紫式部 源氏物語 葵 6 與謝野晶子訳

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(みやすどころのはんもんはもうかこなんねんかのものおもいとはひかくにならないほどのものに)

御息所の煩悶はもう過去何年かの物思いとは比較にならないほどのものに

(なっていた。しんらいのできるだけのあいをもっていないひととげんじを)

なっていた。信頼のできるだけの愛を持っていない人と源氏を

(きめてしまいながらも、だんぜんわかれてさいぐうについていせへいってしまうことは)

決めてしまいながらも、断然別れて斎宮について伊勢へ行ってしまうことは

(こころぼそいことのようにもおもわれたし、すてられたおんなとみられたくないせけんていも)

心細いことのようにも思われたし、捨てられた女と見られたくない世間体も

(きになった。そうかといってあんしんしてきょうにいることも、)

気になった。そうかと言って安心して京にいることも、

(ぜんぜんむしされたくるまあらそいのひのきおくがあるかぎりかのうなことではなかった。)

全然無視された車争いの日の記憶がある限り可能なことではなかった。

(じしんのこころをさだめかねて、ねてもさめてもはんもんをするせいか、しだいにこころが)

自身の心を定めかねて、寝てもさめても煩悶をするせいか、次第に心が

(からだからはなれていき、じしんはくうきょなものになっているというきぶんを)

からだから離れて行き、自身は空虚なものになっているという気分を

(あじわうようになって、びょうきらしくなった。げんじははじめからいせへいくことに)

味わうようになって、病気らしくなった。源氏は初めから伊勢へ行くことに

(だんぜんふさんせいであるともいいきらずに、 「わたくしのようなつまらぬおとこを)

断然不賛成であるとも言い切らずに、 「私のようなつまらぬ男を

(あいしてくだすったあなたが、いやにおなりになって、)

愛してくだすったあなたが、いやにおなりになって、

(とおくへいってしまうというきになられるのはもっともですが、)

遠くへ行ってしまうという気になられるのはもっともですが、

(かんだいなこころになってくだすってかわらぬこいをつづけてくださることで)

寛大な心になってくだすって変わらぬ恋を続けてくださることで

(ぜんしょうのいんねんをまったくしたいとわたくしはねがっている」 こんなふうにだけいって)

前生の因縁を全くしたいと私は願っている」 こんなふうにだけ言って

(とどめているのであったから、そうしたものおもいもなぐさむかとおもって)

留めているのであったから、そうした物思いも慰むかと思って

(みそぎがわにあらいせがたってふこうをみたのである。)

御禊川に荒い瀬が立って不幸を見たのである。

(あおいふじんはもののけがついたふうのようだいでひじょうになやんでいた。)

葵夫人は物怪がついたふうの容体で非常に悩んでいた。

(ふぼたちがしんぱいするので、げんじもほかへいくことがえんりょされるじょうたいなのである。)

父母たちが心配するので、源氏もほかへ行くことが遠慮される状態なのである。

(にじょうのいんなどへもほんのときどきかえるだけであった。ふうふのなかはむつまじいものでは)

二条の院などへもほんの時々帰るだけであった。夫婦の中は睦まじいものでは

(なかったが、つまとしてどのじょせいよりもそんちょうするこころはじゅうぶんげんじにあって、)

なかったが、妻としてどの女性よりも尊重する心は十分源氏にあって、

など

(しかもにんしんしてのわずらいであったからあわれみのじょうもおおくくわわって、しゅほうやきとうも)

しかも妊娠しての煩いであったから憐みの情も多く加わって、修法や祈祷も

(だいじんけでするいがいにいろいろとさせていた。もののけ、いきりょうというようなものが)

大臣家でする以外にいろいろとさせていた。物怪、生霊というようなものが

(たくさんでてきて、いろいろななのりをするなかに、かりにひとへうつそうとしても、)

たくさん出て来て、いろいろな名乗りをする中に、仮に人へ移そうとしても、

(すこしもうつらずにただじっとやむふじんにばかりそっていて、そしてなにもはげしく)

少しも移らずにただじっと病む夫人にばかり添っていて、そして何もはげしく

(びょうにんをなやまそうとするのでもなく、またかたときもはなれないもののけがひとつあった。)

病人を悩まそうとするのでもなく、また片時も離れない物怪が一つあった。

(どんなしゅげんそうのぎじゅつででもじゆうにすることのできないしゅうねんのあるのは、)

どんな修験僧の技術ででも自由にすることのできない執念のあるのは、

(なみなみのものであるとはおもわれなかった。さだいじんけのひとたちは、げんじのあいじんを)

並み並みのものであるとは思われなかった。左大臣家の人たちは、源氏の愛人を

(だれかれとかぞえて、それらしいのをもとめると、けっきょくろくじょうのみやすどころと)

だれかれと数えて、それらしいのを求めると、結局六条の御息所と

(にじょうのいんのおんなはげんじのことにあいしているひとであるだけふじんにうらみをもつことも)

二条の院の女は源氏のことに愛している人であるだけ夫人に恨みを持つことも

(おおいわけであると、こういって、もののけにいわせることばからそのぬしを)

多いわけであると、こう言って、物怪に言わせる言葉からその主を

(しろうとしても、なんのえるところもなかった。もののけといっても、そだてたひめぎみに)

知ろうとしても、何の得るところもなかった。物怪といっても、育てた姫君に

(あいをのこしためのとというようなひと、もしくはこのいえをだいだいてきししてきたぼうこんとかが)

愛を残した乳母というような人、もしくはこの家を代々敵視して来た亡魂とかが

(よわりめにつけこんでくるような、そんなのはけっしてこんどのもののけのぬしたるものでは)

弱り目につけこんでくるような、そんなのは決して今度の物怪の主たるものでは

(ないらしい。ふじんはないてばかりいて、おりおりむねが)

ないらしい。夫人は泣いてばかりいて、おりおり胸が

(せきあがってくるようにしてくるしがるのである。どうなることかとだれもだれも)

せき上がってくるようにして苦しがるのである。どうなることかとだれもだれも

(ふあんでならなかった。いんのごしょからもしじゅうおみまいのつかいがくるうえに)

不安でならなかった。院の御所からも始終お見舞いの使いが来る上に

(きとうまでもべつにさせておいでになった。こんなこうえいをもつふじんに)

祈祷までも別にさせておいでになった。こんな光栄を持つ夫人に

(まんいちのことがなければよいとだれもおもった。せけんじゅうがおしんだり)

万一のことがなければよいとだれも思った。世間じゅうが惜しんだり

(なげいたりしているこのうわさもみやすどころをふかいなきぶんにした。これまではけっして)

歎いたりしているこの噂も御息所を不快な気分にした。これまでは決して

(こうではなかったのである。きょうそうしんをしげきしたのはくるまあらそいという)

こうではなかったのである。競争心を刺戟したのは車争いという

(ちいさいことにすぎないが、それがどれほどおおきなうらみになっているかを)

小さいことにすぎないが、それがどれほど大きな恨みになっているかを

(さだいじんけのひとはそうぞうもしなかった。)

左大臣家の人は想像もしなかった。

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