人間失格【太宰治】38

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投稿者投稿者ひきにーと。  いいね1  お気に入り登録
プレイ回数9  難易度(4.0) 2910打 長文 かな
第三の手記12です
夕方、~答えました。まで

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問題文

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(ゆうがたふらふらそとへでてよしちゃんのみせのまえにたちよしちゃんごめんね) 夕方、ふらふら外へ出て、ヨシちゃんの店の前に立ち、「ヨシちゃん、ごめんね (のんじゃったあらいやだよったふりなんかしてはっとしました) 飲んじゃった。」「あら、いやだ、酔った振りなんかして。」ハッとしました。 (よいもさめたきもちでしたいやほんとうなんだほんとうにのんだのだよ) 酔いもさめた気持でした。「いや、本当なんだ。本当に飲んだのだよ。 (よったふりなんかしてるんじゃないからかわないでよひとがわるい) 酔った振りなんかしてるんじゃない。」「からかわないでよ。ひとがわるい。」 (てんでうたがおうとしないのですみればわかりそうなものだきょうも) てんで疑おうとしないのです。「見ればわかりそうなものだ。きょうも、 (おひるからのんだのだゆるしてねおしばいがうまいのねえ) お昼から飲んだのだ。ゆるしてね。」「お芝居が、うまいのねえ。」 (しばいじゃあないよばかやろうきすしてやるぞしてよいや) 「芝居じゃあないよ、馬鹿野郎。キスしてやるぞ。」「してよ。」「いや、 (ぼくにはしかくがないおよめにもらうのもあきらめなくちゃならん) 僕には資格が無い。お嫁にもらうのもあきらめなくちゃならん。 (かおをみなさいあかいだろうのんだのだよそれあ) 顔を見なさい、赤いだろう?飲んだのだよ。」「それあ、 (ゆうひがあたっているからよかつごうたってだめよきのうやくそくしたんですもの) 夕日が当っているからよ。かつごうたって、だめよ。きのう約束したんですもの (のむはずがないじゃないのげんまんしたんですもののんだなんてうそ) 飲む筈が無いじゃないの。ゲンマンしたんですもの。飲んだなんて、ウソ、 (うそうそうすぐらいみせのなかにすわってびしょうしているよしちゃんのしろいかおああ) ウソ、ウソ。」薄暗い店の中に坐って微笑しているヨシちゃんの白い顔、ああ、 (よごれをしらぬヴぁじにてぃはとうといものだじぶんはいままで) よごれを知らぬヴァジニティは尊いものだ、自分は今まで、 (じぶんよりもわかいしょじょとねたことがないけっこんしよう) 自分よりも若い処女と寝た事がない、結婚しよう、 (どんなおおきなかなしみがそのためにあとからやってきてもよい) どんな大きな悲哀がそのために後からやって来てもよい、 (あらっぽいほどのおおきなよろこびをしょうがいにいちどでいいしょじょせいのうつくしさとは) 荒っぽいほどの大きな歓楽を、生涯にいちどでいい、処女性の美しさとは、 (それはばかなしじんのあまいかんしょうのまぼろしにすぎぬとおもっていたけれども) それは馬鹿な詩人の甘い感傷の幻に過ぎぬと思っていたけれども、 (やはりこのよのなかにいきてあるものだ) やはりこの世の中に生きて在るものだ、 (けっこんしてはるになったらふたりでじてんしゃであおばのたきをみにいこうと) 結婚して春になったら二人で自転車で青葉の滝を見に行こう、と、 (そのばでけついしいわゆるいっぽんしょうぶで) その場で決意し、所謂「一本勝負」で、
など
