海野十三 蠅男⑨

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※➀に同じくです。


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問題文

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(ろうじょうじゅんび)

◇籠城準備◇

(ーーにじゅうよじかんいないに、なんじのせいめいをとる。)

ーー二十四時間以ないニ、ナんじの生命ヲ取ル。

(ゆいごんじょうをよういしておけ。ーーそれだけが、かつじのうえに)

ユイ言状を用意シテ置け。ーーそれだけが、活字の上に

(あかえんぴつでまるがいれてある。)

赤鉛筆で丸が入れてある。

(ーーはえおとこーー)

ーー蠅男ーー

(このにじだけは、ぶきようなごむいんのもじであって、)

この二字だけは、不器用なゴム印の文字であって、

(いんきはあかともくろともみえぬみょうないろでおしてあった。)

インキは赤とも黒とも見えぬ妙な色で捺してあった。

(さらに、きかいなはねやあしをむしりとり、かふくぶをはんぶんにきってある)

更に、奇怪な翅や脚を毟りとり、下腹ぶを半分に切ってある

(はえのみいら。ーー)

蠅の木乃伊。ーー

(まったくみょうなつうしんぶんであるが、とにかくきょうはくじょうにちがいない。)

全く妙な通信文であるが、とにかく脅迫状に違いない。

(おとっつぁん。きっとこころあたりがおますのやろ。)

「お父つぁん。きっと心当たりがおますのやろ。

(かくさんと、うちにきかせてーー)

隠さんと、うちに聞かせてーー」

(あほいうな。はえおとこーーなんていっこうしらへんし、だいいち、おとうさんはな、)

「阿呆いうな。蠅男ーーなんて一向知らへんし、第一、お父さんはナ、

(ひとさまからうらみをうけるようなことはちょっともしたことないわ。)

人様から恨みを受けるようなことはちょっともしたことないわ。

(ことにころされるような、そんなぎょうさんなうらみを、だれからもこうてえへんわ)

ことに殺されるような、そんな仰山な恨みを、誰からも買うてえへんわ」

(ほんとうやな。ーーほんとうならええけれど)

「本当やな。ーー本当ならええけれど」

(ほんとうはほんとうやが、とにかくこれはきょうはくじょうやから、けいさつへとどけとこう)

「本当は本当やが、とにかくこれは脅迫状やから、警察へ届けとこう」

(ああ、それがよろしまんな。うちでんわをかけまひょか)

「ああ、それがよろしまんな。うち電話をかけまひょか」

(でんわより、だれかにけいさつへもたせてやろう。かいしゃへでんわかけて、)

「電話より、誰かに警察へ持たせてやろう。会社へ電話かけて、

(しょむのたなべにやまのいにこまつを、すぐうちへこいいうてんか)

庶務の田辺に山ノ井に小松を、すぐ家(うち)へこい云うてんか」

など

(むすめのいとこがでんわをかけにいっているあいだに、ていないのおとこたちがよびあつめられた。)

娘の糸子が電話をかけに行っている間に、邸内の男たちが呼び集められた。

(たまやそういちろうは、ともかくもはえおとこのしゅうげきをさけるため、じぶんのいまに)

玉屋総一郎は、ともかくも蠅男の襲撃を避けるため、自分の居間に

(ひきこもるけっしんをさだめた。それだからまずがいぶからはえおとこのしんにゅうしてくるのを)

引籠る決心を定めた。それだからまず外部から蠅男の侵入してくるのを

(ふせぐために、よっつのがらすまどをうちがわからげんじゅうにはねぶとんととたんいたとで)

防ぐために、四つの硝子窓を内側から厳重に羽根蒲団とトタン板とで

(さんどうぃっちのようにかさねたものでふたをし、くぎづけにした。それでもまだ)

サンドウィッチのように重ねたもので蓋をし、釘づけにした。それでもまだ

(しんぱいになるとみえ、まどのところへ、おおきなしょだなやとだなをぴたりとすえた。)

心配になると見え、窓のところへ、大きな書棚や戸棚をピタリと据えた。

(どうです、だんなはん。これでよろしまっしゃろか)

「どうです、旦那はん。これでよろしまっしゃろか」

(うん、まあそのへんやな)

「うん、まあその辺やな」

(あとは、あいとるところいうたら、てんじょうにあるくうきあなだすが、)

「あとは、明いとるところ云うたら、天井にある空気孔だすが、

(あれはどないしまひょうか)

あれはどないしまひょうか」

(あああのくうきあなかと、そういちろうはしろいてんじょうのすみに、いっしょうますぐらいの)

