紫式部 源氏物語 蓬生 6 與謝野晶子訳

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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 berry 7936 8.0 98.5% 439.0 3537 53 53 2025/03/20
2 omochi 7741 8.0 96.2% 441.8 3560 140 53 2025/03/24
3 ヤス 7205 7.5 95.1% 469.2 3561 180 53 2025/03/21
4 はく 7161 7.4 96.7% 481.3 3568 121 53 2025/03/24

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問題文

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(げんじはながくこがれつづけたむらさきふじんのもとへかえりえたまんぞくかんがおおきくて、)

源氏は長くこがれ続けた紫夫人のもとへ帰りえた満足感が大きくて、

(ただのこいびとたちのところなどへはあしがむかないじきでもあったから、)

ただの恋人たちの所などへは足が向かない時期でもあったから、

(ひたちのみやのにょおうはまだいきているだろうかというほどのことはときどきこころに)

常陸の宮の女王はまだ生きているだろうかというほどのことは時々心に

(のぼらないことはなかったが、さがしだしてやりたいとおもうことも、)

上らないことはなかったが、捜し出してやりたいと思うことも、

(いそぐこととおもわれないでいるうちにそのとしもくれた。しがつごろにはなちるさとを)

急ぐことと思われないでいるうちにその年も暮れた。四月ごろに花散里を

(たずねてみたくなってふじんのりょうかいをえてからげんじはにじょうのいんをでた。)

訪ねて見たくなって夫人の了解を得てから源氏は二条の院を出た。

(いくにちかつづいたあめののこりあめらしいものがふってやんだあとでつきがでてきた。)

幾日か続いた雨の残り雨らしいものが降ってやんだあとで月が出てきた。

(せいしゅんじだいのしのびあるきのおもいだされるえんなゆうづくよであった。)

青春時代の忍び歩きの思い出される艶な夕月夜であった。

(くるまのなかのげんじはむかしをうつらうつらとまぼろしにみていると、かたちもないほどにあれた)

車の中の源氏は昔をうつらうつらと幻に見ていると、形もないほどに荒れた

(たいぼくがもりのようなやしきのまえにきた。たかいまつにふじがかかってつきのひかりにはなのなびくのが)

大木が森のような邸の前に来た。高い松に藤がかかって月の光に花のなびくのが

(みえ、かぜといっしょにそのこうがなつかしくおくられてくる。たちばなとはまた)

見え、風といっしょにその香がなつかしく送られてくる。橘とはまた

(ちがったかんじのするはなのこうにこころがひかれて、くるまからすこしかおをだすようにして)

違った感じのする花の香に心が惹かれて、車から少し顔を出すようにして

(ながめると、ながくえだをたれたやなぎも、どべいのないじゆうさにみだれあっていた。)

ながめると、長く枝をたれた柳も、土塀のない自由さに乱れ合っていた。

(みたことのあるこだちであるとげんじはおもったが、いぜんのひたちのみやであることに)

見たことのある木立ちであると源氏は思ったが、以前の常陸の宮であることに

(きがついた。げんじはものあわれなきもちになってくるまをとめさせた。れいのこれみつは)

気がついた。源氏は物哀れな気持ちになって車を止めさせた。例の惟光は

(こんなしのびにはずれたことのないおとこで、ついてきていた。)

こんな微行にはずれたことのない男で、ついて来ていた。

(「ここはひたちのみやだったね」 「さようでございます」)

「ここは常陸の宮だったね」 「さようでございます」

(「ここにいたひとがまだすんでいるかもしれない。わたくしはたずねてやらねば)

「ここにいた人がまだ住んでいるかもしれない。私は訪ねてやらねば

(ならないのだが、わざわざでかけることもたいそうになるから、このきかいに、)

ならないのだが、わざわざ出かけることもたいそうになるから、この機会に、

(もしそのひとがいればあってみよう。はいっていってたずねてきてくれ。すみぬしが)

もしその人がいれば逢ってみよう。はいって行って尋ねて来てくれ。住み主が

など

(だれであるかをきいてからわたくしのことをいわないとはじをかくよ」)

だれであるかを聞いてから私のことを言わないと恥をかくよ」

(とげんじはいった。 すえつむはなのきみはものなやましいしょかのひに、そのひるま)

と源氏は言った。 末摘花の君は物悩ましい初夏の日に、その昼間

(うたたねをしたときのゆめにちちみやをみて、さめてからもなごりのおもいにとらわれて、)

うたた寝をした時の夢に父宮を見て、さめてからも名残の思いにとらわれて、

(かなしみながらあめのもってぬれたひさしのへやのはしのほうをふかせたりへやのなかを)

悲しみながら雨の洩って濡れた廂の室の端のほうを拭かせたり部屋の中を

(かたづけさせたりなどして、へいぜいにもにずうたをおもってみたのである。 )