(そのはなをぬすむのにためらうことをしませんでしたそうしてじぶんたちは) その花を盗むのにためらう事をしませんでした。そうして自分たちは、 (やがてけっこんしてそれによってえたよろこびは) やがて結婚して、それに依って得た歓楽は、 (かならずしもおおきくはありませんでしたがそのあとにきたかなしみは) 必ずしも大きくはありませんでしたが、その後に来た悲哀は、 (せいさんといってもたりないくらいじつにそうぞうをぜっしておおきくやってきました) 凄惨と言っても足りないくらい、実に想像を絶して、大きくやって来ました。 (じぶんにとってよのなかはやはりそこしれずおそろしいところでした) 自分にとって、「世の中」は、やはり底知れず、おそろしいところでした。 (けっしてそんないっぽんしょうぶなどでなにからなにまできまってしまうような) 決して、そんな一本勝負などで、何から何まできまってしまうような、 (なまやさしいところでもなかったのでした) なまやさしいところでも無かったのでした。 (ほりきとじぶんたがいにけいべつしながらつきあい) 堀木と自分。互いに軽蔑しながら附き合い、 (そうしてたがいにみずからをくだらなくしていくそれがこのよのいわゆるこうゆう) そうして互いに自らをくだらなくして行く、それがこの世の所謂「交友」 (というもののすがただとするならじぶんとほりきとのあいだがらも) というものの姿だとするなら、自分と堀木との間柄も、 (まさしくこうゆうにちがいありませんでした) まさしく「交友」に違いありませんでした。 (じぶんがあのきょうばしのすたんどばあのまだむのぎきょうしんにすがり) 自分があの京橋のスタンド・バアのマダムの義侠心にすがり、 (おんなのひとのぎきょうしんなんてことばのきみょうなつかいかたですがしかし) (女のひとの義侠心なんて、言葉の奇妙な遣い方ですが、しかし、 (じぶんのけいけんによるとすくなくともとかいのだんじょのばあいおとこよりもおんなのほうが) 自分の経験に依ると、少なくとも都会の男女の場合、男よりも女のほうが、 (そのぎきょうしんとでもいうべきものをたっぷりともっていましたおとこはたいてい) その、義侠心とでもいうべきものをたっぷりと持っていました。男はたいてい、 (おっかなびっくりでおていさいばかりかざりそうしてけちでした) おっかなびっくりで、おていさいばかり飾り、そうして、ケチでした) (あのたばこやのよしこをないえんのつまにすることができてそうしてつきじ) あの煙草屋のヨシ子を内縁の妻にする事が出来て、そうして築地、 (すみだがわのちかくもくぞうのにかいだてのちいさいあぱーとのかいかのいっしつをかり) 隅田川の近く、木造の二階建ての小さいアパートの階下の一室を借り、 (ふたりですみさけはやめて) ふたりで住み、酒は止めて、 (そろそろじぶんのさだまったしょくぎょうになりかけてきたまんがのしごとにせいをだし) そろそろ自分の定った職業になりかけて来た漫画の仕事に精を出し、 (ゆうしょくごはふたりでえいがをみにでかけかえりにはきっさてんなどにはいりまた) 夕食後は二人で映画を見に出かけ、帰りには、喫茶店などにはいり、また、 (はなのはちをかったりしていや) 花の鉢を買ったりして、いや、 (それよりもじぶんをしんからしんらいしてくれているこのちいさいはなよめのことばをきき) それよりも自分をしんから信頼してくれているこの小さい花嫁の言葉を聞き、 (どうさをみているのがたのしくこれはじぶんもひょっとしたら) 動作を見ているのが楽しく、これは自分もひょっとしたら、 (いまにだんだんにんげんらしいものになることができてひさんなしにかたなどせずに) いまにだんだん人間らしいものになる事が出来て、悲惨な死に方などせずに (すむのではなかろうかというあまいおもいをかすかにむねにあたためはじめていたやさきに) すむのではなかろうかという甘い思いを幽かに胸にあたためはじめていた矢先に (ほりきがまたじぶんのがんぜんにあらわれましたようしきまおやこれでも) 堀木がまた自分の眼前に現れました。「よう!色魔。おや?これでも、 (いくらかふんべつくさいかおになりやがったきょうは) いくらか分別くさい顔になりやがった。きょうは、 (こうえんじじょしからのおししゃなんだがねといいかけてきゅうにこえをひそめ) 高円寺女史からのお使者なんだがね、」と言いかけて、急に声をひそめ、 (おかってでおちゃのしたくをしているよしこのほうをあごでしゃくってだいじょうぶかい) お勝手でお茶の仕度をしているヨシ子のほうを顎でしゃくって、大丈夫かい? (とたずねますのでかまわないなにをいってもいい) とたずねますので、「かまわない。何を言ってもいい。」 (とじぶんはおちついてこたえました) と自分は落ち着いて答えました。
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