まなづるとダァリヤ 1/4 宮沢賢治
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問題文
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(くだもののはたけのおかのいただきに、ひまわりぐらいせいのたかい、)
くだものの畑の丘のいただきに、ひまわりぐらいせいの高い、
(きいろなだぁりやのはながにほんと、まだたけたかく、あかいおおきなはなをつけた)
黄色なダァリヤの花が二本と、まだたけ高く、赤い大きな花をつけた
(いっぽんのだぁりやのはながありました。)
一本のダァリヤの花がありました。
(このあかいだぁりやは、はなのじょおうになろうとおもっていました。)
この赤いダァリヤは、花の女王になろうとおもっていました。
(かぜがみなみからあばれてきて、きにもはなにもおおきなあめのつぶをたたきつけ、)
風が南からあばれてきて、木にも花にも大きな雨のつぶをたたきつけ、
(おかのちいさなくりのきからさえ、あおいいがやこえだをむしって、)
丘の小さな栗の木からさえ、青いいがや小えだをむしって、
(けたたましくわらっていくなかで、このりっぱなさんぼんのだぁりやのはなは、)
けたたましくわらっていくなかで、このりっぱな三本のダァリヤの花は、
(しずかにからだをゆすりながら、かえっていつもより、)
しずかにからだをゆすりながら、かえっていつもより、
(かがやいてみえておりました。)
かがやいて見えておりました。
(それからこんどはきたかぜまたさぶろうが、ことしはじめて)
それからこんどは北風又三郎が、ことしはじめて
(ふえのようにあおぞらをさけんですぎたとき、)
笛のように青空をさけんですぎたとき、
(おかのふもとのやまならしのきはせわしくひらめき、)
丘のふもとのやまならしの木はせわしくひらめき、
(くだものばたけのなしのみはおちましたが、このたけたかいさんぼんのだぁりやは、)
くだもの畑のなしの実はおちましたが、このたけ高い三本のダァリヤは、
(ほんのわずか、きらびやかなわらいをあげただけでした。)
ほんのわずか、きらびやかなわらいをあげただけでした。
(きいろなほうのいっぽんが、こころをみなみのあおじろいてんまつになげながら、)
黄色なほうの一本が、こころを南の青白い天末(てんまつ)に投げながら、
(ひとりごとのようにいったのでした。)
ひとりごとのようにいったのでした。
(「おひさまは、きょうはこばるとがらすのひかりのこなを、)
「お日さまは、きょうはコバルトガラスの光りのこなを、
(すこうしよけいに、おまきなさるようですわ。」)
すこうしよけいに、おまきなさるようですわ。」
(しみじみとともだちをみながら、もういっぽんのきいろなだぁりやがいいました。)
しみじみと友だちを見ながら、もう一本の黄色なダァリヤがいいました。
(「あなたはきょうはいつもより、すこしあおざめてみえるのよ。)
「あなたはきょうはいつもより、すこし青ざめて見えるのよ。
など
(きっとあたしもそうだわ。」「ええ、そうよ。そしてまあ。」)
きっとあたしもそうだわ。」「ええ、そうよ。そしてまあ。」
(あかいだぁりやにいいました。「あなたのきょうのおりっぱなこと。)
赤いダァリヤにいいました。「あなたのきょうのおりっぱなこと。
(あたしなんだか、あなたがきゅうにもえだしてしまうようなきがするわ。」)
あたしなんだか、あなたがきゅうに燃えだしてしまうような気がするわ。」
(あかいだぁりやのはなは、あおぞらをながめて、)
赤いダァリヤの花は、青空をながめて、
(ひにかがやいて、かすかにわらってこたえました。)
日にかがやいて、かすかにわらってこたえました。
(「こればっかしじゃ、しかたないわ。)
「こればっかしじゃ、しかたないわ。
(あたしのひかりで、そこらがあかくもえるようにならないくらいなら、)
あたしの光りで、そこらが赤く燃えるようにならないくらいなら、
(まるでつまらないのよ。)
まるでつまらないのよ。
(あたしもうほんとうに、いらいらしてしまうわ。」)
あたしもうほんとうに、いらいらしてしまうわ。」
(やがてたいようはおち、しとりんのはくめいきゅうもしずみ、)
やがて太陽はおち、黄水晶(シトリン)の薄明穹(はくめいきゅう)もしずみ、
(ほしがひかりそめ、そらはあおぐろいふちになりました。)
星がひかりそめ、空は青黒い淵(ふち)になりました。
(「ぴーとりり、ぴーとりり。」とないて、)
「ピートリリ、ピートリリ。」と鳴いて、
(そのほしあかりのしたを、まなづるのくろいかげが、かけていきました。)
その星あかりの下を、まなづるの黒いかげが、かけていきました。
(「まなづるさん。あたしずいぶん、きれいでしょう。」)
「まなづるさん。あたしずいぶん、きれいでしょう。」
(あかいだぁりやがいいました。)
赤いダァリヤがいいました。
(「ああきれいだよ。あかくってねえ。」)
「ああきれいだよ。赤くってねえ。」
(とりは、むこうのぬまのほうのくらやみにきえながら、)
鳥は、むこうの沼のほうのくらやみに消えながら、
(そこにつつましくしろくさいていたいっぽんのしろいだぁりやに)
そこにつつましく白く咲いていた一本の白いダァリヤに
(こえひくくさけびました。「こんばんは。」)
声ひくくさけびました。「こんばんは。」
(しろいだぁりやは、つつましくわらっていました。)
白いダァリヤは、つつましくわらっていました。