紫式部 源氏物語 蓬生 7 與謝野晶子訳

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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 berry 7631 7.7 98.1% 604.9 4707 91 70 2025/03/20
2 はく 7623 7.8 96.9% 603.8 4751 148 70 2025/03/24
3 ヤス 7304 7.6 95.6% 618.9 4736 215 70 2025/03/21

問題文

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(「なぜながくかかったの、どうだったかね、むかしのみちをみいだせないよもぎがはらに)

「なぜ長くかかったの、どうだったかね、昔の路を見いだせない蓬原に

(なっているね」 げんじにとわれてこれみつははじめからのほうこくをするのであった。)

なっているね」 源氏に問われて惟光は初めからの報告をするのであった。

(「こんなふうにして、やっとにんげんをはっけんしたのでございます。じじゅうのおばで)

「こんなふうにして、やっと人間を発見したのでございます。侍従の叔母で

(しょうしょうとかもうしましたろうじんがむかしのこえではなしました」 これみつはなおめにみた)

少将とか申しました老人が昔の声で話しました」 惟光はなお目に見た

(ていないのようすをくわしくいう。げんじはひじょうにあわれにおもった。このはいていじみたいえに、)

邸内の様子をくわしく言う。源氏は非常に哀れに思った。この廃邸じみた家に、

(どんなきもちですんでいることであろう、それをじぶんはいままですてていたと)

どんな気持ちで住んでいることであろう、それを自分は今まで捨てていたと

(おもうと、げんじはじぶんながらもれいこくであったとかえりみられるのであった。)

思うと、源氏は自分ながらも冷酷であったと省みられるのであった。

(「どうしようかね、こんなふうにでかけてくることもちかごろはよういで)

「どうしようかね、こんなふうに出かけて来ることも近ごろは容易で

(ないのだから、このきかいでなくてはたずねられないだろう。すべてのことを)

ないのだから、この機会でなくては訪ねられないだろう。すべてのことを

(そうごうしてかんがえてみてもむかしのままにどくしんでいるそうぞうのつくひとだ」)

綜合して考えてみても昔のままに独身でいる想像のつく人だ」

(とげんじはいいながらも、このやしきへはいっていくことにはなおちゅうちょがされた。)

と源氏は言いながらも、この邸へはいって行くことにはなお躊躇がされた。

(このじっかんからよいうたをよんでまずおくりたいきのするばあいであるが、)

この実感からよい歌を詠んでまず贈りたい気のする場合であるが、

(きびんにへんかのできないこともむかしのままであったなら、またされるつかいがどんなに)

機敏に返歌のできないことも昔のままであったなら、待たされる使いがどんなに

(めいわくをするかしれないとおもってそれはやめることにした。これみつもげんじがすぐに)

迷惑をするかしれないと思ってそれはやめることにした。惟光も源氏がすぐに

(はいっていくことはふかのうだとおもった。 「とてもなかをおあるきになれないほどの)

はいって行くことは不可能だと思った。 「とても中をお歩きになれないほどの

(つゆでございます。よもぎをすこしはらわせましてからおいでになりましたら」)

露でございます。蓬を少し払わせましてからおいでになりましたら」

(このこれみつのことばをきいて、げんじは、 )

この惟光の言葉を聞いて、源氏は、

(たずねてもわれこそとわめみちもなくふかきよもぎのもとのこころを )

尋ねてもわれこそ訪はめ道もなく深き蓬のもとの心を

(とくちずさんだが、やはりくるまからすぐにおりてしまった。これみつはくさのつゆをうまのむちで)

と口ずさんだが、やはり車からすぐに下りてしまった。惟光は草の露を馬の鞭で

(はらいながらあんないした。きのえだからちるしずくもあきのしぐれのようにあらくふるので、)

払いながら案内した。木の枝から散る雫も秋の時雨のように荒く降るので、

など

(かさをげんじにさしかけさせた。これみつが、 「このしたつゆはあめにまされり)

傘を源氏にさしかけさせた。惟光が、 「木の下露は雨にまされり

((みさぶらいみかさともうせみやぎのの)でございます」 という。)

