人間失格【太宰治】24

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投稿者投稿者ひきにーと。  いいね0  お気に入り登録
プレイ回数2  難易度(4.0) 2787打 長文 かな
第二の手記17です
女のひと~気がしました。まで

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(おんなのひとはしにましたそうしてじぶんだけたすかりました) 女のひとは、死にました。そうして、自分だけ助かりました。 (じぶんがこうとうがっこうのせいとではありまたちちのなにもいくらか) 自分が高等学校の生徒ではあり、また父の名にもいくらか、 (いわゆるにゅうすヴぁりゅがあったのか) 所謂ニュウス・ヴァリュがあったのか、 (しんぶんにもかなりおおきなもんだいとしてとりあげられたようでした) 新聞にもかなり大きな問題として取り上げられたようでした。 (じぶんはうみべのびょういんにしゅうようせられこきょうからしんせきのものがひとりかけつけ) 自分は海辺の病院に収容せられ、故郷から親戚の者がひとり駈けつけ、 (さまざまのしまつをしてくれてそうして) さまざまの始末をしてくれて、そうして、 (くにのちちをはじめいっかじゅうがげきどしているから) くにの父をはじめ一家中が激怒しているから、 (これっきりせいかとはぎぜつになるかもしれぬとじぶんにもうしわたしてかえりました) これっきり生家とは義絶になるかも知れぬ、と自分に申し渡して帰りました。 (けれどもじぶんはそんなことよりしんだつねこがこいしく) けれども自分は、そんな事より、死んだツネ子が恋いしく、 (めそめそないてばかりいましたほんとうにいままでのひとのなかで) めそめそ泣いてばかりいました。本当に、いままでのひとの中で、
(あのびんぼうくさいつねこだけをすきだったのですから) あの貧乏くさいツネ子だけを、すきだったのですから。 (げしゅくのむすめからたんかをごじゅうもかきつらねたながいてがみがきましたいきくれよ) 下宿の娘から、短歌を五十も書きつらねた長い手紙が来ました。「生きくれよ」 (というへんなことばではじまるたんかばかりごじゅうでしたまたじぶんのびょうしつに) というへんな言葉ではじまる短歌ばかり、五十でした。また、自分の病室に、 (かんごふたちがようきにわらいながらあそびにきて) 看護婦たちが陽気に笑いながら遊びに来て、 (じぶんのてをきゅっとにぎってかえるかんごふもいましたじぶんのひだりはいにこしょうのあるのを) 自分の手をきゅっと握って帰る看護婦もいました。自分の左肺に故障のあるのを (そのびょういんではっけんせられこれがたいへんじぶんにこうつごうなことになり) その病院で発見せられ、これがたいへん自分に好都合な事になり、 (やがてじぶんがじさつほうじょざいというざいめいでびょういんからけいさつにつれていかれましたが) やがて自分が自殺幇助罪という罪名で病院から警察に連れて行かれましたが、 (けいさつではじぶんをびょうにんあつかいにしてくれてとくにほごしつにしゅうようしました) 警察では、自分を病人あつかいにしてくれて、特に保護室に収容しました。 (しんやほごしつのとなりのしゅくちょくしつでねずのばんをしていたとしよりのおまわりが) 深夜、保護室の隣りの宿直室で、寝ずの番をしていた年寄りのお巡りが、 (あいだのどあをそっとあけおいとじぶんにこえをかけさむいだろう) 間のドアをそっとあけ、「おい!」と自分に声をかけ、「寒いだろう。
など
