人間失格【太宰治】30

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投稿者投稿者ひきにーと。  いいね0  お気に入り登録
プレイ回数1  難易度(4.0) 3214打 長文 かな
第三の手記4です
自分はヒラメの~食べるのです。まで

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問題文

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(じぶんはひらめのいえをでてしんじゅくまであるきかいちゅうのほんをうりそうして) 自分はヒラメの家を出て、新宿まで歩き、懐中の本を売り、そうして、 (やっぱりとほうにくれてしまいましたじぶんはみなにあいそがいいわりに) やっぱり途方にくれてしまいました。自分は、皆にあいそがいいわりに、 (ゆうじょうというものをいちどもじっかんしたことがなく) 「友情」というものを、いちども実感した事が無く、 (ほりきのようなあそびともだちはべつとしていっさいのつきあいは) 堀木のような遊び友達は別として、いっさいの附き合いは、 (ただくつうをおぼえるばかりで) ただ苦痛を覚えるばかりで、 (そのくつうをもみほぐそうとしてけんめいにおどけをえんじてかえって) その苦痛をもみほぐそうとして懸命にお道化を演じて、かえって、 (へとへとになりわずかにしりあっているひとのかおをそれににたかおをさえ) へとへとになり、わずかに知合っているひとの顔を、それに似た顔をさえ、 (おうらいなどでみかけてもぎょっとしていっしゅん) 往来などで見掛けても、ぎょっとして、一瞬、 (めまいするほどのふかいなせんりつにおそわれるありさまでひとにすかれることはしっていても) めまいするほどの不快な戦慄に襲われる有様で、人に好かれる事は知っていても (ひとをあいするのうりょくにおいてはかけているところがあるようでしたもっとも) 人を愛する能力に於いては欠けているところがあるようでした。(もっとも、
(じぶんはよのなかのにんげんにだってはたしてあいののうりょくがあるのかどうか) 自分は、世の中の人間にだって、果たして、「愛」の能力があるのかどうか、 (たいへんぎもんにおもっていますそのようなじぶんにいわゆるしんゆう) たいへん疑問に思っています)そのような自分に、所謂「親友」 (などできるはずはなくそのうえじぶんにはヴぃじっとののうりょくさえなかったのです) など出来る筈は無く、そのうえ自分には、「訪問」の能力さえ無かったのです。 (たにんのいえのもんはじぶんにとってあのかみきょくのじごくのもんいじょうにうすきみわるく) 他人の家の門は、自分にとって、あの神曲の地獄の門以上に薄気味わるく、 (そのもんのおくにはおそろしいりゅうみたいななまぐさいきじゅうがうごめいているけはいを) その門の奥には、おそろしい龍みたいな生臭い奇獣がうごめいている気配を、 (こちょうなしにじっかんせられていたのですだれともつきあいがないどこへも) 誇張なしに、実感せられていたのです。誰とも、附き合いが無い。どこへも、 (たずねていけないほりきそれこそじょうだんからこまがでたかたちでしたあのおきてがみに) 訪ねて行けない。堀木。それこそ、冗談から駒が出た形でした。あの置手紙に、 (かいたとおりにじぶんはあさくさのほりきをたずねていくことにしたのです) 書いたとおりに、自分は浅草の堀木をたずねて行く事にしたのです。 (じぶんはこれまでじぶんのほうからほりきのいえをたずねていったことはいちどもなく) 自分はこれまで、自分のほうから堀木の家をたずねて行った事は、いちども無く (たいていでんぽうでほりきをじぶんのほうによびよせていたのですが) たいてい電報で堀木を自分のほうに呼び寄せていたのですが、
など
(いまはそのでんぽうりょうさえこころぼそくそれにおちぶれたみのひがみから) いまはその電報料さえ心細く、それに落ちぶれた身のひがみから、 (でんぽうをうっただけではほりきはきてくれぬかもしれぬとかんがえて) 電報を打っただけでは、堀木は、来てくれぬかも知れぬと考えて、 (なによりもじぶんににがてのヴぃじっとをけついしためいきをついてしでんにのり) 何よりも自分に苦手の「訪問」を決意し、溜息をついて市電に乗り、 (じぶんにとってこのよのなかでたったひとつのたのみのつなはあのほりきなのか) 自分にとって、この世の中でたった一つの頼みの綱は、あの堀木なのか、 (とおもいしったらなにかせすじのさむくなるようなすさまじいけはいにおそわれましたほりきは) と思い知ったら、何か脊筋の寒くなるような凄じい気配に襲われました。