【青空文庫】夢十夜 第一夜 1/2

順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | りーちょ | 4331 | C+ | 4.5 | 95.5% | 422.7 | 1921 | 90 | 41 | 2025/03/17 |
2 | ちえのわ | 4064 | C | 4.4 | 92.6% | 447.5 | 1976 | 157 | 41 | 2025/03/16 |
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問題文
(だいいちや)
第一夜
(こんなゆめをみた。うでぐみをしてまくらもとにすわっていると、)
こんな夢を見た。腕組をして枕元に座っていると、
(あおむきにねたおんなが、しずかなこえでもうしにますという。)
仰向きに寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。
(おんなはながいかみをまくらにしいて、りんかくのやわらかなうりざねがおをそのなかによこたえている。)
女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかなうりざね顔をその中に横たえている。
(まっしろなほおのそこにあたたかいちのいろがほどよくさして、くちびるのいろはむろんあかい。)
真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇の色は無論赤い。
(とうていしにそうにはみえない。)
とうてい死にそうには見えない。
(しかしおんなはしずかなこえで、もうしにますとはっきりいった。)
しかし女は静かな声で、もう死にますとはっきり云った。
(じぶんもたしかにこれはしぬなとおもった。)
自分も確かにこれは死ぬなと思った。
(そこで、そうかね、もうしぬのかねとうえからのぞきこむようにしてきいてみた。)
そこで、そうかね、もう死ぬのかねと上から覗き込むようにして聞いてみた。
(しにますとも、といいながら、おんなはぱっちりとめをあけた。)
死にますとも、と云いながら、女はぱっちりと眼を開けた。
(おおきなうるおいのあるめで、ながいまつげにつつまれたなかは、ただいちめんにまっくろであった。)
大きな潤いのある眼で、長い睫毛に包まれた中は、ただ一面に真黒であった。
(そのまっくろなひとみのおくに、じぶんのすがたがあざやかにうかんでいる。)
その真黒な眸の奥に、自分の姿が鮮やかに浮かんでいる。
(じぶんはすきとおるほどふかくみえるこのくろめのつやをながめて、)
自分は透き通るほど深く見えるこの黒眼のつやを眺めて、
(これでもしぬのかとおもった。)
これでも死ぬのかと思った。
(それで、ねんごろにまくらのそばへくちをつけて、しぬんじゃなかろうね、だいじょうぶだろうね、)
それで、ねんごろに枕の傍へ口を付けて、死ぬんじゃなかろうね、大丈夫だろう
(とまたききかえした。)
とまた聞き返した。
(するとおんなはくろいめをねむそうにみはったまま、やっぱりしずかなこえで、)
すると女は黒い眼を眠そうにみはったまま、やっぱり静かな声で、
(でも、しぬんですもの、しかたがないわといった。)
でも、死ぬんですもの、仕方がないわと云った。
(じゃ、わたしのかおがみえるかいといっしんにきくと、)
じゃ、私の顔が見えるかいと一心に聞くと、
(みえるかいって、そら、そこに、うつっているじゃありませんかと、)
見えるかいって、そら、そこに、写っているじゃありませんかと、
(にこりとわらってみせた。)
にこりと笑って見せた。
(じぶんはだまって、かおからまくらをはなした。)
自分は黙って、顔から枕を離した。
(うでぐみをしながら、どうしてもしぬのかなとおもった。)
腕組みをしながら、どうしても死ぬのかなと思った。
(しばらくして、おんながまたこういった。)
しばらくして、女がまたこう云った。
(しんだら、うめてください。おおきなしんじゅがいであなをほって。)
「死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。
(そうしててんからおちてくるほしのかけをはかじるしにおいてください。)
そうして天から落ちて来る星の欠片を墓標においてください。
(またあいにきますから。)
また逢いに来ますから。」
(じぶんは、いつあいにくるかねときいた。)
自分は、いつ逢いに来るかねと聞いた。
(ひがでるでしょう。それからしずむでしょう。)
「日が出るでしょう。それから沈むでしょう。
(それからまたでるでしょう、そうしてまたしずむでしょう。)
それからまた出るでしょう、そうしてまた沈むでしょう。
(あかいひがひがしからにしへ、ひがしからにしへとおちていくうちに、)
赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて行くうちに、
(あなた、まっていられますか)
あなた、待っていられますか」
(じぶんはだまってうなずいた。おんなはしずかなちょうしをいちだんはりあげて、)
自分は黙ってうなずいた。女は静かな調子を一段張り上げて、
(ひゃくねんまっていてくださいとおもいきったこえでいった。)
「百年待っていてください」と思い切った声で云った。
(ひゃくねん、わたしのはかのそばにすわってまっていてください。きっとあいにきますから。)
「百年、私の墓の傍に座って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから。」
(じぶんはただまっているとこたえた。すると、くろいひとみのなかにあざやかにみえたじぶんのすがたが)
自分はただ待っていると答えた。すると、黒い眸のなかに鮮に見えた自分の姿が
(ぼうっとくずれてきた。)
ぼうっと崩れて来た。
(しずかなみずがうごいてうつるかげをみだしたように、ながれだしたとおもったら、)
静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、
(おんなのめがぱちりととじた。)
女の眼がぱちりと閉じた。
(ながいまつげのあいだからなみだがほおへたれた。)
長い睫毛の間から涙が頬へ垂れた。
(もうしんでいた。)
もう死んでいた。