大阪圭吉 デパートの絞刑吏④

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問題文

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(そのろだいではいままさにおおきなはいいろのばるーんがそのいようなしたいを)

その露台では今まさに大きな灰色の 広告気球(バルーン)がその異様な姿態を

(さらけだして、ゆかいなあおぞらのなかへ、むくむくとじょうしょうしはじめていた。わたしはおもわず)

晒け出して、愉快な青空の中へ、むくむくと上昇し始めていた。私は思わず

(いきをすいこんだ。が、そこでわたしのおどろいたことには、ばるーんをあげかけた)

息を吸い込んだ。が、そこで私の驚いた事には、バルーンを揚げ掛けた

(ききゅうがかりのおとこをとらえて、きょうすけはつめたいじんもんをはじめた。)

気球係の男を捕えて、喬介は冷たい訊問を始めた。

(「きみはけさなんじにここへきたかね?」「ええ、じつはさくばんすこしてんこうがわるかった)

「君は今朝何時に此処へ来たかね?」「ええ、実は昨晩少し天候が悪かった

(ものですからせきにんじょうしんぱいして、けさはいつもよりすこしはやくろくじはんにしゅっきん)

ものですから責任上心配して、今朝は何日もより少し早く六時半に出勤

(しました」ろーらーのはんどるをぎゃくかいてんさせながら、かかりのおとこは)

しました」捲取機(ローラー)のハンドルを逆回転させながら、係の男は

(あいそよくこたえた。「するときみは、ろくじはんにこのばるこにーへでたわけだね?」)

愛想よく答えた。「すると君は、六時半にこのバルコニーへ出た訳だね?」

(「いいえちがいます。ろくじはんというのはみせへついたじかんでして、それから)

「いいえ違います。六時半と言うのは店へ着いた時間でして、それから

(あのじけんのうわさをきいたりしたいをみたりしていたものですから、ここへあがったときは)

あの事件の噂を聞いたり屍体を見たりしていたものですから、此処へ上った時は

(もうしちじでした」「そのとき、このばるこにーのうえでなにかかわったところは)

もう七時でした」「その時、このバルコニーの上で何か変った処は

(なかったかね?」「べつにきづきませんでしたが、ただ、がすのほーすが)

なかったかね?」「別に気附きませんでしたが、ただ、瓦斯(ガス)のホースが

(らんざつになげだされてあり、ばるーんはひじょうにふりょくがへって、ふにゃふにゃに)

乱雑に投げ出されてあり、バルーンは非常に浮力が減って、フニャフニャに

(なりながら、いまにもおちそうにひくいところでただよっていました。が、これはてんこうの)

なりながら、今にも墜ちそうに低い処で漂っていました。が、これは天候の

(あれたあとによくあることです」「ばるーんはよなかにもあげておくのですか?」)

荒れた後によくある事です」「バルーンは夜中にも揚げて置くのですか?」

(「ええ、したにおろしてけいりゅうしておくのがふつうですが、てんこうをゆだんして)

「ええ、下に降ろして繋留して置くのが普通ですが、天候を油断して

(そのままにしておくときもあるのです」「ばるーんのふりょくがへったというのは?」)

そのままにして置く時もあるのです」「バルーンの浮力が減ったと言うのは?」

(「きのうにあながあいていたのです。もっともそのあなは、ひとつきほどまえにいちどしゅうぜんした)

「気嚢に穴が明いていたのです。もっともその穴は、一月程前に一度修繕した

(ことのあるあなですがーー」「ははあ、それできみはさきほどきのうのしゅうぜんをしていた)

事のある穴ですがーー」「ははあ、それで君は先程気嚢の修繕をしていた

(のだね。ところで、このばるーんのふりょくはどれくらいあるかね?」「ひょうじゅんきあつの)

のだね。ところで、このバルーンの浮力はどれ位あるかね?」「標準気圧の

など

(もとでは600きろはじゅうぶんあります」「600きろというとずいぶんなじゅうりょう)

