれの顔も見るのが物憂かった。お使いの

(くろうどのべんをよんで、またこまごまととうのちゅうじょうにかたったようなゆきぶれのじじょうを)

蔵人の弁を呼んで、またこまごまと頭中将に語ったような行触れの事情を

(みかどへとりついでもらった。さだいじんけのほうへもそんなことでいかれぬという)

帝へ取り次いでもらった。左大臣家のほうへもそんなことで行かれぬという

(てがみがいったのである。)

手紙が行ったのである。

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