紫式部 源氏物語 榊 17 與謝野晶子訳

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1 HAKU 7785 8.0 96.6% 328.7 2652 93 38 2024/12/09
2 ヤス 7621 7.9 96.2% 333.8 2648 104 38 2024/12/16
3 おもち 7596 7.7 97.6% 340.4 2649 63 38 2024/12/09
4 subaru 7512 7.8 95.3% 332.8 2628 128 38 2024/12/12
5 だだんどん 6913 S++ 7.3 94.5% 358.0 2625 150 38 2024/12/16

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問題文

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(しゅんきのかんりのじもくのさいにも、このみやづきになっているひとたちは)

春期の官吏の除目の際にも、この宮付きになっている人たちは

(とうぜんえねばならぬかんもえられず、みやにふよされているけんりで)

当然得ねばならぬ官も得られず、宮に付与されている権利で

(すいせんあそばされたひとびとのいかいのしょうじょもそのままにすておかれて、)

推薦あそばされた人々の位階の陞叙もそのままに捨て置かれて、

(ふこうをかなしむひとがおおかった。あまにおなりになったことできさきのみくらいはしょうめつして、)

不幸を悲しむ人が多かった。尼におなりになったことで后の御位は消滅して、

(それとともにきゅうふもなくなるべきであるとほうぶんをかいしゃくして、)

それとともに給封もなくなるべきであると法文を解釈して、

(そのこうじつをつけてせいふのごたいぐうがかわってきた。)

その口実をつけて政府の御待遇が変わってきた。

(みやはよきしておいでになったことで、なんのしゅうちゃくもそれにたいしてもっておいでに)

宮は予期しておいでになったことで、何の執着もそれに対して持っておいでに

(ならなかったが、おつきのやくにんたちにたよりどころをうしなったかなしいふうの)

ならなかったが、お付きの役人たちにたより所を失った悲しいふうの

(みえるときなどはおこころにいささかのどうようをおかんじにならないこともなかった。)

見える時などはお心にいささかの動揺をお感じにならないこともなかった。

(しかもじぶんはぎせいになってもとうぐうのごそくいにししょうをおこさないように)

しかも自分は犠牲になっても東宮の御即位に支障を起こさないように

(いのるべきであると、みやはどんなときにもおかんがえになってはせんしんにほとけづとめを)

祈るべきであると、宮はどんな時にもお考えになっては専心に仏勤めを

(あそばされた。おこころのなかにひとしれぬきょうふとふあんがあって、)

あそばされた。お心の中に人知れぬ恐怖と不安があって、

(ごじしんのしんこうによって、そのつみのとうぐうにおよばないことをきしておいでになった。)

御自身の信仰によって、その罪の東宮に及ばないことを期しておいでになった。

(そうしてみずからなぐさめられておいでになったのである。げんじもこのみやのおこころもちを)

そうしてみずから慰められておいでになったのである。源氏もこの宮のお心持を

(しっていて、ごもっともであるとかんじていた。いっぽうではけいしとして)

知っていて、ごもっともであると感じていた。一方では家司として

(げんじにぞくしているかんりもじもくのけっかをみればふこうであった。ふめんぼくなきがして)

源氏に属している官吏も除目の結果を見れば不幸であった。不面目な気がして

(げんじはいえにばかりひきこもっていた。さだいじんもこうじんとして、またこじんとして)

源氏は家にばかり引きこもっていた。左大臣も公人として、また個人として

(こうふくのさってしまったこんにちをひかんしてちしのひょうをたてまつった。みかどはいんがひじょうに)

幸福の去ってしまった今日を悲観して致仕の表を奉った。帝は院が非常に

(ごしんようあそばして、こっかのちゅうせきはかれであるとごゆいごんあそばしたことをおぼしめすと、)

御信用あそばして、国家の柱石は彼であると御遺言あそばしたことを思召すと、

(じひょうをごさいようになることができなくて、たびたびおかえしになったが、)

辞表を御採用になることができなくて、たびたびお返しになったが、

など

(だいじんのほうではまたなんどもくりかえして、じいをそうじょうして、そしてそのまま)

大臣のほうではまた何度も繰り返して、辞意を奏上して、そしてそのまま

(しゅっしをしないのであったから、だじょうだいじんいちぞくだけがさかえにさかえていた。)

出仕をしないのであったから、太政大臣一族だけが栄えに栄えていた。

(こっかのじゅうちんであるだいじんがひきこもってしまったので、みかどもこころぼそくおぼしめされるし、)

国家の重鎮である大臣が引きこもってしまったので、帝も心細く思召されるし、

(せけんのひとたちもなげいていた。さだいじんけのこうしたちもりっぱなわかいかんりで、)

世間の人たちも歎いていた。左大臣家の公子たちもりっぱな若い官吏で、

(みなじゅんとうにかんいものぼりつつあったが、もうそのじだいはすぎさってしまった。)

皆順当に官位も上りつつあったが、もうその時代は過ぎ去ってしまった。

(さんみのちゅうじょうなどもこうしたよのなかにきをめいらせていた。だじょうだいじんのよんじょのところへ)

三位中将などもこうした世の中に気をめいらせていた。太政大臣の四女の所へ

(とだえがちにかよいはかよっているが、せいいのないむこであるということに)

途絶えがちに通いは通っているが、誠意のない婿であるということに

(はんかんをもたれていて、おもいしれというようにこんどのじもくにはこのひとも)

反感を持たれていて、思い知れというように今度の除目にはこの人も

(げんかんのままでおかれた。このひとはそんなことはがんちゅうにおいていなかった。)

現官のままで置かれた。この人はそんなことは眼中に置いていなかった。

(げんじのきみさえもふぐうのなげきがあるじだいであるのだから、ましてじぶんなどは)

源氏の君さえも不遇の歎きがある時代であるのだから、まして自分などは

(こうとりあつかわるべきであるとあきらめていて、しじゅうげんじのところへきて、がくもんも)

こう取り扱わるべきであるとあきらめていて、始終源氏の所へ来て、学問も

(あそびごともいっしょにしていた。せいねんじだいのふたりのあいだにつよいきょうそうしんのあったことを)

遊び事もいっしょにしていた。青年時代の二人の間に強い競争心のあったことを

(おもいだして、いまでもあそびごとのときなどに、いっぽうのすることをそれいじょうに)

思い出して、今でも遊び事の時などに、一方のすることをそれ以上に

(でようとしていっぽうがちからをいれるというようなことがままあった。)

出ようとして一方が力を入れるというようなことがままあった。

(しゅんじゅうのどきょうのかいいがいにもいろいろとしゅうきょうにかんしたかいをひらいたり、)

春秋の読経の会以外にもいろいろと宗教に関した会を開いたり、

(げんだいにいれられないでいるはかせやがくしゃをあつめてしをつくったり、)

現代にいれられないでいる博士や学者を集めて詩を作ったり、

(いんふたぎをしたりして、かんりのしょくむをかんきゃくしたせいかつをこのふたりがしている)

韻ふたぎをしたりして、官吏の職務を閑却した生活をこの二人がしている

(というてんで、これをもんだいにしようとしているひともあるようである。)

という点で、これを問題にしようとしている人もあるようである。

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