元では600瓩(キロ)は充分あります」「600瓩と言うと随分な重量

(だねえ。いや、ありがとう」ききおわるときょうすけは、ばるーんのろーぷについてあがって)

だねえ。いや、有難う」訊き終ると喬介は、バルーンのロープに着いて揚がって

(いくきりぬきのさいんをみつめた。)

行く切り抜きの広告文字(サイン)を見詰めた。

(ちょうどばるーんがかんぜんにじょうしょうしてろーぷがはりきったときにしほうしゅにんがやって)

ちょうどバルーンが完全に上昇してロープが張り切った時に司法主任がやって

(きた。「やあ、みなさんそんなところでしんこきゅうをしているのですか!いや、ひじょうに)

来た。「やあ、皆さんそんな処で深呼吸をしているのですか! いや、非常に

(けっこうなことです。ところでどうですか。くびかざりのしもんはやっぱりひがいしゃのぐちのもの)

結構な事です。ところでどうですか。首飾の指紋はやっぱり被害者野口のもの

(でしたよ。ほら、こんなにはっきりとけんしゅつされました」こういってしほうしゅにんは)

でしたよ。ほら、こんなにはっきりと検出されました」こう言って司法主任は

(わたしたちのめのまえへなないろにかがやくうつくしいくびかざりをぶらさげた。なるほど、そのおおつぶな)

私達の眼の前へ七色に輝く美しい首飾をぶら下げた。成る程、その大粒な

(れんじゅのうえには、ふたつのおおきなゆびあとが、はっきりとうかびでていた。「ほう、)

連珠の上には、二つの大きな指跡が、はっきりと浮び出ていた。「ほう、

(けっこうですね」きょうすけはほほえんだ。「ところで、すみませんがそのすいぎんとちょーくの)

結構ですね」喬介は微笑んだ。「ところで、済みませんがその水銀とチョークの

(まじったなんとやらこを、わたしにもちょっとはいしゃくさしてください」あっけにとられている)

混じった何とやら粉を、私にも一寸拝借さして下さい」呆気に取られている

(しほうしゅにんのてから、けんしゅつようぐをかりうけると、ろーらーによりそって、)

司法主任の手から、検出用具を借り受けると、ローラーに寄り添って、

(はんどるのうえへ、はいいろのこなをきようなてつきでふりかけ、やがてそのうえをらくだの)

ハンドルの上へ、灰色の粉を器用な手附きで振り掛け、やがてその上を駱駝の

(はけでかるくはらいのけた。「ああ、やっといまきづきましたが、けさしゅうぜんするために)

刷毛で軽く払い退けた。「ああ、やっと今気附きましたが、今朝修繕するために

(ばるーんをおろしたとき、がすげーとのべんがひらいたままになっていました」いままで)

バルーンを降ろした時、ガスゲートの弁が開いたままになっていました」今まで

(なにごとかかんがえていたかかりのおとこが、きゅうにくちをきってこういった。「べんがひらいていた?」)

何事か考えていた係の男が、急に口を切ってこう言った。「弁が開いていた?」

(おどろいたようにかおをあげてききかえしたきょうすけは、しばらくかんがえこんでいたが、)

驚いた様に顔を上げて訊き返した喬介は、暫く考え込んでいたが、

(「ほう、ひじょうにゆうりょくなしょうこだ」と、ひとりでつぶやくと、ふたたびもとのしせいにもどって、)

「ほう、非常に有力な証拠だ」と、独りで呟くと、再び元の姿勢に戻って、

(かくだいきょうではんどるのひょうめんをしらべながら、かかりのおとこにことばをかけた。)

拡大鏡でハンドルの表面を調べながら、係の男に言葉を掛けた。

(「きみはけさぐろーぶをはめずにここへふれたね?」「ええ、さいしょばるーんを)

「君は今朝グローブを嵌めずに此処へ触れたね?」「ええ、最初バルーンを

(おろすときには、しゅうぜんするためにいそいでいましたのでーー」それからきょうすけは、)