(みさぶらひ御笠と申せ宮城野の)でございます」 と言う。

(げんじのさしぬきのすそはひどくぬれた。むかしでさえあるかないかであったちゅうもんなどは)

源氏の指貫の裾はひどく濡れた。昔でさえあるかないかであった中門などは

(かげもなくなっている。いえのなかへはいるのもむきだしなきのすることであったが、)

影もなくなっている。家の中へはいるのもむき出しな気のすることであったが、

(だれもひとはみていなかった。 にょおうはのぞみをかけてきたことの)

だれも人は見ていなかった。 女王は望みをかけて来たことの

(じじつになったことはうれしかったが、りっぱなすがたのげんじにみられるじぶんを)

事実になったことはうれしかったが、りっぱな姿の源氏に見られる自分を

(はずかしくおもった。だいにのふじんのおくったいふくはそれまで、いやなきがして)

恥かしく思った。大弐の夫人の贈った衣服はそれまで、いやな気がして

(よくみようともしなかったのを、にょうぼうらがこうをいれるからびつにしまっておいたから)

よく見ようともしなかったのを、女房らが香を入れる唐櫃にしまって置いたから

(よいこうがついたのに、そのひとびとからしかたなしにきかえさせられて、)

よい香がついたのに、その人々からしかたなしに着かえさせられて、

(すすけたきちょうをひきよせてすわっていた。げんじはざについてからいった。)

煤けた几帳を引き寄せてすわっていた。源氏は座に着いてから言った。

(「ながくおあいしないでも、わたくしのこころだけはかわらずにあなたをおもって)

「長くお逢いしないでも、私の心だけは変わらずにあなたを思って

(いたのですが、なんともあなたがいってくださらないものだから、うらめしくて、)

いたのですが、何ともあなたが言ってくださらないものだから、恨めしくて、

(いままでためすつもりでれいたんをよそおっていたのですよ。しかし、)

今までためすつもりで冷淡を装っていたのですよ。しかし、

(みわのすぎではないが、このまえのこだちをめにみるとすどおりができなくてね、)

三輪の杉ではないが、この前の木立ちを目に見ると素通りができなくてね、

(わたくしからまけてでることにしましたよ」 きちょうのたれぎぬをすこしてであけてみると、)

私から負けて出ることにしましたよ」 几帳の垂れ絹を少し手であけて見ると、

(にょおうはれいのようにただはずかしそうにすわっていて、すぐにへんじはようしない。)

女王は例のようにただ恥ずかしそうにすわっていて、すぐに返辞はようしない。

(こんなすまいにまでたずねてきたげんじのこころざしのみにしむことによってやっとちからづいて)

こんな住居にまで訪ねて来た源氏の志の身にしむことによってやっと力づいて

(なにかをすこしいった。 「こんなくさはらのなかで、ほかののぞみもおこさずに)

何かを少し言った。 「こんな草原の中で、ほかの望みも起こさずに

(まっていてくだすったのだからわたくしはこうふくをかんじる。またあなただって、)

待っていてくだすったのだから私は幸福を感じる。またあなただって、

(あなたのちかごろのこころもちもよくきかないままで、じぶんのあいからおして、)

あなたの近ごろの心持ちもよく聞かないままで、自分の愛から推して、

(あいをもっていてくださるとしんじてたずねてきたわたくしをなんとおもいますか。)

愛を持っていてくださると信じて訪ねて来た私を何と思いますか。

(きょうまであなたにくろうをさせておいたことも、わたくしのこころからのことでなくて、)

今日まであなたに苦労をさせておいたことも、私の心からのことでなくて、

(そのときはよのなかのじじょうがわるかったのだとおもってゆるしてくださるでしょう。)

その時は世の中の事情が悪かったのだと思って許してくださるでしょう。

(こんごのわたくしがせいじつのかけたようなことをすれば、そのときはわたくしがじゅうぶんに)

今後の私が誠実の欠けたようなことをすれば、その時は私が十分に

(せきにんをおいますよ」 などと、それほどにおもわぬことも、おんなをかんどうさすべく)

責任を負いますよ」 などと、それほどに思わぬことも、女を感動さすべく

(げんじはいった。とまっていくこともこのいえのようすとじしんとが)

