紫式部 源氏物語 蓬生 5 與謝野晶子訳

順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | berry | 7813 | 神 | 7.9 | 98.5% | 644.5 | 5110 | 74 | 81 | 2025/03/20 |
2 | omochi | 7574 | 神 | 7.8 | 96.2% | 654.2 | 5158 | 203 | 81 | 2025/03/23 |
3 | はく | 7415 | 光 | 7.6 | 96.7% | 671.2 | 5152 | 175 | 81 | 2025/03/24 |
4 | ヤス | 6875 | S++ | 7.3 | 93.5% | 697.6 | 5149 | 353 | 81 | 2025/03/21 |
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問題文
(そんなころであるがだいにのふじんがとつぜんたずねてきた。へいぜいはそれほどしんみつには)
そんなころであるが大弐の夫人が突然訪ねて来た。平生はそれほど親密には
(していないのであるが、つれていきたいこころから、つくったにょおうのいしょうなども)
していないのであるが、つれて行きたい心から、作った女王の衣裳なども
(もって、よいくるまにのってきたとくいなかおのふじんがにわかにひたちのみやていへ)
持って、よい車に乗って来た得意な顔の夫人がにわかに常陸の宮邸へ
(あらわれたのである。もんをあけさせているときからめにはいってくるものは)
現われたのである。門をあけさせている時から目にはいってくるものは
(こうはいそのもののようなさびしいにわであった。もんのとびらもあんていがなくなっていて)
荒廃そのもののような寂しい庭であった。門の扉も安定がなくなっていて
(たおれたのを、とものものがたてなおしたりするさわぎである。このくさのなかにもどこかに)
倒れたのを、供の者が立て直したりする騒ぎである。この草の中にもどこかに
(みっつだけのみちはついているはずであるとみながさがした。そしてやっとたてものの)
三つだけの道はついているはずであると皆が捜した。そしてやっと建物の
(みなみむきのえんのところへくるまをつけた。 きまりのわるいめいわくなこととおもいながら)
南向きの縁の所へ車を着けた。 きまりの悪い迷惑なことと思いながら
(にょおうはじじゅうをおうせつにだした。すすけたきちょうをおしだしながらじじゅうはきゃくと)
女王は侍従を応接に出した。煤けた几帳を押し出しながら侍従は客と
(たいしたのである。ようぼうはいぜんにくらべてよほどおとろえていた。しかしやつれながらも)
対したのである。容貌は以前に比べてよほど衰えていた。しかしやつれながらも
(きれいで、にょおうのかおにかえたいきがする。 「もうしゅっぱつしなければ)
きれいで、女王の顔に代えたい気がする。 「もう出発しなければ
(ならないのですが、こちらのことがきがかりなものですから、きょうはじじゅうの)
ならないのですが、こちらのことが気がかりなものですから、今日は侍従の
(むかえがてらおたずねしました。わたくしのこういをくんでくださらないで、ごじぶんが)
迎えがてらお訪ねしました。私の好意をくんでくださらないで、御自分が
(ちょっとでもきてくださることをごしょうちにならないことはやむをえませんが、)
ちょっとでも来てくださることを御承知にならないことはやむをえませんが、
(せめてじじゅうだけをよこしていただくおゆるしをいただきにきたのです。)
せめて侍従だけをよこしていただくお許しをいただきに来たのです。
(まあおきのどくなふうでくらしていらっしゃるのですね」)
まあお気の毒なふうで暮らしていらっしゃるのですね」
(こういったのであるから、つづいてないてみせねばならないのであるが、)
こう言ったのであるから、続いて泣いてみせねばならないのであるが、
(じつはだいにふじんはきゅうしゅうのちょうかんふじんになってしゅっぱつしていくきぼうに)
実は大弐夫人は九州の長官夫人になって出発して行く希望に
(もえているのである。 「みやさまがおいでになったころ、わたくしのけっこんあいてが)
燃えているのである。 「宮様がおいでになったころ、私の結婚相手が
(わるいからって、こうさいするのをおきらいになったものですから、わたくしらもつい)
悪いからって、交際するのをおきらいになったものですから、私らもつい
(かけはなれたれいたんなふうになっていましたものの、それからもこちらさまは)
かけ離れた冷淡なふうになっていましたものの、それからもこちら様は
(げんじのたいしょうさんなどとごけっこんをなさるようなごこううんでいらっしゃいましたから、)