片づけさせたりなどして、平生にも似ず歌を思ってみたのである。

(なきひとをこうるたもとのほどなきにあれたるのきのしずくさえそう )

亡き人を恋ふる袂のほどなきに荒れたる軒の雫さへ添ふ

(こんなふうに、さびしさをかいていたときが、げんじのくるまのとめられたときであった。)

こんなふうに、寂しさを書いていた時が、源氏の車の止められた時であった。

(これみつはやしきのなかへはいってあちらこちらとあるいてみて、ひとのいるものおとの)

惟光は邸の中へはいってあちらこちらと歩いて見て、人のいる物音の

(きこえるところがあるかとさがしたのであるが、そんなものはない。じぶんのそうぞうどおりに)

聞こえる所があるかと捜したのであるが、そんな物はない。自分の想像どおりに

(だれもいない。じぶんはゆきかえりにこのやしきはみるが、ひとのすんでいるところとは)

だれもいない。自分は往き返りにこの邸は見るが、人の住んでいる所とは

(おもわれなかったのだからとおもってこれみつがあしをかえそうとするときに、つきがあかるく)

思われなかったのだからと思って惟光が足を返そうとする時に、月が明るく

(さしだしたので、もういちどみると、こうしをにけんほどあげて、そこのみすは)

さし出したので、もう一度見ると、格子を二間ほど上げて、そこの御簾は

(ひとありげにうごいていた。これがめにはいったせつなはおそろしいきさえしたが、)

人ありげに動いていた。これが目にはいった刹那は恐ろしい気さえしたが、

(よっていってこえをかけると、ろうじんらしくせきをさきにたててこたえるおんながあった。)

寄って行って声をかけると、老人らしく咳を先に立てて答える女があった。

(「いらっしゃったのはどなたですか」 これみつはじぶんのなをつげてから、)

「いらっしゃったのはどなたですか」 惟光は自分の名を告げてから、

(「じじゅうさんというかたにちょっとおめにかかりたいのですが」 といった。)

「侍従さんという方にちょっとお目にかかりたいのですが」 と言った。

(「そのひとはよそへいきました。けれどもじじゅうのなかまのものがおります」)

「その人はよそへ行きました。けれども侍従の仲間の者がおります」

(というこえは、むかしよりもずっとろうじんじみてきてはいるが、ききおぼえのある)

と言う声は、昔よりもずっと老人じみてきてはいるが、聞き覚えのある

(こえであった。いえのなかのひとはこれみつがなんであったかをわすれていた。かりぎぬすがたのおとこが)

声であった。家の中の人は惟光が何であったかを忘れていた。狩衣姿の男が

(そっとはいってきて、やわらかなちょうしでものをいうのであったから、あるいは)

そっとはいって来て、柔らかな調子でものを言うのであったから、あるいは

(きつねかなにかではないかとおもったが、これみつがちかづいていって、)

狐か何かではないかと思ったが、惟光が近づいて行って、

(「たしかなことをおきかせくださいませんか。こちらさまがむかしのままで)

「確かなことをお聞かせくださいませんか。こちら様が昔のままで

(おいでになるかどうかおきかせください。わたくしのしゅじんのほうではへんしんもなにもして)

おいでになるかどうかお聞かせください。私の主人のほうでは変心も何もして

(おいでにならないごようすです。こんばんももんをおとおりになって、たずねてみたく)

おいでにならない御様子です。今晩も門をお通りになって、訪ねてみたく

(おぼしめすふうでくるまをとめておいでになります。どうおへんじをすればいいでしょう。)

思召すふうで車を止めておいでになります。どうお返辞をすればいいでしょう。

(ありのままのおはなしをわたくしにはごえんりょなくしてください」 というと、)

ありのままのお話を私には御遠慮なくしてください」 と言うと、

(おんなたちはわらいだした。 「かわっていらっしゃればこんなおやしきにそのまま)

女たちは笑い出した。 「変わっていらっしゃればこんなお邸にそのまま

(すんでおいでになるはずもありません。ごすいさつなさいましてあなたからよろしく)

住んでおいでになるはずもありません。御推察なさいましてあなたからよろしく

(おへんじをもうしあげてください。わたくしどものようなろうじんでさえけいけんしたことの)

お返辞を申し上げてください。私どものような老人でさえ経験したことの

(ないようなくるしみをなめてきょうまでおまちになったのでございますよ」)

ないような苦しみをなめて今日までお待ちになったのでございますよ」

(おんなたちはこれみつにもっともっとはなしたいというふうであったが、)

女たちは惟光にもっともっと話したいというふうであったが、

(これみつはめいわくにおもって、 「いやわかりました。ともかくそうもうしあげます」)

惟光は迷惑に思って、 「いやわかりました。ともかくそう申し上げます」

(といいのこしてでてきた。)

と言い残して出て来た。

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