源氏は言った。泊まって行くこともこの家の様子と自身とが

(ちょうわのとれないことをおもって、もっともらしくこうじつをつくって)

調和の取れないことを思って、もっともらしく口実を作って

(げんじはかえろうとした。じしんのうえたまつではないが、むかしにくらべてたかくなった)

源氏は帰ろうとした。自身の植えた松ではないが、昔に比べて高くなった

(きをみても、ねんげつのながいへだたりがげんじにおもわれた。そしてげんじの)

木を見ても、年月の長い隔たりが源氏に思われた。そして源氏の

(じしんのこんにちのみのうえとぎゃっきょうにいたころとがおもいくらべられもした。 )

自身の今日の身の上と逆境にいたころとが思い比べられもした。

(「ふじなみのうちすぎがたくみえつるはまつこそやどのしるしなりけれ )

「藤波の打ち過ぎがたく見えつるはまつこそ宿のしるしなりけれ

(かぞえてみればずいぶんながいつきひになることでしょうね。ものあわれになりますよ。)

数えてみればずいぶん長い月日になることでしょうね。物哀れになりますよ。

(またゆるりとかなしいたびびとだったじだいのはなしもきかせにきましょう。)

またゆるりと悲しい旅人だった時代の話も聞かせに来ましょう。

(あなたもどんなにくるしかったかというしんくのあとも、わたくしでなくてはきかせるひとが)

あなたもどんなに苦しかったかという辛苦の跡も、私でなくては聞かせる人が

(ないでしょう。とまちがいかもしれぬがわたくしはしんじているのですよ」)

ないでしょう。とまちがいかもしれぬが私は信じているのですよ」

(などとげんじがいうと、 )

などと源氏が言うと、

(としをへてまつしるしなきわがやどははなのたよりにすぎぬばかりか )

年を経て待つしるしなきわが宿は花のたよりに過ぎぬばかりか

(とひくいこえでにょおうはいった。みじろぎにしれるすがたも、そでにふくんだにおいも)

と低い声で女王は言った。身じろぎに知れる姿も、袖に含んだにおいも

(むかしよりはかんじよくなったきがするとげんじはおもった。おちようとするつきのひかりが)

昔よりは感じよくなった気がすると源氏は思った。落ちようとする月の光が

(にしのつまどのひらいたくちからさしてきて、そのむこうにあるはずのろうも)

西の妻戸の開いた口からさしてきて、その向こうにあるはずの廊も

(なくなっていたし、ひさしのいたもすっかりとれたいえであるから、あかるくしつないが)

なくなっていたし、廂の板もすっかり取れた家であるから、明るく室内が

(みわたされた。むかしのままにかざりつけのそろっていることは、しのぶぐさのおいしげった)

見渡された。昔のままに飾りつけのそろっていることは、忍ぶ草のおい茂った

(がいけんよりもふうりゅうにみえるのであった。むかしのしょうせつにおやのつくったどうを)

外見よりも風流に見えるのであった。昔の小説に親の作った堂を

(こぼったはなしもあるが、これはおやのしたままをながくたもっていくひととして)

毀った話もあるが、これは親のしたままを長く保っていく人として

(こころのひかれるところがあるとげんじはおもった。このひとのしゅうちしんのおおいところも)

心の惹かれるところがあると源氏は思った。この人の羞恥心の多いところも

(さすがにきじょであるとうなずかれて、このひとをいっしょうふうがわりなあいじんと)

さすがに貴女であるとうなずかれて、この人を一生風変わりな愛人と

(おもおうとしたかんがえも、いろいろなことにまぎれてわすれてしまっていたころ、)

思おうとした考えも、いろいろなことに紛れて忘れてしまっていたころ、

(このひとはどんなにうらめしくおもったであろうとあわれにおもわれた。ここをでてから)

この人はどんなに恨めしく思ったであろうと哀れに思われた。ここを出てから

(げんじのたずねていったはなちるさとも、うつくしいはでなおんなというのではなかったから、)

源氏の訪ねて行った花散里も、美しい派手な女というのではなかったから、

(すえつむはなのみにくさもひかくしてかんがえられることがなくすんだのであろうとおもわれる。)

末摘花の醜さも比較して考えられることがなく済んだのであろうと思われる。

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