源氏の大将さんなどと御結婚をなさるような御幸運でいらっしゃいましたから、
(はれがましくておでいりもしにくかったのです。しかしにんげんせかいは)
晴れがましくてお出入りもしにくかったのです。しかし人間世界は
(こうふくなことばかりもありませんからね、そのなかでわれわれかいきゅうのものが)
幸福なことばかりもありませんからね、その中でわれわれ階級の者が
(かえってきらくなんですよ。およびもないけんかくのあるおうちでしたが、)
かえって気楽なんですよ。及びもない懸隔のあるお家でしたが、
(こちらはおきのどくなことになってしまいまして、わたくしもしんぱいなんですが、)
こちらはお気の毒なことになってしまいまして、私も心配なんですが、
(ちかくにおりますうちは、なにかのばあいにちからになれるとおもっていましたものの、)
近くにおりますうちは、何かの場合に力になれると思っていましたものの、
(とおいところへでていくことになりますと、とてもあなたのことが)
遠い所へ出て行くことになりますと、とてもあなたのことが
(きになってなりません」 とふじんはいうのであるが、)
気になってなりません」 と夫人は言うのであるが、
(にょおうはこころのうごいたふうもなかった。 「ごこういはうれしいのですが、)
女王は心の動いたふうもなかった。 「御好意はうれしいのですが、
(ひとなみのひとにもなれないわたくしはこのままここでしんでいくのが)
人並みの人にもなれない私はこのままここで死んで行くのが
(なによりもよくにあうことだろうとおもいます」 とだけすえつむはなはいう。)
何よりもよく似合うことだろうと思います」 とだけ末摘花は言う。
(「それはそうおおもいになるのはごもっともですが、いきているにんげんであって、)
「それはそうお思いになるのはごもっともですが、生きている人間であって、
(こんなひどいばしょにすんでいるのなどはほかにめったにないでしょう。)
こんなひどい場所に住んでいるのなどはほかにめったにないでしょう。
(たいしょうさんがしゅうぜんをしてくだすったら、またもういちどたまのうてなにもなるでしょうと)
大将さんが修繕をしてくだすったら、またもう一度玉の台にもなるでしょうと
(きたいされますがね。ちかごろはどうしたことでしょう、ひょうぶきょうのみやのひめぎみのほかは)
期待されますがね。近ごろはどうしたことでしょう、兵部卿の宮の姫君のほかは
(だれもきらいになっておしまいになったふうですね。むかしかられんあいかんけいをたくさん)
だれも嫌いになっておしまいになったふうですね。昔から恋愛関係をたくさん
(もっていらっしゃったかたでしたが、それもみなせいさんしておしまいに)
持っていらっしゃった方でしたが、それも皆清算しておしまいに
(なりましたってね。ましてこんなみじめないきかたをしていらっしゃるひとを、)
なりましたってね。ましてこんなみじめな生き方をしていらっしゃる人を、
(みさおをたててじぶんをまっていてくれたかとうけいれてくださることは)
操を立てて自分を待っていてくれたかと受け入れてくださることは
(むずかしいでしょうね」 こんなよけいなことまでいわれてみると、)
むずかしいでしょうね」 こんなよけいなことまで言われてみると、
(そうであるかもしれないとすえつむはなはかなしくなきいってしまった。)
そうであるかもしれないと末摘花は悲しく泣き入ってしまった。
(しかもきゅうしゅういきをうべなうふうはみじんもない。ふじんはいろいろと)
しかも九州行きを肯うふうは微塵もない。夫人はいろいろと
(ゆうわくをこころみたあとで、 「ではじじゅうだけでも」)
誘惑を試みたあとで、 「では侍従だけでも」
(とひのくれていくのをみてせきたてた。じじゅうはなごりをおしむまもなくて、)
と日の暮れていくのを見てせきたてた。侍従は名残を惜しむ間もなくて、
(なくなくにょおうに、 「それでは、きょうはあんなにおっしゃいますから、)
泣く泣く女王に、 「それでは、今日はあんなにおっしゃいますから、
(おおくりにだけついてまいります。あちらがああおっしゃるのももっともですし、)
お送りにだけついてまいります。あちらがああおっしゃるのももっともですし、
(あなたさまがいきたくおぼしめさないのもごむりだとはおもわれませんし、)
あなた様が行きたく思召さないのも御無理だとは思われませんし、
(わたくしはなかにたってつらくてなりませんから」 という。)
私は中に立ってつらくてなりませんから」 と言う。
(このひとまでもにょおうをすてていこうとするのを、うらめしくもかなしくも)
この人までも女王を捨てて行こうとするのを、恨めしくも悲しくも
(すえつむはなはおもうのであるが、ひきとめようもなくてただなくばかりであった。)
末摘花は思うのであるが、引き止めようもなくてただ泣くばかりであった。
(かたみにあたえたいいふくもみなわるくなっていてながいあいだのこのひとのこういに)