(こっちへきてあたれといいましたじぶんは) こっちへ来て、あたれ」と言いました。自分は、 (わざとしおしおとしゅくちょくしつへはいっていきいすにこしかけてひばちにあたりました) わざとしおしおと宿直室へはいって行き、椅子に腰かけて火鉢にあたりました。 (やはりしんだおんながこいしいだろうはいことさらに) 「やはり、死んだ女が恋いしいだろう」「はい」ことさらに、 (きえいるようなほそいこえでへんじしましたそこがやはりにんじょうというものだ) 消え入るような細い声で返事しました。「そこが、やはり人情というものだ」 (かれはしだいにおおきくかまえてきましたはじめおんなとかんけいをむすんだのはどこだ) 彼は次第に、大きく構えて来ました。「はじめ、女と関係を結んだのは、どこだ (ほとんどさいばんかんのごとくもったいぶってたずねるのでしたかれは) ほとんど裁判官の如く、もったいぶって尋ねるのでした。彼は、 (じぶんをこどもとあなどりあきのよのつれづれに) 自分を子供とあなどり、秋の夜のつれづれに、 (あたかもかれじしんがとりしらべのしゅにんでもあるかのようによそおい) あたかも彼自身が取調べの主任でもあるかのように装い、 (じぶんからわいだんめいたじゅっかいをひきだそうというこんたんのようでした) 自分から猥談めいた述懐を引き出そうという魂胆のようでした。 (じぶんはすばやくそれをさっしふきだしたいのをこらえるのにほねをおりました) 自分は素早くそれを察し、噴き出したいのを怺えるのに骨を折りました。 (そんなおまわりのひこうしきなじんもんには) そんなお巡りの「非公式な訊問」には、 (いっさいこたえをきょひしてもかまわないのだということはじぶんもしっていましたが) いっさい答を拒否してもかまわないのだという事は、自分も知っていましたが、 (しかしあきのよながにきょうをそえるためじぶんはあくまでもしんみょうに) しかし、秋の夜ながに興を添えるため、自分は、あくまでも神妙に、 (そのおまわりこそとりしらべのしゅにんであって) そのお巡りこそ取調べの主任であって、 (けいばつのけいちょうのけっていもそのおまわりのおぼしめしひとつにあるのだ) 刑罰の軽重の決定もそのお巡りの思召し一つに在るのだ、 (ということをかたくしんじてうたがわないようないわゆるせいいをおもてにあらわし) という事を固く信じて疑わないような所謂誠意をおもてにあらわし、 (かれのすけべのこうきしんをややまんぞくさせるていどのいいかげんなちんじゅつをするのでした) 彼の助平の好奇心を、やや満足させる程度のいい加減な「陳述」をするのでした (うんそれでだいたいわかったなんでもしょうじきにこたえるとわしらのほうでも) 「うん、それでだいたいわかった。何でも正直に答えると、わしらのほうでも、 (そこはてごころをくわえるありがとうございますよろしくおねがいいたします) そこは手心を加える」「ありがとうございます、よろしくお願いいたします」 (ほとんどにゅうしんのえんぎでしたそうしてじぶんのためにはなにもひとつも) ほとんど入神の演技でした。そうして、自分のためには、何も、一つも、 (とくにならないりきえんなのですよがあけてじぶんはしょちょうによびだされました) とくにならない力演なのです。夜が明けて、自分は署長に呼び出されました。 (こんどはほんしきのとりしらべなのですどあをあけてしょちょうしつにはいったとたんに) こんどは、本式の取調べなのです。ドアをあけて、署長室にはいったとたんに、 (おういいおとこだこれあおまえがわるいんじゃないこんな) 「おう、いい男だ。これあ、お前が悪いんじゃない。こんな、 (いいおとこにうんだおまえのおふくろがわるいんだいろのあさぐろい) いい男に産んだお前のおふくろが悪いんだ」色の浅黒い、 (だいがくでみたいなかんじのまだわかいしょちょうでしたいきなりそういわれてじぶんは) 大学出みたいな感じのまだ若い署長でした。いきなりそう言われて自分は、 (じぶんのかおのはんめんにべったりあかあざでもあるようなみにくいふぐしゃのような) 自分の顔の半面にべったり赤痣でもあるような、みにくい不具者のような、 (みじめなきがしました) みじめな気がしました。
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