紫式部 源氏物語 澪標 13 與謝野晶子訳

関連タイピング
-
プレイ回数142長文2466打
-
プレイ回数83長文2336打
-
プレイ回数94長文3106打
-
プレイ回数237長文3680打
-
プレイ回数137長文3020打
-
プレイ回数427長文かな3741打
-
プレイ回数179長文1623打
-
少年探偵団シリーズ第3作品『妖怪博士』
プレイ回数812長文4433打
問題文
(げんじはさびしいこころをいだいて、むかしをおもいながらいまのみすをおろしこめて)
源氏は寂しい心を抱いて、昔を思いながら居間の御簾を下ろしこめて
(しょうじんのひをおくりほとけづとめをしていた。ぜんさいぐうへはしじゅうみまいのてがみをおくっていた。)
精進の日を送り仏勤めをしていた。前斎宮へは始終見舞いの手紙を送っていた。
(みやのおかなしみがすこししずまってきたころからはごじしんでへんじも)
宮のお悲しみが少し静まってきたころからは御自身で返事も
(おかきになるようになった。それをはずかしくおぼしめすのであったが、)
お書きになるようになった。それを恥ずかしく思召すのであったが、
(めのとなどから、 「もったいないことでございますから」)
乳母などから、 「もったいないことでございますから」
(といって、じひつでかくことをおすすめられになるのである。ゆきがみぞれとなり、)
と言って、自筆で書くことをお勧められになるのである。雪が霙となり、
(またしろくゆきになるようなあらびよりに、みやがどんなにさびしくおもっておいでに)
また白く雪になるような荒日和に、宮がどんなに寂しく思っておいでに
(なるであろうとそうぞうをしながらげんじはつかいをだした。 )
なるであろうと想像をしながら源氏は使いを出した。
(こういうてんきのひにどういうおきもちでいられますか。 )
こういう天気の日にどういうお気持ちでいられますか。
(ふりみだれひまなきそらになきひとのあまがけるらんやどぞかなしき )
降り乱れひまなき空に亡き人の天がけるらん宿ぞ悲しき
(というてがみをおくったのである。かみはくもったそらいろのがもちいられてあった。)
という手紙を送ったのである。紙は曇った空色のが用いられてあった。
(わかいひとのめによいいんしょうがあるようにとおもって、ほねをおってかいたげんじのじは)
若い人の目によい印象があるようにと思って、骨を折って書いた源氏の字は
(まぶしいほどにみごとであった。みやはへんじをかきにくくおぼしめしたのであるが、)
まぶしいほどにみごとであった。宮は返事を書きにくく思召したのであるが、
(「われわれからごあいさつをいたしますのはしつれいでございますから」)
「われわれから御挨拶をいたしますのは失礼でございますから」
(とにょうぼうたちかがおせめするので、はいいろのかみのくんこうのにおいをしませたえんなのへ、)
と女房たちがお責めするので、灰色の紙の薫香のにおいを染ませた艶なのへ、
(めだたぬようなかきかたにして、 )
目だたぬような書き方にして、
(きえがてにふるぞかなしきかきくらしわがみそれともおもおえぬよに )
消えがてにふるぞ悲しきかきくらしわが身それとも思ほえぬ世に
(とおかきになった。おとなしいしょふうで、そしておおようで、)
とお書きになった。おとなしい書風で、そしておおようで、
(すぐれたじではないがひんのあるものであった。さいぐうになっていせへ)
すぐれた字ではないが品のあるものであった。斎宮になって伊勢へ
(おいきになったころからげんじはこのかたにきょうみをもっていたのである。)
お行きになったころから源氏はこの方に興味を持っていたのである。
(もういまはいがきのなかのひとでもなく、ほごしゃからもかいほうされたひとりのじょせいとして)
もう今は忌垣の中の人でもなく、保護者からも解放された一人の女性として
(みてよいのであるから、こいびととしておもうこころをささやいてよいときに)
見てよいのであるから、恋人として思う心をささやいてよい時に
(なったのであると、こんなふうにおもわれるのとどうじに、それはすべきでない、)
なったのであると、こんなふうに思われるのと同時に、それはすべきでない、
(おかわいそうであるとおもった。みやすどころがそのてんを)
おかわいそうであると思った。御息所がその点を
(きづかっていたことでもあるし、せけんもそのうたがいをもって)
気づかっていたことでもあるし、世間もその疑いを持って
(みるであろうことが、じぶんはぜんぜんちがったきよいあつかいをみやにしよう、へいかがいますこし)
見るであろうことが、自分は全然違った清い扱いを宮にしよう、陛下が今少し
(おとならしくものをにんしきされるときをまって、ぜんさいぐうをこうきゅうにいれよう、)
大人らしくものを認識される時を待って、前斎宮を後宮に入れよう、
(こどもがすくなくてさびしいじぶんはようじょをかしずくことにたのしみをみいだそうと)
子供が少なくて寂しい自分は養女をかしずくことに楽しみを見いだそうと
(げんじはおもいついた。しんせつにしじゅうたずねのてがみをおくっていて、なにかのときにはじしんで)
源氏は思いついた。親切に始終尋ねの手紙を送っていて、何かの時には自身で
(ろくじょうていへいきもした。 「しつれいですが、おかあさまのかわりとおもってくだすって、)
六条邸へ行きもした。 「失礼ですが、お母様の代わりと思ってくだすって、
(ごえんりょのないおつきあいをくだすったら、わたくしのまごころがわかっていただけた)
御遠慮のないおつきあいをくだすったら、私の真心がわかっていただけた
(というきがするでしょう」 などというのであるが、みやはひじょうにうちきで)
という気がするでしょう」 などと言うのであるが、宮は非常に内気で
(しゅうちしんがおつよくて、いせいにほのかなこえでもきかせることは)
羞恥心がお強くて、異性にほのかな声でも聞かせることは
(おもいもよらぬことのようにおかんがえになるのであったから、)
思いもよらぬことのようにお考えになるのであったから、
(にょうぼうたちもすすめかねて、みやのおとなしさをくろうにしていた。おんなべっとう、ないし、)
女房たちも勧めかねて、宮のおとなしさを苦労にしていた。女別当、尚侍、
(そのほかごしんせきかんけいのおうけのむすめなどもおつきしているのである。じぶんのこころに)
そのほか御親戚関係の王家の娘などもお付きしているのである。自分の心に
(せんざいしているのぞみがじつげんされることがあっても、ほかのこいびとたちのなかにまじって)
潜在している望みが実現されることがあっても、他の恋人たちの中に混じって
(おとるひとではないらしいこのひとのかおをみたいものであると、)
劣る人ではないらしいこの人の顔を見たいものであると、
(こんなこともおもっているげんじであったから、ようふとしてうちとけないひとが)
こんなことも思っている源氏であったから、養父として打ちとけない人が
(そうめいであったのであろう。じしんのこころもまだどうなるかしれないのであるから、)
聡明であったのであろう。自身の心もまだどうなるかしれないのであるから、
(ぜんさいぐうをじゅだいさせるきぼうなどはひとにいっておかぬほうがよいと)
前斎宮を入内させる希望などは人に言っておかぬほうがよいと
(げんじはおもっていた。こじんのぶつじなどにとりわけちからをいれてくれるげんじに)
源氏は思っていた。故人の仏事などにとりわけ力を入れてくれる源氏に
(ろくじょうていのひとびとはかんしゃしていた。)
六条邸の人々は感謝していた。