【青空文庫】夢十夜 第三夜 2/2

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(「もうすこしいくとわかる。--ちょうどこんなばんだったな」と)

「もう少し行くと解る。--ちょうどこんな晩だったな」と

(せなかでひとりごとのようにいっている。)

背中で独言のように云っている。

(「なにが」ときわどいこえをだしてきいた。)

「何が」と際どい声を出して聞いた。

(「なにがって、しってるじゃないか」とこどもはあざけるようにこたえた。)

「何がって、知ってるじゃないか」と子供は嘲るように答えた。

(するとなんだかしってるようなきがしだした。)

すると何だか知ってるような気がし出した。

(けれどもはっきりとはわからない。)

けれども判然とは分からない。

(ただこんなばんであったようにおもえる。)

ただこんな晩であったように思える。

(そうしてもうすこしいけばわかるようにおもえる。)

そうしてもう少し行けば分るように思える。

(わかってはたいへんだから、わからないうちにはやくすててしまって、)

分っては大変だから、分からないうちに早く捨ててしまって、

(あんしんしなくってはならないようにおもえる。)

安心しなくってはならないように思える。

(じぶんはますますあしをはやめた。)

自分はますます足を早めた。

(あめはさっきからふっている。)

雨はさっきから降っている。

(みちはだんだんくらくなる。)

路はだんだん暗くなる。

(ほとんどむちゅうである。)

ほとんど夢中である。

(ただせなかにちいさいこぞうがくっついていて、)

ただ背中に小さい小僧がくっついていて、

(そのこぞうがじぶんのかこ、げんざい、みらいをことごとくてらして、)

その小僧が自分の過去、現在、未来をことごとく照して、

(すんぶんのじじつももらさないかがみのようにひかっている。)

寸分の事実も洩らさない鏡のように光っている。

(しかもそれがじぶんのこである。)

しかもそれが自分の子である。

(そうしてめくらである。)

そうして盲目である。

(じぶんはたまらなくなった。)

自分はたまらなくなった。

など

(「ここだ、ここだ。ちょうどそのすぎのねのところだ」)

「ここだ、ここだ。ちょうどその杉の根の処だ」

(あめのなかでこぞうのこえははっきりときこえた。)

雨の中で小僧の声は判然と聞えた。

(じぶんはおぼえずとどまった。)

自分は覚えず留まった。

(いつしかもりのなかへはいっていった。)

いつしか森の中へ這入っていった。

(いっけんばかりさきにあるくろいものはたしかに)

一間ばかり先にある黒いものはたしかに

(こぞうのいうとおりすぎのきとみえた。)

小僧の云う通り杉の木と見えた。

(「おとっさん、そのすぎのねのところだったね」)

「お父さん、その杉の根の処だったね」

(「うん、そうだ」とおもわずこたえてしまった。)

「うん、そうだ」と思わず答えてしまった。

(「ぶんかごねんたつどしらしくおもわれた。)

「文化五年辰年らしく思われた。

(「おまえがおれをころしたのはいまからちょうどひゃくねんまえだね」)

「お前がおれを殺したのは今からちょうど百年前だね」

(じぶんはこのことばをきくやいなや、)

自分はこの言葉を聞くや否や、

(こつぜんとしてあたまのなかにおこった。)

忽然として頭の中に起った。

(おれはひとごろしであったんだなとはじめてきがついたとたんに、)

おれは人殺しであったんだなと始めて気がついた途端に、

(せなかのこがきゅうにいしじぞうのようにおもくなった。)

背中の子が急に石地蔵のように重くなった。

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