魯迅 阿Ｑ正伝その２０
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問題文
(だい６しょう ちゅうこうからまつろへ)
第６章 中興から末路へ
(あきゅうがふたたびみしょうにあらわれたときは)
阿Ｑが再び未荘に現われた時は
(そのとしのちゅうしゅうせつがすぎさったばかりのときだ。)
その年の中秋節が過ぎ去ったばかりの時だ。
(ひとびとはみなおったまげて、あきゅうがかえってきたといった。)
人々は皆おッたまげて、阿Ｑが帰って来たと言った。
(そこでまえのことをかいそうしてみると、)
そこで前の事を回想してみると、
(かれはいつもじょうないからかえってくると)
彼はいつも城内から帰って来ると
(ひじょうなげんきでひとにむかってふいちょうしたもんだが、)
非常な元気で人に向って吹聴したもんだが、
(こんどはけっしてそんなことはなかった。)
今度は決してそんなことはなかった。
(ひょっとすると、かれはおみやのばんにんにはなしたかもしれない、)
ひょっとすると、彼はお廟の番人に話したかもしれない、
(みしょうのしきたりではちょうだんなとせんだんなと)
未荘のしきたりでは趙太爺と錢太爺と
(もうひとりしゅうさいだんながじょうないにゆけば)
もう１人秀才太爺が城内に行けば
(もんだいになるだけで、にせけとうでさえももののかずにされないのだから、)
問題になるだけで、偽毛唐でさえも物の数にされないのだから、
(いわんやあきゅうにおいてをやだ。)
いわんや阿Ｑにおいてをやだ。
(だからばんにんのおやじもかれのためにせんでんするはずもないのに、)
だから番人の親爺も彼のために宣伝するはずもないのに、
(みしょうのひとたちがどうしてしっていたのだろう。)
未荘の人達がどうして知っていたのだろう。
(だがあきゅうのこんどのかえりはまえとはおおいにちがっていた。)
だが阿Ｑの今度の帰りは前とは大いに違っていた。
(たしかにはなはだきょういのねうちがあった。)
確かにはなはだ驚異の値打があった。
(そらのいろがくろくなってきたとき、かれはすいがんもうろうとして、)
空の色が黒くなって来た時、彼は酔眼朦朧として、
(さかやのもんぜんにあらわれた。)
酒屋の門前に現われた。
(かれはですくのがわへいって、こしのへんからのばしたてにいっぱいにぎっていたのはぎんとどう。)
彼はデスクの側へ行って、腰の辺から伸した手に一杯握っていたのは銀と銅。
(ですくのうえにざらりとおき、「げんきんだぞ、さけをもってこい」といった。)
デスクの上にざらりと置き、「現金だぞ、酒を持って来い」と言った。
(みるとあたらしいあわせをきて、こしのへんにはおおどうらんがどっしりとおもみをみせ、)
見ると新しい袷を著て、腰の辺には大搭連がどっしりと重みを見せ、
(おびひもがしたへさがってゆみなりのなりせんをなしている。)
帯紐が下へさがって弓状の弧線をなしている。
(みしょうのしきたりとしてだれでもちょっとめざましいじんぶつをみだしたとき、)
未荘の仕来りとして誰でもちょっと目覚ましい人物を見出した時、
(あなどるよりもまずうやまうのである。)
侮るよりもまず敬うのである。
(げんざいこれがあきらかにあきゅうであるとしりながらやぶれあわせのあきゅうとはべつべつである。)
現在これが明らかに阿Ｑであると知りながら破れ袷の阿Ｑとは別々である。
(こじんのことばに)
古人の言葉に
(「たといみっかのあいだでもわかれたひとにあったときには、)
「たとい三日の間でも別れた人に逢った時には、
(めをみはってそのとくちょうをみださなければならん」といっている。)
目を見張ってその特徴を見出さなければならん」といっている。
(そういうわけで、ぼーいもばんとうもみずしらずのそこらのひとも、)
そういうわけで、ボーイも番頭も見ず知らずのそこらの人も、
(いっしゅのうたがいをもちながらしぜんとうやまいのたいどをあらわした。)
一種の疑いを持ちながら自然と敬いの態度を現わした。
(ばんとうはまずがてんしてはなしかけた。)
番頭はまず合点して話しかけた。
(「ほうあきゅう、おまえさん、かえっておいでだね」)
「ほう阿Ｑ、お前さん、帰っておいでだね」
(「かえってきたよ」)
「帰って来たよ」
(「けいきがいいねえ。おまえさんはどこにいたの」)
「景気がいいねえ。お前さんは何処にいたの」
(「じょうないにいっていた」この１つのにゅーすはふつかめにみしょうじゅうにつたわった。)
「城内に行っていた」この１つのニュースは二日目に未荘じゅうに伝わった。