形見に与えたい衣服も皆悪くなっていて長い間のこの人の好意に
(むくいるものがなくて、すえつむはなはじしんのぬけげをあつめてかずらにした)
酬いる物がなくて、末摘花は自身の抜け毛を集めて鬘にした
(きゅうしゃくぐらいのかみのうつくしいのを、がみのあるはこにいれて、)
九尺ぐらいの髪の美しいのを、雅味のある箱に入れて、
(むかしのよいくんこうひとつぼをそれにつけてじじゅうへおくった。 )
昔のよい薫香一壺をそれにつけて侍従へ贈った。
(「たゆまじきすぢをたのみしたまかづらおもいのほかにかけはなれぬる )
「絶ゆまじきすぢを頼みし玉かづら思ひのほかにかけ離れぬる
(しんだままがゆいごんしたこともあるからね、つまらないわたくしだけれどいっしょうあなたの)
死んだ乳母が遺言したこともあるからね、つまらない私だけれど一生あなたの
(せわをしたいとおもっていた。あなたがすててしまうのももっともだけれど、)
世話をしたいと思っていた。あなたが捨ててしまうのももっともだけれど、
(だれがあなたのかわりになってわたくしをなぐさめてくれるものがあるとおもって)
だれがあなたの代わりになって私を慰めてくれる者があると思って
(たっていくのだろうとおもうとうらめしいのよ」 といって、にょおうはひじょうにないた。)
立って行くのだろうと思うと恨めしいのよ」 と言って、女王は非常に泣いた。
(じじゅうもなみだでものがいえないほどになっていた。 「ままがもうしあげたことは)
侍従も涙でものが言えないほどになっていた。 「乳母が申し上げたことは
(むろんでございますが、そのほかにもごいっしょにながいあいだ)
むろんでございますが、そのほかにもごいっしょに長い間
(くろうをしてまいりましたのに、おもいがけないえんにひかれて、)
苦労をしてまいりましたのに、思いがけない縁に引かれて、
(しかもえんぽうへまでいってしまいますとは」 といって、また、)
しかも遠方へまで行ってしまいますとは」 と言って、また、
(「たまかづらたえてもやまじゆくみちのたむけのかみもかけてちかわん )
「玉かづら絶えてもやまじ行く道のたむけの神もかけて誓はん
(いのちのございますあいだはあなたさまにせいいをおみせします」 などともいう。)
命のございます間はあなた様に誠意をお見せします」 などとも言う。
(「じじゅうはどうしました。くらくなりましたよ」 とだいにふじんにこごとをいわれて、)
「侍従はどうしました。暗くなりましたよ」 と大弐夫人に小言を言われて、
(じじゅうはむちゅうでくるまにのってしまった。そしてあとばかりがかえりみられた。)
侍従は夢中で車に乗ってしまった。そしてあとばかりが顧みられた。
(こまりながらもながいあいだはなれていかなかったひとが、こんなふうにして)
困りながらも長い間離れて行かなかった人が、こんなふうにして
(わかれていったことでにょおうはますますこころぼそくなった。だれもやといてのないような)
別れて行ったことで女王はますます心細くなった。だれも雇い手のないような
(おいたにょうぼうまでが、 「もっともですよ。どうしてこのまま)
老いた女房までが、 「もっともですよ。どうしてこのまま
(いられるものですか。わたくしたちだってもうがまんができませんよ」)
いられるものですか。私たちだってもう我慢ができませんよ」
(こんなことをいって、ほかへつとめるてづるをさがしはじめて、)
こんなことを言って、ほかへ勤める手蔓を捜し始めて、
(ここをでるけっしんをしたらしいことをいいあうのをきくこともすえつむはなのみには)
ここを出る決心をしたらしいことを言い合うのを聞くことも末摘花の身には
(つらいことであった。じゅういちがつになるとゆきやみぞれのひがおおくなって、ほかのところでは)
つらいことであった。十一月になると雪や霙の日が多くなって、ほかの所では
(きえているまがあっても、ここではたけのたかいかれたざっそうのかげなどにふかく)
消えている間があっても、ここでは丈の高い枯れた雑草の蔭などに深く
(つもったものはかさがたかくなるばかりでこしのはくさんをそこにおいたきがするにわを、)
積もったものは量が高くなるばかりで越の白山をそこに置いた気がする庭を、
(いまはもうだれひとりでいりするげなんもなかった。こんななかにつれづれなひを)
今はもうだれ一人出入りする下男もなかった。こんな中につれづれな日を
(おくるよりしかたのないすえつむはなのにょおうであった。)
送るよりしかたのない末摘花の女王であった。
(なきあいわらいあうこともあったじじゅうがいなくなってからは、)
泣き合い笑い合うこともあった侍従がいなくなってからは、
(よるのちりのかかったちょうだいのなかでただひとりさびしいおもいをしてねた。)
夜の塵のかかった帳台の中でただ一人寂しい思いをして寝た。