新美南吉 手袋を買いに④/④
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問題文
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(「おかあさんは、にんげんはおそろしいものだっておっしゃったがちっともおそろしくないや。)
「お母さんは、人間は恐ろしいものだって仰有ったがちっとも恐ろしくないや。
(だってぼくのてをみてもどうもしなかったもの」とおもいました。けれどこぎつねは)
だって僕の手を見てもどうもしなかったもの」と思いました。けれど子狐は
(いったいにんげんなんてどんなものかみたいとおもいました。)
いったい人間なんてどんなものか見たいと思いました。
(あるまどのしたをとおりかかると、にんげんのこえがしていました。なんというやさしい、)
ある窓の下を通りかかると、人間の声がしていました。何というやさしい、
(なんといううつくしい、なんというおっとりとしたこえなんでしょう。)
何という美しい、何というおっとりとした声なんでしょう。
(「ねむれ、ねむれ、ははのむねに、ねむれ、ねむれ、ははのてにーー」)
「ねむれ、ねむれ、母の胸に、ねむれ、ねむれ、母の手にーー」
(こぎつねはそのうたごえは、きっとにんげんのおかあさんのこえにちがいないとおもいました。)
子狐はその唄声は、きっと人間のお母さんの声にちがいないと思いました。
(だって、こぎつねがねむるときにも、やっぱりかあさんぎつねは、あんなやさしいこえで)
だって、子狐が眠る時にも、やっぱり母さん狐は、あんなやさしい声で
(ゆすぶってくれるからです。)
ゆすぶってくれるからです。
(するとこんどは、こどものこえがしました。)
するとこんどは、子供の声がしました。
(「かあちゃん、こんなさむいよるは、もりのこぎつねはさむいさむいってないてるでしょうね」)
「母ちゃん、こんな寒い夜は、森の子狐は寒い寒いって啼いてるでしょうね」
(するとかあさんのこえが、)
すると母さんの声が、
(「もりのこぎつねもおかあさんぎつねのおうたをきいて、ほらあなのなかでねむろうとして)
「森の子狐もお母さん狐のお唄をきいて、洞穴の中で眠ろうとして
(いるでしょうね。さあぼうやもはやくねんねしなさい。もりのこぎつねとぼうやと)
いるでしょうね。さあ坊やも早くねんねしなさい。森の子狐と坊やと
(どっちがはやくねんねするか、きっとぼうやのほうがはやくねんねしますよ」)
どっちが早くねんねするか、きっと坊やの方が早くねんねしますよ」
(それをきくとこぎつねはきゅうにおかあさんがこいしくなって、おかあさんぎつねのまっているほうへ)
それをきくと子狐は急にお母さんが恋しくなって、お母さん狐の待っている方へ
(とんでいきました。)
跳んで行きました。
(おかあさんぎつねは、しんぱいしながら、ぼうやのきつねのかえってくるのを、いまかいまかと)
お母さん狐は、心配しながら、坊やの狐の帰って来るのを、今か今かと
(ふるえながらまっていましたので、ぼうやがくると、あたたかいむねにだきしめて)
ふるえながら待っていましたので、坊やが来ると、暖かい胸に抱きしめて
(なきたいほどよろこびました。)
泣きたいほどよろこびました。
など
(にひきのきつねはもりのほうへかえっていきました。つきがでたので、きつねのけなみが)
二匹の狐は森の方へ帰って行きました。月が出たので、狐の毛並みが
(ぎんいろにひかり、そのあしあとには、こばるとのかげがたまりました。)
銀色に光り、その足あとには、コバルトの影がたまりました。
(「かあちゃん、にんげんってちっともこわかないや」)
「母ちゃん、人間ってちっとも恐かないや」
(「どうして?」)
「どうして?」
(「ぼう、まちがえてほんとうのおててだしちゃったの。でもぼうしやさん、)
「坊、間違えてほんとうのお手々出しちゃったの。でも帽子屋さん、
(つかまえやしなかったもの。ちゃんとこんないいあたたかいてぶくろくれたもの」)
掴まえやしなかったもの。ちゃんとこんないい暖かい手袋くれたもの」
(といっててぶくろのはまったりょうてをぱんぱんやってみせました。おかあさんぎつねは、)
と言って手袋のはまった両手をパンパンやって見せました。お母さん狐は、
(「まあ!」とあきれましたが、「ほんとうににんげんはいいものかしら。)
「まあ!」とあきれましたが、「ほんとうに人間はいいものかしら。
(ほんとうににんげんはいいものかしら」とつぶやきました。)
ほんとうに人間はいいものかしら」とつぶやきました。