「ああ あの空気孔か」と、総一郎は白い天井の隅に、一升桝ぐらいの

(しかくなあながあいているくうきぬきをみあげた。そこにはてんじょうのほうから、)

四角な穴が明いている空気抜きを見上げた。そこには天井の方から、

(おもいいもののこうしぶたがはめてあった。さあ、まさかあれから)

思い鋳物の格子蓋が嵌めてあった。「さあ、まさかあれから

(だいのおとこがはいってこられへんとおもうが、ーー)

大の男が入ってこられへんと思うが、ーー」

(さようですな、あのこうしのすきからはいってくるものやったら、まあねずみかかか)

「さようですナ、あの格子の隙から入ってくるものやったら、まあ鼠か蚊か

(ーーそれからはえぐらいなものだっしゃろな)

ーーそれから蠅ぐらいなものだっしゃろナ」

(なに、はえがはいってくる。ぶるぶるぶる。はえはきもんや。)

「なに、蠅が入ってくる。ブルブルブル。蠅は鬼門や。

(なんでもええ、あのくうきあなにしたからふたをはめてくれ)

なんでもええ、あの空気孔に下から蓋を嵌めてくれ」

(したからふたをはめますんで・・・)

「下から蓋を嵌めますんで・・・」

(できんちゅうのか)

「出来んちゅうのか」

(いえ、まだできんいうとりまへん。いまかんがえます。ええ、こうっと、ーー)

「いえ、まだ出来んいうとりまへん。いま考えます。ええ、こうっと、ーー」

(しもべたちがのうみそをしぼったあげく、そのしかくなくうきあなを、)

下僕(しもべ)たちが脳味噌を絞った挙句、その四角な空気孔を、

(したからあついかみでさんじゅうにめばりをしてしまった。)

下から厚い紙で三重に目張りをしてしまった。

(さあ。これでもうだいじょうぶです。こうしておいたらはえやかどころか、)

「さあ。これでもう大丈夫です。こうしておいたら蠅や蚊どころか、

(くうきやってとおることができしまへん)

空気やって通ることが出来しまへん」

(そういちろうは、それでもふあんそうにてんじょうをみあげた。)

総一郎は、それでも不安そうに天井を見上げた。

(そのうちに、かいしゃからはたなべかちょうをはじめやまのい、こまつなどという)

そのうちに、会社からは田辺課長をはじめ山ノ井、小松などという

(えりすぐりのようじんぼうがかけつけた。そういちろうはすこしせいしょくをとりかえした。)

選りすぐりの用心棒が駈けつけた。総一郎はすこし生色をとりかえした。

(けいさつへのししゃには、たなべかちょうがたった。)

警察への使者には、田辺課長が立った。

(かれはしんぶんしりようのきょうはくじょうを、はえのみいらとともにていしゅつし、)

彼は新聞紙利用の脅迫状を、蠅の木乃伊とともに提出し、

(しゅじんのこんがんのすじをくりかえしてつたえて、ほごかたをたのんだ。)

主人の懇願の筋をくりかえして伝えて、保護方を頼んだ。

(しょちょうのまさきしんのしんは、そのときちょうど、かもしたどくとるていへでかけていたので、)

署長の正木真之進は、そのとき丁度、鴨下ドクトル邸へ出かけていたので、

(るすいのけいぶほがでんわでしょちょうのしきをあおいだけっか、いたずらにしても、)

留守居の警部補が電話で署長の指揮を仰いだ結果、悪戯にしても、

(とにかくぶっそうだというので、にめいのけいかんがはけんされることになった。)

とにかく物騒だというので、二名の警官が派遣されることになった。

(するとたなべはぺこんとあたまをさげ、)

すると田辺はペコンと頭を下げ、

(もし、ひようのほうは、たまやのほうでなんぼでもだしてさしつかえおまへんのだすが、)

「モシ、費用の方は、玉屋の方でなんぼでも出して差支えおまへんのだすが、

(けいかんのかたをもうさんにんほどましておもらいできまへんやろか)

警官の方をもう三人ほど増しておもらい出来まへんやろか」

(というと、けいぶほはかっとめをむき、)

というと、警部補はカッと目を剥き、

(あほかいな。おかみをなんとおもうてるねんと、いっぱつどやしつけた。)

「阿呆かいな。お上を何と思うてるねン」と、一発どやしつけた。

(きょうはくじょうは、いちめいのけいじがもって、これをかもしたどくとるのるすたくにたむろしている)

脅迫状は、一名の刑事が持って、これを鴨下ドクトルの留守宅に屯している

(しょちょうのもとへとどけることになった。)

署長の許へとどけることになった。

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