堀木は (ざいたくでしたきたないろじのおくのにかいやで) 在宅でした。汚い露地の奥の、二階家で、 (ほりきはにかいのたったひとへやのろくじょうをつかいしたではほりきのろうふぼと) 堀木は二階のたった一部屋の六畳を使い、下では、堀木の老父母と、 (それからわかいしょくにんとさんにん) それから若い職人と三人、 (げたのはなおをぬったりたたいたりしてせいぞうしているのでしたほりきはそのひ) 下駄の鼻緒を縫ったり叩いたりして製造しているのでした。堀木は、その日、 (かれのとかいじんとしてのあたらしいいちめんをじぶんにみせてくれましたそれは) 彼の都会人としての新しい一面を自分に見せてくれました。それは、 (ぞくにいうちゃっかりせいでしたいなかもののじぶんががくぜんとめをみはったくらいの) 俗にいうチャッカリ性でした。田舎者の自分が、愕然と眼をみはったくらいの、 (つめたくずるいえごいずむでしたじぶんのようにただ) 冷たく、ずるいエゴイズムでした。自分のように、ただ、 (とめどなくながれるたちのおとこではなかったのですおまえにはまったくあきれた) とめどなく流れるたちの男では無かったのです。「お前には、全く呆れた。 (おやじさんからおゆるしがでたかねまだかいにげてきたとは) 親爺さんから、お許しが出たかね。まだかい。」逃げて来た、とは、 (いえませんでしたじぶんはれいによってごまかしましたいまにすぐ) 言えませんでした。自分は、れいに依って、ごまかしました。いまに、すぐ、 (ほりきにきづかれるにちがいないのにごまかしました) 堀木に気附かれるに違いないのに、ごまかしました。 (それはどうにかなるさおいわらいごとじゃないぜちゅうこくするけど) 「それは、どうにかなるさ。」「おい、笑いごとじゃ無いぜ。忠告するけど、 (ばかもこのへんでやめるんだなおれはきょうはようじがあるんだがね) 馬鹿もこのへんでやめるんだな。おれは、きょうは、用事があるんだがね。 (このごろばかにいそがしいんだようじってどんなおいおい) この頃、ばかにいそがしいんだ。」「用事って、どんな?」「おい、おい、 (ざぶとんのいとをきらないでくれよじぶんははなしをしながら) 座蒲団の糸を切らないでくれよ。」自分は話をしながら、 (じぶんのしいているざぶとんのとじいとというのかくくりひもというのか) 自分の敷いている座蒲団の綴糸というのか、くくり紐というのか、 (あのふさのようなよすみのいとのひとつをむいしきにゆびさきでもてあそび) あの総のような四隅の糸の一つを無意識に指先でもてあそび、 (ぐいとひっぱったりしていたのでしたほりきはほりきのいえのしなものなら) ぐいと引っぱったりしていたのでした。堀木は、堀木の家の品物なら、 (ざぶとんのいといっぽんでもおしいらしくはじるいろもなくそれこそめにかどをたてて) 座蒲団の糸一本でも惜しいらしく、恥じる色も無く、それこそ、眼に角を立てて (じぶんをとがめるのでしたかんがえてみるとほりきは) 自分をとがめるのでした。考えてみると、堀木は、 (これまでじぶんとのつきあいにおいてなにひとつうしなってはいなかったのです) これまで自分との附合いに於いて何一つ失ってはいなかったのです。 (ほりきのろうぼがおしるこをふたつおぼんにのせてもってきましたあこれは) 堀木の老母が、おしるこを二つお盆に載せて持って来ました。「あ、これは、」 (とほりきはしんからこうこうむすこのようにろうぼにむかってきょうしゅくし) と堀木は、しんから孝行息子のように、老母に向って恐縮し、 (ことばづかいもふしぜんなくらいていねいにすみませんおしるこですか) 言葉づかいも不自然なくらい丁寧に、「すみません、おしるこですか。 (ごうきだなあこんなしんぱいはいらなかったんですよようじで) 豪気だなあ。こんな心配は、要らなかったんですよ。用事で、 (すぐがいしゅつしなけりゃいけないんですからいいえでも) すぐ外出しなけれゃいけないんですから。いいえ、でも、 (せっかくのごじまんのおしるこをもったいないいただきますおまえもひとつ) せっかくの御自慢のおしるこを、もったいない。いただきます、お前も一つ、 (どうだいおふくろがわざわざつくってくれたんだああこいつあ) どうだい。おふくろが、わざわざ作ってくれたんだ。ああ、こいつあ、 (うめえやごうきだなあとまんざらしばいでもないみたいに) うめえや。豪気だなあ。」と、まんざら芝居でも無いみたいに、 (ひどくよろこびおいしそうにたべるのです) ひどく喜び、おいしそうに食べるのです。
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