降ろす時には、修繕するために急いでいましたのでーー」それから喬介は、

(くびかざりをしほうしゅにんのてからかりうけ、はんどるのうえにけんしゅつされたしもんと、)

首飾を司法主任の手から借り受け、ハンドルの上に検出された指紋と、

(くびかざりのしもんとをくらべはじめた。わたしもきょうすけのよこへかがみこんで、りょうほうのしもんを)

首飾の指紋とを較べ始めた。私も喬介の横へ屈み込んで、両方の指紋を

(ねっしんにひかくしてみた。が、ふたとおりのしもんは、おのおのまったくべっこのものであることに)

熱心に比較して見た。が、二通りの指紋は、各々全く別個のものである事に

(わたしはきづいた。「ね。きみもきづいたろう?ほら、このはんどるのうえには、)

私は気附いた。「ね。君も気附いたろう? ほら、このハンドルの上には、

(このひとのしもんいがいに、このくびかざりのしもん、つまりひがいしゃのしもんはひとつも)

この人の指紋以外に、この首飾の指紋、つまり被害者の指紋は一つも

(みられない。これでよろしい。さあ、ばるーんをしずかにおろしてください」)

見られない。これでよろしい。さあ、バルーンを静かに降ろして下さい」

(きょうすけのことばに、かかりのおとこはちょっとふしんげなひょうじょうをみせたが、まもなくぐろーぶを)

喬介の言葉に、係の男は一寸不審気な表情を見せたが、間もなくグローブを

(はめて、ろーらーのはんどるをまわしだした。いちふぃーと。にふぃーと。)

嵌めて、ローラーのハンドルを廻し出した。一呎(フィート)。二呎。

(ーーばるーんはしずかにかこうしはじめた。きょうすけはかくだいきょうを、まきこまれていく)

ーーバルーンは静かに下降し始めた。喬介は拡大鏡を、捲き込まれて行く

(ろーぷにちかづけてするどいしせんをそのうえにくばっていた。が、まもなく)

ロープに近附けて鋭い視線をその上に配っていた。が、間もなく

(さんじゅうご、ろくふぃーともまきこまれたとおもうころ、ばるーんのかこうをちゅうしさして、)

三十五、六呎も捲き込まれたと思う頃、バルーンの下降を中止さして、

(しほうしゅにんにこえをかけた。「はんにんをみつけましたーー」)

司法主任に声を掛けた。「犯人を見附けましたーー」

(きょうすけのこのことばにすくなからずおどろいたわたしたちは、きょうすけのゆびさしたふといあさなわの)

喬介のこの言葉に少からず驚いた私達は、喬介の指差した太い麻縄の

(ろーぷのいちぶに、ふかくしみこんでいるしょうりょうのあかぐろいけっこんをみとめた。)

ロープの一部に、深く染み込んでいる少量の赤黒い血痕を認めた。

(「これがつまりひがいしゃのけいぶのこうしょうからながれでたけっこんです。さあ、)

「これがつまり被害者の頸部の絞傷から流れ出た血痕です。さあ、

(もうばるーんのようじはすみました。あげてください・・・ああちょっとまってください。)

もうバルーンの用事は済みました。揚げて下さい・・・ああ一寸待って下さい。

(ぜんぶおろしちゃってください。まだいちじわすれていた。あたっているかいないか、)

全部降ろしちゃって下さい。まだ一事忘れていた。当っているかいないか、

(ちょっとためしてみますから」かかりのおとこは、あっけにとられたまま、ふたたびくらんくを)

一寸試して見ますから」係の男は、呆気に取られたまま、再びクランクを

(はじめた。しほうしゅにんは、きょくどのこうふんのためにはをかちかちならしながら、)

始めた。司法主任は、極度の興奮のために歯をカチカチ鳴らしながら、

(しずかにおりてくるばるーんと、きょうすけのよこがおと、そうしてかかりのおとこのきょどうとを、)

静かに降りて来るバルーンと、喬介の横顔と、そうして係の男の挙動とを、

(とうぶんにみくらべながらつったっていた。)

等分に見較べながらつっ立っていた。

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